デジタルオイルを用いた由利原油田での ガス圧入による EOR 法の基礎研究 松岡俊文* 1. 研究の目的 将来の原油産量増加に向けてガス圧入法による石油増進回収技術の適用が検討される場合が多い。 本研究においてはこの技術の適用に際して生じる、アスファルテンの析出に関する課題に対して、 デジタルオイルの概念を用いてそのメカニズムに対する基礎的な研究を行った。油田において採集 された原油試料に対して、NMR 解析を含む化学分析を行い、その結果を基にデジタルオイルを構成 する。さらにアスファルテン分子に対するアソシエイションエネルギー(会合エネルギー)の推定 を行い、アスファルテンの析出のシミュレーション検討を進める事が本研究の最終目的である。こ のため、本年度は提供された原油に対して、化学分析実験を行い、そのデータを基にデジタルオイ ルのモデルを構築し、次に、異なる圧力でデジタルオイルモデルと天然ガスの混合物についてのア スファルテンの凝集状態を検討した。 2. 研究の方法 提供された原油に対して、デジタルオイルのモデルを構築し、アスファルテンの凝集状態を検討 し、さらに、アスファルテンとレジン間の相互、および自己会合エネルギーを計算し、キュービッ ク·プラス·アソシエーション(CPA)状態方程式に適用する。そして最後に、天然ガス環境下でのデ ジタルオイルモデルを考え、アスファルテン凝固エネルギーを利用し、リザーバーシミュレータと 求まった会合エネルギーを利用して、計算された関連のエネルギーを使用して、由利原原油の相挙 動を推定する。 2.1 実験 油田から採取した原油サンプルに対してヘプタンを添加し、洗浄された原油サンプルに対して、 重量比 1:40 を利用して遠心分離機とドライ真空装置によって、アスファルテンが抽出される。そし てガスクロマトグラフィー(GC)-FID(Flame Ionization Detector, 水素炎イオン化型検出器) と GC-質量分析計(MS)を使用した実験を行い、原油の軽質留分の分子構造を得た。さらに、CHNS 元素分析と、GPC ゲル浸透クロマトグラフィーによる分子量測定、および 1H および 13C の NMR 実験 をおこなう。これらのデータは、分子表現の解析に必要な定量的分子表現法(QMR 法:Quantitative Molecular Representation)への入力情報となる。 2.2 デジタルオイル Boek ら(2009)によって提案されている定量的分子表現(QMR)法は、上記の原油に対する化学 分析実験データに基づいて、アスファルテンの分子構造を構築する手法である。この QMR 法では、 実験データから推定される確率密度関数(PDF ファイル)を使用して、混合モデルを作成すること ができる。この手法は以下の 2 つのステップから構成されている。最初のステップは、分子のサン プル生成ステップである、第二のステップは、 (表現プロセスとして)分子混合物の組み合わせの最 適化ステップである。 まずサンプル生成ステップでは、実験での分子構造データに対して確率密度関数(PDF)はガンマ 分布の形状と考え、実験データを利用し平均分子解析によって確率密度関数を推定する。この PDF に対して、ランダムサンプリングを行いその値に応じて、適切なビルディングブロックを選択しサ ンプル分子モデルが生成される。通常は、1000~4000 個のモデルをこの過程で作成する。次の最適 化過程では、最初にアスファルテンに対する分子コンポーネントの数を決定する。この最適化過程 * 京都大学・大学院工学研究科・教授 においては、各種実験値と混合モデルに対して理論的に計算された特性との間の偏差が最小化にな るようにする。この QMR 法はアスファルテンと重質留分に対して適用する。 このようにして構築した軽質留分、アスファルテン及び重質留分のすべてのモデルを混合し、デ ジタルオイルモデルが完成する。その後で、このデジタルオイルモデルに対して分子動力学シミュ レーションを行い、実験で計測可能な物理量を計算し、構築されたモデルを検証する。具体的には、 密度や粘度などのいくつかの測定可能データと計算値を比較して、構築されたデジタルオイルモデ ルに対する不確かさを推定評価する。 2.3 アスファルテンの凝集 分子動力学に利用されるフォースフィールドを含むデジタルオイルモデルは、上記の手続きを経 て決定される。次に、デジタルオイルモデル(天然ガス成分なし)に対してリザーバでの温度と圧 力条件を変化させてアスファルテンの凝集が生じるかを検討する。 2.4 会合エネルギーの計算 アンブレラサンプリング法を用いて、デジタルオイルモデル(あるいは平均モデルに最も近い分 子構造モデル)に対して平均力ポテンシャル(PMF)を計算する。会合エネルギーは、PMF 値が最低 の値と、充分に長い距離での PMF 値との差として計算される。この計算は、リザーバの温度および 圧力条件下で行われる。 3. 得られた成果 提供された原油資料に対して、定量的分子表現(QMR)法を適用し、作成したアスファルテン分子 モデル(図 1 参照)と重質油部の分子モデル(図2参照)を示す。両者の比較より重質油部に比べ て、アスファルテンにおいては芳香族炭素の割合が多いことが分かる。これはアスファルテンが重 質油部に比べて圧力が減退するに応じて凝集現象が生じやすくなる原因と考えられる。今後は本研 究によって求まったデジタルオイルを用いて、会合エネルギーを推定し、さらに相挙動の検討を進 める。 図1 4. 推定されたアスファルテンの分子構造 謝 図2 推定された重質油部の分子構造 辞 本研究は、 石油資源開発(株)により委託されたものである。関係各位の協力と助言に厚く感謝申 し上げます。
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