「安全・安心の学校」づくりに向けた緊急意見書 ―会計検査院「国庫補助

「安全・安心の学校」づくりに向けた緊急意見書
―会計検査院「国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理について」に関連して
2015 年 11 月 1 日
公教育計画学会理事会
公教育計画学会理事会は、
今回
(10 月 26 日)の会計検査院報告による衝撃的実態に対し、
至急、関連機関が以下のような万全の対策をとり、
「安全・安心の学校」づくりができるよ
うに求めるものである。
<基本的意見>
・会計検査院は課題を指摘するだけではなく、予算措置を求めるという視点の転換も行う
こと。
・内閣全体の課題として、
「国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理」について、
その改善の計画を立て、緊急的な予算措置を講ずること。
・教育委員会、学校は、建築点検及び消防点検による指摘事項の改善に向けた措置を直ち
に講ずること。児童生徒、保護者への説明を行うこと。
<会計検査院の抽出検査によって明らかになった実態>
抽出検査の結果によって、小中学校の校舎の不備が約4万件も存在している衝撃的な実
態が明らかにされた。会計検査院は、会計検査院法第 38 条に基づき、文部科学省に対して、
2015 年 10 月 26 日付で「国庫補助事業により整備された学校施設の維持管理について」と
いう義務制諸学校の校舎の不備を改善する要求を出した。これは前代未聞の事態である。
まず、全国の学校は児童生徒、保護者に対して危険個所を周知し、場合によっては災害避
難場所の指定を除外する対応をはじめてほしい。その上で安全、安心の学校に向けた対応
措置を講ずることを求める。
安全、安心を前提として公教育が行われるはずである校舎の不備が放置されてきた背景
には学校校舎の老朽化と、地方財政の悪化が挙げられる。しかし、財政不足だがらといっ
て許されることではない。公教育計画学会理事会は、早急な改善に向けての是正計画と財
政措置とを求めて意見を述べる。
今回の検査は悉皆ではなく、全国 20 府県 8,400 校余りを抽出したものである。内容は、
建築点検と消防点検への対応である。
建築点検とは建築基準法に基づき実施される。自治体の規模によって「建築点検の義務
のある市町村」がある。その自治体は原則として3年以内ごとに、国が定めた項目を点検
することが義務づけられている。点検により指摘された場合には適法な状態にするように
努めなければならない。
義務づけられている建築点検を実施していない自治体が 13.3%もあることである。この
うち非実施自治体数が全体の 15.6%、学校数の 15.0%を占めるのが大阪府である。さらに、
外壁、屋上、天井等の劣化及び損傷、防火設備の閉鎖または作動の不備等の点検が実施さ
れた場合でも 80.6%が是正されていない(21,871/27,118 件)。とくに大阪府、千葉県、茨
城県の3県で過半数を占めている。その上、3年以上も放置されていた件数は延べ 10,106
件(37.2%)である。大阪府は 3,570 件と全体の 35.3%を占めている。建築点検をしても
80%は直さず、さらに 40%近くはそのまま長年放置しているのである。大阪府は建築点検
をしない自治体数、指摘箇所の放置も最悪である。外壁や天井の落下による危険性を知る
者は身震いをする事態である。そのような学校が震災時の緊急避難場所に指定されている
のである。
消防点検は、消防法 17 条第1項に基づき、消火設備、避難設備等に6か月又は1年ごと
に点検を行うことである。消防点検は検査該当校においてすべて実施されていた。しかし、
消火栓設備の劣化、自動火災報知装置の不作動等の是正事項は延べ 48,270 件という信じら
れない規模である。これに対して改善していない件数は 17,904 件(37.0%)である。この
うち3年以上放置されている件数は延べ 6,670 件(13.8%)に上る。3年以上放置件数の多
いのは千葉県と大阪府である。会計検査院が事例としてあげているのは水戸市である。24
校の消防点検の結果、
「中には、公立小中学校に設置されている自動火災報知設備が経年劣
化や配線不良のため作動しなかったり、避難器具がフェンスなどの支障物があるため、避
難時に使用できなかったりするなどしていた」。しかし、水戸市は 45.9%を是正せず、うち
32.6%は3年以上放置していたとされる。
<「安全・安心の学校」づくりへの意見>
1 会計検査院
このような事態に対して、会計検査院は文部科学省に対して、1)建築点検の義務があ
る市町村において、適切な実施。2)学校施設の劣化等の情報の一元管理による優先事項
を設けた計画的な是正。3)建築点検の義務がない市町村における教育委員会点検の実施。
4)文部科学省による維持管理の適切を行う手引の作成など周知の徹底などを求めている。
いずれも重要であるが、さらに根本的な予算不足である現状の改善や是正への指摘も行う
べきである。
会計検査院は適切な予算を行うことを求める立場にある以上、また予算が不足している
現状に言及していることから、会計検査院自体が予算措置を求めるという視点の転換が必
要である。予算を切りつめるためにのみ会計検査院の役割があるわけではない。
2 文部科学省
文部科学省は、これまで校舎の耐震工事を重点施策として実施し、ようやく山場を越え
て校舎の老朽化対策に転じたところである。学校は災害時の緊急避難場所である。このこ
とから財政措置は文部科学省のみに背負わせるのではなく、内閣全体の課題として改善の
計画を立てることが必要である。文部科学省は、手引や通達を出すだけではなく、改善措
置をするための緊急予算措置も合わせて行うべきである。
さらに、特別支援学校においては、広い校舎の棟内部に一か所しか階段を設置せず、他
方は外接する避難階段や、地震被災時には使用出来ないEVで代用され、実質的な避難導
線が限定されている校舎が散見される。肢体不自由をはじめ、障がいを持つ児童生徒を集
約する施設においては、消防法の遵守だけでなく、子どもたちの安全を十分確保出来る校
舎が必要であるし、災害時に公共の避難場所となった場合においても同様である。安全性
の確保からも特別支援学校という在り方自体の検討も必要である。
3 教育委員会、学校
教育委員会、学校は、建築点検、消防点検の箇所の改善措置についての改善計画を立案
し、危険箇所の改善を実施すること、同時に児童生徒に対して危険箇所の周知、保護者へ
の建築点検、消防点検箇所の周知と改善計画を説明し了解を得ること、が必要である。
今回の検査は悉皆ではないので、未検査の市町村でも同様の問題があると考えられる。
これを機会に建設点検、防火点検の指摘の有無を確認し改善措置を行うことが大切である。
4 安全点検
学校保健安全法第 28 条第 3 項に、「校長は、当該学校の施設又は設備について、児童生
徒等の安全の確保を図る上で支障となる事項があると認めた場合には、遅滞なく、その改
善を図るために必要な措置を講じ、又は当該措置を講ずることができないときは、当該学
校の設置者に対し、その旨を申し出るものとする」と記されている。校長は、すみやかに
指摘箇所の改善に向けた措置を講ずることを教育委員会へ申し出ることが必要である。
また、学校の安全点検は、
「学校保健安全法施行規則」第 28 条により、毎学期一回以上、
児童生徒等が通常使用する施設及び設備の異常の有無について系統的に行わなければなら
ない」とされている。建築点検、消防点検という専門的な対応だけではなく、日常的な安
全点検が果して十分であったかも疑われる。20 府県への会計検査院の検査によって明らか
になった4万件の不備の放置は、この安全点検が機能していなかった証左でもある。安全
点検の項目の見直し、安全点検後の是正の実施、そして改善し安全で安心な学校施設であ
ることを学校便りなどによって保護者に周知することが必要であろう。さらに、学期1回
の点検では危険箇所の発見が遅れる可能性があり、毎月の実施(例えば、さいたま市では
毎月実施している)が望ましいことを強く提言しておきたい。