13.プラズマの応用(2)

13.プラズマの応用(2)
材料・プロセス
13.1 薄膜形成・機能性材料
13.2 エッチング
13.3 表面処理
13.4 熱プロセス
「プラズマ工学」講義資料 2015年度版
熊本大学工学部情報電気電子工学科
勝木 淳
13.1 薄膜形成
プラズマ以外の薄膜化技術(スクリーン印刷、テープキャスト法): ⇒低コスト
× 数10μmまでの薄膜が技術的に限界
× 複合系材料の使用にはその組成比制御が困難
プラズマプロセス技術: ⇒ コスト高
プラズマ中の粒子を固体表面に接触させて堆積。
プラズマの条件設定によって、様々な組成、膜厚、品質の薄膜を形成可能。
(条件:ガス種類、プラズマ状態、基板の温度、など)
応用
・ エレクトロニクス : LSI、太陽電池、半導体レーザー、マイクロマシン、など
・ 機能性膜 : 超伝導薄膜、強誘電体薄膜、光触媒膜、カーボンナノ
チューブ、燃料電池、など
・ 保護膜 : 切削工具、装飾品、表面保護膜、など (1) 薄膜形方法の種類
種類
表面改質 (表面酸化)法
真空蒸着法
原理
特徴
薄膜にする材料
高温(通常1,000℃)にした基板に酸素など接 膜質は繊密で良好である。基板を高温に 酸化,窒化物
触させ,化学反応を起こす。
できない場合には不利
膜にしようとする材料を加熱して蒸発させて,基 高融点の材料以外は容易に薄膜が作れ 高融点物質以外
板表面に付着させる。加熱には抵抗電線を用い る。ー様な膜をつくるには工夫が必要。
る方法と電子ビームを用いる方法がある。
物理蒸着
蒸発させた材料を途中でー部イオン化されたも 蒸着法に比べて付着強度の強い膜がき 高融点物質以外
(PVD)法 イオン のを,高周波あるいは直流電流を印加すること る。結晶性が良い膜ができる。
プレーティング法
で基板に向けて加速させる。
イオン化したアルゴンなどのイオンガスを高速で 薄膜ができる材料が多い。ターゲットの温 制限なし
ターゲット(腰にしようとする材料)に高速で衝突 度を上げる必要がない。ー様な膜がつく
スパッタリング法 させると,ターゲットの分子や原子が放出される。れる。
これらの分子や原子を基板に付着させる。
熱CVD
プラズマ 化学蒸着 CVD
(CVD)法 光CVD
MOCVD
(Meta
lorganic
CVD)
膜にしようとする材料の揮発性化合物を気化し, 薄膜にできる材料が多い。 高温加熱(1,000℃前後)して活性化し,基板 高温で純度が高い膜が作れる。
上になるべく均一になるように送り込み化学反 装置が簡単で高真空が不要。
応を行なわせる。
基板を高温にできない場合には不利。
酸化・窒化・炭
化・ほう化物など
の単純組成で安
定な化合物 膜にしようとする材料の元素を含んだ分解しや 低温での薄膜形成が行なえる。 すい気体をプラズマにより活性化するものである。 (基板を高温にできない時に有効)
反応自体は,熱CVDと同じ。
膜にしようとする材料を光により活性化する。
低温で,欠陥の少ない薄膜を形成できる。
有機金属化合物を用いて,熱CVD法により薄膜 極めて薄い膜ができる。 を形成する。
成長速度が気体の流量で決まり制御が
容易。選択エピタキシャル成長が可能
(基板上のー定の部分のみの成長)。
(2) 薄膜形成に用いられる高周波プラズマとその特徴
容量結合型
プラズマ
誘導結合型
プラズマ
電子サイクロトロン
共鳴プラズマ
ヘリコン波励起
プラズマ
f (MHz)
0.05 - 13.56
1 - 20
2450
10 - 20
圧力
P (Pa)
10 - 100
0.05 - 1
0.05 – 0.5
0.05 - 1
磁界
B (T)
0
0
< 0.1
< 0.01
平行平板
コイル
開口導波管
コイル
周波数
放
電
条
件
結合器(アンテナ)
ー プラズマ密度
N (m-3)
< 1016
< 1018
< 1018
1018 - 1019
電子温度
Te (eV)
1 - 5
5 - 10
10 - 15
5 - 10
イオン電流密度Ji (mA/cm2)
< 0.1
< 10
< 10
< 10
200 - 1000
20 - 40
20 - 60
20 - 40
近接場
(静電界)
近接場
(誘導電界)
波動
(電子サイクロトロン波)
?
統計加熱
二次電子加熱
ジュール加熱
無衝突加熱
ジュール加熱
サイクロトロン減衰
衝突減衰
?
イオンエネル
ギー
Ei (eV)
エネルギー源
維
持
機
構
エネルギー吸収機構
◆ プラズマCVD法 (Chemical Vapor Deposition)
・ 反応性ガスを放電によってプラズマ化。
・ 気相反応生成物を基板表面に輸送して堆積させる。
制御パラメータ
ガス
電気
基板
内壁
種類、流量、圧力
電力、周波数、波形、位相差
種類、温度、形状、プラズマとの距離や角度
材質、温度
プラズマCVD膜の応用例
基板表面での反応
装置構成例と基板への堆積
容量結合型高周波放電プラズマ
誘導結合型高周波放電プラズマ
基板近傍での反応と堆積
D.B.: Dangling Bond
シリコンの薄膜構成原子配列の種類
アモルファスシリコン
水素化アモルファス
シリコン
微結晶シリコン
結晶化シリコン
・ 材料、プラズマ状態、基板温度等により、膜内の原子配列構造が変化。
アモルファスシリコン
結晶化シリコン
・ 製造コストが安い。
・ 製造コストが高い。
・ 低温プロセス、プラズマCVD。
・ 単結晶>多結晶>微結晶などがある。
原料がシリコンのみの場合、膜内部にダングリングボ 単結晶はインゴッドから、多結晶は端材からとる。微
ンド(DB、不対電子による結合手)が残留。不安定→
反応性大。SiH4(シラン)を原料に用いると、水素が
DBを終端して安定化。
・ 光吸収帯は緑から長波長側。
結晶はプラズマプロセスによる。
・ 光電気変換効率が高い。
・ 光の吸収波長帯は青色から短波長側。
◆ スパッタリング法
プラズマ中のArイオンをターゲット材料
に衝突させ、ターゲットの粒子を飛び出
させる方法。飛び出した粒子の運動エ
ネルギーを用いて,次々と基板上に
ターゲット粒子を付着させる。
物理的な気相反応。
【特徴】
・ 装置が比較的簡単。
・ どのような材料でも製膜可能。
・ ターゲットの表面を削るという目的に
も使用可能。
スパッタリングの原理
◆ イオンプレーティング法
真空内で,電子ビーム等によってター
ゲット材料を蒸発させる。
プラズマ中を,蒸発した材料が通過する
とき,蒸発した粒子が結合しやすいイオ
ンの状態になる。
イオン化すると同時にプラズマのアシス
トを受けて,基板に勢い良く衝突し堆積
して緻密性の良い薄膜となる。
【特徴】
・ 薄膜の堆積速度が速い。
・ 基板への付着度が高い。
・ 結晶性の良い良質な膜。
蒸発させるために電子ビームを使うと、
高融点材料のスパッタも可能となる。
イオンプレーティングの原理
◆ レーザーアブレーション法
固体材料に高輝度パルスレーザーを
照射し、材料を気化、解離、電離させて
プラズマ化し、これを対向する基板に堆
積させる。
KrFレーザー
ターゲット
基
板
【特徴】
・組成ずれがおきにくい。ターゲットと
ほぼ同じ組成。
22 ns
2000 ns
100 ns
5000 ns
・光を吸収する素材であれば高融点
の物質でも容易に薄膜化可能。
・蒸気圧の影響が小さいために、動作
雰囲気ガス圧を高くすることが可能。
・フィラメントなどを利用しないために
薄膜の汚染が少ない。
・パルス的な薄膜成長。
1000 ns
8000 ns
レーザーアブレーションプラズマ
■ 制御パラメータ
ターゲット 種類、温度、圧力
レーザー 波長、パワー、波形、繰返し周波数
基板
種類、温度、形状、プラズマとの距離や角度
雰囲気ガス圧力、種類
■ レーザー
エキシマレーザー
ArF 193 nm(6.42 eV)
KrF 248 nm(5.00 eV)
XeCl 308 nm (4.03 eV)
NdYAGレーザー
基本波 1064 nm (1.17 eV)
2倍波 532 nm (2.33 eV)
3倍波 355 nm (3.50 eV)
4倍波 266 nm (4.66 eV)
レーザーアブレーション装置例
13.2 エッチング (半導体プロセス)
◆半導体製造プロセス
膜形成工程を終えた
ウェーハ
レジスト塗布
重ね合わせ
露光(リソグラフィー)
高度情報通信機器
レジスト現像
中身は…
集積回路の集合体
下地エッチング
レジスト剥離
集積回路の中身は..
次の工程へ
集積回路 製造工程
◆ プラズマエッチング
・ エッチングには、プラズマエッチン
グ(乾式)と湿式エッチングがある。
微細加工はプラズマエッチング。
・ プラズマ中で化学活性種ラジカル
を生成し、特異的な化学反応によっ
て不要な部分を削り取る。
・ フッ素ラジカル(F*)、塩素ラジカル
(Cl*)、酸素ラジカル(O*)が用いら
れる。
・ ガスはCF4(フレオン)、CCl4等のハ
ロゲン化水素や酸素。
プラズマエッチングによるSi、SiO2の削り取り
※ シリコンの場合の化学反応:
・ 金属膜など他の材料にも適用可能。
Si + 4F* → SiF4↑
SiO2 + 4F* → SiF4 + O2↑
13.3 表面処理
(1)プラズマ表面処理
プラズマの反応性によって材料表面の性質を物理的あるいは化学的
に変化させる手法。表面改質。重合は有機モノマーを用いて表面を高
分子膜でコーティングする。
【特徴】 ・ 材料の表面のみが改質される。
・ ドライプロセスで処理が比較的簡単。
・ 低温処理。低融点材料でも処理可能。
【作用】 ・ 物理作用: スパッタエッチング。Arなど不活性ガスを用いる。
・ 化学反応: O2、N2、NH4、CF4など反応性ガスを用いる。
【効果】 ・ 親水性、撥水性、接着性、印刷性などの向上。
・ 洗浄、表面粗化
・ 官能基の賦与。水酸基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、カル
ボニル基(>C=O)、など
◆ 親水性処理
◆撥水性処理
樹脂または金属表面に対し酸素プラズマ
を用いて、水との親和性向上効果を付与。
・親水性官能基の付与
・表面の粗化
・電位的不安定面の形成
・未結合手の形成
水との相性の良くないもの(例:フッ素系樹
脂、シリコン系樹脂など)に対して有効。
金属や樹脂表面にフッ素系のガスを用
いたプラズマを照射することで、対象物表
面にフッ素コートを行い、撥水加工が可能。
【応用例】
素材の防水処理
液滴の保持
流路の制御
【応用例】
めっきなどの密着度向上
複合材料の表面状態均一化
微細部分のウェット工程の前処理
濡れ性向上
㈱ニッシン
撥水加工
㈱ニッシン
◆ 窒化処理
鉄鋼材料の機械的性質、
耐食性を向上させる表面改
質技術。近年は蒸着膜を
コーティングする基材の表
面硬化プロセスに用いられ
るなど、応用範囲は現在も
拡大 している。
◆ Diamond-Like Carbon(DLC)処理
切削工具
ピストンロッド
シャフト
金型
射出成形用シリンダー
レール
スクリュージク、など
東海イオン㈱
DLC膜は、通常水素を若
干含有した非晶質(アモル
ファス)構造で、ダイヤモンド
結合やグラファイト結合など
を有する。非常に硬く、かつ
滑らか。
㈱不二WPC
(2) プラズマ表面処理の方法
低気圧グロー放電 東海イオン㈱
超音速プラズマジェット
足利工業大学 安藤康高氏
◆ プラズマイオン注入
試料をプラズマ中に置き負の高電圧パ
ルスを印加する。試料の周りの電子は急
速に追い返されるが、イオンは重いので動
けず、正イオンの空間電荷領域が残り、イ
オンシースが形成される。 シース内のイオンはシース内の電場で試
料に向かって直角に加速され試料に注入
される。 【特徴】
・ 三次元の立体形状物に対して も、表面
全体に一様にイオンを注入できる。 ・ 従来のイオン加速器に比べて装置が簡
単かつ安価である。 ・ 注入されるイオンはプラズマから直接引
き出せるので、イオンの電流密度が大
きく、処理時間が著しく短くなる。 プラズマイオン注入装置の原理
◆ 湿式と乾式(プラズマ)表面処理の比較
引用:
スリーボンドテクニカルニュース
No26、1990
13.4 熱プラズマプロセス
◆ アーク溶接
・ 熱プロセスではプラズマの熱容量が
大きいことが必要。
→ 大気圧アークプラズマ
・ 溶接対象は導電性の必要あり。
【方法】 Cの溶接棒(低融点材料)に負電位を与え、
A,Bとの間で放電を生成する。Cは溶けて
A,Bの接合部に付着。ABは強力に溶着さ
れる。
アルゴン雰囲気で溶接すると、溶接部の酸
化や脱炭を軽減でき、高品位な溶接が可能。 アルゴンアーク溶接
◆ プラズマトーチ (プラズマジェット)
高圧ガスの放電プラズマをガス
流で大気圧中に噴射。
→ プラズマトーチ
プラズマトーチは高温なので、難
溶材料でも切断、加工が可能。
対象に電流が流れないので、絶
縁物でも良い。
プラズマトーチ
を用いた熱処理
◆ アーク炉
電極と被熱物との間で発生
するアークプラズマによって
被熱物を溶解し精錬する。
その他、ゴミ処理などの応
用がある。
◆ その他
・ アークによる材料の蒸発 微粒子、フラーレン、カー
ボンナノチューブの生成など
製鋼用アーク炉
川崎製鉄(株)提供