前立腺癌;検診と治療 泌尿器科 今井智之 第32回 五大がんに関する市民公開講座 2015/7/10 前立腺がんの症状 症状がでてから診断される前立腺癌の3割は、 進 行 すでに骨などに転移しています。 転移がん 早期がん 無症状 前立腺肥大症と同じ ような症状が出現 * がん特有の症状は ない *尿が出にくい・残尿感 *排尿時に痛みを伴う *尿や精液に血が混じる 骨転移に伴い 腰痛・四肢痛が出現 *腰痛 *四肢の痛み −転移しやすい部位− 骨、リンパ節など 前立腺がんは高齢になるほど増える 前立腺がんの年齢階級別罹患率(1998年) 400 典型的な“高齢者がん” 350 300 250 200 150 100 罹 患 率 ( 人 口 1 0 万 対 ) 50 0 35-39 40-44 45-49 50-54 55-59 60-64 65-69 70-74 75-79 80-84 85+ 出典 大野ゆう子 ほか:がん・統計白書-罹患/死亡/予後-(大島 明 ほか編), 篠原出版新社, p145, 2004 年齢(年) 検診・診断 PSA値のみでは癌と決まりません。 最終的には組織検査が必要です。 PSAが異常=癌 ではありません 100 97% 86% 75% 80 前 立 腺 癌 発 見 率 ( % ) 60 PSAが基準値の 4以下でも癌の 人がいます 53% 高くても癌でな い人がいます 42% 35% 40 28% 20% 確かにPSAが高 いほど前立腺癌 が多いですが... 20 6% 0 2~4 4~6 6~10 10~15 15~20 20~30 30~40 40~50 50~100 PSA(ng/mL) (財)前立腺研究財団編:前立腺がん検診テキスト. 前立腺癌の人、癌でない人のPSA値 10000 PSAが高くても癌でな い人がいます 癌の場合、進行している ほどPSAが高い人が多くな ります 1000 血清 PSA 100 (ng/mL) 10 PSA 4 1 ( )内:症例数 栗山学ほか:泌尿紀要, 41(1), 39, 1995. 新潟市(5年ごと)前立腺癌検診 PSA判定基準 年度年齢 異常なし 経過観察 精密検査必要 50, 55, 60歳 〜1.0未満 1.0〜3.0未満 3.0以上 65歳 〜1.0未満 1.0〜3.5未満 3.5以上 70, 75歳 〜1.0未満 1.0〜4.0未満 4.0以上 80歳以上 〜1.0未満 1.0〜7.0未満 7.0以上 若い人は精密検査が必要な基準値を低くして、癌を発見し やすいようにしています。 寿命に大きく影響しない癌の発見を減らすため、 80歳以 上の基準値を上げています。 前立腺癌の家系がある人は「50歳前」に測ったほうがよいと されています。 新潟市・前立腺癌検診 平成24年度結果 対象者2万人弱のうち、4人に1人(5千人強)が PSA検査を受けました PSA検査をうけた 10人に1人が 精密検査必要 精密検査をした100人中20人に 癌が見つかりました(20人の内訳;早期癌 14、局所進行癌4、転移2の割合) →PSA検診をうけた1000人中 20人に癌が見つか る計算になります。 前立腺針生検 前立腺に針を刺して、組織を取ります。 これを顕微鏡で調べ(病理検査)、癌か 良性かを判定します。 直腸か会陰から針を刺します 前立腺10数カ所に針を刺します 麻酔をかけて行うため、2~3日の入院が必要です。 癌があっても、20~30%で針が当たらず、見逃しがあるとされ ます (逆に、大きな癌ならまず発見できます) 重い合併症は極めてまれですが、治療を要する場合がありま す。(排尿異常0.8%、敗血症0.07%、死亡0.0005%) 前立腺がん検診の問題 PSA10以下の50~80%には癌が無いわけで、不必要な生検 がなされていることになります。 (残念ながらPSAや画像では 癌があるのか無い人なのかの区別が付きません) 前立腺癌検診で、寿命に影響しないような、放っておいて良 かった癌が約10%の確率で見つかると言われています (成 長が遅い癌だと、たとえ癌を退治できなくとも、別の病気で寿命が来るた めです) 放っておいても良い癌を治療した結果、残念ながら合併症が 発生して生活の質が低下したら、目も当てられないことにな ります。しかし、前もって合併症は予見できません。 無駄な治療をすることで医療費が増え、国家財政の困窮か ら日本が潰れる原因の一つになるかも知れません。 治療 癌の治療法を選択する難しさ • 癌の広がりの診断は「予想」でしかありません – レントゲンに写るのは癌細胞が億単位に増えてから。数 千万個集まっていても見つけられません – 局所癌と判断しても、すでに転移があったりします • 医療は「確率の世界」です ・・・何割の確率で起こるのか – 「合併症が1割」の意味は→程度が10分の1 の軽い合併 症が起きるのではありません。10人に1人の割合で合併 症に見舞われるという意味です。あなたが、無事な9人に 入るのか、悩む方の1人になるのかは予測できません。 • 人には個性があって機械の部品のように共通ではないから – 手術で前立腺を取るとき、大きさや形、直腸との癒着の程 度など千差万別のため、毎回同じ結果が得られません。 – 癌の顔つきも人それぞれ。薬の効き方も違います。 前立腺癌の治療法:4本柱 転移のある人に局所療法だけしても、癌は完治しません! 局所療法 全身療法 1. 手術療法 開腹、腹腔鏡、ロボット支援腹腔鏡 2. 放射線療法 外照射(3D, IMRT)、組織内照射(低線量, 高線量) 3. 内分泌療法 去勢術、ホルモン注射 内服ホルモン剤 (新薬もでました) 4. 抗癌剤療法 タキサン系 (新薬もでました) 前立腺癌・病期別の治療法 限局癌 局所浸潤癌 進行癌 (前立腺にとどまっ ている癌) (周囲に広がってい る癌) (転移のある癌) ホルモン耐性癌 (去勢抵抗制癌) 手術療法 放射線療法 緩 和 治 療 内分泌療法(ホルモン療法) 「限局癌なら手術」、と は決まっていません 抗癌剤療法 前立腺癌治療法 選択が難しい • 早期癌は選択肢がいっぱい (なぜか。治療効果が一番高く、 同時に合併症の発生が一番低い、いわゆるナンバーワンはな いからです。それぞれの治療法ごとに、良い所もあれば悪い所 もあります。) • 高齢の方に多い (癌治療をしなくとも、あるいは軽い適度な治 療をしていくだけで、癌が完全に治らなくても、癌が命を取りに 来る前に、他の病気で寿命が来るかも知れません) • ホルモン療法がまずまず有効 (合併症が起こりうる、手術や放 射線治療を行わなくとも、意外に楽なホルモン療法のみで、ま ずまず長く生きられるかもしれません) • ただし、ホルモン療法を何年か続けている中で、効果が無くなる ホルモン抵抗性癌になってしまうと、その時に手術や放射線治 療をしても、効果が限られ根治の機会を失うことがあります。 治療法を選択する時、平均余命を参考に 80歳の平均余命は8.6年。早期前立腺癌ならば、手術や放射線治 療をせず、ホルモン療法のみでも癌が抑えられ、平均余命と同等 の年数、合併症が少ない日々を生きられるかもしれません。 一方、60歳でホルモン療法を選ぶと、いずれホルモン抵抗性癌に なってしまい、それから治療法を変えていっても、平均余命の23.1 年より短くしか生きられないかもしれません。 50歳 31.92 年 55歳 27.44年 60 23.14 65 19.08 70 15.28 75 11.74 80 8.61 85 6.12 90 4.26 95 (3.19) 100 (2.34) 25 平 20 均 余 15 命 ( 年 10 ) 5 0 60 70 80 平成25年(2013年)簡易生命表からみた【男性の】平均余命 (歳) 90 1.手術療法 利点 •前立腺を取ったという、「すっきり」感があります 欠点 •手術や麻酔に耐えられる体力が必要です •出血や直腸損傷の可能性があります •術後、尿失禁が続く人がいます (失禁がない、あっても 用心にパッドを当てる程度の人が多いですが) •術後、勃起しなくなる場合が多いです(勃起機能の温存を めざす方法はあります) 前立腺全摘除術の方法 • 開腹手術 – 通常 – ミニマム創手術 • 腹腔鏡下手術 – 従来法 – ロボット支援法(ダヴィンチ) ロボット支援手術 ダヴィン 日本に約200台入っています。世界2位の数です。 チ 2012年4月〜保険が効くようになりました。 日本で年間1万件行われています。米国では前立腺全摘の9割が ダヴィンチで行われています。 腹腔鏡手術; 従来法で使う鉗子 ダヴィンチの ロボットアーム 先端に関節が あって色々な方 向に動かせます 支点 当院 稼働中! 腹腔鏡手術 ロボット支援と従来法の違い ロボットでは、思い通りの方向に切れる →癌が残りにくい 針糸を使った縫合がしやすい →きれいに縫える 恥骨 取る 縫う 尿道 先端に 関節 前立腺 膀胱 膀胱 ロボット 支援法 従来の 腹腔鏡 膀胱 前立腺 尿道 ダヴィンチ・腹腔鏡手術 2.放射線療法 利点 •手術ではないので、心臓など健康状態が多少悪くても可能 です。尿失禁は基本的にありません。 •早期癌なら、手術と同等の効果と言われています。 欠点 •前立腺周囲の膀胱や直腸にも放射線がいくらか当たるの で、膀胱や直腸などに出血や障害を起こす場合があります。 •照射早期の合併症は治りやすいですが、何年も経ってから 発生する晩期合併症では治癒に難渋することがあります。 放射線照射法の進歩 前立腺以外の場所には放射線が当たりにくいように進歩してきました。 10年前 <外照射> 従来の原体照射 ボックス照射(四門照射) 振子照射 現 在 <外照射> 三次元原体照射(3D-CRT) 強度変調放射線治療(IMRT) 粒子線治療 陽子線 炭素線(重粒子線) <組織内照射> 小線源治療 高線量率(192Ir) 低線量率(125I永久挿入) など 唐澤克之ほか:癌と化学療法, 34(7), 1006, 2007を一部改変. 3D-CRT 3D-CRT:3D-conformal radiation therapy 当院にあり IMRT IMRT:Intensity modulated radiation therapy マルチリーフコリメータ IMRTの概念図 3D-CRTによる線量分布(仰臥位) 単一強度の照射 による線量分布 強度変調した照射 による線量分布 3.内分泌療法 (ホルモン療法) 利点 •全身に影響するので、転移がある人にもある程度有効です。 •大きな合併症が少ないとされています。 欠点 •副作用として、女性の更年期障害のような症状(火照り、発汗、 骨粗鬆症、体脂肪の増加と筋肉量減少、うつや不安、勃起不 全など)が起こりえます。 •最大の問題は、いずれホルモン療法が効かない、ホルモン抵 抗性癌になることです。ただし、5年後だったり10年以上後だっ たりします。癌が広がる前に寿命が先に来るかもしれません。 4.抗癌剤療法 特長 •内分泌療法と同じく、全身に影響する全身療法です。 •全身療法としては内分泌療法の方が有効なので、先に行われ ることはありません。 •通常、内分泌療法が抵抗性となったときに行われます。
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