色と波長

コンピュータビジョンII
2015/10/6
どのような色を見ているのか?
人間が見ている色と,カメラが見ている色
1.色と波長
Color and Wave Length
同じにすることは難しい
むしろ同じにする必要はない
赤い
人間の眼
R:230, G:14, B:23
担当教員:向川康博
カメラ
計算機
そもそも「色」とは何か?
視覚のうち,光波のスペクトル組成の差異によって区
別される感覚.光の波長だけでは定まらず,一般に
今日のミニレポート
2015/2に話題に
色相(単色光の波長に相当するもの)
彩度(あざやかさ即ち白みを帯びていない度合い)
明度(明るさ即ち光の強弱)
の三要素によって規定される(広辞苑より)
今日のミニレポート
なぜ,人によって見え方が異なったのか,今日の
講義の内容に基づいて説明せよ.
色の3原色
1
色の表現
HSV色空間
一般的には言葉(赤,橙,黄,緑,青,藍,紫,...)で
画像ではRGBで
印刷ではCMYで
直感的にはHSVで
人間の感覚に近い表現方法
色相(Hue)
赤,橙,黄,緑,青,紺,紫のどの色か
彩度(Saturation)
鮮やか(原色か)か,白が混ざっているか
明度(Value)
明るいか暗いか
PowerPointでの
色指定の例
混色
電子機器での色表現
コンピュータに多いRGB
加法混色
画像の内部表現や画像の出
赤(R),緑(G),青(B)
力方式との互換性
CRT,LCD
AV機器に多いYCrCb
減法混色
歴史的経緯
シアン(Cyan),マゼンタ(Magenta),イエ
画像の圧縮方法との互換性
ロー(Yellow)
主に印刷用.実際にはCMYの混色によ
る黒の表現は難しいため,黒を補った
CMYK4色で表現
カメラの色計測
単板でRGBセンシング
フォトダイオードは光の強弱を検知できるが,色の
識別はできない
3CCD/3CMOSカメラ
Foveon X3 センサ
プリズムで3原色に分解
コストは高いが,色の再現性も高い
1CCD/1CMOSカメラ
個々のCCD素子に単色のフィルタをかけて一つの色の強
さだけ検知し,周囲の素子の信号と総合して色情報を得る
(デモザイク)
R
G
G
B
ベイヤーパターン
http://www.sigma-photo.co.jp/camera/index.html
2
色恒常性
カラー情報の記録・伝送・再現
照明を理解し,自動的に補正できる高度な視覚能力
色情報の正しい取り扱いの必要性
遠隔モニタリング,電子美術館,遠隔教育,遠隔医療,オ
ンラインショッピング,...
光の3原色による処理の限界
ビデオ会議で
色再現性が正しい例
照明に違いによる見え方の変化
https://engineering.purdue.edu/~bouman/ece637/notes/ColorConstancy/color/
波長
色と波長の関係
光は波(電磁波)である.
約380nm~780nmの波長は,目で感じることができ,可視光と
呼ばれる
可視光線の外側の波長(紫外線や赤外線)は見えない
「光そのものには色はついていない」(アイザック・ニュートン)
色は物理量ではなく,人間の感覚量
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%AF%E8%A6%96%E5%85%89%E7%B7%9A
分光分布 E(l)
各波長ごとのエネルギー強度を表したもの
λの関数
可視光の場合は 380<λ<780 で定義
黒体放射
黒体(あらゆる波長の電磁波を吸収する物質)が
放出する熱放射
温度が高くなるにつれて,赤から黄,さらに青白
くなる
分光分布は絶対温度 T の関数として記述できる
太陽光の分光分布の近似
黒体放射温度は約5800K
http://www.tlt.co.jp/tlt/lighting_design/design/basic/data/10_22.pdf
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
3
分光反射
分光分布から色への変換
入射光の分光分布
太陽光,蛍光灯,ハロゲンランプ,レーザ光...
分光反射率
「色」を決めるためには,何が(誰が)見るのかを決
める必要がある
Vi  
物体固有の情報
780
l 380
反射光の分光分布
E (l ) R(l ) Si (l )dl
(i = R,G,B)
l
反射光の分光分布
l
反射光の分光分布
E (l ) R (l )
l
分光感度特性 S i (l )
l
入射光の分光分布
l
物体表面
分光反射率
(VR ,VG ,VB )
入射光の分光分布
E (l )
l
物体表面
人間とカメラの感度特性の違い
網膜上には3種類の錐体
分光反射率
R (l )
照明の分光分布
照明光の分光分布の多くは,有限個の基底関数の
線形和で近似表現できる
うす明かりを感じる杆体も
およそ3個で近似可能
m
E (l )    i Ei (l )
カラーカメラでは3バンド計測
i 1
カメラごとに異なる感度特性
カメラによる色の違い
Juddらによる異なる昼光分布の主成分分析結果
SONY DFW-SX910の例
反射率の分光分布
ナチュラルビジョン
自然界に存在する多様な物体,人工的に作られた
様々な材質の分光反射率も,有限個の基底関数の
線形和で近似表現できる
およそ7個で近似可能
平成13年~17年度 情報通信研究機構(NICT)のプロ
ジェクト
RGB3原色では,人間の目が知覚できる色域の一部
しか表現できない.
映像の高精細化,立体化とは別の軸での新しい展開
n
R(l )    i Ri (l )
i 1
分光反射率データベースの主成分分析結果
http://www.viri.osakac.ac.jp/symposium02/shoji.pdf
観察者がその場に行ったときに
見る色をそのまま再現する
対象物が観察者の目の前に
あるときと同じ色を再現する
http://nvision.jp/
4
マルチスペクトル計測
マルチバンドカメラ
静止画用
人の眼が感じる色を正確に算出するためには,マ
ルチスペクトル化が有効
RGB表示装置では人間の眼が知覚できる色域の一
部しか表示できない.
多原色表示を利用することで,人間の眼が知覚で
きる高い彩度の色域に近づけることが可能となる.
16バンド回転フィルタ型
マルチスペクトルカメラ
動画用
6バンドHDTVカメラ
マルチバンド表示系
分光器
フィルタ特性を調整した2台のプロジェクタを重ね合
わせて表示することで,6原色プロジェクタを構成
プリズムや回折格子を用いて波長ごとの強度を計測
物体色・光源色の特性評価
試料分析
6原色フロント投射型
プロジェクタ
小型リア型6原色
ディスプレイ装置
http://www.jaima.or.jp/jp/basic/spectroscopy/
http://www.konicaminolta.jp/instruments/products/spectrometer/principle.html
分光画像の撮影
分光画像の例
プリズムによる分光
1ライン分の分光分布を2次元画像として計測
蛍光灯
太陽光
実
空
間
で
の
高
さ
λ
2次元シーン
1ラインの波長分布
1点の波長分布
http://www.jfe-tec.co.jp/product/hikari/imspector.html
5
吸収スペクトル
太陽光はほぼ黒体放射
原子が特定の波長の光を
吸収する
地表に届く太陽光のスペク
トル分布は滑らかではない
分光解析の例:皮膚
3バンドでは区別のつきにくい差異を強調
原画像
550nmの強調
580nmの強調
原画像
550nmの強調
580nmの強調
三井ら,マルチスペクトル画像を用いた皮膚病変部の強調と定量化,
Medical imaging technology, 2005
見える光と見えない光
約380nm~780nmは可視光,それ以外は不可視光
見えない光
ガ
ン
マ
線
硬
エ
ッ
ク
ス
線
軟
エ
ッ
ク
ス
線
極
紫
外
線
紫
外
線
可
視
光
線
近
赤
外
線
中
赤
外
線
遠
赤
外
線
マ
イ
ク
ロ
波
V
H
F
波長
Wikipedia.org
紫外線
Ultra Violet (UV)
10~400nmの波長,X線より長く可視光より短い
化学線とも呼ばれ,殺菌消毒や日焼けの原因
メラニン色素を酸化させて褐色に変化させる
発癌性など生体に対する破壊性が強いが,オゾン
層により地表には到達しない(波長にもよる)
ブラックライト
可視光を吸収し,蛍光作用の強い紫外線を照射す
るランプ
蛍光物質を発光させる
紙幣や美術品の鑑定
舞台・バー・お化屋敷などの演出
蛍光により,人間も知覚できる
http://www.rsc.org/chemistryworld/News/2008/October/23100802.asp
6
蛍光の原理
通常の反射
分光反射率
• 波長ごとに独立し
て計算可能
L( l )  E ( l ) R ( l )
• 入射光よりも波長
が長くなる
• 蛍光色は入射光
の分光分布に依
存しない
入射光の分光分布
蛍光の場合
入射光の分光分布
L(li , lo )  E (li ) (li , lo )
  (lo )  a (li )E (li )dli
蛍光はなぜ発光しているように見えるのか
画像を撮影したRGB値としては,通常のインクと同じ
人間は照明色に影響を受けない反射率を推定しよ
うとする(色恒常性)
その結果,反射率が1を超えてしまう
それは,自己発光していないと説明がつかない
(172,195,125)
吸収特性
発光特性
(210,130,169)
(122,178,179)
(173,55,53)
赤外線の分類
遠赤外線の可視化
サーモグラフィ(一般に高価)
物体から放射される遠赤外線の空間
的な分布を可視化
熱を持った物体からは必ず放射され,
温度によって放射量は増える
レンズはゲルマニウム
可視光線と電波の間の電磁波
近赤外線
約800~2000nm
見えないが可視光に似た性質の光
主としてリモコンなど遠隔操作,通信などに利用
中赤外線
約2000~4000nm
分光分析に利用
遠赤外線
約4000nm~1000μm(1mm)
熱を持った物体(絶対温度が0Kを超える物体)からは必ず
放射されている
暗視カメラ,温度センサとしての利用
遠赤外線による温度計測の例
空港での遠赤外カメラ
新型肺炎(SARS)流行時に広く導入
発熱を検知するとブザー
ガス管
配管
タンク
マザーボード
侵入者
エンジン
基板
海上監視
過電流
地熱監視
http://www.infrared.avio.co.jp/jp/appli/monitor.html
https://www.thermography.or.jp/utillization/utillization05.html
7
人工衛星からの温度計測
近赤外線
たまたま人間には見えない普通の「光」
人間に見えないこと利用した様々な応用
 暗視カメラ
 Kinectのパターン投影
 リモコン
 通信
生体に対する性質
深部到達性
衛星画像から得ら
れた海面温度分布
低吸収・低散乱
可視・近赤外画像
遠赤外画像
低侵襲性(X線に比べて安全)
観測波長による違い
暗視カメラとしての近赤外線
近赤外光の透過性
照明が必要であることに注意
たまたま人間に見えないだけで,
普通の光
可視光と赤外光の透過率の違い
トイザらス 7,999円
人体に対する高い透過性
近赤外光を用いた静脈認証
光学の窓
近赤外線を吸収するヘモグロビン
皮膚のすぐ下にある静脈(還元ヘモグロビン)
赤色照明
近赤外照明
日立指静脈認証
8
近赤外写真
CCDの感度特性
植生の高い反射率
近赤外に高い感度を
持つ高感度カメラ
通常のCCDでもある
程度の感度
一般には近赤外カット
フィルタを装着
可視光
近赤外光
アートとしての利用
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E5%A4%96%E7%B7%9A%E5%86%99%E7%9C%9F
通常は近赤外をカット
近赤外デジタル一眼レフカメラ
近赤外にも感度を持つセンサ
自然な見え方にするための近赤外カットフィルタ
工夫次第で近赤外カメラにも
Foveon社イメージセンサ
美術品の調査・鑑定や鑑識などでの使用を想定
IRカットフィルタの取り外し
PENTAX 645D IR
黒田清輝 《菊》 ポーラ美術館蔵
https://www.ricoh.co.jp/fa_security/infrared/645d/point.html
可視光カットフィルタの装着
油絵の鑑定
近赤外分光解析の例:水分検出
波長1200, 1450nm付近に水による近赤外光の吸収
A:水分のない箇所
B:水滴を垂らして乾いた箇所
C:水滴を垂らして濡れている箇所
加筆消去前
加筆消去後
赤外線撮影
AとBは肉眼では区別がつかない
https://www.ricoh.co.jp/fa_security/infrared/645d/point.html
残存水分の量に応じた反射率の差
http://www.jfe-tec.co.jp/product/hikari/case02.html
9
近赤外分光解析の例:素材判定
近赤外分光解析の例:糖分検出
フルーツトマト と 普通のトマトは区別できるか?
960, 1150 nm:
高濃度ほど
透過率が高い
糖度で差が出る波長
(960, 1150 nm)
植物とプラスチックの葉の識別
異物検査
http://www.jai.com/jp/newsevents/news/ad-130ge
水を基準とした相対透過スペクトル(濃度ごと)
トマトの透過スペクトル
まとめ
物理量としての分光分布
照明の分光分布
物体の分光反射率
センサの分光感度
人間の感覚量としての色
不可視光
紫外光・近赤外光の特性
10