2015/10/7 コースセミナー 年輪酸素同位体比を用いたタイガ林の水循環解析 大気海洋化学・環境変遷学コース 杉本研究室 島田 光 (M1) 年輪セルロースの酸素同位体比(δ18O)は水の同位体比を反映するため、過去の水環境を記録している。北 海道のミズナラ・トドマツの年輪セルロースの δ18O は湿度を記録し(中塚 et al., 2004 )、イングランドのヨ ーロッパナラの年輪セルロースの δ18O は降水の δ18O を記録していることがわかっている(Robertson et al., 2001)。ただし、年輪の δ18O は葉の水と幹の水の両方の δ18O を反映しているため 解析は単純ではない(Treydte et al., 2014, Song et al., 2014)。幹の水は、雨水・融雪水が土壌へ浸透し土壌水となり、植物が土壌から吸い 上げた水と同じ同位体比を持っているが、一方葉の水は、この幹の水が枝を通って葉に入った後、蒸散の影響 を受けて幹の水より高い同位体比となっている。そこで本研究では、土壌水・枝の水・葉の水の δ18O と年輪 の δ18O を比較することにより、それらの関係を定量化し、東シベリアカラマツの年輪の δ18O から過去の土壌 水の δ18O を復元して、水環境の変化を解明することを目的とする。 観測サイトである東シベリアヤクーツクのスパスカヤパッド実験林は、永久凍土帯に位置し、年間降水量は 213 ㎜と極めて少ない。この実験林には、主にカラマツが生育する粘土質土壌で比較的湿潤なカラマツ林と、 アカマツとカラマツが生育する砂質土壌で比較的乾燥したアカマツ林の 2 つのサイトがある。サンプリングは 土壌が融解し始める 6 月から観測期間終了の 8 月 13 日の間で行い、土壌及び枝を両サイトから採取し、葉及 び年輪はカラマツ林から採取した。また、このサイトでは土壌水分・地温及び一般気象・Flux の通年自動観 測を行っている。 卒業研究では、土壌水、枝の水、葉の水の δ18O を観測し、葉の水のモデルの計算結果・気象データを含め、 それらの関係性について調べ、葉の水の δ18O は日中では相対湿度と対応していることを明らかにしたが、夜 間の葉の水の動きを解明することはできなかった。また葉の水のモデルの計算結果は、観測値をうまく再現す ることができず、葉の水の同位体が最も濃縮される条件を仮定して計算したものが最も観測値に近かった。 カラマツの年輪セルロースと材の δ18O を比較した結果、カラマツの年輪はカラマツ林、アカマツ林ともに 比較的高い相関が得られた。従って、年輪の δ18O を測定する際にセルロース抽出を行う必要は現段階ではな いと考えている。しかし、サンプル数が少ないため、今後サンプル数を増やし確実性を向上させる必要がある。 またアカマツに関しても検証が必要である。 今後は、先ず採取した年輪の年輪幅を測定し年代を合わせ、それと並行してセルロース抽出の必要性を決定 し、年輪の δ18O を測定する。また年輪の δ18O の解析にむけて、気象データと葉・枝の水の δ18O を比較し、 葉の水の δ18O のモデルを観測データが揃う約 15 年分について計算し、検討する。最終的に、本研究では年輪 δ18O を用いて土壌水の δ18O がどこまで精度よく復元できるかを検討する。
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