三菱UFJ財団寄付講義 「農・工で取り組む環境科学・環境工学Ⅰ」 森林の水質形成機能 農学研究院 自然環境保全学部門 戸田 浩人 森林の多面的機能の類別 (日本学術会議答申2001) 基盤的 サービス ①生物多様性保全機能 ②地球環境保全機能 ③土砂災害防止/土壌保全機能 調節 森林土壌が降水を貯留 ④水源涵養機能 し流量を安定させ洪水を サービス 緩和する機能及び水質 ⑤快適環境形成機能 浄化機能 文化的 ⑥保健・レクリエーション機能 サービス ⑦文化機能 供給 サービス ⑧物質生産機能 ④の貨幣評価 27.1兆 円/年 生態系 森林への④の期待度 3 位 サービスの類別 (森林・林業白書2001) 北関東地方の雨量と渓流までの水量 森林生態系の 1800mm 降雨・エアロゾル 水と物質の動態 光合成 光合成 400mm 遮断蒸発 500mm 蒸散 1300mm 林内雨 物質生産 (光合成) 100mm 落葉落枝 樹幹流 落葉層 土壌層 表面流出 吸収 渓流水 900mm 分解・無機化 風化 不透水層 地下水流出 土壌と水質の形成 温帯林には褐色森林土が発達 (落葉広葉樹林と褐色森林土の土壌断面写真) 土壌三相のバランスが良好 (土壌三相の模式図) 土壌は土粒子(鉱物と有機物が混在 し一体化)とその空間(孔隙)からなり, 透水性や保水性(水源涵養)は, 孔隙の組成で決る。 (TAT生態学スライドより) 腐食連鎖 (有機堆積物→動植物→バクテリアや菌類→腐食者) (1次生産者~ 最終消費者) 土壌表面からの ガス・フラックス 水循環による 大気環境の形成 土壌理学性 の形成 森林 水質形成 土壌化学性 の形成 土壌酸性化の要因 降 水 土壌水でのH+の 増加(強度因子) 植 物 溶脱 有機物 微生物 分解 吸収 交換 土壌水 吸収 吸着 沈殿 溶解 土壌 コロイド 土壌コロイドに吸着した 塩基の減少(強度因子) 母材の化学的風化 一次鉱物+H+ → 二次鉱物+溶質 渓流水 窒素の形態変化と動態 光合成 N2 脱窒 窒素の吸収 落葉落枝 N2, N2O N固定菌 落葉層 有機態N 土壌層 脱N菌 従属栄養微生物 分解・無機化 吸収 NO3ー NO3ー 硝酸の流出 NH4+ 不透水層 硝化菌 窒素の無機化と硝化 植物の根の吸収 有機物の分解 降雨 林内雨 0 A0層通過水 土壌水 5㎝ 15㎝ 30㎝ 50㎝ 80㎝ DOC 湧水 渓流水 pH 3 4 5 pH NO3- NH4+ 6 0 1 NH4-N 0 2 4 6 NO3-N 森林を移動する水の水質 (溶存有機態C) DON 8 0 1 2 DON 濃度 (mg l-1 濃度(mg L)-1) 〃 0 10 DOC ■スギ □ヒノキ (東京農工大FM大谷山小流域試験地) 20 陽イオンの交換 & 鉱物の風化 NH4+ 降雨 林内雨 0 A0層通過水 土壌水 5㎝ 15㎝ 30㎝ 50㎝ 80㎝ HCO3- Na+ 湧水 渓流水 NO3- pH 〃 3 4 5 pH 6 0 1 NH4-N 0 2 4 6 NO3-N 森林を移動する水の水質 8 00 1 2 2 0 DON 濃度 (mg l-1 濃度(mg L)-1) 4 106 DOC ■スギ □ヒノキ (東京農工大FM大谷山小流域試験地) 20 土壌の酸に対する反応 <土壌の酸に対する反応> 落葉落枝による供給 ・陽イオンの交換 + H HH H Mg H H Na 粘土や K H H 有機物 Ca H K H H H Ca Mg Ca 2+ + Ca K 土壌水 + Na Mg2+ 植生の吸収 植生の吸収 Ca 流亡 流亡 酸緩衝能の発揮 Ca2+ 有機物に依存 Na+ HCO3ー 濃度(mg L-1) NO3ー 流出量 降水量 (FM大谷山) (mm hr-1) (L sec-1 ha-1) SiO2 主に鉱物 の風化で 溶存 →189mm 大 雨 時 の 渓 流 水 質 特 性 NH4 大雨時に 浅い土層を通過 + 降雨 林内雨 0 A0層通過水 土壌水 5㎝ 15㎝ 30㎝ 50㎝ 80㎝ HCO3- Na+ 湧水 渓流水 NO3- pH 〃 3 4 5 pH 6 0 1 0 2 NH4-N 森林を移動する水の水質 ■スギ □ヒノキ 4 NO3-N 6 8 00 1 2 2 0 DON 濃度 (mg l-1 濃度(mg L)-1) 4 106 DOC 20 平水時は 深い土層を通過 森林小流域は森林生態系の生物地球化学的研究や 流域保全・管理の基本単位 →物質収支も算出可能 収入 土壌呼吸 ガス放出 支出 渓流流出 ガス エアロゾル 林外雨 林内雨 樹幹流 吸収 Ao層 ・有機質土層 陽イオン交換 窒素無機化・硝化 通過 無機質土層・母材 鉱物の風化 浸透 不透水層 森林小流域の対照流域調査と長期モニタリング □伐採や保育作業など操作を加えた流域と 隣接する流域を対照流域として観測 □長期間の気象・環境変動,林木成長等を 同じ流域で継続観測 ◆Hubbard Brook Experimental Forest (HBEF) U.S.A.東北部 New Hampshire州 水文学観測:1956年~,水質観測:1964年~ ◆東京農工大農学部FM大谷山小流域試験地 日本,群馬県みどり市東町 水文・水質観測:1979年~ 伐採前 Ca 年 間 の 純 放 出 量 K 伐採後 回復期間 伐採地 NH州(US) HubbardBrook 試験流域 対照地 NO3 有機物 伐採前:60年生 の天然生二次林 伐採後:皆伐+ 除草剤で植生の 侵入を抑制 回復期間:森林 の天然更新 (岩坪編2003より) FM大谷山試験地 幼齢林:1975年に壮齢林と同齢スギ・ 幼齢林:1975年に再造林(壮齢林と同齢 ● 群馬県みどり市 (旧勢多郡東村) 東京農工大学 FM大谷山 スギ・ヒノキ林を皆伐)’95年まで集約的 ヒノキ林を皆伐・再造林.’95年まで 保育作業をおこなってきた 集約的保育作業をおこなってきた. 壮齢林:1907年植栽,‘83年小径木間伐 壮齢林:1907年植栽,この間の施業 は‘83年小径木間伐のみ 壮齢林流域(1.8ha) ヒノキ林 幼齢林の保育作業 0 50m '76 植栽・施肥 '77-'79 下刈・施肥 幼齢林流域(1.3ha) ヒノキ林 '80-'81 下刈 '82 枝打・施肥 '84 施肥 スギ林 '86 枝打 '87 施肥 800 '95 間伐 800 スギ林 750 幼齢林流域の施業 伐採・植栽(’76) 下刈り 年間流出元素量の比 (Y/E) 3.5 3.0 2.5 枝打ち 枝打ち 間伐 ↓ ↓ ↓ ▲:K ■:Ca ●:Mg ◆:Na △:Cl □:NO3 ○:SO4 ◇:HCO3 *:CBD(陰陽イオンの当量差) ●:水量 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 '79 '80 '81 '82 '83 '84 '85 '86 '87 '88 '89 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 水年 (11月~10月) 年間流出元素量の幼齢林流域(Y)と壮齢林流域(E)の比 群馬県FM大谷山(対照法による長期モニタリングの例) 皆伐採の影響は7年程度 枝打ち・間伐の影響は1年のみ 森林生態系への水による物質収支 森林タイプ 寒帯低木 温帯常針 温帯落広 温帯常広 熱帯常広 日本(滋賀) 日本(群馬) N + + + + + + ± 流入ー流出 P K,Ca,Mg,Na + - ± - ± - + - + - ± - - 水 量 Water flux (mm / yr) 2500 Precipitation (left) Stream water (right) 壮齢林小流域の観測 S.D. 2000 1500 雨量と流出量の 関係は変わらず 1000 500 N 動 態 N flux (kmolc ha-1 yr-1) 0 1.5 '79 '83 '84 '88 '89 '93 '94 '00 '84~'88 '89~'93 '94~'00 NH4-N+ 1.0 NH4 -N NO3--N NO3-N 近年、窒素流出が 流入を上回る 0.5 0.0 '79~'83 Hydrological year (FM大谷山) 近年,活性窒素の増加が著しいのは, ・・・・・先進国か 発展途上国か? 1860年代は、世界的に最大でも 750 mg N m-2 yr-1 程度であった。 1990年代初頭は、欧州で 2000 mg N m-2 yr-1 程度に高まった。 2050年の予測では、世界的に高まり 5000 mg N m-2 yr-1 を超える地域が続出。 特に、 で高くなる予測である。 「国連ミレニアム生態系評価」の図より 日本では・・・ 大気汚染と河川の窒素流失がリンク 首都圏など大都市圏で窒素汚染が進行 (木平・新藤の報告などより) (戸田ほか 2000より) 9 火山灰・ 凝灰岩 等 砂岩・頁岩 等 花崗岩 等 石灰岩 安山岩 等 9 pH 8 8 7 7 6 標 茶 ( 京 大 ) 宮新 群 城潟 馬 白 糠 ( 京 大 ) 栗佐 駒渡 山( (新 東大 北) 大 ) 草 木 ( 農 工 大 ) 長 野 大 谷 山 ( 農 工 大 ) 川 上 ( 筑 波 大 ) 大 滝 村 ( 農 工 大 ) 清 澄 ( 東 大 ) 長 愛 三 和 京島愛 高 野 知 重 歌 都根媛 知 山 芦三松 香 手 稲美 良 武 杉 清 生瓶山 美 沢 ( 村 水 ((( 郡 山 名 ( 町 京島愛( ( 大 三 ( 大根媛 高 信 ) 重 京 )大大知 大 大 大 )) 大 ) ) ) ) R Q7 Q6 Q5 Q4 Q3 Q2 Q1 P O N M2 L J I2 I1 K2 ND 群 埼 千 馬 玉 葉 H4 H3 H2 H1 S2 G S1 F3 F2 F1 E3 E2 D E1 C B3 B1 B2 北 海 道 M1 北 海 道 A3 A2 A1 5 K1 5 ND 6 宮 崎 沖 縄 田 野 ( 宮 崎 大 ) 与 那 ( 琉 球 大 ) 全国 大学演習林の山地渓流水質 (戸田ほか 2000より) 9 火山灰・ 凝灰岩 等 砂岩・頁岩 等 花崗岩 等 石灰岩 安山岩 等 9 pH 8 8 7 7 6 R Q7 Q6 Q5 Q4 Q3 Q2 Q1 P O N M2 L M1 ND K2 K1 J I2 I1 全国 大学演習林の山地渓流水質 R Q7 Q6 Q5 Q4 Q3 Q2 Q1 P O N M2 M1 L K2 J I2 I1 H4 H3 H2 H1 長 愛 三 和 京島愛 高 宮 沖 野 知 重 歌 都根媛 知 崎 縄 山 芦三松 香 手 稲美 田 与 良 武関東山地には夏の季節風で 杉 清 生瓶山 美 野 那 沢 (首都圏の大気汚染が流入 村 水 ((( 郡 ( ( 山 名 ( 町 京島愛( 宮 琉 崎 球 ( 大 三 ( 大根媛 高 信 ) 重 京 )大大知 大 大 大 大 大 )) 大 ) ) ) ) ) ) NO3 mg/L 川 上 ( 筑 波 大 ) ND S2 S1 G F3 F2 H4 H3 H2 H1 S2 G S1 F3 F2 F1 E3 大 大 清 谷 滝 澄 山 村 ( ( ( 東 農 農 大 工 工 ) 大 大 ) ) FM大谷山 F1 E2 E1 D B2 草 木 ( 農 工 大 ) E3 E2 D E1 C 白 糠 ( 京 大 ) 栗佐 駒渡 山( (新 東大 北) 大 ) C 宮新 群 城潟 馬 B1 A3 A2 0 0 A1 4 4 群 埼 千 長 関東山地 馬 玉 葉 野 北 海 道 8 標 茶 ( 京 大 ) B3 B2 B1 A3 A2 北 海 道 B3 8 A1 5 K1 5 12 12 ND 6 渓流NO3ー濃度の 季節変化 森林生態系における N飽和現象 渓流からの NOx 窒素流出パターン 秋 冬 春 夏 このパターンは冬雨(欧米)型 夏雨(アジア・モンスーン)型の 気候ではやや異なるといえる。 渓流水 NO3ー 地下水流出 落葉層 有機態N 土壌層 NH4+ 不透水層 FM大谷山 壮齢林小流域 330 kg ha-1 12 kg ha-1 yr-1 降雨(バルク) 地上部蓄積 2 kg ha-1 yr-1 幹成長 24 1 林内雨 樹幹流 脱N ? ? 地表流 土壌層0-20cm 全N 5000 吸収 ? 地下水 NO3- 40 落葉層 400 落葉・落枝 50+α 15 渓流水 空中N固定 ? NH4+ 易分解N 400 微生物体N 100 45 kg ha-1 yr-1 N無機化 森林生態系の窒素動態・蓄積量 流域下部伐採と下層土のN流出遅延 流域全部を皆伐すると 渓流水質に顕著な影響 ヒノキ林 0.76ha 枝打ちや間伐による 渓流水質への影響は小 森林地上部や土壌系の 窒素蓄積量は動態量より はるかに多い FM大谷山 壮齢林小流域 2000年斜面下部 部分皆伐 0m 0 8 N 0 50m スギ林 0.71ha 伐採地 0.33ha 0m 75 ▼ 量水堰 土壌水 1 0.8 2005年5月 伐採 2004年11月 2004年5月 2003年11月 1.2 2003年5月 2002年11月 2002年5月 2001年11月 1.4 2001年5月 1.6 2000年11月 2000年5月 1999年11月 1999年5月 1998年11月 NO3-濃度 (mmolc L-1) 斜面下部伐採前後のNO3-濃度の経時変化 5cm 15cm 50cm 80cm 湧水 渓流水 0.6 0.4 0.2 0 2006年5月 2005年11月 2005年5月 2004年11月 2004年5月 2003年11月 2003年5月 2002年11月 2002年5月 2001年11月 2001年5月 伐採 0.140 0.120 250 0.100 200 0.080 150 0.060 0.040 100 0.020 50 0.000 0 流出水量 (mm) 0.200 流出水量 (mm) 流出水量 半期平均濃度 月平均濃度 2000年11月 2000年5月 1999年11月 1999年5月 1998年11月 1998年5月 1997年11月 1997年5月 1996年11月 c 0.160 1996年5月 - 0.180 1995年11月 1995年5月 1994年11月 3 -1) NO3-濃度NO(mmol L 濃度 (mmol c /L) 斜面下部伐採前後の渓流水NO3-濃度の経時変化 400 350 300 冬季(11月~翌4月)基底流出→伐採後,徐々に 高まる 夏季(5月~10月)基底+測方流出→伐採後,直ぐ 高まる 渓流水のNO3-濃度形成 模式図 NO3-濃度 脱N? 伐採前 伐採 伐採 土層 A層(有機質土層) 伐採直後 3・4年目 5・6年目 薄 濃 B層(無機質土層) 水位 変異荷電による 陰イオン吸脱着 夏 拡散現象による 濃度の平準化 濃 C層(母材) 冬 薄 濃 森林の水質形成機能は・・・ 森林土壌と森林の物質循環によって維持 森林流域の皆伐は水質・水量に影響<大> 特に渓畔林と流域末端の土壌保全が重要 森林の保育作業(間伐・枝打等)の影響<小> 短期間での森林回復力の維持が重要 地球上の活性窒素が増大、森林の浄化機能を 上回り始めている ⇒窒素汚染の削減 森林の窒素循環能、土壌の窒素保持能は大 ⇒森林管理で渓流水の窒素濃度低下は可 渓畔人工林の天然林(広葉樹林)化の方法 温暖化の窒素循環への影響?
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