特集 『経済発展と国際関係:グローバル化 するアジア太平洋地域の諸課題 ─小田野純丸教授 の退職を記念して─』の編纂にあたって この度、滋賀大学経済学部小田野純丸教授 の退職を記念して、小田野教 授が長年研究を深められてきた 『経済発展と国際関係:グローバル化するアジ ア太平洋地域の諸課題』をテーマとした特集を企画した。 小田野教授は、巻末に掲げた履歴・業績一覧にみるように、1969 年3月慶 応義塾大学を卒業後、ワシントン大学にて修士号並びに博士号(いずれも経 済学)を取得し、同大学で助手・助教授を務められ、その後は国際大学国際 関係大学院准教授、大阪国際大学経営情報学部・法政経学部教授等を歴 任された。その間 「ミクロ経済学」・ 「国際開発と政治経済学」等を担当されて 教鞭をとられるとともに、三菱総合研究所エコノミスト・インドネシア国家経 済開発庁アドバイザーとして、国際経済学全般のみならずインドネシアやベト ナム、アセアン等に関する国際経済・金融等に関する幅広い調査・研究を重 ねられ、その確固とした国際経済学の基礎と幅広い東南アジアの政治・社会 の現状分析に裏打ちされた専門研究を英文・日本文それぞれ20 本に及 ぶ 論 文として発表され、高い評価を得てこられた。 2000 年 4月には滋賀大学経済学部教授として赴任され、以後国際経済学・ 国際マクロ経済学・国際リスク経済学等を担当されて学生教育に邁進される とともに、同年同月には発足間もないリスク研究センター長に就任されて2010 年3月まで務められ、同センターの基礎を築かれるとともに大学院後期博士課 程のリスク研究専攻の発展のためにも多大な貢献をなされてきた。このような 小田野教授の本学における多大な教育・研究上の貢献に対し、改めて深甚の 謝意を表するとともに、氏の学問研究の意義を顕彰し、今後の本学における 教育研究のみならず内外 の専門研究にも広く貢献・発信 することを願って特 集を編んだ次第である。 上記テーマに関連して寄稿を御願いした方々は、小田野教授 が30 年間の 学究生活を通じて、様々な形で交流を持った研究者であり、対象地域として は、米国、中国、インドネシアやベトナムを含むアセアン各国、そして共通課題 としては国際経済論、経済発展論、社会保障制度論等、広範囲なものに及ん でいる。以下その概要を示しておこう。 Rhodes論文は、金融危機を前後して米国金融当局が 採用してきたゼロ金 利と過剰な流動性の 供給による経済活性化政策にかかわって、金融危機と 流動性のワナと呼 ばれる現象について多くの 著名な論者 の 視点を織り込 み ながら、主要な課題を整理している。 Shee論文は、アジア太平洋地域で強大化する中国について、 『連結 する真 珠』と呼ばれる周辺諸国を確実に中国の影響下に置いていく対外政策につい て分析し、今後政治経済面での中国の姿勢や行動に目を光らせておく必要が 高まっていると警鐘を鳴らしている。 Roehl論文は、小田野教授と共通の恩師であるDouglas North 氏(元ワシ ントン大学(州立)教授、現ワシントン大学(私立)教授、ノーベル 経済学賞 受賞者)が研究してきた取引費用の経済学と制度派経済学に基礎を置いて、 日本 の戦後経済発展を支えた長期雇用関係と水平的産業グループの存在を 説明し、それら日本型制度そのものが大きく転換を余儀なくされていることを 解説している。 Saiful論文は、アセアンの中で最も高い1人当たり国民所得をもたらしたブ ルネイ経済を分析をしたもので、潤沢な天然資源を基軸にした輸出収入に基 礎を置く政治・経済制度やエネルギー資源の輸出が国の命運を左右するリス ク要因となることについても論じている。 秋田論文は、小田野教授と共通時期にインドネシア政府のアドバイザーと して働いた経験から、インドネシアの地域経済発展と所得分配について産業 構造と産業連関を数量的に検証しながら目覚しい 経済発展 の内実とともに 所得分配に生じた様々な功罪を解明している。 Mai LanとVa論文は、2008−2009 年に生起したベトナム経済について分 析し、リーマン・ショック後の政府主導政策の成功面とインフレの高進や対 外収支の赤字拡大 がもたらしたリスク要因の拡大といった諸問題を浮き彫り にしている。 谷口論文は、同氏が海外青年協力隊としてアフリカで体験した経済発展の 問題を背景にして、フィールドワークを発展問題の解明に結びつけるアプロー チによって、援助が受取国のマクロ経済に及ぼす短期的な影響について考察 を加えている。 北村論文は、小田野教授と共同して取組んだ中国東北財経大学プロジェク トに関連して、実効性のあるセーフティーネットの構築という問題関心から社 会保障制度の国際比較を扱ったもので、同大学から博士課程に留学生を受け 入れ、中国と日本 の社会保障制度について詳細な比較研究を展開している。 今回の多岐にわたる研究が、今後世界経済 の中核を担うことになる東アジ ア諸国が、相互依存関係を深めつつそれぞれのメリットを生かして相互理解 を益々深め、互いに豊かで信頼できる協力関係を構築していくための一助とな ることを切に願うものである。 平成 23年3月 滋賀大学経済経営研究所長 筒井 正夫
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