透明樹脂ケースを用いた暖房・換気実験教材に関する基礎的検討 13.教育 3.教育方法 教材 気密性 ウィンナーケース トレーサーガス法 正会員 会員外 ○菅原正則 高橋智花 発煙装置 ステップダウン法 1.はじめに 近年における地球環境問題等により、日常生活での住 まい方の原理を理解した上で室内環境を快適に整えるこ とが必要とされており、居住者への教育が果たす役割は 大きい。しかし、温度や空気は目に見えないため、知識 を実感としてとらえにくく、また、可視化の難しさ等か ら実践的・体験的な実験教材を用いた実践は少ない1)~ 3) 。そこで本研究では、学校現場において身近にあるも ので製作でき、結果がわかりやすい教育プログラムとし て、透明な樹脂ケースに室内環境を再現し、気流を可視 化して現象を観察できるようにした実験教材を提案する。 2.透明樹脂ケースの断熱・気密性能 2.1 透明樹脂ケースの概要 本研究で用いる透明樹脂ケース(図1)は、 「ウインナ ーケース」と呼ばれる人形などのディスプレイのための 商品で、 製造元は公開されていない。 いくつかのサイズ、 形状があるが本研究では下記の物を使用した。 【サイズ】幅 21×奥行 21×高さ 25cm 【素材】 側面(透明)…ポリ塩化ビニル 蓋(透明) ・底板(黒)…ポリスチレン 図1 透明樹脂ケース 2.2 熱貫流率の試算4) ケースの素材の厚さは1mm にも満たないので、熱伝 導抵抗はないものとし、 表面の総合熱伝達率を両面とも9 W/m2 K とみなすと、熱貫流率は 4.5W/m2 K となる。な お、ケースの表面積は天井面・床面が各 441cm2、壁面が 各 525cm2 なので、 熱貫流損失は 1.34W/K と算定される。 2.3 実効面積および隙間特性値の測定4)~6) (1)測定方法 図2に示す測定機材を用いて、CO2 を用いたトレーサ ーガスステップダウン法により、一定の差圧(ケース内 を正圧とした)における隙間からの定常的な風量を把握 した。 隙間面積をケースの上下に分けて測定する際には、 蓋と底板をそれぞれゴムスポンジに置き換えた。また、 底板の開口部はテープで密封した。 図2 測定機材 【測定手順】 ①ケース外の CO2 濃度初期値を測定しておく。 ②天井部と底部のどちらかにスポンジゴムをはめ込む。 その際、奥まではめ込まれているか、目視、手ごたえ で確認する。 ③ケース内に CO2 濃度計を設置する。 ④ケースと加圧用ポンプ、気密測定器を接続する。 ⑤ケース内に CO2 を充満させ、充分に濃度を上げる。 (計測の上限は 5.5×103ppm) ⑥圧力差が無いことを確認した後、手動の空気入れで加 圧用ポンプに空気を送り一定の差圧(2、4、6、10Pa) を維持するように調節しながらケース内を加圧する。 10 秒間隔で CO2 濃度を記録し、ケース外の濃度と同 程度になるまで測定を続ける。 ⑦測定が終了したら CO2 濃度計をケースから取り出し、 ケース外の CO2 濃度を測定する。 (2)測定結果 各圧力差で得られた風量を両対数グラフにプロットし、 直線近似(図3)した結果、圧力差 1mmH2O のときの 風量が 0.5072m3/h(隙間量 0.35cm2)、隙間特性値は 1/0.5315=1.881 であった。この値が 2 に近いのは、透明 樹脂ケースの蓋と底板の、壁との接合部に隙間が集中し ているためである。 Basic Study on Teaching Materials of Heating and Ventilation Experiments using Transparent Resin Case SUGAWARA Masanori and TAKAHASHI Chika 1 ・はんだ ・金属用のこぎり ・きり ・接着剤または両面テープ 風量(m3/h) y = 0.5702x0.5315 0.1 0.1 圧力差(mmH2O) 1 図3 圧力差と風量の関係 なお、差圧 10Pa の条件で、上下に分けて測定した隙 間面積を表1に示す。この数値を見ると、底板の開口部 面積が最も大きいことがわかる。ケースの表面積 2982cm2 に対して、隙間量は 1.36cm2 であり、全体の 0.045%(底板の開口部を除くと 0.014%)に相当する ため、壁面に数 cm2 の開口部を作って実験する場合に は、無視できる隙間量といえる。 表1 隙間面積の測定結果(単位は cm2) 床板の開口部 底板周辺 蓋周辺 計 (見付面積) 0.34 0.10 0.92 1.36 3.気流可視化装置の製作 3.1 発煙方法の検討 気流を可視化する方法は、①スモークパラフィン、② 発煙管、③発煙片(または発煙筒) 、④スモークジェネレ ータ、⑤バブルジェネレータ、⑥金属微粉末、⑦風船が あり、煙、泡、金属粉を用いるものに大きく分類できる 7) 。本研究では、透明樹脂ケース内の狭い空間全体の気 流を見ることが目的であるから、可視化には煙が適して いると考えられ、さらに次の条件が求められる。 ・目に見える煙が多く発生する。 ・煙が消えにくい。 ・簡単に作ることができる。 ・費用が安い。 ・誰でも扱うことができる。 ・安全である。 3.2 発煙装置の試作 発煙装置は小型ユニットとして独立したものと、外部 から送り込むものを検討する。 (1)電子タバコを用いた装置(図4) 【準備物】 ・コード付き電池ボックス ・電子タバコ(バッテリー部、カートリッジ) ・工作用基板 ・乾電池 ・はんだごて 図4 電子タバコを用いた発煙装置 【作り方】 ①電子タバコのバッテリー部を分解し、空洞状態にす る。 ②コネクタの部分を先端から 1cm 程度の位置で切断 する。 ③図5のようにコネクタの内外に電池ボックスのコ ードをはんだ付けする。 ④カートリッジを取り付ける。 ⑤工作用基板の表側に電子タバコ、裏側に電池ボック スを接着する。 ⑥タッパーの底面にきりで穴をあける。 ⑦タッパーの中に⑤で組み立てたものを入れる。 図5 電源コード接続部 この発煙装置を動作させたところ、煙の量が少なく、 また、作り方も教材とするには難しいことから、学校現 場での使用のためには更なる改良が必要である。さらに 2014 年 11 月、厚生労働省8)から「電子たばこ」につい て、発がん性物質が含まれ健康への悪影響が示唆される とした報告がなされたので、安全性が確認されるまで使 用を控える必要がある。 (2)スモーク液を用いた装置9)(図6) 【準備物】 ・スモーク液 ・パウンドケーキ型(ステンレス製) ・パウンドケーキ型(紙製) ・シリコンチューブ(10mm 内径 30cm 分) ・タレビン ・ドレッシングボトル 図6 スモーク液を用いた発煙装置 【作り方】 ①パウンドケーキ型(紙製)の角に切込みを入れ、三 角形に切り取る(図7) 。 ②パウンドケーキ型(紙製)の長い辺をパウンドケー キ型(ステンレス製)の内側にはめ込み、短い辺は 外側に出す。 ③パウンドケーキ型(紙製)とパウンドケーキ型(ス テンレス製)の口同士をできるだけ隙間ができない ようにテープ(クラフトテープやマスキングテープ など熱に強い紙製がよい)でとめる。 ④パウンドケーキ型(紙製)の小さい側面のほうに、 空気の入り口との煙の出口の2つの穴を開ける。底 の部分にはスモーク液注入口を開ける。 ⑤シリコンチューブを 12cm 程度で2本切り取り、空 気の出入り口にチューブを差し込む(図8) 。 ⑥スモーク液注入口にスモーク液を入れたタレビン を差す。 ⑦ドレッシングボトルの胴体部に空気穴をあけ(図 9)、シリコンチューブを口に差し込み完成。 図7 角の切り込み 4.暖房・換気実験教材による教育プログラム案 4.1 暖房に関する実験 室内の暖房器によって、室内空気がどのように動くの かを観察する。コンロを使うため家庭科室で行うのが良 い。 【準備物】 ・透明樹脂ケース ・煙発生装置 ・黒画用紙(25×21cm を 3 枚) ・アルミホイル (石がのる大きさに何重かに重ねて折る) ・ピンポン玉程度の大きさの石 ・トングなどはさむもの 【実施方法】 ①図 10 のように、 あらかじめ観察する面と天井以外の3 面には黒い画用紙を貼っておく。 ②発煙装置をコンロにセットする。透明樹脂ケースがし っかり安定していることを確認し、チューブでつなぐ。 ③タレビンにスモーク液を入れ、発煙装置に入れる (10mL 程度) 。 ④ケース内のチューブ出口の近くにアルミホイルを置き、 焼き石をのせる。 ⑤コンロに点火し、発煙装置を加熱する。 ⑥煙がチューブから自然に出てくるのを確認してから 30 秒ほど待つ。この時焼き石に煙が当たって上昇して いく様子を確認する。その後ドレッシングボトルを、 煙が前方に勢いよく噴き出さないように気をつけなが らゆっくりと押し、ケース内に煙を発生させる。 ⑦煙が動く様子を観察する。 図8 パウンドケーキ型同 士をテープで接着 し、チューブを接続 した様子 図9 ドレッシング ボトルの空気穴 コンロの火で発煙させたところ、1分半ほどで装置全 体が温まりチューブの先から煙があふれ出し、上昇する 様子が見られた。ボトルをゆっくりと押すとチューブか ら出てきて上昇した煙は天井に到達し、天井付近を漂っ て進む様子が観察できた。また、側面にぶつかって下降 する様子も見られた。 図 10 黒い画用紙で 覆った様子 図 11 煙が発生し 上昇する様子 煙は焼き石に当たって上昇し(図 11) 、天井を漂って 進み、壁にぶつかって下降していった。上のほうから曇 りが濃くなり始め、次第に全体に広がっていった。 4.2 換気に関する実験 窓を開けたときに部屋の中の空気がどのように動くの かを観察する。 【準備物】 ・透明樹脂ケース ・煙発生装置 ・黒画用紙(25×30cm を1枚) ・アルミホイル(石がのる大きさに重ねて折る) ・ピンポン玉程度の大きさの石 ・トングなどはさむもの 【実施方法】 ①透明樹脂ケースに窓を開ける。窓を開けるのは向かい 合う二面とし、それぞれ上下にカッターで窓を開ける (図 12) 。マスキングテープで塞ぐことができる程度 の大きさとする。 等が考えられる。 窓を開けた際に出てくる煙の量を比較すると、どこか 一つだけ開けた際は微量の煙がでてきた。上下どちらか を開けた際には煙は出るが、上下両方開けた場合と比較 すると少ない。 5.今後の課題 本実験は、①製作過程において生じる装置自体の隙間 から煙が漏れることとその量が作り方によって一定でな いこと、②発煙装置内でのスモーク液の分布の違いで煙 量が変わる可能性があること、③人が目視で確認するこ とによる誤差が発生する可能性がある、といった課題が ある。したがって、煙を常に定量発生させることができ るようにする等発煙方法の改良や、ケース内の煙量や換 気量を測定し数値で表すことができるようにするなどの 工夫がさらに必要である。 謝辞 本研究は、JSPS 科研費 26560031(研究代表者 菅 原正則)の助成を受けました。 図 12 カッターで開けた窓 参考文献 1)日本家庭科教育学会:家庭科教育教材データベース ②開けた窓にマスキングテープを張り、隙間がないよう ver 2.0、 (2007) にする。煙が出る様子を横から見ることができるよう 2)文部科学省:技術・家庭科の現状と課題:改善の方 に、横にはみ出させて窓を開けていない面1つに黒い 向性(検討素案)教育課程部会(第 43 回)配布資料、 画用紙をはる。 (2006) ③発煙装置をコンロにセットする。透明樹脂ケースがし っかり安定していることを確認し、 チューブでつなぐ。 3)宮城教育大学付属小学校:平成 25 年度公開研究会要 項 子どもが確かに分かる授業の探求と創造Ⅱ―課 ④タレビンにスモーク液を入れ、発煙装置に入れる 題を追究し続ける姿を求めて―(第 4 次・まとめ) : ( (10mL 程度) 。 ⑤ケース内のチューブ出口の近くにアルミホイルを置き、 2014-2) 焼き石をのせる。 4)田中俊六ほか:最新建築環境工学[改訂3版]:井上 ⑥コンロに点火し、発煙装置を加熱する。 書院、 (2006-3) ⑦煙がチューブから自然に出てくるのを確認してから 5)コーナー札幌株式会社:気密測定マニュアル 住宅 30 秒ほど待つ。ドレッシングボトルの穴を塞ぎながら 気密測定の方法と知識: (2000-6) 5秒かけて押して煙を入れ、穴から指を外してボトル 6)札幌市都市局:札幌版次世代住宅基準技術解説書 3 に空気を取り込む。煙を入れる作業をケース内が曇る 章 気密性能測定: (2013) まで行う。 7)空気調和・衛生工学会編:建築環境と可視化情報― ⑧火を止め、チューブを取り外す。マスキングテープで 実験・シミュレーション・バーチャルリアリティ―: 穴をふさぐ。 理工図書株式会社、 (1995-6) ⑨開ける窓のマスキングテープを同時にはがし、ケース 8)厚生労働省:第5回たばこの健康影響評価専門委員 内の曇りの様子を確認しながら、窓から煙が出てくる 会: (2014-11) 様子を観察し、どのケースからもっとも煙が多く出た 9)Don’t interrupt me 500 円でできる煙発生装置でハロ か比較する。開け方の例としては、 ウィンの飾りつけをしよう! a.一つだけ開ける。 http://98log.blogspot.jp/2011/10/500.html(2014-2 b.下あるいは上だけ開ける。 時点) c.上下を開ける。 *宮城教育大学 准教授・博士(工学) **宮城教育大学 学生 Assoc.Prof., Miyagi University of Education, Dr.Eng. Student, Miyagi University of Education
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