アドホックネットワークにおける P2P ストリーミング環境の検討

特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 20
経由した際に,ピースを記憶させることによって,
アドホックネットワークにおける
P2P ストリーミング環境の検討
田
中
雄
1 回の送信で受信ピアのみがピースを受けとるので
はなく,中継ピアもネットワーク内で希少性の高い
也
ピースを一時的に記憶しておくことを考えた.
Yuuya TANAKA
情報メディア学科
2013 年度卒業
3.2
ピアによる経路構築
従来は,P2P ストリーミングを行う際,有線によ
1.はじめに
る直接通信を前提にインデックスサーバから IP な
2014 年 3 月 11∼13 日に東京電機大学で行われた
どの情報を取得して,接続先のピアを選択し,ピア
情報処理学会第 76 回全国大会に参加した.私は,
同士の通信を行う.しかし,アドホックネットワー
この学会にて「アドホックネットワークにおける
ク環境では,インデックスサーバから情報を得る
P2P ストリーミング環境の検討」という題目で発表
際,一度インデックスサーバまでの経路構築を行う
を行った.
必要があるため,大きな通信コストがかかる.そこ
で,インデックスサーバを使用せずストリーミング
2.研究目的
再生を行う方法を提案する.まず,再生を行うピア
近年,youtube などのストリーミング再生が普及
は,オリジナルコンテンツを所持しているサーバを
している.ストリーミング再生は,従来,サーバ・
見つけるためにフラッディングを行い,できるだけ
クライアント方式が一般的であったが,近年では,
近いサーバを検索する.フラッディングを行った際
P2P を用いたストリーミング再生が多く研究されて
に,パケットを受け取ったピアは,発信元ピアに取
いる.P2P は,クライアント同士で送受信を行なっ
得しているピースなどの情報を返信する.これによ
ていく方式であり,サーバ・クライアント方式に比
り,インデックスサーバから情報を得た状態と同じ
べて,災害などに強いが,インターネット環境に障
状態にする.
害があると,再生できない.そこで,P2P ストリー
ミングをアドホックネットワーク環境で構築するこ
4.実験と評価
とによって,災害などインターネット環境を利用で
本実験では,提案手法であるアドホックネットワ
きない場合でも情報などを取得することができると
ークでの P2P ストリーミングにおけるパケットの
考えた.そこで,本研究では,アドホックネットワ
受信方式の検証を行った.実験環境としては,ネッ
ークの特徴を活かし,P2P ストリーミング再生の途
トワーク内に存在するピアの数を 49 個とし,1 つ
切れなどを低減するパケットの受信方式を提案す
のコンテンツに含まれるピースの個数を 10 個とし
る.
て各実験を行った.
3.提案手法
3.1
4.1
経由しているノードの活用
4.1.1
アドホックネットワーク内でのパケットの総数
評価と考察
P2P ストリーミングにおいて,ピアがアドホック
実験結果より,図 1 より,従来のインターネット
ネットワーク環境で送受信を行う際,他のピアを経
環境で行った P2P ストリーミングでは,ピースの
由して送受信を行う.また,動画などのコンテンツ
総数は(再生するピア数)*(コンテンツ再生まで
を送信する際は,いくつかのピースに分解し,ピー
のピースの総数)個となり,本実験では,オリジナ
ス単位で送信を行う.そこで,中継ピアがピースを
ルコンテンツの総ピース枚数を 10 個としているた
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図1
再生回数におけるピースの総数
図2
再生回数における再生時間
め,一回の再生で 10 個ずつネットワーク内に拡散
が,再生までにかかる時間を短く短縮することがで
していくことがわかる.提案手法では,サーバまで
きている.これは,2 回目までは,再生回数がまだ
のホップ数が 1 となるピア以外では,中継ノードが
少ないためストリーミング再生を行うピアの近くに
存在するため,中継ノードが記憶する分のピースが
ピースを所有しているピアが存在していなかったた
従来の手法より多くピースを拡散させていくことが
め,既存手法と提案手法との再生時間に差が生じて
できた.また,7 回・8 回目の再生では,ピースの
いないと考えられる.3 回目以降では,ある程度ネ
増加傾向が少し緩やかとなっている.これは,ネッ
ットワーク内でピースを拡散することができ,スト
トワーク内のピアがピースを複数所持するようにな
リーミング再生を行うピアの近くにピースを所有し
り,中継ピアなどは,所持するピースの個数を制限
ているピアが存在する確率が大きくなったため,サ
しているため,ピースの破棄などによってピースの
ーバからピースを取得するのではなく,ホップ数の
個数が増加しないようになっているためである.以
少ないピアからピースを取得するようになりストリ
上のことから,本実験のピアの個数から,7 回目以
ーミング再生にかかる時間が短縮できていると考え
降のストリーミング再生では,ネットワーク内にピ
られる.
ースを十分に拡散することができており,遅延時間
を低減させ,スムーズに再生することができると考
5.まとめ
今回の学会において,多くの方々に意見をいただ
えられる.
き大変参考になりました.今回いただいた意見を参
4.2
4.2.1
考に,今後より良い成果を出すことができるよう努
再生回数の増加における再生時間の変化
力していきたいと考えております.最後に,多くの
評価と考察
図 2 より,再生回数が 2 回までは,提案手法とサ
ーバ・クライアント方式において再生までにかかる
ご指導をいただいた三好力教授には深く感謝いたし
ます.
時間の差はなく,3 回目以降になると提案手法の方
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