透析チューブを用いる代わりに、中空糸膜を用いるろ過透析(バッファー交換)=自動的ろ過 透析法 「ろ過透析」は、タンジェンシャルフローろ過技術のひとつの用途を示す言葉で、ひとつの溶液に含まれる目的成分 の「洗浄」や膜透過性分子(不純成分、塩分、溶媒、小分子量蛋白等)の除去を能動的に行う手段です。いわゆる透 析チューブを用いる方法と比べて、効率的に目的を遂行することができます。適切な膜の選択により、バッファー交 換に使用することもできます。厳密な分子量分画性能を期待できますし、塩濃度の調整や清澄ろ過プロセスにおいて 、高い蛋白回収率を期待することもできます。限外濾過膜を使用して、穏やかにかつ迅速にある蛋白溶液のバッファ ーを別のバッファーに置換できますが、これは、 Spectrum Laboratoriesの中空糸モジュールにとっての最も典型的な用途になります。 ろ過透析操作により分子分画を効果的に行おうとする場合、適切な膜 の選択が最も重要です。膜の孔径は、透過させようとする成分より十 分に大きな孔径である必要があります。また、保持しようとする成分 (粒子)よりは十分に小さい孔径である必要があります。Spectrumは各 種孔径の限外ろ過(UF)膜や精密ろ過(MF)膜を用意していますので 、目的に応じて最適の膜を選択していただけます。 中空糸膜を用いたタンジェンシャルフローろ過は、ポンプで、試料液 を管状になった中空糸の内腔に通すことによって実現します。膜壁に 開いた穴を通過できる成分は、中空糸外部に浸み出し、穴より大きな 成分は、元の試料液中に残り中空糸の反対の出口に出て来ます。置換 しようとするバッファーや洗浄液を、透過液流速に合わせて連続的に 循環液に添加することにより、ろ過透析を行うことができます(連続 ろ過透析)。ある程度ろ過が進んだところで、減った液量分のバッフ ァーや洗浄液を添加する方法(不連続ろ過透析)も行われます。その 結果、タンジェンシャルフローシステムにより穏やかに液循環をして いる間に、透過成分の濃度を下げることができます。 Figure 1 標準的TFFシステムは、ポンプ、圧力測定手段、流量測定手段、プロセス液用リザーバー容器、バッファー供給用容 器および中空糸フィルターで構成されます。プロセス液は、プロセスリザーバーからフィルターを経てリザーバーへ と、所定の流速およびシェア率でポンプ循環されます。この 液循環ループの中で液圧計測が行われ、操作の律速因子であ る膜透過圧が管理されます。正確な膜透過特性の把握により 、精度の高いスケールアップおよびプロセスの最適化を実現 できます。ろ過透析は、液循環するプロセスリザーバー、ま たは液循環ループ途上に単純に透析バッファーを添加するだ けで実現します。図2は、標準的ろ過透析実験のフローを示し ています。閉鎖系の循環ループにバッファー容器が接続され ることにより、陰圧が発生して、バッファーは自動的に循環 ループへと導入されます。透過液流量と供給バッファー流量 は等量の関係にあります(連続ろ過透析)。 BUFFER RESERVOIR ろ過透析を行う方法は、一通りではありません。中空糸モジ ュール、チューブおよび密閉できる容器で液循環ループを構 成する方法が、最も効果的で容易な連続的ろ過透析法です。 連続的ろ過透析法においては、透析用バッファーは、プロセ スリザーバー(または液循環ループ途上)に透過液の流出速 度と同じ速度で添加されます。 PERMEATE RESERVOIR Figure 2 Page 1 of 5 ろ過透析に入る前の濃縮 プロセス液の量とろ過透析に使用するバッファーの量は無関係ではありません。この問題については、次の項で議論 しましょう. 最小限のバッファー量(処理時間、費用)で操作を行うためには、ろ過透析を始める前に、目的成分の濃縮を行う方 が有利になる場合があります。濃縮によって処理液量を減らすことができます。 透析バッファーを添加することなく、タンジェンシャルフローろ過を行えば、濃縮操作になります。膜孔径より大き な成分の濃度は上昇しますが、膜を自由に透過する成分(塩、溶媒等)は、当初の濃度が維持されます。図3では2倍 濃縮について説明しています。処理液量は半分に減り、不透過成分の濃度は2倍に上昇します。 濃度はろ過透析の特性に二面的に影響を与えます 。ろ過透析により、プロセス液から膜透過性成分 の分離を行おうとする場合のFlux(膜の単位面積あ たりの透過液流速)および透過成分の移動に影響 します。膜不透過成分の濃度は膜の手前で上昇し 、膜透過に対する抵抗が増加します。透過抵抗が 増す結果、透過液流量は減少します。操作時のFlux J は下記等式1のように表されます。 J (L/m2/hr) = 透過液流量 / 膜面積 等式 1 Figure 3 Equation 1 プロセス液によっては、膜表面での不透過成分の濃度上昇に伴い、より低分子の透過性成分の膜透過速度まで低下す る場合があります。この関係は、膜移動係数T (Transmission)あるいは T (%)で示されます。 この係数は、 濃縮操作段階において供給液と透過液のサンプリングを行い、実際の濃度を測定して求めます。 (2a) (2b) 濃縮段階で、これら2種類のパラメーター(Flux および移動係数) を把握できれば、 ろ過透析および成分分画操作の最適操作条件を求めることができます。 Page 2 of 5 ろ過透析(バッファー交換) 簡潔に説明すると、ろ過透析は、新鮮なバッファーをプロセスリザーバーに添加して膜透過性成分を「洗浄除去」す るための操作を示します。連続的ろ過透析は、ろ過透析のひとつの技術、または 1手法です。連続的ろ過透析においては、透過液が膜透過して中空糸モジュールから流出するのに伴い、等量のバッ ファーが添加されます。図4にろ過透析の原理を示しています。 密閉系のフローパスによるろ過透析では、バッファーが自動 添加され、安定した膜分離操作が行われます。 <参考>同様の操作を、ポンプによる流量制御で行うことも できます。2連ヘッド式ポンプを使用し、透過液流量とプロセ スリザーバーに添加するバッファーの流量を等しく保つこと で実現します。このセットアップは、MFTFF(精密ろ過タンジェンシャルフローろ過)による成分分画 や清澄ろ過操作においてよく行われます。 Figure 4 給液ラインのチューブが清浄なろ過透析用バッファー中に投 入されると、プロセスリザーバー内が陰圧になり、この陰圧 によりバッファーがプロセスフロー内に透過液のFlux(単位膜 面積あたり透過液流量)と等速で引き込まれます。計画した 透過液量が回収容器に得られたら、単純に供給バッファーか らチューブを引き抜いたり、プロセスリザーバーの密閉を解 除(ベント弁を開く等)することにより、終了できます。こ の方法は、サンプル液を穏やかな条件下に扱うことができ、 保持したい成分を一定の濃度に維持することができます。 このことは、変性しやすいデリケートな成分を処理しようとする場合、特に重要な条件です。 ろ過透析液量率VDを正確に把握するのは重要です。ろ過透析液量は、操作開始時のプロセスリザーバー内および循環 ライン内保持液量の合計になります。 従って、ろ過透析に必要なバッファーの液量は、次のように計算されます。 等式3 Page 3 of 5 透過性成分を分離し、“洗い流す”ために必要なろ過透析量(透析倍率)をあらかじめ予測する際図5のチャートを 利用します。チャートの下に示した等式(等式4)は、ろ過透析を行う際に、よく利用される等式です。 % of Permeable Molecules Removed 100.00 40 60 10 0 80 10.0 90 20 93 96 30 Transm (%): 100 80 60 50 40 1.0 99 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Diafiltration Volumes 11 12 13 14 図5 移動係数Tおよびろ過透析に用いたバッファー量から除去された透過性成分の量(減少率)を計算することができま す。実際の結果については、目的成分濃度を分析して確認してください。 等式 4 要旨 ろ過透析または、濃縮+ろ過透析は、効率的で、穏やかかつスケールアップが容易な、不要成分除去、バッファー交 換等の手段で、タンジェンシャルフローろ過(UF、MF)で分離されない成分より小さい分子の分離を行います。通 常小さな分子とは、血清由来の不純蛋白成分だったり、バッファーの塩であったりします。MFTFFの場合、透過成分の方が必要成分になったりします。適切な孔径の膜を選び、濃度と移動係数の関係を把握する ことにより、再現性の高い安定した操作を実現することができます。 技術情報 バッファーを利用できない条件下での効率的ろ過透析方法:「水洗」タンジェンシャル フローろ過 現在、酸性、またはアルカリ性溶液から、塩を含む溶液を使用することなく酸または塩基成分を除去する方法につい て種々提案されています。実際的方法は、酸やアルカリを置換するために、バッファーや溶液を添加するかわりに注 射用水を使用する方法です。試料液を中性または中性付近のpHに変えることができます。 実験室スケールで行われる一般的手法は、スペクトラム社の透析チューブを利用する方法で、何日かの日数をかけ、 何回も透析バッファーを更新する方法です。しかし、この方法はバイオ医薬生産工業で行われるような大量処理には 適していません。 Page 4 of 5 水はバッファーではないので、連続的にしろ、不連続的にしろ、単純なろ過透析にはなりません。膜を自由に透過す るイオンは、中空糸膜のどちらの方向へも移動します。注射用水(WFI)または蒸留水を添加して、不連続または連 続的ろ過透析を行う際、イオンを中空糸モジュールから積極的に除去することを意識して行う必要があります。 酸性または塩基性溶液のろ過透析をWFI(注射用水)や蒸留水を用いて行う場合、水添加用として2連ヘッド式ポン プを使用する方法があります。スペクトラムの中空糸モジュールを使用する場合、水はモジュールの下側の透過液口 に導入されます。目的成分の濃度が一定に保たれるように、プロセスリザーバーまたは、循環流に添加する水と同じ 流量で投入します。この方法により、透過成分を中空糸ルーメン(内空隙)からモジュールのECS(ハウジング内の 中空糸外部空間)へ、更にドレンラインへと洗い流すことがます。この操作に必要なWFIまたは蒸留水の量は、処理 液の当初pHによって異なります。 下の図は、蛋白溶液からWFIで酸(pH1.8)を除去する際の添加水量とpHの関係を示しています。 60 Module: M85S-900-01N pH Shift Gelatin 50kd Spectrum Hollow Fiber Spectrum Laboratories 301-738-9703, DSerway Diafiltration Volumes 50 Approximately 51 Diafiltration Volumes to shift pH of a protein solution from 1.8 to a pH of 6 40 30 y = 0.617e0.7256x 20 R2 = 0.9191 pH =6 10 0 1 pH Feed Stream 10 要旨 ここに説明した「水洗的」ろ過透析法は、WFIや蒸留水などの非イオン性溶液を用いてバッファー交換を行う効果的 方法なです。この方法であれば、大スケール溶液のpH変更も確実に行うことができます。 このSpectrumが提案する「水洗的」タンジェンシャルフローろ過透析法を用いれば、従来日単位でかかったバッファ ー交換にかかる時間を時間単位に短縮できます。 Page 5 of 5
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