第 2 回 価格と市場の基礎理論:需要と供給、市場均衡 (2015/10/5)

©有賀健高
農産物市場流通論講義ノート
第2回
価格と市場の基礎理論:需要と供給、市場均衡 (2015/10/5)
文責:有賀健高
1. 市場とは?
1-1
定義
• 「財やサービスの売り手と買い手が、売買や交換ができる制度的な関係全体」
• 買い手(需要側)と売り手(供給側)が価格や取引について交渉できる場所
1-2
市場の種類
1-2-1 言葉の使い方による分類
① 具体的な意味での市場
特定の場所を指し、実際に商品取引が行われる市場。
小売、卸売を含めた本授業で扱う商品市場はこれ。金沢の近江町市場、東
京の築地市場など具体的な取引場所を指していう。
売り手
消費者
② 抽象的な意味での市場
実際の商品取引を行う市場を指すのではなく、単に売り手と買い手の競争
力のバランスを差した言葉上の意味での市場。具体的な取引場所を指して
いるわけではない。
例
金融市場、労働市場
1-2-2 取引時点による分類
① 現物市場
今持っている物(現物)を現時点の価格で売買する市場。現時点の価格の
ことを時価価格(spot price)というので時価市場ともいう。この市場で
の取引は時価取引という。
1
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② 先物市場
将来の一定の時期に売買対象となる商品を受渡しする市場。将来の時点で
の予測価格のことを先物価格(futures price)という。この市場での取引
は先物取引という。
1-2-3 完全競争市場と不完全競争市場
① 完全競争市場
生産者にも消費者にも価格をコントロールする力がない市場をいう。完全
競争市場であるための条件
a. 市場に多数の参加者がおり、市場参加者がプライス・テーカー(price
taker)である(生産者も消費者も価格に影響を及ぼせない状況)こ
と。
b. 市場で取り引きされる財は同質である。
c. 市場参加者は取引される財について完全な情報を持つ。
d. 売り手の市場への参入・退出が自由である。
② 不完全競争市場
上であげた完全競争市場の条件が満たされておらず、特定の買い手や売り
手によって価格が左右されてしまうような市場を言う。
例
独占市場、複占市場、寡占市場、
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2. 需要側の行動
2-1 需要曲線
2-1-1 定義
財(商品)の価格と需要量との
関係を示す曲線。
2-1-2
需要と需要量
需要:消費者側の購買意欲
需要量:需要に基づいて消費
者が購入する商品の量。
2-1-3
何で右下がりか?
安い方が買う人にとって得な
ので、価格が安ければ安いほ
ど買う人が増えて需要量も増
える。
2-2 価格以外で需要曲線を変化させる要素
所得、嗜好の変化、流行、気温など。こういった要素は、需要曲線を右や左にシフ
トさせる。例えば、社会全体の所得があがってインフレが起これば価格も需要量も
ともに増えるため、需要曲線は右上にシフトする。あるいは食品の不衛生など食の
安全によってある商品に対する信頼が失われると、需要が減り売れなくなるので価
格も同時に下がり、左にシフトする。
2-3 需要の価格弾力性
2-3-1
定義
価格の変化分に対して、需要の変化分がどれくらいかを計る指標。
価格の変化率(%)に対する需要の変化率(%)
価格を P、需要を QD、需要の価格弾力性をεD とすると、
2-3-2
εD = −
需要の変化率
価格の変化率
=
Δ𝑄𝑄𝐷𝐷
�𝑄𝑄
− ΔP 𝐷𝐷
�P
弾力的、非弾力的とは?
① 弾力的(price elastic) εD > 1 :価格の変化率より需要の変化率が大き
い。代替品のある商品や贅沢品(奢侈品)は弾力的とされている。
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② 単位弾力的(unit elastic)εD = 1 :価格の変化率に対する需要量の変化
率が同じ。
③ 非弾力的(price inelastic) εD < 1 :価格の変化率より需要の変化率が小さ
い。代替品のない商品や必需品は非弾力的とされている。
ε= 0
a)
ε=∞
b)
c)
1
1
弾力的なケース
2-3-3
単位弾力的なケース
非弾力的なケース
計算例 1
変化率=
変化後の値−変化前の値
変化前の値
例えばある商品の価格が 100 円から 150 円に上がったときの変化率は、
変化前価格 100 円で、変化後価格 150 円なので変化率=
•
例1 価格下落のケース
150−100
50
=
=50%
100
100
りんごを一個 200 円で売っていたスーパーで、価格が 200 円の時は一日 25 個
売れていたとする。ここで、スーパーが価格を 160 円に下げたらリンゴが一日
で 50 個売れるようになったとする。この時の需要の価格弾力性はいくらか?
160 − 200 −40
1
=
= − = −20%
200
200
5
50 − 25 25
需要の変化率 =
=
= 1 = 100%
25
25
価格の変化率 =
需要の価格弾力性 = −
需要の変化率
価格の変化率
=−
100%
−20%
=5
(5は1より大きいため弾力的である。)
1
需要の価格弾力性の計算は、変化前と後のどちらを基準にして計算するかによって値が異なる
ため、この問題を解消できる弧弾力性(arc elasticity)の計算方法が用いられることもある。しか
し、本講義では点弾力性(point elasticity)の計算方法のみ紹介し、弾力性というときは、この点弾
力性を指している。
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•
例2
価格上昇のケース
価格が一つ 75 円の時キャベツが 30 個売れていて、価格を 100 円に上げたら 10
個しか売れなくなった場合の需要の価格弾力性は?
−2�
(10 − 30)⁄30
3 = 66% = 2
=
=−
需要の価格弾力性 = −
1
⁄
33%
�3
価格の変化率 (100 − 75) 75
需要の変化率
(2も1より大きいため、この場合も弾力的である。)
3. 供給側の行動
3-1 供給曲線
3-1-1 定義
財(商品)の価格と供給量との関係
を示す曲線。
3-1-2 供給と供給量
供給:生産者の売りたいという意欲。
供給量:供給に応じて生産者が商品を
売る(提供する)量。
3-1-3 何で右上がりか?
価格が高い方が売り手には得なので、
価格が高ければ高いほど売りたい人も
増えるので供給量も増える。
3-2 価格以外で供給曲線を変化させる要素
技術進歩による生産力の拡大、天候、生産要素のコスト費用
3-3 短期と長期の供給曲線
短期:供給量は収穫量に依存するため、短期的には変化させるのが難しい。その
ため短期の供給曲線はほぼ垂直となる。
長期:長期的には、生産者は生産能力を拡大できるため、価格に応じて供給を増
やすので右上がりとなる。
中長期:出荷調整や在庫、流通経路によって調整する。
3-4 供給の価格弾力性
供給の価格弾力性= εS =
供給の変化率
価格の変化率
=
5
Δ𝑄𝑄𝑆𝑆
�𝑄𝑄
𝑆𝑆
ΔP�
P
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4. 市場均衡
4-1 定義
市場において需要量と供給量が等しくなる状態。需要曲線と供給曲線が交差して
いるところ。
均衡価格:市場均衡での価格
均衡需給量:市場均衡で取引される量
4-2 市場均衡への調整過程
このような均衡に向かって価格の自動調節機能が働くためには、先で述べた完全競
争市場の条件が満たされている必要がある。
4-3 農水産物における価格調整の困難さ
農水産物では生産期間が長いため、市場均衡価格にあわせて最適な生産量を決め
るのが難しいという問題がある。生産に時間がかかるため、生産が終わる時点で
の価格を予想して生産する必要があるが、生産時点での価格を正しく予測するこ
とは困難である。このような状況を表すモデルとしてクモの巣モデルがある。
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4-3-1 クモの巣モデル
4-3-1-1 安定する場合:供給曲線の勾配の絶対値>需要曲線の勾配の絶対値
価格
価格
P1
Q2
Q3
Q1
数量
4-3-1-2 不安定な場合:供給曲線の勾配の絶対値<需要曲線の勾配の絶対値
価格
P0
Q2
Q1
7
Q3
数量