滋賀県立大学の法人化と第一期中期目標への対応

滋賀県立大学の法人化と第一期中期目標への対応
前理事長・学長 曽我直弘
はじめに
1
を対象にした学科ごとの人間探求学を新設し、
年次必修科目とした。
平成7年に「キャンパスは琵琶湖。テキストは
本学では大学業務を機動的・戦略的に行うため
人間。
」
をモットーに、
「人が育つ大学」
を目指して
に理事長が学長を兼務し、
その下の理事による役
「環境」と「人間」をキーワードに開学した滋賀県
員会が管理運営の責任を負っている。
業務の透明
立大学も20周年を迎えた。この間、社会では少子
性を確保するため役員会、
教育研究評議会及び経
化・国際化が進み、
国立大学の法人化もあって大
営協議会に外部有識者を加えることになってい
学を取り巻く環境は大きく変化した。
これに対応
たので、
県と協議しながら候補者の選任を行った。
するために本学は平成18年に公立大学法人滋賀
理事の業務は学部を横断し、
年度計画の実行には
県立大学として再出発した。
その前年に学長に就
学部との調整を要し、
また未経験のことも多かっ
任し、翌年学長を兼務する理事長に任命され、そ
たので、
情報交換と確認のために常勤理事による
の後再任されたので合計7年間大学の管理運営に
役員会議を毎週開催した。
携わった。
法人としての活動状況
法人化に向けての準備
法人化後の活動状況は第1期中期目標・計画の
大学の法人化は、
自律的運営によって時代の流
れや要求に迅速に対応し、
教育・研究・社会貢献に
に印象深かったことを記しておく。
おける大学の役割を的確に果たしていくことが
法人化の利点は予算項目に捉われずに業務を
狙いである。
そこで、
近江商人の「三方よし」の理
追加したり、
設置団体の許可や議会の承認を経る
念にならい「大学よし、
学生よし、
地域よし」とい
ことなく組織の再編や新設を自律的に行えるこ
う「大学三方よし」を掲げて大学運営に取り組ん
とである。その例として、県内および近隣府県の
だ。
住民に大学の法人化とその方向を知らせるため
法人化された大学では、
あるべき姿を自らが定
8
報告書に詳細に記載されているので、
ここでは特
に初年度に主要新聞6紙に掲載した広告がある。
め、
それに向けて中期目標・計画を策定し、
年度計
組織の変更や新設については、
平成20年度に法人
画によって実行する。赴任した時には、西川前学
化の際に設置された地域づくり調査研究センタ
長と里深副学長の下で法人化の準備が進められ
ーを地域づくり教育研究センターに改組し、
また
ており、
滋賀県の学術の中心として開かれた大学
地域の環境問題に取り組むために環境共生シス
を目指すという開学時の目標を踏襲した大学像
テム研究センターを新設して「地域よし」を進め
が設定され、
県と大学の協議によって最初の中期
た。
目標・計画と平成18年度計画が策定されていた。
「学生よし」に向けては、
教育実践推進室を設
そこで、現状のままでは達成が難しいと思わ
けて経験豊かな室長の下で授業改善のためのFD
れた項目に取り組むための準備に取り掛かった。
活動を全学的に進める体制を作った。また、平成
英語の少人数教育の実施のための任期付き外国
20年度に事務室の一部を改装し、
教員が常置する
人教員の新規採用、英語力の向上の数値目標の
学生支援センターを開設した。学科については
指標としての全員に対するTOEIC受験の実施な
「大学よし」の観点で改組新設を行った。
工学部の
どである。また教養教育充実では環境と人間を
教育研究活動を広げるために電子システム工学
取り扱う全学共通の「環境マネジメント総論」
と
科を平成20年度に開設した。また、今後の国際化
学生の考える力や自己表現力を養うために数名
の進展に対応できる大学造りのために国際コミ
ュニケーション学科の設置準備を行ない、
平成24
②社会のグローバル化や時代の変化をとらえた
年度開設の目途をつけた。
いずれも教員の学科間
大学、
③地域や産業と連携し、
創造的な研究に取
移動や定員移行を伴ったが、
担当理事の努力と関
り組む大学をめざすこととし、
教育・研究・社会
係教員との協力で様々な問題を乗り切ることが
貢献・国際化についての取り組みの方向と主な
できた。
例を具体的に挙げた。これが次期以後の中期目
本学の教育研究の特色は地域に根ざした活動
標・計画の基本となっている。
で、
「大学三方よし」の源である。
平成16年度から
大学の運営費は設立団体からの運営費交付金、
の近江楽座プログラムや平成18年度からの近江
学生の授業料等の納付金および外部資金である。
環人プログラムはこの活動をもとに国の競争的
法人化の初年度は、
大学業務に関わる予算項目の
資金を得て実施してきたが、
支援期間終了後も大
多くが運営費交付金に盛り込まれていたが、県
学予算で継続して発展させて、
平成22年度の大学
の財政悪化を反映して交付金が年々削減された
教育推進のための
「地域学副専攻化による学士力
結果、交付金充当項目は大幅に減少し、教育や研
向上プログラム」につなげるとともに、
平成23年
究に関わる経費の多くを大学の自己収入で賄う
度から学部と大学院に全学横断型の地域学副専
状況になった。
大学では教育研究活動の水準を下
攻を設けた。
げないために、
目的積立金の取り崩しや外部資金
これまでの7年間、学長として特に心がけたこ
を獲得する努力を教員に働きかけるとともに、
公
とは、従来の大学の活動や成果を発展させ、学生
立大学協会を通じて公立大学に対する地方交付
の立場や社会との連携を考えながら改革を進め
税の増額を総務省に働きかけて実現させたりし
ることであって、まだ充分とはいえないが、ある
たが、
交付金に反映されるまでには至っていない。
程度達成出来たと思っている。
これは初年度から
自助努力と共に設立団体の支援を得るために県
4年間の年度業務実績評価では、
「年度計画を充分
民や議員に大学の重要性をより具体的に示すこ
に実施できていない」項目があって総合評価では
とが必要であろう。
「おおむね計画通り進んでいる」状況となったが、
今後の課題として学生の教育や研究における
平成22、23年度ではそのような項目が無くなり、
専門化はともかく、
総合化についてはまだ充分で
「計画どおり進んでいる」との総合評価を受けた
ないところがある。
また学生の質保証については、
ことや、
平成22年度に受けた大学評価・学位授与
シラバスの作成や試験問題・解答に対する学科
機構の認証評価において上記のプログラムが優
内の相互検討や他大学教員による点検などが全
れた取り組みとして取り上げられ、
本学の理念や
学に行きわたっていない。また、学生の自学自習
実践的教育重視の方針が学生にも伝わり、
学生の
の不足という日本全体の問題に取り組むことも
満足度も高く、
教員と学生の距離が近いという講
必要であろう。
次の時代に活躍する人材を養成し、
評を受けたことに現れている。
これらを可能にした
県民の期待に添えるような魅力的な大学になる
理事をはじめ教職員の努力に感謝したい。
ためにも、
また新しい淡海文化の創造や地球環境
の保全などに関わる学術研究を推進し地域社会
今後の取り組みと課題
や国際社会に貢献するためにも、
法人化の狙いを
踏まえた教職員の意識改革を進め、学部、学科を
平成22年に将来構想「USP2020ビジョン」
を作
成した。
そこでは「知と実践力」
をそなえた人材
越え全学的な立場で緊密な協力体制を組む必要
がある。
の育成を目標として定め、2020年の本学の姿と
して①教育を重視し、
学生の満足度が高い大学、
9