文学部英文学科 一谷 智子 教授

【教授の研究紹介】
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西南学院大学の教授が日々研究している専門分野を私たちの「暮らし」に触れて紹介。教授の研究内容をより身近なものにしてみよう。
文学部英文学科
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こ
一谷 智子 教授
文学は、
地球を救えるか
筑波大学大学院教育研究科修了。
英国マンチェスター大学大学院芸術・
歴史・文化研究科博士課程単位取得
満期退学。博士
(文学)
。専門は英語
圏の文学・文化研究。
「植民地主義」
「戦争」
「核(兵器・エネルギー)」
「環
境・自然(災害)」などのテーマを通し
て、地域や時代を横断しつつ文学作
品を比較考察している。研究テーマは
ダ ー ク
一貫して暗い。ゼミはときにお通夜気
味になることもあるが、未来に「明」
を
見い出すべく、
「 暗」に目を向ける
「文
学的ダークツーリズム」実施中。
「エコカー」
「エコ検定」などなど、近年エコを
「エ コバッグ」
配した言葉が巷にあふれ、地球や自然環境に負担の少な
と呼ばれる文学批評のジャンルが形成されています。人類最古の
叙事詩といわれる『ギルガメシュ』には、すでに自然破壊という現
い生活を目指すエコライフへの関心が高まりを見せています。21世
代に通じるテーマが鋭く打ち出されていたように、文学はその誕生
紀は「環境の世紀」といわれますが、18世紀以降、産業革命を経
の時から人間と環境の相互作用に関心を向けてきました。イギリス
て経済を中心に発展し続けた社会が直面するようになったのは、
の田園文学の伝統、アメリカのネーチャーライティングの系譜など、
地球温暖化、資源枯渇、環境破壊などの深刻な問題であり、今、私
英語圏の文学においても「自然」
「環境」はもっとも重要なテーマ
たちは地域社会ひいては地球そのものを持続させるために、生活
として見出せます。エコクリティシズムとは、こうした文学作品を過
のスタイルや価値観の見直しを迫られています。
「エコ女」を自認し
去の遺産ではなく、環境危機に直面する現代社会を生きる私たち
ている人はもちろんのこと、
「エコなんて(独りよがりの)エゴ」だと
にとっての新たな価値の源泉として読み直す試みといえます。
冷ややかな想いを抱く人も、日本で、世界で、大規模な災害が頻発
地球温暖化、化学物質や放射性物質による環境汚染など、環境
しているのを目にする時、自然環境の変化が自然にではなく人災
をめぐる問題がもはや一国では解決し難い地球規模の課題となっ
によって急速にもたらされつつあるのを意識し、人間と環境の関係
ている現在、エコクリティシズムの関心は、古典的作品だけではな
性について思いをめぐらすことがあるのではないでしょうか?
く、多文化主義やグローバル化に特徴づけられる現代文学、映画や
パストラル
じょ
さて、
「エコロジー(生態学)」や
音楽を含む芸術全般にも広がっています。また、人種、階級、ジェン
「環境」というと、自然科学系の
ダー、セクシャリティーといった社会的・文化的要素が、環境の汚染
研究を連想しがちですが、私が
や被害の不平等な負担に深く関連していることなどにも目を向ける
専門とする英語圏の文学や文
ようにもなってきています。文学研究にこうした視点を導入し、人間
化の分野でも、1990年代以降、
と環境が切り結んできた歴史を再検討しながら、現在のあり方や未
「エコクリティシズム/環境批評」
来を変容させるための視座を探ることが私の研究の課題です。
『 文学から環境を考える
―エコクリティシズムガイドブック』
小谷一明・巴山岳人・結城正美・豊里真弓・喜納育江〈編〉
原爆文学の書き手林京子へのインタビューや、新進気鋭の日系アメリカ
人作家カレン・テイ・ヤマシタの小説、国内外の研究状況をつたえる論文、
キーワード集など、多元的な構成によって環境文学・批評の可能性を伝
えるこの分野の入門書です。宮沢賢治、石牟礼道子、宮崎駿アニメに
アンパンマンなど日本の作家やサブカルチャーも取り上げられており、
エ
コクリティシズムの射程の広さと深さを知ることができる一冊です。
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