【お試し版】「看護職賠償責任保険制度News」vol.18

看護職賠償責任保険制度
18
VOL.
特集
多職種チームで取り組めば限界は超えられる
24時間365日「断らない救急」を掲げて
♦ 地域救急医療を支える
横浜市立みなと赤十字病院の取り組みの進展
武居 哲洋氏(救命救急センター 集中治療部長)
橋本 幸子氏(ICU 看護師長) 石鉢 一美氏(救急病棟 看護師長) 井口 恵美子氏(薬剤部 副部長) 赤沢 雪路氏(リエゾン精神看護専門看護師)
谷 文恵氏(医療情報センター医療情報課 経営企画課 課長)
三上 久美子氏(医療安全推進課 課長)
乾 尚美氏(看護副部長)
鈴木 恵子氏(看護部長)
♦【解説】心揺さぶられる「断らない救急」の担い手たち ̶
「みなと赤十字病院の取り組みに共感」
♦【解説】
̶ 変わりゆく救急医療に求められる看護 ̶
法律に関する基礎知識
吉田 澄恵氏
多久和 善子氏
Part17
病院・診療所等における防火対策
箱根町(神奈川県)/撮影 坂元 永
公益社団法人
多 職 種チームで取 り 組めば
限 界 は 超 え ら れる
時 間 365日「 断 らない救 急 」を 掲 げて
院です。
2009年には救命救急センターの指定を受け、
基本方針として
「断らない救急」
を掲げました。
横浜市立みなと赤十字病院は、
2005年、
日本赤十字社が指定管理者となり開設された公設民営の病
◆地域救急医療を支える
横浜市立みなと赤十字病院の取り組みの進展
24
◆
【解説】「みなと赤十字病院の取り組みに共感」
―変わりゆく救急医療に求められる看護 ― 多久和 善子氏
◆
【解説】心揺さぶられる
「断らない救急」
の担い手たち ― 吉田 澄恵氏
生涯発達学 准教授の吉田澄恵さん、
救急看護認定看護師の観点から、
多久和善子さんに解説をいただきます。
さらに、
この取り組みの意義について、
看護職生涯発達学の観点から、
東京女子医科大学看護学部 看 護 職
赤沢 雪路さん(リエゾン精神看護専門看護師) (掲載順)
井口 恵美子さん(薬剤部 副部長)
鈴木 恵子さん(看護部長)
石鉢 一美 さん(救急病棟 看護師長)
乾 尚美さん(看護副部長)
橋本 幸子さん(ICU 看護師長) 三上 久美子さん(医療安全推進課 課長)
武居 哲洋さん(救命救急センター 集中治療部長) 谷 文恵さん(医療情報センター医療情報課 経営企画課 課長)
われる同病院の取り組みの進展について、
中核を担う9名のみなさまにお話を伺いました。
含め受け入れ困難例は2%程度でほぼ全員の患者を受け入れています。「横浜市の救急医療を変えた」
と言
2012年度の救急車受け入れ台数は11、
914台と全国でもトップレベルを維持しており、
軽症患者を
横浜市立みなと赤十字病院
横浜市が開設者、日本赤十字社が指定管理者となり
運営する公設民営病院。三方を海に囲まれた臨海地
区に位置し 36 診療科、634 床(一般 584、精神 50)
を有する。職員数 1,190 名、医師数 178 名、看護職
員 620 名(2013 年 4 月現在)
。急性期医療の地域中
核病院としての役割を担い、赤十字の博愛の精神の
もと、患者中心の良質な医療を提供し地域の健康増
進に貢献している。また救命救急センター(みなと
ER)
、小児救急医療拠点病院、地域がん診療連携拠点
病院、周産期母子医療センター等の指定を受け、先進
的な質の高い医療を推進している。
02
看護職賠償責任保険制度News vol.18
横浜市立みなと赤十字病院の救急
医 療は2 0 0 6 年、「救 急 車の要 請
を 断らない」ことを 基 本 理 念に、現
救 急 部 長と 集 中 治 療 部 長のたった2
人のチームから 始まりました。 時
間、質の高い救急医療・集中医療を
提 供する 体 制を 構 築するに至った7
年 余にわたる 取り 組みの経 緯、今 後
の 展 望 な どについて、救 命 救 急セン
ター 集 中 治 療 部 長 の 武 居 哲 洋 さ ん
にお話を伺いました。
救急車搬送患者数
8000
6000
4000
2000
(武居哲洋:東京医科歯科大学大学院 MMA10 周年記念「わが国の救急医療の現状と課題」講演資料 2013 より)
東京医科歯科大学医学部卒業。
東
京医科歯科大学大学院医学系研
究科
(麻酔蘇生科)
修了。
同大学院
修士課程医療政策学コース修了。
1993~95年国保旭中央病院レジ
デント、
1996年東京医科歯科大学
麻酔蘇生科、
2003年同大学救急
集中治療部、
2006年横浜市立み
なと赤十字病院集中治療部、
2008
年より現職。
医学博士、
医療政策学
修士。
60
2 0 0 9 年に救 命 救 急センターが開
設され、現 在は、後 期レジデントを 入
れる と 救 急 部 医 師 6 名 、 集 中 治 療 部
医 師 名の計 名の陣 容を整えるまで
になりました。救 急 搬 送の倍 増、医 師
数の急 増を背 景に救 急 医 療の質の担 保
にも取り組んできました。最近では
「こ
こで 働 き たい、ここで 勉 強 し たい」と
いう 医 師 やレジデントが集 まる よ うに
なってきました。
日本には救急医と集中治療医の区別
があまりなく、特にI C Uには医 師が
いないという ところ も あ り ま す。当 院
は、E R 型 救 急 方 式 を 取 り 入 れ、
E R 初 期 診 療 から 救 急 部 、 集 中 治 療
部、各 診 療 科への道 筋、重 症 患 者をだ
れがど う 診るかという 担 当 医の関 係を
整理してきました。
その一つが、I C Uの 管 理 方 法 と し
て考 案した「松」「竹」「梅」というメ
ニューの分類です。ICU管理について
は、国 際 的にも クローズドかオ ープン
かが 議 論 さ れているのですが、当 院 は
つくらなかった。救 急 車が断られる 理
スタッフも 最 初 は 戸 惑ったと 思いま
由は「多 忙」とか「専 門 医 不 在」とい
す。「何をやりだすんだ、
この人たちは。
う 非 常にあいまいな 理 由 なのです。例
救 急は断る ものでしょう」という 圧 力
えば頭と 足をけがしている 人がいます。
もありましたが、病院長の全面的なバッ
頭はぶつけただけ、意 識も 清 明だが足
クアップに助 けられました。医 師 よ り
は骨が折れているかもしれない、じゃあ、
看 護 師がすぐに慣れてくれ、路 上 生 活
整形外科病院に運ぼうと救急隊が電話
者 が来ても 表 情一つ変 え ず 身 体 を 洗い
をすると、「脳 外 科 医がいないのでやめ
処 置の準 備をしてくれるよ うになりま
てください。もし何かあったら困るので」
した。
となっていく。基 準 を 緩める と 綻 びが
I
C
U
管
理
方
法
は
生ずる。一つでも綻びをみせるとその体 「松」「竹」「梅」
メニューの
制はすぐ 滅びる。断る 理 由をつくらな
協働連携で
い、言い訳 を 生 ま ないために全 部 受 け
入れる。我々が絶 対 断らないことがわ
かると、救 急 隊のほうも、あの施 設は
ちゃんと 救 急をやるところだと 認 知し
てくれ、他で受 けられる ものは 他に回
し、断られた重 症 患 者を 当 院に連れて
くるようになりました(資料1)。
10000
患者数(人)
24
23
22
21
20
19
救命救急センター
集中治療部長
武居 哲洋 さん
「基準を緩めると綻びが生じ、
一つの綻びが滅びにつながる。
だから絶対断らない」
(資料 1)
武居 哲洋さん
集中治療部長
2 0 0 6 年にこちらに来ました。我々
はこの 病 院のミッションと して救 急 医
療の充 実があると 考えていましたので、
病院の理解を得て、基本方針として「断
らない救急」を掲げ、救命救急センター
開設をめざしました。救急部と集中治
療部のコラボレーションは当院の特徴で
すが、何しろ 当 初は医 師 2 人 体 制です
か ら、私 も 8 割 は 救 急 部、2 割 を
I C U 対 応に当てるところから 始めま
した。
当初の救急搬送の多くが路上生活者
の行 き 倒れ、アルコール依 存 症や 精 神
科 関 連の患 者さんでした。我々は土 地
勘もないため、壁に市内の地図を貼り、
どこの救 急 隊が来たか印 をつけていき
ましたが、すぐに市 内 全 域の 以 上の
隊が来 ました。我々は、断る 言い訳を
看護職賠償責任保険制度News vol.18
03
24
私 は 開 院 初 年 度に 救 急 部の 伊 藤
敏 孝 部 長 が 着 任 し た 後、2 年 目 の
12000
救命救急センター
年度(平成)
2.6
10.4 4.3
救急車要請断り率(%)
14000
18
17
0
(武居哲洋:東京医科歯科大学大学院 MMA10 周年記念「わが国の救急医療の現状と課題」講演資料 2013 より)
10
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