リトアニア共和国の口蹄疫の清浄性に関するリスク評価の

平 成 2 8 年 3 月
農林水産省消費・安全局
リトアニア共和国の口蹄疫の清浄性に関する
リスク評価の概要について
1 背景
(1)2013年8月、リトアニア家畜衛生当局から、同国における口蹄
疫、アフリカ豚コレラ、豚コレラの清浄性を認定し、豚肉等の輸
入を認めて欲しい旨要請があった。
(2)その後、質問票の送付等を通じ、同国における口蹄疫等の清浄
性評価を実施していたところ、2014年1月、同国においてアフリ
カ豚コレラが発生した。
(3)このため、リトアニア家畜衛生当局との協議により、評価の対
象とする品目を牛肉に変更し、リトアニアから牛肉の輸入を解禁
した場合の我が国への口蹄疫の侵入リスクについて、定性的な評
価を実施した。
2 リトアニアの家畜衛生体制等に関する情報
(1)地理的状況
リトアニアは西側でバルト海、北側でラトビア、東側でベラルー
シ、南側でポーランド及びロシア(飛び地)と陸地で接する、ヨー
ロッパの北東部に位置する共和制国家である(国土面積は日本の約
6分の1 )。なお、同国は、2004年から欧州連合(EU)に加盟して
いる。
(2)獣医組織体制
内閣直属の国家食品及び獣医サービス(SFVS)が家畜衛生行政を
担当しており、EU法規に基づき、家畜の管理、疾病の予防・防疫措
置及び輸出入検疫の関連法規並びに口蹄疫発生時の緊急対応計画を
策定している。SFVSの下部組織として、51ヶ所にSFVS地方支部が配
置されている。
(3)家畜の飼養状況
2015年の牛の飼養頭数は、約72万頭(約6万5千戸 )、豚の飼養頭
数は約60万頭(約2万8千戸)である。このうち、飼養頭数20頭以下
の牛農家が90%以上、飼養頭数100頭以下の豚農家が全体の99%以上
を占める。
リトアニアにおいては、裏庭経営を含む全農場・全家畜について
登録が義務づけられている。食肉の生産工程において、個体毎の登
録情報が記録されるため、最終製品から生産農場の追跡が可能とな
っている。
(4)食肉処理施設
リトアニアにおける食肉処理施設は、全てSFVS の 認 定 を 受 け る
必要があり、認定された施設は、定期的にSFVSの査察を受ける。国
内向け施設と輸出向け施設の区別はなく、全てのと畜場・食肉加工
場で輸出向け食肉の取扱いが可能である。これら施設は、家畜衛生
・食品衛生の観点から評価を受けるため、毎年、EU食品獣医局の査
察を受けている。
認定処理施設は268か所(と畜場73か所、加工場195か所)あり、
そのほとんどで複数の畜種が取り扱われている。と畜場における生
前・生後検査は、SFVSの認可を受けた公的獣医師が実施している。
(5)口蹄疫等の発生状況
リトアニアにおける口蹄疫の最終発生は1982年であり、1996年に
OIEによりワクチン非接種清浄国に認定されている。また、同国に
おいて口蹄疫に対するワクチン接種は禁止されている。
また、同国における豚コレラの最終発生は2011年である。
アフリカ豚コレラについては、2014年1月の発生以降、現在まで
飼養豚19件、イノシシ約180件で発生が確認されている。同病に対
しては、EU法規に基づき、県単位での豚等の移動制限区域の設置、
発生農場における豚の殺処分、農場の洗浄・消毒等の措置が講じら
れており、これまで、飼養豚における発生は、局所的かつ少数の発
生に留められている。なお、飼養豚における最終発生は、昨年10月
である。
(6)口蹄疫のサーベイランス体制
パッシブサーベイランスについて、口蹄疫は関連法規により通報
対象疾病に定められており、飼養者及び獣医師は、疑い事例を発見
した場合、SFVS地方支部又は認定民間獣医師に通報しなければなら
ない。通報を奨励するため、リトアニア政府により、疾病が発生し
た農家への補償金が積み立てられている。仮に、通報に遅れがあっ
た場合は、補償金の支払いはなされない。2015年は、牛農家につい
て、口蹄疫を疑う事例の通報はなかった。
アクティブサーベイランスについて、家畜及び狩猟されたイノシ
シ及びノロジカを対象に、一定の抽出率の下、実施されている。本
サーベイランスにより、2014年は、牛91検体、豚94検体、山羊・羊
38検体、野生動物354検体が検査に供された。
(7)口蹄疫発生時の防疫措置
EU法規に基づき、口蹄疫発生時には、発生農場における殺処分、
殺処分と体及び汚染物品の焼埋却、農場内の洗浄・消毒等の防疫措
置が行われる。疫学関連農場が特定された場合は、口蹄疫の検査に
供され、感染しているリスクが高いと判断される場合は、予防的殺
処分等の措置がとられる。また、発生農場周囲3km及び10kmの地域
をそれぞれ制限区域として設定し、動物及び感染を拡げる恐れのあ
る物品の移動制限、飼養状況調査、必要に応じた検査等が行われる。
(8)輸出入検疫
EU法規に基づき、リトアニアには、国境及び国際空港に、合わせ
て13ヶ所の国境検疫所(BIP)が設置されており、うち3ヶ所から
動物の輸入が可能となっている。
輸出検疫証明書の発行はSFVS地方支部が所管しており、証明書の
発行は、公的獣医師による輸出先国の検査要件、製造記録、検査室
検査の結果の精査等を経て行われる。
3 総合評価
(1)リトアニアの家畜衛生体制及び防疫対策について、組織・法制
度ともに口蹄疫の予防や発生時の防疫対応が可能な体制が整備さ
れている。
(2)リトアニアにおける口蹄疫の最終発生は1982年であり、1996年
にOIEによりワクチン非接種清浄国に認定されている。同国におい
て口蹄疫に対するワクチン接種は禁止されている。また、同病に
ついてサーベイランスが適切に実施されており、発生を迅速に摘
発できる体制が整っている。
(3)リトアニアにおいては、畜産物についてトレーサビリティ体制
が整備されており、畜産物の輸出に当たっては、家畜衛生当局の
監督のもと、輸出先国の要件を確認した上で、輸出検疫証明書が
発行可能となっている。
以上を踏まえると、リトアニアを口蹄疫の清浄国と認定し、同国
からの牛肉の輸入を認めても、同国からの牛肉を介して我が国に口
蹄疫が侵入するリスクは無視できると考えられる。
ただし、同国においては、2014年1月以降、局所的かつ少数の発
生であるものの、アフリカ豚コレラの発生が認められていることか
ら、交差汚染防止の観点から、我が国向け牛肉の生産施設は牛のみ
を取扱っており、処理施設においては、これらの生産施設に由来す
る牛肉のみが取り扱われていること等の条件を課す必要があると考
えられる。
(以上)