Petrobras を取り巻く厳しい環境 ~ブラジルの探鉱・開発の行方

更新日:2016/3/23(2016/3/24 訂正)
調査部:舩木弥和子
ブラジル:Petrobras を取り巻く厳しい環境 ~ブラジルの探鉱・開発の行方~
(Platt’s Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas 他)
●Petrobras は、2015 年 6 月に発表した 5 ヵ年計画 Business & Management Plan(BMP)2015-19 を 10 月
と 2016 年 1 月の 2 度にわたり修正した。5 年間の総投資額は 984 億ドル、開発・生産部門への投資額
は 800 億ドルに、生産目標も 2016 年が 214.5 万 b/d、2020 年が 270 万 b/d に引き下げられた。同社
は毎年、5 カ年計画の更新を行なっているが、年の途中で投資額や生産目標に変更が加えられるの
は異例なことである。
●Petrobras は 6 月発表の BMP で、2015~2016 年の 2 年間に 151 億ドルの資産売却を行うとしていた
が、2015 年以降資産売却が成立した案件は三井物産への Gaspetro 株式売却等ごくわずかである。売
却が進まない理由には、売却対象が非中核資産であることや原油価格の下落、売却方法等があると
考えられる。
●原油価格下落により、Petronbras はリグ数削減、船舶のチャーター契約キャンセル、掘削の停止等を
迫られている。また、同社の 2015 年第 4 四半期の業績は、原油安による資産評価損を計上したため、
純損益が 369 億レアル(102 億ドル)の赤字という結果になった。さらに、レアル安により、同社の負債総
額は 1,300 億ドル程度まで膨らんでいる。
●2016 年 1 月、同社は石油・ガス産業の新たな現実に対応するため、汚職スキャンダルによって失墜し
た信用の回復とコスト削減を主眼とする改革策を発表した。部門の統廃合や管理職の削減等により、
年間 18 億レアルの費用削減効果を期待しているという。
●Rousseff 大統領は Petrobras の救済を繰り返し否定してきたが、2016 年 1 月、原油価格の下落が続け
ば資本注入を排除しないことを表明した。探鉱・開発の停滞を懸念した政府は、ローカルコンテンツを
緩和する等インセンティブを発表している。さらに、議会では、プレソルト開発法改正法案が審議され
ている。
●Petrobras は繰り返し投資額を削減しており、今後、探鉱・開発が停滞していくと考えられるが、その結
果、Petrobrasが2020年に向け国内生産目標を達成できない可能性や、生産目標を頻繁に見直し、生
産目標未達成という事態を避ける可能性がある。ブラジル全体として考えた場合、Petrobras がプレソ
ルトを含む上流資産を売却し、これらの資産をメジャー等が取得すれば、中長期的にブラジルの生産
量が増加することもありうると考えられる。ただし、Petrobrasの汚職問題が拡大しており、政治の混乱が
Petrobras やブラジルの探鉱・開発に影響を及ぼすこともあると考えられ、動向を注視していきたい。
1.Petrobras の状況及び対応
Petrobras は、2015 年 2 月に Bendine CEO をはじめとする新たな経営陣を迎え、4 月に発表できてい
なかった 2014 年の監査済みの決算を発表、5 ヵ年計画 Business & Management Plan(BMP)2015-19 を
6 月末に公表し、再建に向けて動き出したように見えた。しかし、レアル安の為替で負債がさらに増加し
-1Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
たり、同社が投資額を削減し資産売却で資金を調達し立て直しを図ろうとしていることに対し、労
働組合がストライキを行ったり、Ferreira 経営評議会議長が辞任したりする等(参考「ブラジル:第 13 次
と最近の Petrobras をめぐる状況」)、その後も厳しい状況が続いている。
(1)投資額、生産目標の引き下げ
10 月 5 日、Petrobras は、2015 年の投資総額を 6 月に発表した 5 カ年計画の 280 億ドルから 11.0%
削減し 250 億ドルに、2016 年の投資総額を 6 月発表の 270 億ドルから 30%削減し 190 億ドルに下方修
正すると発表した。急激なレアル安と原油価格の低迷により、Petrobras は投資計画の見直しを余儀なく
されたという。
さらに、2016 年 1 月 12 日、Petrobras は 2015~2019 年の 5 年間の投資額を 6 月発表の 1,303 億ド
ルから 984 億ドルに引き下げるとした。部門別では、開発・生産部門への投資額が 1,086 億ドルから 800
億ドル、配給部門への投資額が 128 億ドルから 109 億ドル、ガス・エネルギー部門への投資額が 63 億
ドルから 54 億ドルにそれぞれ削減された。また、2015 年の投資額は 10 月に予定されていた 250 億ド
ルよりもさらに 20 億ドル少ない 230 億ドルとなった。一方、2016 年の投資額については、10 月発表の
190 億ドルを 200 億ドルに引き上げるとした。
10 月の投資額削減に際しては、生産目標の見直しは行なわれなかったが、Petrobras は 1 月には投
資額削減に伴い 2016 年の生産目標を 218.5 万 b/d から 214.5 万 b/d に、2020 年の生産目標を 280 万
b/d から 270 万 b/d に引き下げると発表した。
同社は毎年、5 カ年計画の更新を行なっており、これまでは新しい 5 カ年計画の発表が遅れることは
あっても、年の途中で投資額や生産目標に変更が加えられることはなかった。5 カ年計画に 2 回も変更
が加えられるのは異例ということができる。
次の 5 ヵ年計画 BMP2016-20 についても、Petrobras は 2016 年初には、2 月に発表する予定としてい
たが、油価低迷を理由に 3 月、4 月、2016 年中ごろと発表時期を遅らせている。投資額はさらに削減さ
れ 800 億ドル程度になるのではないかと懸念する向きもある。また、BMP2016-20 発表時に、Petrobras
がコスト削減のため従業員の 15%にあたる 12,000 人を削減するとの報道もある。
-2Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
表 1.Business & Management Plan2014-18 と 2015-19 の比較
BMP
2014-18
2015-19
発表日
14/2/26
15/6/29
15/10/5
16/1/12
総額
2206
1303
―
984
投資額(億$)
2015
2016
―
―
280
270
250
190
230*
200
ブラジル国内生産目標(万 b/d)
2015
2016
2017
2020
―
―
―
420
212.5 218.5 230
280
212.5 218.5 230
280
212.8* 214.5 ―
270
(Petrobras ホームページ等より作成 *実績)
図 1.Petrobras 5 カ年計画投資額推移
(Petrobras ホームページ等より作成)
(2)資産売却
Petrobras は 6 月発表の BMP で、2015~2016 年の 2 年間に 151 億ドルの資産売却を行い、資金を
調達するとしていたが、10月の投資額削減の発表の中で、151億ドルの資産売却のうち7億ドルを2015
年に、144 億ドルを 2016 年に行なうとした。
Petrobrasはこのように大規模な資産売却を計画しているが、2015年以降資産売却が成立した案件は
三井物産への Gaspetro 株式売却等ごくわずかとなっている。売却が進まない理由には、売却対象が非
中核資産であることや原油価格が下落したことで売却価格について合意が難しいこと等があるとみられ
ている。さらに、Petrobras が資産を売却する相手企業を選別したり、上流資産をパッケージ化して売却
したいと考えているとも伝えられており、スムーズに資産売却が進まない背景には同社の売却方法にも
問題があるのではないかと考えられる。
-3Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
とはいっても、Bendine CEO の、資産売却目標を達成できなければ、2016 年に 190 億ドルの投資を
行ないながら、1,300 億ドル以上の負債を返済することはできないとの発言からも、同社はなんとしても
資産売却を進めなければならない状況にあると考えられる。2015 年中ごろ以降、資産売却に関する報
道が減っていたが、2015 年末からは再び資産売却の動きが窺われるようになってきた。
2015 年 12 月には、Petrobras が Santos 盆地プレソルトの Carcará 油田の権益の一部や Libra 油田の
権益の 10%を売却することを検討しているとの報道があった。Libra 油田については、Petrobras から現
時点で同油田の権益売却は検討していないとのコメントがあったが、プレソルトの鉱区も売却対象とさ
れるようになったと考えられる。
2016 年 1 月には、Petrobras が、石化部門の子会社 Braskem の株式 36%を 14 億ドルで売却すること
を計画し、Banco Bradesco BBL に売却を依頼したとの報道があった。
2 月になると、Petrobras が、天然ガス輸送部門子会社 Nova Transportadora の 売却について交渉を
開始、Brookfield Asset Management、CNPC、Canadian Pension Plan Investment が買収するのではない
か、売却額は 50~60 億ドルとなる模様との見方が報じられた。
アルゼンチンで探鉱・開発、精製、輸送石化、発電を手がけている子会社Petrobras Argentinaの売却
については、Petrobras が YPF やアルゼンチン企業 CGC 等からの買収提案を退けたと伝えられていた
が、3 月に Petrobras Argentina 売却についてはアルゼンチン企業Pampa Energia と交渉を行なっている
と報じられた。Pampa Energia は電力事業を柱としているが、子会社 Petrolera Pampa を通し Petrobras や
Apache と探鉱・開発を行なっており、YPF と Vaca Muerta シェールの開発にもあたっている。Petrobras
Argentina の主要資産は El Mangrullo 鉱区及び Río Neuquén 鉱区である。El Mangrullo 鉱区では Agrio
ガス田が生産中、Río Neuquén 鉱区では 6 億ドルを投じ Punta Rosada formation を開発しており、2017
年にピーク生産に達する見通しとされている。
また、同社は 2016 年中にブラジル陸上鉱区権益を売却することを計画しており、すでに経営評議会
で陸上鉱区権益売却について承認を得たという。対象となる鉱区は Ceará 州、Rio Grande do Norte 州、
Sergipe 州、Bahia 州、Espírito Santo 州の生産中の 98 コンセッションと Espírito Santo 州の探鉱中の 6 コ
ンセッションとなっている。生産量は合計で 3.5 万 b/d であるという。
2016 年初には、Monteiro CFO が、原油価格は低いものの Petrobras は 2016 年末までに 151 億ドル
の資産を売却できる自信があると語っており、行方が注目される。
-4Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
表 2.Petrobras が権益売却を予定している生産中のブラジル陸上油田
州
Ceará
Rio Grande do Norte
Sergipe
Bahia
Espírito Santo
油田
Fazenda Belém
Riacho da Forquilha
Macau
Siririzinho/Riachuelo
Buracica
Miranga
São Mateus
Fazenda São Jorge/Cancã/Fazenda Cedro
Lagoa Parda
Gás
コンセッション数
2
34
4
12
7
9
14
9
3
4
(各種資料より作成)
(3)原油価格低迷とレアル安の影響
5 カ年計画の投資額を削減するにあたって、探鉱・開発部門の投資削減幅は他分野に比べ少なくす
るとされていたが、原油価格下落及び低迷により、2015年中ごろ以降、Petrobrasがリグ数を削減したり、
船舶のチャーター契約をキャンセルしたりているとの報道が現れるようになった。
1 月には Petrobras が、生産量が 1,000~1.6 万b/d の油田の処遇に困っていると地元紙が報道した。
Petrobras は生産量の 9 割を生産量の多い 20 油田で生産しており、権益を保有する油田の 8 割の生産
量は 1,000~1.6 万 b/d であるという。油田によっては操業をすることで赤字となるが、鉱区を返還すれ
ば契約不履行で違約金を支払わなくてはならない1。
さらに、2 月には、Petrobras は低油価を受けて、Espirito Santo、Bahia、Sergipe、Alagoas、Rio Grande
do Norte、Ceara 各州の陸上鉱区での掘削作業を中止したという。
また、ブラジル国家石油庁(ANP)及び Society of Petroleum Engineers によると、原油価格下落により、
2015 年末の Petrobras の確認埋蔵量は 2014 年末の 166.12 億 boe から 20%減少し 132.79 億 boe となっ
た。
このように原油価格下落で探鉱・開発に影響が出ている Petrobras であるが、レアル安の影響も大き
い。同社の債務の大部分がドル建てであるため、レアルが下落すると借り入れコストが上昇してしまう。
2015 年 9 月末時点の負債総額は 5,065 億レアル(1,360.9 億ドル)と、2014 年末から 44%増加した。
2016 年 3 月 21 日に発表された同社の 2015 年第 4 四半期の業績は、原油安による資産評価損を計
上したため、純損益が 369 億レアル(102 億ドル)の赤字という結果になった。
Petrobras は 2015 年 6 月の 5 カ年計画 BMP で発表した Brent の価格と為替レートの見通しを、10
-5Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
月及び 2016 年 1 月の 5 カ年計画見直しで下表の通り修正していることからも、同社が長引く油価低迷と
急激なレアル安を読みきれず、悪戦苦闘していることがうかがわれる。
表 3.Business & Management Plan 推定の Brent 価格と為替レート
BMP
発表日
2014-18
2015-19
2014/2/26
2015/6/29
2015/10/5
2016/1/12
Brent 価格
為替レート
2015
2016
2015
2016
$100/b
R1.92/$
$60/b $70/b R3.10/$ R3.26/$
$54/b $55/b R3.28/$ R3.80/$
―
$45/b
―
R4.06/$
(Petrobras ホームページ等より作成)
(4)改革策発表
Petrobras の Aldemir Bendine CEO は 1 月28 日、石油・ガス産業の新たな現実に対応するため、汚職
スキャンダルによって失墜した信用の回復とコスト削減を主眼とする新たな改革策を発表した。27 日の
経営理事会で承認されたもので、主な内容は以下の通りである。
●senior management を 54 人から 41 人に削減する。
●部門の統廃合を行い、部門数を従来の 7 から 6 に削減する。
●生産現場を除く管理部門などの管理職を少なくとも 3 割削減する。現在、管理職ポストは 7,500 あるが、
このうち 5,300 は非操業部門で、この 30%にあたる約 1,600 人を削減する。
●収益性の高い分野に注力する。
●意思決定を監視するため6つのStatutory Technical Committeeを設置し、同委員会が問題ありと判断
する場合はその案件を経営評議会に上げる。同委員会は、CVM(証券監視委員会)の監督を受ける。
Petrobras によると、この改革策による費用削減効果は年間 18 億レアル(約 4 億 4200 万ドル)とされて
いる。
なお、BendineCEO は改革策発表時に、今後政治家の影響を受けた管理職の任命は行わないと発
言した。
2.ブラジル政府の状況及び対応
(1)政府、Petrobras 救済を検討
レアル安により債務が膨らみ、Petrobras の銀行、債券保有者、その他に対する債務は約 1,300 億ド
ルに上っている。しかし、汚職問題等による企業イメージ悪化で資金調達が困難で、資産売却も進まな
1
ニッケイ新聞 2016/1/27
-6-
Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
いため、同社にとって債務を返済していくことは非常に難しくなっていると考えられる。
Rousseff 大統領は Petrobras の救済を繰り返し否定してきた。Nelson Barbosa 蔵相も 2015 年 12 月 22
日に、Petrobras は 2016 年から回復すると断言し、政府による Petrobras への資本注入は行わないと言
明した。
しかし、2016 年 1 月になると、Rousseff 大統領が、原油価格の下落が続けば資本注入を排除しないこ
とを表明、2月には、ブラジル国営銀行3行(国立経済社会開発銀行(BNDES)、ブラジル銀行、連邦貯蓄
銀行)が Petrobras 向け融資の一部、あるいは全額を株式に交換する案を検討しているとの報道があっ
た。政府の経済チームのメンバーは、政府がその他の案と併せて債務・株式交換を検討していることを
確認したが、他の案についての詳述は明らかにされなかった2。
(2)探鉱・開発促進策導入
Petrobras による探鉱・開発投資が減少する中、原油価格下落により他の石油会社の探鉱・開発も停
滞することを懸念してか、2016 年に入り政府は Petrobras 及びその他の石油会社による探鉱・開発を促
進するための政策を相次いで導入した。
1 月18 日、Rousseff 大統領は石油・ガス産業に対するローカルコンテンツを緩和する大統領令を官報
に掲載した。ローカルコンテンツの規制は、新たなローカルサプライヤーを創設できる場合等に課すと
の内容である。ブラジルではこれまで、探鉱段階で 37~80%、開発段階で 55~85%のローカルコンテン
ツが求められていた。
翌 19 日には、政府が石油部門に新たなインセンティブを導入することを計画していることが明らかに
された。3 月 8 日に発表された主な内容は以下の通りである。
●Round0 で Petrobras に付与されたコンセッションについて契約期間の延長を認める。
●ANP は生産を行なっていない油田(コンセッション)の契約終了、第 3 者への権益移転手続きを開始
できる。
●鉱山エネルギー省はユニタイゼーションのスタディを実施する。
政府は1月22日には、原油価格がUS$50/b以下の間はロイヤリティの引き上げを行なわないとした。
これは、ANPがロイヤリティの計算方法の変更を提案したことに対するもの。ANPの提案は、ブラジルの
石油生産量の 87%を占める 20 の大規模油田のロイヤリティを 2015 年比 7%引き上げるというもので、政
府の沖合油田からの歳入は増加するが、Petrobras 等石油会社にとっては負担が増える内容であった。
これにより、油価下落で歳入が減少している連邦政府、州政府の歳入を年間 2.5 億ドル増加させること
ができると目論まれていた。政府はロイヤリティの計算方法を変更しないとし、石油会社への負担増を
2
Reuters2016/2/17
-7-
Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
阻止した。
(3)プレソルト開発法改正へ向けての動き
上院は 1 月 24 日、プレソルト開発法改正法案を承認した。2010 年に制定されたプレソルト開発法で
は、プレソルトの新規鉱区については、Petrobras がオペレーターを務め、権益の最低30%を保有するこ
とが定められていたが、今回承認された法案では、Petrobras は国家エネルギー政策審議会(CNPE)か
ら通達を受けた後、30 日以内に、該当する鉱区の探鉱・開発に参加するか否かを選択する権利を与え
られるものの、参加義務はない。同法案は現在、下院の特別委員会で審議を行なっている。
同法案はもともと PSDB の José Serra 上院議員により 2015 年 3 月に提案されたもの。同法案が成立
すれば、Petrobras はプレソルトの全ての新規鉱区に参入する義務から免れ、会社再建に専念できるが、
再建後、資金面で余裕ができれば、プレソルトの全ての新規鉱区に参入可能となる。また、Petrobras の
経営が苦しいためにプレソルトの油田開発が停滞することを避けることもできる。
終わりに ~ブラジルの探鉱・開発の見通し~
Petrobras は投資額削減、原油価格下落、過去20 年間で最悪のストライキにもかかわらず、2015 年は
ブラジル国内で 212.8 万 b/d を生産、石油生産目標 212.5 万 b/d を達成した。2015 年の石油生産量は
2014 年の 203.4 万 b/d を 4.6%上回り、現在の状況から鑑みて好調な生産増であったと考えられる。
2016 年について、Petrobras はプレソルトで 4 基の生産設備の生産を開始する計画で、2 月には、
Lula Alto 油田の FPSO Cidade de Marica(生産能力:石油 15 万 b/d、ガス 6MMcm/d)の生産が開始さ
れた。2016 年中ごろまでには Lula Central 油田の FPSO Cidade de Saquarema が設置される予定で、
下半期には Lapa 油田の FPSO Cidade de Caraguatatuba が生産を開始、Libra 油田の長期生産テストも
開始される予定である。ガスについても、Santos Basin と Macae に位置する Cabiunas の処理ステーショ
ン間をつなぐブラジル最長の海底パイプライン Route 2 ガスパイプライン(全長 401km、送ガス能力 13
MMcm/d) が 2 月12 日に開通し、生産増が期待されている。当初、これらの生産設備の生産開始により
Petrobras は生産量を 218.5 万 b/d に引き上げる計画であるとしていたが、1 月の投資額見直しとあわせ
て、同社は生産目標を 214.5 万b/d に引き下げた。このように Petrobras は近年、確実に達成できる生産
目標を掲げる傾向にある。
先述したとおり Petrobras は投資額の削減を繰り返しており、今後、探鉱・開発が停滞していくと考えら
れるが、その結果、Petrobras が 2020 年に向け国内生産目標を達成できない可能性や、生産目標を頻
繁に見直し、生産目標未達成という事態を避ける可能性がある。
ブラジル全体として考えた場合、Petrobras がプレソルトを含む上流資産を売却し、これらの資産をメ
-8Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
ジャー等が取得すれば、中長期的にブラジルの生産量が増加することもありうると考えられる。
ただし、Petrobras の汚職問題が拡大し、Rousseff 大統領や Lula 前大統領にも疑惑がかけられており、
政治的混乱が Petrobrasa やブラジルの探鉱・開発に影響を及ぼすこともあると考えられ、動向を注視し
ていきたい。
以 上
-9Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」
)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。