サービス・ドミナント・ロジック ~製造業の適応可能性~

サービス・ドミナント・ロジック
~製造業の適応可能性~
指導教員 水越康介
学修番号 08159053
氏名 生出 壮
枚数 22
Ⅰ は じ め に ................................................................................................................ 2
Ⅱ サ ー ビ ス の 定 義 ..................................................................................................... 2
Ⅱ -1 サ ー ビ ス の 定 義 ............................................................................................. 2
Ⅱ -2 サ ー ビ ス 構 成 要 素 ......................................................................................... 3
Ⅱ -3 製 造 業 企 業 製 品 サ ー ビ ス が 商 品 と し て 存 在 す る 為 の 顧 客 と の マ ッ チ ン
グ ................................................................................................................................ 4
Ⅲ 「 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク 」 に お け る 先 行 研 究 .............................. 5
Ⅲ -1 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク と は ...................................................... 5
Ⅲ -3 「 価 値 共 創 」 の 先 行 研 究 ................................................................................ 7
Ⅲ -4 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク に お け る 価 値 共 創 ................................. 9
Ⅲ -5 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク に お け る 価 値 共 創 概 念 の 課 題 ........... 10
Ⅳ サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク と 従 来 マ ー ケ テ ィ ン グ と の 比 較 ............... 10
Ⅳ -1 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク と は ...................................................... 10
Ⅳ -2 従 来 の 「 モ ノ 」 と 「 サ ー ビ ス 」 の 違 い .................................................... 11
Ⅴ サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク 批 判 的 見 解 ................................................ 14
Ⅵ サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク と リ レ ー シ ョ ン シ ッ プ マ ー ケ テ ィ ン グ ... 15
Ⅵ -1 リ レ ー シ ョ ン シ ョ ッ プ 思 考 の 変 遷 ............................................................ 15
Ⅵ -2 リ レ ー シ ョ ン シ ッ プ と サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク の 接 点 ......... 16
Ⅵ -3 リ レ ー シ ョ ン シ ッ プ 上 の 課 題 ...................................................................... 16
Ⅶ 製 造 業 に お け る サ ー ビ ス 概 念 適 用 へ ................................................................. 17
Ⅶ -1
製 造 業 に お け る サ ー ビ ス 概 念 の 適 用 性 .................................................... 17
Ⅶ -2 製 造 業 の サ ー ビ ス 融 合 の 可 能 性 と 難 し さ ................................................ 19
Ⅷ 終 わ り に .............................................................................................................. 20
Ⅷ -1 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク 概 念 の 構 造 ......................................... 20
Ⅷ -2 終 わ り に ....................................................................................................... 20
参 考 文 献 ...................................................................................................................... 22
1
Ⅰ はじめに
日本国内における製造業市場の飽和状態ゆえ、また、多くの市場においては長年寡占状
態が継続しているため、近年急速にグローバル化が謳われ、求められてきている。逆の視
点で考えると、今後国内市場で各企業がどのポイントで他企業・他業種と差別化・差異化
を図っていくかで、市場動向が変化していくのではないだろうか。その中で、現在マーケ
ティング業界で最大の注目を浴びているのが「サービス」という概念である。近年、製品
自体の特徴は違うにせよ、消費者の潜在・顕在ニーズを満たす企業間での大きな技術レベ
ルの差を感じることが少なくなってきた。言い換えれば、余程大きな技術革新がない限り、
消費者動向が変化しない環境になってきているということである。もし、新技術開発に成
功したとしても、市場自体の技術力底上げによって他企業がすぐに模倣することが可能な
ことが多く、模倣企業が低価格で市場投入することで、逆転現象を巻き起こすことも少な
くない。そこで、「サービス」という目に見えない付加価値が注目を浴びているのである。
なぜなら、市場が飽和状態であるため、新規顧客獲得はもちろんのこと、各企業は顧客維
持を優先的に考えるようになったからではないだろうか。
上記を受けて、ここ数年マーケティング業界で注目されている「サービス・ドミナント・
ロジック」という、サービスが独占的な立場をとる理論に着目し、実際に当理論が成立し
得るか、また、実用性があるものなのかを考察していく。
当論文では、まず、Ⅱ章・Ⅲ章でサービスの定義付けに始まり、それを踏まえて、「サー
ビス・ドミナント・ロジック」がどのような理論なのか、また、その根底を支える「価値
共創」という概念がどのようなものなのかをⅣ章で具体的に考察をする。更に、従来のマ
ーケティング研究との比較の中で、当理論の新しさや革新性を考えていく。併せてⅤ章で
批判的見解にも目を向けることで、理論としての問題点を浮き彫りにし、論理性の向上を
検討する。また、サービス・ドミナント・ロジックが主軸としている「価値共創」概念の
根本に存在する消費者とのリレーションシップについて、Ⅵ章で考察を加える。サービス・
ドミナント・ロジックとリレーションシップ・マーケティングの関係性を言及することで、
当理論の実行可能性・有効性を考えていく。その後、先の理論分析を下に、Ⅶ章で製造業
企業において、理論の実行可能性を考察し、当理論の価値を見出していく。以上のような
流れで論証を進め、今後の製造業企業が当理論によって生き残る道を見出せるのかを確認
する。
Ⅱ サービスの定義
Ⅱ -1 サ ー ビ ス の 定 義
一言にサービスと言っても、様々な解釈が出来るであろう。例えば、「我々の心身の直接
有効的な効果をもたらす活動」、「所有する物財やお金に対する付加価値活動」、「売買した
後にモノが残らず、効用や満足などを提供する、形のない財のことである」など、
2
様々である。そこで、ここでは、近藤(2010)を引用して以下のように定義する。また、
今回はサービスの提供側と受け手の顧客側の両立場から定義しよう(近藤(2010)pp.50.51)。
また、ここでは、極力コアな部分だけを定義とすることで、サービスという概念の理解を
簡略化したいと思う。
・「個人や組織にとって何らかのベネフィットをもたらす活動そのものが、市場取引の対象
となるときに商品としてのサービスになる」(提供側)。
・「サービスとは、サービス活動の対象が顧客所有物でなく、顧客自身である場合、サービ
スとは体験である」(顧客側)。
すなわち、この意味は、提供するサービスは、消費者が何らかの価値を見出さない限り
意味をなさないということであり、受け手側にとって、所有物が対称な場合(機械のメン
テナンス等)は所有物のベネフィットを得るが、対象が顧客自身(人間)の場合は、「ディ
ズニーランドで様々なアトラクションを乗った」や「ポップコーンを食べた」などの体験
としての記憶のベネフィットである。
Ⅱ -2 サ ー ビ ス 構 成 要 素
上記の定義の下、近藤は、ラスト・オリバーの定義を引用して、サービス・クォリティ
を分析している。サービス・クォリティとは、モノとサービスの組み合わせで提供される
トータルな商品を構成する要素をまとめたものであり、それは、顧客が購入する商品(モ
ノ製品であれ、サービスであれ)の大部分は四つの側面を持つとしているとしている。(近
藤(2010)pp.78-83)
1.サービスプロダクト
2.サービス環境
3.サービスデリバリー
4・モノプロダクト
上記の 4 つは、顧客満足度の構成要素とも認識できる。しかし、注意すべき点は、この
構成要素は商品次第で割合に変動をもたらすという事である。では、具体的に各々の側面
を見てみる。
1.サービスプロダクトとは、サービス提供前の計画段階の事である。つまり、当サービ
スが顧客にどのような効用・効果をもたらすかという事を示すものである。サービスプロ
ダクトはとても重要で、未知数であるにも関わらず、顧客の購買意欲を刺激するからであ
る。
2.サービス環境とは、文字通りサービス活動が行われる場の条件である。例えば、映画
館におけるシートや清潔感、ディズニーランドで周囲を木々で囲み外界の世界が見えない
ような環境づくりのことをいう。モノ製品においても、販売スペースや小売店の立地条件
などが含まれる。
3.サービスデリバリーとは、顧客が実際に体験するサービス活動の流れである。サービ
3
スデリバリーは、顧客のサービス体験後の行動(再購入・口コミ、離脱)に大きな影響を
与えるため、最も重要である場合もある。特に近年はバズマーケティングの流行が見られ
るため、重要視される。
4.モノプロダクトとは、顧客に渡される物的な要素である。モノ製品であるならば、商
品自体がモノプロダクトに当てはまるが、そればかりではなく、付録やホテルなどのアメ
ニティグッズもモノプロダクトに含まれる。
このような構成要素を明確化することで、顧客に与える効果の最大化を図ることが大切
である。
Ⅱ -3 製 造 業 企 業 製 品 サ ー ビ ス が 商 品 と し て 存 在 す る 為 の 顧 客 と の マ ッ チ ン グ
上記の構成要素を基に、近藤(2010)は製造業のサービスにおいて以下のように言及し
ている。「今日、製造業企業は自社製品にどのようなサービスを付加して、市場全体との差
異化を施した商品提供するかという課題に腐心している。いかなる製品も、その最終消費
者である顧客との間の 3 つのマッチング(対応活動)が計られ提供されない限り、顧客に
製品の使用価値は与えられない。このマッチング活動の中に、製造業が提供できる新しい
サービス商品の可能性が存在する。」(近藤(2010)p.83)。上記のマッチングとは以下の 3
つである。
1.製品機能と顧客ニーズとのマッチング
2.製品の使用できる状態と顧客とのマッチング
3.製品と顧客の使用能力・方法とのマッチング 一つ一つ具体的に近藤(2010)を参考に見てみようと思う。
「製品機能と顧客ニーズとのマッチング」において、従来は市場に対して企業側がニー
ズを推測し、製品の製造・販売するプロダクト・アウト方式が主流だったが、今日は逆転
の現象が起きていて、顧客のニーズを把握してから製品を作るマーケット・インの発想が
重要視されてきている。この考えの下、最も理想とされる、顧客個々人のニーズを形に変
えるワン・トゥ・ワン・マーケティングの考えが求められるようになってきている。近年
では、外部化しているサービスの内在化に尽力している企業も見受けられる。具体例をあ
げるとフィルターの掃除を自ら行うルームエアコンなどがあげられる。つまり、メンテナ
ンスという外部サービスを内在化したことになる。以上のように、顧客ニーズを製品機能
として取り込むことで、飽和状態に近づきつつある市場の中で差異化・差別化を図ってい
る。この点においても、製造業におけるサービス・ドミナントが垣間見えてくる。
「製品の使用できる状態と顧客とのマッチング」というのは、全ての製品は、顧客がそ
れを利用できる状態でなければ、顧客価値を創造し得ないということである。先に挙げた
ルームエアコンを例にとると、顧客が製品を購入したとしても、設置場所への配送、セッ
トアップ、メンテナンス等のサービスがなければ、消費者は費用対効果を得られずにいる
といことになる。これから分かるように、一つの製品においてあらゆるサービスという付
4
加価値をつけることなくして、現状の市場を勝ち抜いていくことは厳しいと考えられる。
つまり、製品だけでなく、生産から物流、顧客へのアフターケアまでのトータルコーディ
ネイトが製造業に求められているのではないだろうか。また、小売の観点からも在庫とい
う面でのマッチングが考えられる。販売の時点で小売店において在庫切れがあっては、顧
客は製品を購入すること自体不可能となる。したがって、適正な在庫を持ち、顧客が必要
な時に必要な分だけの在庫保持もまた、重要なサービスとなり得るのではないだろうか。
「顧客の使用能力や使用方法とその製品とのマッチング」というのは、文字通りに製品
機能を顧客がどれだけ使用・活用出来るか、顧客ニーズに対して、その機能や使用方法は
効果的で適切なものなのかという事である。今日、家庭レベルの製品においても飛躍的に
性能が向上し、便利になる一方で、複雑化し、顧客を困惑させる危険性もある。それ故、
顧客に小難しいマニュアルを読み、勉強することを強いる可能性が出てくる。したがって、
製造業においても、顧客の不都合を解消するようなサービスもまた、市場内における大き
な差別化の要素になり得る。以上のように製造業企業製品のサービス商品化が近年注目さ
れている。そのような、モノ製品をサービス製品と一体化させる考え方が「サービス・ド
ミナント・ロジック」である。次節で先行研究を交えて、当論理の存在意義を考察してい
く。
Ⅲ 「サービス・ドミナント・ロジック」における先行研究
Ⅲ -1 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク と は
サービス・ドミナント・ロジックとは、2004 年に Stephen L. Vargo と Robert F. Lusch
によって提唱された、企業が消費者(顧客)に対して提供しているモノが何かについて、
新たな視点を示した理論である。
サービス研究当初、マーケティングの一分野として、モノとの差異を明確にし、サービ
ス固有の特性を把握することを出発点として発展したが、近年は、モノかサービスかを二
元論的に論じることをせず、両者を包括的に捉えようとするロジックである。
その基本的前提とされている 10 の前提が示されている。それは、以下のようなものであ
る。
図表 1-1
前提 1
サービスが交換の基本的基盤である。
前提 2
間接的な交換は交換の基本的基盤を見えなくする。
前提 3
財はサービス供給のための流通手段である。
前提 4
オペラント資源は競争優位の基本的源泉である。
前提 5
全ての経済はサービス経済である。
前提 6
顧客は常に価値の共創者である。
前提 7
企業は価値を提供することは出来ず、価値提案しか出来ない。
前提 8
サービス中心の考え方は元来顧客志向的であり関係的である。
5
前提 9
すべての社会的行為者と経済的行為者が資源統合者である。
前提 10
価値は受益者によって常に独自に現象学的に判断される。
(出所)井上(2010)p.19 を基に著者が作成
これを少し噛み砕いて検討する。その結果は、図表 1-2 を参照して欲しい。
図表 1-2
前提 1
サービス・ドミナント・ロジックで定義される「サービス」、すなわち、企
業側も消費者側もオペラント資源(ナレッジとスキル)の提供・受益によ
って、交換が成り立つ。
前提 2
財・貨幣・機関の複雑な組み合わせを通じてサービスが提供されることで、
サービスが交換の基盤であることを覆い隠してしまう。
前提 3
財(耐久財・非耐久財の双方)は、使用通してそれ自体の価値、つまり提
供するサービスを引き出す。
前提 4
消費者ニーズに対して望ましい変化を生み出せる相対的能力は、競争を駆
動する。
前提 5
サービス(単数形)は、近年になり、専門化の拡大やアウトソーシングと
いうかたちで目に見えるものとなってきている。
前提 6
これは、価値というものが、企業と消費者(顧客)との相互作用で創造さ
れることを意味しているということである。
前提 7
企業は自社の適応した資源を提供することができ、さらに協力して(相互
作用的に)、受け入れられるような価値を創造することが出来る。しかし、
単独で価値を創造したり伝達することはできない。なぜなら、消費者によ
る価値判断が必須条件だからである。
前提 8
サービスは顧客の意思決定に基づき共創されるものである。このように、
サービスは元来顧客志向的であり、関係的である。
前提 9
価値共創の文脈がネットワーク(資源統合者)のネットワークであること
を意味する。
前提 10
価値は、個別的で、経験的で、文脈依存的で、意味内包的である。
(出所)井上(2010)p.20 を基に著者が作成
要するに、この理論前提において最も重要な点は、前提 4・6・7・8・9・10 からわかる
ように、企業と消費者が単なる需給関係にあるのではなく、むしろ、消費者もサービス提
供者になりうるということである。
さらに、この前提の中で井上が大事にしているのが、前提 1 の「サービスが交換の基本
的基盤である」だ。なぜなら、上記にあるように企業側も消費者側もオペラント資源(ナ
レッジとスキル)の提供・受益によって、交換が成り立つからである。この前提こそが当
6
理論の根幹を支えるものである。実際に企業と消費者がどのような関係性を持って「価値」
生み出しているのかがとても重要になってくるのである。したがって、サービス・ドミナ
ント・ロジックにおいて最も重要なキーワードは、企業と消費者の「価値共創」なのであ
る。次章では、当理論における「価値共創」について、詳しく検討する。
Ⅲ -2 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク と 価 値 共 創 フ レ ー ム ワ ー ク
サービス・ドミナント・ロジックのメインテーマは「価値共創」である。「価値共創」を
言葉のまま解釈すれば、共に協力して価値を創造することであると解釈出来る。この概念
は、従来で主にサービス・マーケティングや新製品開発の議論において主張されてきたも
のであり、あえてサービス・ドミナント・ロジックという名の下に、新たに持ち出すほど
新鮮味が伝わらない。そこで、この節では「価値共創」というものの考え方から、サービ
ス・ドミナント・ロジックの新しさを検証していきたいと思う。
Ⅲ -3 「 価 値 共 創 」 の 先 行 研 究
価値共創とは、一般的に企業と消費者が協力しながら、価値を創造することである。つ
まり、企業の価値共創プロセスの中に消費者が介入し、共に新たなもの生み出していくこ
とである。商品企画の段階から消費者の声を聞くこともこれに当てはまるし、逆にクレー
ムとして改善点を挙げることも該当するだろう。また、サービス・マーケティングにおい
ては、サービスの無形性や同時性に着目した「価値共創」が行われているとされている。
例えば、スーパーで消費者が自ら店内を回り、欲しい商品を手に取り、レジまで運ぶセル
フサービスシステムを採用しているところが多い。これも一種の「価値共創」である。消
費者が従業員の代替を行う事で、スーパー(企業側)の費用対効果を高め、生産性を上げ
ているのも事実である反面、顧客側にとっても、自分自身の手や目で商品を選定すること
も出来るし、商品を追加するにも毎回店員を呼ぶ手間が省けるメリットも生まれる。上記
のように顧客がサービスの提供者と消費者を同時にこなすことを当然のこととすると、企
業経営においてとても重要な意味を持つこととなり、企業側にとっても顧客参加のサービ
スプロダクトを入念に検討する必要性が生まれてくる。なぜなら、企業の運営面で重要な
影響を持つことになるからである。以上のようにスーパーを具体例に顧客参加というもの
を見てきたが、ここで大藪は Norman による顧客参加分類を引用して、より詳細に顧客参
加の種類を説明している。
大藪(2010)によると、まず「機能」と「様態」という 2 つの観点からサービス活動へ
の顧客参加が分類可能である。さらに「機能」は、「仕様」「生産」「品質管理」「マーケテ
ィング」に分けることができる。一方「様態」は、「行動面」「知能面」「感情面」の 3 つに
分けられる。これらを分かりやすく図解すると以下のようになる。
7
機能
様態
行動面
知能面
感情面
仕様
生産
品質管理
マーケティング
(出所)大藪亮(2010)p.153
先に挙げたスーパーの事例は、機能はセルフサービスにより従業員の代行を行っている点
からサービスの提供者にもなり得るので「生産」になる。そして様態の観点から見ると、
実際に店内を歩きまわりながら品物を集めることから「行動面」の顧客参加型形態をとっ
ている。また、現金自動支払機(ATM)を見てみると、機能の観点から見るとスーパーと
同様に従業員の代行を行っているので「生産」。様態の観点から見ると知的な処理作業を行
うという「知能面」からサービス活動に参加していると捉える事が出来る。
顧客参加に関する研究は、サービス・マーケティング研究のみならず、競争優位の獲得
といった経営学的な視点から注目される。製品開発プロセスの中に顧客や消費者を積極的
に参加させることで、市場内での競争優位獲得しようとするものである。本来はメーカー
が独自のマーケティングの下で製品開発を行うものだが、製品開発プロセスの中で流通業
者や顧客・消費者の視点からの知識や見解が加わることで、新たな価値が生み出されるこ
ともある。小川(2006)も以下のような事を述べている。
「流通業者や消費者が持ち寄った
情報・知識を使って新製品を共創する。その結果、新規性・独自性の高い製品が生まれ、
メーカー、流通業者には、競争優位が、消費者には満足がもたらされる」
(小川 2006 p.5)。
また、Prahalad and Ramaswamy も同様に企業と消費者の価値共創によって、企業は設
計・企画・技術革新・製造工程・方法等の新しいアイディアを得る機会になっている。し
たがって、企業にとって、消費者や消費者コミュニティもコンピタンスの源泉として重要
であると指摘している。2 者の論証から言えることは、従来の企業側からの一方的な価値提
案・提供(製品開発等による)を消費者・顧客が受け入れるという考えから、消費者や顧
客が企業と共に価値を生み出そうとする事、また、その必要性を企業側が積極的に受け入
れることが重要視されてきた。以上のように、先行研究からわかるように、企業にとって
顧客参加の「価値共創」には意味を見出していることが理解できる。
しかし、この中にもいくつか問題点が存在する。消費者や顧客が生産プロセスに介入す
るケースは限定的な状況である。つまり、消費者や顧客側からの積極性が伴っている必要
性があるという事である。サービス提供の場は限定的であろうし、製品開発プロセスの介
入には、積極的な消費者の裏に数え切れないほどの物言わぬ消費者が存在していることを
頭に入れておく必要性がある。このことから言えることは、消費者参加の「価値共創」と
8
いうのは、まだまだ一般的なものになっておらず、特殊性を帯びているということである。
大藪(2010)の論文の中で Ramaswamy の論証を引用して以下のような事を言っている。
「すべての消費者が常に共創を望んでいるわけではない」(大藪 2010 p.154 )。つまり、
消費者と顧客の「価値共創」と従来の企業中心の考え方が共存している事を意味している。
Ⅲ -4 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク に お け る 価 値 共 創
サービス・ドミナント・ロジックの提唱者の Vargo & Lusch は、大藪によれば「顧客は
消費だけじゃなく、常に、価値の生産に関係する」と指摘している(大藪 2010 p.154)。つ
まり、製造業企業による製品の製造だけでなく、その製造は消費されてはじめて価値を生
むという考えだ。違う視点から捉えると、生産から消費までの間に、消費者・顧客による
独特な価値判断がなされているということも価値共創において重要である。なぜ、消費者
による価値判断が重要なのか。モノであれ、無形性のサービス(以後、従来のサービスを
複数形のサービシィーズと称する)であれ、消費者が何らかの価値を認識して初めて、そ
のものに価値が生まれるからである。つまりは、一度の使用で製品やサービシィーズには
価値が発生しない、消費者に複数利用に値するものと判断されることで価値になるという
ことである。例えば、自動車や自転車メーカーなどは、様々な原料を使用して、組み立て・
製造を行い、流通する。それは、世の中に組み立て・製造・流通というスキルと・ナレッ
ジ(知識)を提供していることになる。しかし、購買者がそれらを使用しなければ、ただ
ただ只管に税金を取られる粗大ごみになり、マイナスの価値しか生まないのである。つま
り、製造企業と使用する消費者が互いのスキルやナレッジを提供する必要性があるのであ
る。また、サービシィーズにおいても同様のことが言える。マッサージ店で人々がマッサ
ージを受ける。言い換えると店側はマッサージというスキルとナレッジを人々に提供し、
消費者がそのサービィシーズを受ける。しかし、消費者によって、部分的な疲労の溜まり
方もことなり、「肩を重点的に」や「腰がだるくて」などの情報(ナレッジ)や要望を伝え
ることで、マッサージに「価値」が生まれる。疲労を感じない場所にマッサージをされて
も意味がない。したがって、モノやサービシィーズの提供だけでは価値は無に等しいとす
るのが、サービス・ドミナント・ロジックの基礎概念の「価値共創」の根底に存在する。 上記のことから、「価値」について大藪は Vargo , Maglio and Akaka をもとに、従来の
モノ・マーケティングにおける“交換価値”や“使用価値”、従来のサービス・マーケティ
ングにおける“経験価値”とは違い、サービス・ドミナント・ロジックにおける「価値」
とは、「価値は受益者によって独自に現象学的に決定される」(大藪亮(2010)サービスド
ミナントロジック p.160)もので、それは“文脈価値”だと言っている。
“文脈価値”とは、
文章の起承転結のように段階を踏んで、結の部分に値する「価値」が創造されるとしてい
る考え方である。なぜ、このような違いを作るのか。“交換価値”ではモノと貨幣が交換さ
れたときに「価値」が発生し、“使用価値”はモノやサービシィーズの使用した瞬間や使用
期間にのみ「価値」が発生するという考えである。“経験価値”においては、使用後の経験
9
に価値を見出している点で、近しい存在ではあるものの、経験という言葉の人々の捉え方
との間に微妙にニュアンスの違いを感じているからである。それは、多くの人が体験とい
うサービシィーズの使用をそのまま経験価値として捉え兼ねないからである。しかし、サ
ービス・ドミナント・ロジックはモノやサービシィーズの使用後に本当の「価値」を見出
している。したがって、体験では本当の価値は生まれなく、体験を通じて、価値あるもの
と認識する。また、その認識も十人十色で違いが存在し、同人物でも、置かれた状況によ
って認識は異なる。したがって、“文脈価値”という新しい概念を作り出したのだろう。
Ⅲ -5 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク に お け る 価 値 共 創 概 念 の 課 題
前章で、サービス・ドミナント・ロジックにおける価値とは、“文脈価値”であると言っ
た。しかし、この概念にも課題は存在する。まず、価値共創という言葉自体を再度注意深
く考え直してみよう。
前章までに様々な角度から価値共創というモノを検討してきた。企業側から製品以外の
外部的なサービシィーズ提供の使用による価値共創。使用者による新たな使用方法の発見
に伴う価値共創。消費者や顧客とのリレーションシップ形成により、企業側からは見えな
かった潜在的な的な消費者ニーズの獲得に伴う価値共創。セルフサービス方式のような、
消費者や顧客が実際のサービシィーズ提供者の代行業務を行う価値共創。ここに少しメス
を入れると、様々な疑問点が浮き彫りになる。なぜ、それらが価値共創と呼ばれているの
か。活発な能動的な消費者に限るものなのか。むしろ、製造・提供者と消費者・受益者が
存在する世の中で価値共創にならないものは存在するのか。もし、価値共創にならない存
在がないとすれば、このサービス・ドミナント・ロジックという概念の必要性さえ問われ
かねないのである。
つまりは、具体的に価値共創ではないという存在を挙げる必要性があると言う事である。
それにより、サービス・ドミナント・ロジックの存在意義や存在力というものが強固にな
ってくるのである。
次章からは、従来のグッズ・マーケティングやサービス・マーケティングとサービス・ド
ミナント・ロジックがどのように違うのか。また、当理論にどのような批判があるのか。
実際に企業と消費者の間で如何様にして「価値共創」が行われているのか。更に、「価値共
創」というものを強固な存在するにはどうすべきかを考察していく。
Ⅳ サービス・ドミナント・ロジックと従来マーケティングとの比較
Ⅳ -1 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク と は
ここでは、藤川(2008)と南(2008)の論証を下に、サービス・ドミナント・ロジック
と従来マーケティングとの比較に触れながら、サービス・ドミナント・ロジックの現在の
あり方を見ていく。
サービス・ドミナント・ロジックは、従来の企業は顧客に価値を感じてもらう製品・サ
10
ービスを作り出さなければならないとしたマーケティングロジックから逸脱し、顧客によ
る提供企業との共同参加、企業-顧客との相互作用的なプロセスの重要性を説いたサービ
ス・マーケティングにおいて論じられるサービス特有のロジックが、サービスだけでなく、
モノのマーケティングの世界でも必要なロジックであるという考え方である。つまり、モ
ノのマーケティングとサービスのマーケティングとを区別しない。モノを含めた提供物の
ありかた、提供の仕方が重視され、企業と顧客とが共に価値を創造していく「価値共創」
が主張されているものである。
また、南(2008)は以下のような例をあげて「価値共創」について説明している。
「水ではなく、空気で洗える洗濯機の登場は、消費者自身が、衣類だけでなく、家庭で
靴や鞄も洗うとういう行為をすることによってはじめて、空気分解で発生させたオゾンで
洗えるという技術革新が、『水で洗えなくてあきらめていた汚れが綺麗になる』という価値
に変換される。単なるモノの使いこなしを超えた、モノの価値を最大限に引き出す生活を
することが、価値を共に作り出すことにつながる。」(南 2010 p.1)
この考え方は、ある特定の価値を消費者が購入するのでなく、消費者自身が購入した製
品の価値を最大限に引き出し、当製品の価値を新たに生み出していく、企業と顧客の価値
共創であるとした考え方への変換である。
以上のように、企業側が一方的にモノ製品の価値を特定し、限界を決めるのではなく、
顧客と共に、当製品の価値拡大の可能性を導き出していくことに重点を置いた製造・販売
が必要だとするロジックである。その為、当ロジックでは、上記で挙げたサービスの構成
要素を考慮した企画・流通・販売が求められる。
では、果たして実際にこの理論が成り立つのか次節で検証する。
Ⅳ -2 従 来 の 「 モ ノ 」 と 「 サ ー ビ ス 」 の 違 い
始めに「モノ」と「サービス」の違いについて考えたいと思う。藤川(2008)によると、
従来「モノ」と比べた場合、「サービス」には、以下のような特性が強いといわれてきた。
・同時性(simultaneity):生産と消費が時間的・空間的に同時進行する
・消滅性(perishability):在庫として蓄えることが難しく、消滅してしまう
・無形性(intangibility):見たり触ったりすることが困難
・変動性(heterogeneity)
:同じサービスでも、誰が、誰に、どのような状況で提供するか
によってその価値や品質が左右される。(藤川 2008 p.2)
このような特徴は企業側に多くの経営課題をもたらす。例えば、生産と消費の同時性は、
上記の「サービスプロダクト」の段階から消費者が関与すると同時に消費活動が行われる
為、生産者側と消費者側の両者の同時管理の必要性が生まれること。また、消滅性により
需要と供給の均衡を常に保つ不断の努力を強いられる。例として藤川(2008)は以下のよ
うに記している。「今日のホテルの空室を明日売ることはできないし、いま飛んでいる飛行
機の空席を来週売るわけにはいかない」(藤川 2008 p.2)。変動性により、対象の相手の違
11
いが品質を変化させることで、広告・提供などの管理の難しさを企業側に与える。一部で
はあるが、上記のような経営課題を持つことになる。そのために、企業側には顧客接点を
管理するための「マーケティングマネジメント」、サービスの提供プロセスを管理するため
の「オペレーションマネジメント」、提供する人間を管理するための「人的資源マネジメン
ト」の三つの主要な基本職能について統合管理能力が求められる。近年は、この分野に蓄
積した知見を広く応用し、モノづくりの製造業やモノとサービスの両方の側面のある事業
なども研究対象として捉えるようになってきた。例えば、同時性において、従来の考え方
では、メーカー側の製品というモノの価値の生産の後に、消費者が商品を購入するという
消費が行われると考えられる。しかし、「サービス・ドミナント・ロジック」の考え方を踏
まえると、製品の価値というのは消費が行われた瞬間に発生するのではなく、製品の購入
後に消費者が使用する中で、顧客が企業あるいは製品と相互作用を通じて価値を創造する
と考えられる。つまり、モノ製品においても上記で挙げたサービスの特徴の「同時性」が
当てはまるのである。藤川(2008)が本文中に以下のように実例で説明している。
「アップルの iPod を例に考えてみよう。iPod の価値は、顧客が携帯音楽プレイヤーを購
入した時点で生み出されるのではない。むしろ、顧客がプレイヤーを購入した後にアップ
ルとどのような相互作用をするかで、価値の中身が左右される。具体的には、同社が運営
するウェブサイト iTunes にアクセスし、様々な音楽を購入してダウンロードしたり、独自
の曲目リストを編集したりすることなどを通じて、『音楽を楽しむ経験』という顧客価値が
創造される。」(藤川 2008 p.3)
上記の例では、iPod という製品は、製品としての有形成と、iTunes という無形性の製品
姿の二面性を持ち合わせていることになる。つまり、モノ・マーケティングとサービス・
マーケティングの間には互換性が見られる。すなわち、上記の例ではモノだけでも、サー
ビスだけでも消費者にとっては不十分で、二つが一つになり相互作用を生むことで価値を
何倍にも押し上げていくということである。また、先に挙げた事例から分かるように、企
業が生産する製品の機能的価値だけでなく、購入した消費者が使用することで、製品に対
して付加価値を与えていく。このようにして、企業と消費者による「価値共創」が行われ
ている。今後企業側と消費者側がこのようにして関わり合いを前提に製品開発をはじめ、
企業側が「価値」というものを考えていく必要性が高まってくるのではないだろうか。つ
まり、この事から分かることは、今後、企業と顧客とのリレーションシップが重要になっ
てくるという事である。なぜなら、ネットワークが急速に進化・普及したことで、従来の
メールマガジンや web の閲覧など消費者による企業からの一方的なアウトプットを消費者
が受動するのでなく、企業側が消費者のコミュニティ等を作り、消費者が自由に自身の考
えや想いを消費者間で共有させ、生の市場の声を聞けるような仕組みづくりなど、価値共
創に向けたリレーションシップ形成が企業間・製品間の差異化に大きな影響を与えると考
12
えるからである。
顧客に企業からの価値提案を具現化させるために、顧客との価値共創を目指す。顧客と
の価値共創のために顧客との関係性構築を志向する。顧客との価値共創の結果として、顧
客との関係性が強化される。関係性強化により、よりよい価値を生み出されるようなる。
このような循環を作り出すことが求められている。つまり、価値形成とリレーションシッ
プとの間には、目的であり、かつ手段でもある関係であるという難しさが存在する。たと
えば、株式会社アントワークスが全国展開を手掛けるチェーン店「伝説のすた丼」は、昨
年に創業 40 周年記念として「大学丼募集キャンペーン」と称して消費者参加型の新商品企
画を立ち上げた。この中で一般応募を募り、審査し、最終的には 13 種類の新丼が作られた
のである。当企画は何を狙って上記の企画を始めたのだろうか。一つは、新商品としての
店舗価値を共に生み出すという目的の為、二つに、消費者に実際の商品を考える中で「伝
説のすた丼」という店自体に愛着を持たせることや、足を運ばせ、その中で常連として、
消費者から顧客へと変化させていくという手段であるということである。この目的と手段
のバランスがしっかり取れていないと、企業側の顧客獲得という面が過度に押しだされた
場合、消費者側から厭らしさ故「客離れ」を起こす可能性があるという難しさがあるとい
うことが言えないだろうか。
以上のように南(2008)、藤川(2008)の論述からはサービス・ドミナント・ロジックに
対して肯定的な印象を持っているように感じられるが、両者の当理論に対する考え方や捉
え方は少し違うようにも感じられる。南(2008)が上記の具体例で挙げている消費者との
「価値共創」とは、製品の潜在的な価値を消費者とともに顕在化しよう、していこうとす
ることであるように見てとれる。詳しく説明すると、製品自体に何かするだとか、付加価
値として付属サービスを消費者に与えるのではなく、企業側は可能な限りのサービス(新
技術)を製品自体に内在化するだけで、サービスという「価値」は、消費者が使用する中
で、見出していくものだとしている。また、その中で、企業側が想像し得なかった新たな
「価値」が生み出されることにも、
「価値共創」の意味を見出しているのではないだろうか。
一方、藤川(2008)おいては、製品の潜在的価値を見出していくのではなく、製品に対し
て外部的な位置に企業側が消費者側にサービスという無形性の新たな価値提案し、消費者
にモノとサービスを併せて使用してもらう事で、製品に新たな価値を生み出していくこと
で「価値共創」を実現しているとしている。つまり、製品というモノ自体では然程新たな
価値がなくても、消費者の外部サービスの使用によって何倍にも「価値」を増大させてい
くことが可能であり、故に、今後外部的なサービスが市場における差別化・差異化に大き
な影響を与えるものであるとしているように解釈出来る。したがって、サービス・ドミナ
ント・ロジックに対して肯定的な同じ立場でありながらも、僅かに捉え方に差が生まれて
いるのも事実である。二者のどちらが正しいか、また、どちらも正しくないとは言えない
が、ロジックとして、一貫性を求める議論が必要であると感じている。
13
Ⅴ サービス・ドミナント・ロジック批判的見解
ここで、前章までのサービス・ドミナントロジックにおける理論分析を、批判的見解と
いう違う角度から見ていく。
余(2010)の論文内で先行研究を下に以下のような批判的見解を述べている。
「もしわれわれが似ていなかったとしたら、野獣から識別されなかったかもしれないが、
もしわれわれが似たり寄ったりであったとしたら、お互いに区別がつかないであろう。こ
れと同じことが、マーケティングのグッズとサービシィーズの識別にも当てはまる。様々
なパースペクティブが存在する中で最上のものを決める条件が存在しないのに、われわれ
は標準的なパースペクティブを採用することができないのである。」(余 2010 p.219)
上記は、製品とサービスは似て似つかないものであり、両者の間に決定的な上下関係を
決定する要素がなく、出来ないと述べて言えるように解釈出来る。
更に余は、O’Shaughnessy&O’Shaughnessy をもとに、以下のような批判もしている。
「明確にされたサービスのパースペクティブの範囲内で“グッズ”を包含しようとする
ことは、サービスという概念を不鮮明なものにすることによってのみできる。われわれは、
グッズの範囲をカバーするように拡大解釈する際に、サービスのパースペクティブを弱め
る事は愚かである、と主張するであろう。」(余 2010 p.219)
上記の批判的見解から分かることは、モノ・マーケティングとサービス・マーケティン
グを分離する必要性、両者にとって「サービス」というものを上位概念とすることでグッ
ズ(モノ)マーケティングを包含するものには成り得ないということである。それ故、「サ
ービス」という名の下にグッズ・マーケティングとサービス・マーケティングは各々実行
可能になるということである。宗教にあてはめて考えると分かりやすい。同じキリスト教
でも、カトリックとプロテスタント、またモルモン教のような少数の宗派が複数存在する。
カトリック・プロテスタント・少数派の中で上位概念は存在しない。全ての宗派が、キリ
スト教という名の下に独自に存在し、信仰されている。それは、なぜか。それは、信仰の
先に求めるものが違うからであろう。つまり、マーケティングにおいても、グッズ・マー
ケティングとサービス・マーケティングでは、先に求めるものが違うのに、両者の間に優
位性を持たせる必要性がないと批判している。
したがって、実際にそのようにサービスとグッズの融合という観点から物事を捉えてい
くと、それぞれが噛み合わない部分を補おうとし、その結果、両者本来の中心軸がぶれる
ことにつながり、結果的にマーケティングとしての力を弱めることになるであろう。
O’Shaughnessy&O’Shaughnessy が Shweder の言葉を引用して「知り得る世界というの
は、いかなる観点から見ようとも不完全であり、一度に全ての観点から見ようとすると一
貫しなく、特にどの立場にも立たない所から見ようとすると何も見えない」
(余 2010 p.218)
という考えを支持している。つまり、サービスだけでは不完全であるため、サービスに依
14
存することなく、常に様々な観点を同等の存在として考えとく必要があるとしている。
以上の批判的見解の論文から分かるように、既存のサービス・マーケティングにおける
特性が既存のモノ・マーケティングをそのまま覆いかぶさる、つまり包含することは難し
いと言及している。つまり、各々のマーケティングは、独自の研究をすることで強固とな
り、それが自ずとマーケティング全体の発展へと繋がっていくと考えるのが批判的見解な
のであろう。
Ⅵ サービス・ドミナント・ロジックとリレーションシップマーケティン
グ
これまで、当理論に対する肯定的・批判的の両者の視点から考察を行なってきたが、そ
の中で、サービス・ドミナント・ロジックの実行可能性を見出す為にも、企業と消費者と
のリレーションシップについて考える必要性を強く感じた。したがって、本章では、リレ
ーションシップ・マーケティングとサービス・ドミナント・ロジックの関係性を言及する
ことで、サービス・ドミナント・ロジックの実践的有効性と必然性について検討する。
実際、前田(2010)の論文の中では、Vargo and Lusch の以下の言葉が記載されている。
「サービスを中心とした考え方は元来、顧客志向であり関係的である」
(前田 2010 p.120)
といw。近年、製造業企業がサービスに注力する理由の一つに顧客との関係性の構築・維
持である。言い換えれば、モノ・マーケティングにリレーションシップマーケティングを
取り入れる事こそが製造業における「サービス」であるとの考えが多数派であるという事
であろう。
Ⅵ -1 リ レ ー シ ョ ン シ ョ ッ プ 思 考 の 変 遷
リレーションシップマーケティングは近年誕生した、まだ若いマーケティング研究分野
である。なぜリレーションシップが注目を浴びているのだろうか。前田は、Vargo and Lusch
を言及しながら「50 年間にわたってマーケティングは、製品から製造への焦点から、消費
の焦点に移行し、より最近では、取引(transaction)からリレーションシップ(relationship)
へと移行している」と指摘している(前田 2010 p.121)。現在では、企業と顧客が夫婦間
の関係性と類似し、関係性の成り立ちよりその後の満足度をいかように維持・向上してい
くかという建設的な問題と捉えている。このような事背景に、CRM やワン・トゥ・ワンマ
ーケティングなど顧客満足度を第一に考える戦略的研究がなされている。しかし、ワン・
トゥ・ワンマーケティングなどは企業側が顧客一人一人の個別の顧客ニーズに製品をカス
タマイズすることで顧客満足を引き上げるというものだが、実質、大手製造業企業におい
ては不可能であり、企業からの一方的な働きかけである。製品の多様化や情報ソースやチ
ャネルの拡大に伴い、企業からのワンウェイ・コミュニケーションでは、顧客に影響を与
える事は厳しく、やはり今後は、ツーウェイ・コミュニケーションが必要になってくるで
あろう。
15
Ⅵ -2 リ レ ー シ ョ ン シ ッ プ と サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク の 接 点
サービス・ドミナント・ロジックの理論分析をしている中で見えてくるキーワードは「価
値共創」「相互作用」「リレーションシップ」である。もし、消費者がマーケティングの焦
点だとすれば、価値創造は、財やサービスが、消費され使用を継続された時のみに起こり
得る。まだ販売されていない財や提供相手のいないサービス提供者は価値が全くない。つ
まり、顧客に意味のある価値というのは、顧客と供給者の間の相互作用の中でのリレーシ
ョンシップを通じて作り出される。なぜなら、顧客における価値とは、顧客自身の知覚的
感覚と判断されるものであるからである。したがって、マーケティングの焦点が製品では
なく、顧客になければ意味をなさい。顧客に対して製品価値を謳うのではなく、価値共創
のプロセスに参加してもらう事に意味を見出している点においてサービス・ドミナント・
ロジックとの共通点が垣間見える。また、顧客を主体性を持った存在と捉えている点も同
様である。
今一度サービス・ドミナント・ロジックにおける顧客の関係性を確かめると、サービス・
ドミナント・ロジック前提 6 の「常に価値の共創者である。」(井上 2010 p.1)リレーショ
ンシップマーケティングにおいても、サービス・ドミナント・ロジックおいても企業が顧
客に対して何かを行う事はなく、顧客と共に物事を行うという見方である。有形財の製品
(グッズ)にしろ、無形財のサービスにしても、企業側が行う事は、顧客ニーズと言われ
る問題の解決に違いはない。言い換えれば、顧客側が問題点を示さない限り効果的なソリ
ューションを施すことは不可能であり、もし企業側が推測の域でソリューションを行った
としても空虚なものなる可能性はとても大きいのだ。正しいソリューションを行うには、
必ず顧客との深い関わり合いが必要であり、リレーショナルなプロセスが必要なのである。
Ⅵ -3 リ レ ー シ ョ ン シ ッ プ 上 の 課 題
上記のようにサービス・ドミナント・ロジックは新規顧客獲得や顧客の際購買に伴う市
場勢力拡大だけを目的とするのではなく、顧客視点からリレーションシップを継続して、
より上質な文脈価値(製品販売プロセス)の創造を目的としている一面も併せって持って
いる。それは、能動的な消費者や顧客の存在が実現可能としているのであって、全ての顧
客がそのようなリレーションシップを願い求めているのではないことも考慮すべきなので
ある。強引な関係構築は、関係崩壊を招く可能性も含んでいるからだ。また、顧客側が長
期的なリレーションシップを望んだとしても、どのようにして関係を築いていくのか、ま
た、どのように自分たちの意見や要望を訴えればいいのか、という不明瞭な部分を明確に
していく必要がある。そして、いかに受動的な消費者に少しでも能動的な消費者に変換す
するかという議論もなされていくべきであろう。
16
Ⅶ 製造業におけるサービス概念適用へ
前章までの考察で、サービス・ドミナント・ロジックの基本概念や肯定的または否定的
な見解に触れてきた。この章では、それらを踏まえて、製造業においてサービス概念の適
用の可能性を高室の議論を下に検証してみようと思う。
Ⅶ -1
製造業におけるサービス概念の適用性
高室(2009)は、
「製造業におけるサービス化を通したイノベーション、あるいはサービ
ス概念を基軸とした理論的パラダイム転換の可能性を見据えた議論など、これまでの認識
の延長線上に捉えた動きを超えたイノベーションの可能性を伺わせる議論展開がされてい
る」と言っている。
(高室 2009 p.121)上記に挙げた藤川(2008)、南(2008)の議論など
もその議論に当てはまり、製造業への適用への期待が伺えるであろう。しかし、現実の製
造業の市場現場と既存サービス・マーケティング研究の兼ね合いによる成果が、例えば実
践的示唆を中心とした研究成果の応用や適用の範囲にとどまるとすれば、サービス・イノ
ベーションの『新しさ』をもたらすものであると明らかにすることを期待するのは尚早で
はないだろうか。したがって、その分析の可能性も、自ずと、包括的な議論として一般化
されるか、あるいは逆に余の見解通り個別的な議論に分析されたものとして帰結された方
が複雑化せず、有効なものであるという難しさも併せ持っている。この点に、現代の新た
な動きを捉えようとするサービス・イノベーションの議論と既存のマーケティング研究の
議論が接続されそうでいて距離を持つ、こうした契機が潜んでいるように思われる。ここ
に高室(2009)が言う、果たして、サービス・イノベーションのインパクトの所在を既存
のマーケティング研究自身の中から抽出出来るアプローチはないのか(高室 2009 p.121)
という問いが、次なる課題として現れることとなる。
果たして、製造業並びに商業資本論的マーケティングにおいてサービス・イノベーショ
ンは起こり得るのだろうか。また、サービスという考えが浸透するのだろうか。
次の論証に入る前に、高室(2009)が論文中に使用している「一般的規定」と「理論的
規定」という語句の解説をする。まず、「一般規定」とは、既存サービス・マーケティング
研究によって考えが深められた特性の“無形性”
“生産と消費の同時性”
“消滅性”
“異質性”
のことである。一方、「理論的規定」は商業資本論的マーケティング・パラダイムからみた
規定であり、特定の理論負荷がなされた規定という意味で使用している。先に述べた事を
理解した上で高室(2009)の論証を進めたいと思う。
高室(2009)によれば、商業資本論的マーケティング・パラダイムの理論枠組みは、生
産と消費そしてそれを媒介する流通・商業の論理を厳密に問う理論枠組みであった。この
枠組みからすれば、モノマーケティングにおけるサービスの特殊性が介入する理論的規定
の前提は、生産と消費を媒介するシステム、つまり、流通の様相に求められることとなる
といえよう。言い換えれば、商業資本論的マーケティングにおいて、製造業企業がサービ
ス概念を取り入れるポイントは流通である。そして、こうした観点からすれば、一般的規
17
定として示される様々な特性の内から最も強調されることとなる特性、換言すれば、サー
ビスの特殊性を捉える基礎となる特性は『生産と消費の同時性』となることは明らかであ
ろう。なぜなら、この特性は商業資本論的マーケティング・パラダイムの理論前提をなす
生産と消費との媒介の構造(流通)そのものに直接踏み込む特性であるからである。そし
て、この『生産と消費の同時性』を再度確認した結果、商業資本論的マーケティング・パ
ラダイムにおいて、サービス特性を取り入れることは困難であると事に気づく。そこで、
高室は商業資本論の視点から捉えられた特性として、必ずしも生産と消費が同時にはなり
得ないが、タイムラグがあるものの生産後に即時に消費されるべきだとする「即時性」と
いう新たな概念を導き出した。その「即時性」という新たなサービス概念こそが商業資本
論的マーケティングにおけるサービス融合の可能性だとしている。
確かに、サービスの特性の一つの「生産と消費の同時性」という部分においては、製造
業をはじめ、様々な業種においてもサービス・マーケティングとモノ・マーケティングが
重複する事は理解できる。例えば、証券会社においても証券の販売は常にタイムリーな情
報の下行われている為「生産と消費の同時性」が成り立っている。金融業においても、外
国為替等は特に、日々為替が変動する為「生産と消費」は同時にならざるを得ない。しか
し一方で、この事象はサービスとモノのマーケティングの共存や同一部分を意味している
だけで、果たして、サービス・ドミナントが成り立つ事を意味したのだろうか。万事にお
いてモノ・マーケティングで、同時性・消滅性・無形性・変動性が成り立つことを証明し
て初めて、「サービス」が独占的立ち位置を確立するのではないだろうかという間接的な疑
問視しているとしても捉える事が出来るであろう。上記の解釈を可能としているのは、高
室が風呂勉の論考を用いて以下のように述べていることからである。
「サービスの在庫不能性、輸送不能性は、サービス生産活動が直後、消費活動に媒介さ
れざるを得ない即時性によるものであり、その生産物がいわゆる無形性のものであること
によるのではない。無形性による在庫や輸送の不可能性はサービスの二次的、副次的属性
であって、電力やガスの実物供給に見られるように、石油製品のパイプライン同様、技術
に克服可能なものである」(高室 2009 p.126)
すなわち、高室(2009)は風呂の論考を用いて、「商業資本論的流通認識の中において、
サービスの特殊性を、「直接消費活動に媒介されざるを得ない」という意味での「即時性」
を見出しているが、その他の特性は二次的・副次的属性として位置づけるのである。先の
検討とあわせて言うとすれば、一般的規定でいう「生産と消費の同時性」をもって理論的
規定の基礎とする、この視点がここに第一に強調される点である。」(高室 2009 p.126)
上記の高室(2009)と風呂の考察から垣間見えることは、商業資本論的マーケティング
において「生産と消費の同時性」が成り立つことに難色を示しているということである。
風呂が「同時性」という言葉でなく「即時性」という新たな言葉を用いていることからも
察することが可能である。では、一体どういった事なのか。サービスの特性である”無形
性”故に在庫やサービス商品の輸送が困難であるため、サービス商品の生産と消費は”同
18
時”に行われるものと既存サービス・マーケティングではされてきた。ここで、高室(2009)
は、風呂の上記の論考の一部「電力やガスの実物供給に見られるように、石油製品のパイ
プライン同様、技術に克服可能なものである」を引用して、電力やガス等の無形性のモノ
においても、在庫・輸送は技術革新により可能になってきていると、先に述べた既存サー
ビス・マーケティングの考えを批判していると理解できる。また、商業論的マーケティン
グにおいて、無形性を持つ製品・商品は技術革新によって在庫・輸送が可能になってきて
いる事を実証しながらも、同時に、やはり生産と消費が全くの同時性を持つことが極めて
困難であり、”同時”ではなく”即時”であるという事を述べていると解釈出来る。この点
だけでも、サービス・ドミナント・ロジックとは、単なる従来のグッズ・マーケティング
とサービス・マーケティングの融合ではないことを示し、新たな考えとして、取り入れる
必要性を訴えている。
Ⅶ -2 製 造 業 の サ ー ビ ス 融 合 の 可 能 性 と 難 し さ
前節で、グッズ・マーケティングとサービス・マーケティングとの融合難しさ故、製造
業におけるサービス・ドミナント・ロジックの成立の難しさと、新たな概念での成立の可
能性を示唆した。しかし、高室の論証で検証したことは、あくまで理論分析の域を脱して
いない。したがって、この節では、当理論が果たして、現実社会において実行可能なもの
なのか。そして、現在、製造業において実際にどのようなサービス化が適用されているの
かを具体例を挙げて、製造業のサービス化への可能性と課題を模索していくことで、とう
理論が研究領域を逸脱出来る存在なのか、それとも、学問研究の域を超えられない机上の
空論になり得るのかを検証していこうと思う。
近年、実際に製造業をはじめ、多くの企業においても様々なサービス化がなされている。
例えば、IBM や GE などサービス業として分類されていない企業の売上や利益の多くがサ
ービス事業であることも事実である。また、日本企業においても同様で、自動車や IT 機器、
複合機産業などの多くもリース事業やファイナンス事業、サポートサービスなど様々なサ
ービス事業を展開している。各企業が様々なサービス業を展開する理由は、顧客に対する
アフターサービスではなく、顧客満足度の拡大や新規顧客獲得などの理由が多くを占めて
いるのではないだろうか。しかし、従来の製造業企業のサービス事業展開の難しさを問う
議論もなされている。その理由を藤川(2008)は、
「製造業のサービス化の成否を分ける鍵
の一つに、製品販売後に継続的な顧客接点を作り出すかどうかがあることが指摘出来る」
と言う。(藤川 2008 p.41)
実際にどのようなサービス化がなされているか、製造業のサービス融合の可能性として、
いくつか具体的な事例を挙げようと思う。GE ヘルスケアが MRI や CT などの医療機器を
医療機関に販売後、機器の使用状況の遠隔モニタリングや患者データの管理や分析を代行
するサービスを提供している。国内企業でもコマツが建設機械に GPS を装備することで顧
客企業の建築現場の機械使用状況を把握した上でアドバイスを提供するコンサルティング
19
のようなサービス事業も行われている。B to C 事業においてもネスレがネスプレッソ事業
でエスプレッソカプセルの継続販売やメンテナンスなど情報提供するサービスも行われて
いる。上記のいずれも成功事例であり、製品販売後の顧客との関係性の構築・維持を目的
としたものである。更なる目的は、顧客との関係を維持することで継続的に「価値共創」
を実現していくものである。
上記の例から見られる特徴は、従来の考えでは各企業が製品販売時点で顧客との接点を
失うものであったが、サービスという付加価値を製品に加えることで顧客との接点を維持
し続ける機会を作りだし、製品を媒介に顧客とのリレーションシップを作り出している点
であろう。顧客へのビフォー or アフターサービスによる、顧客との繋がりにサービス・ド
ミナント・ロジックは本当の意味を見出しているのだろうか。
Ⅷ 終わりに
Ⅷ -1 サ ー ビ ス ・ ド ミ ナ ン ト ・ ロ ジ ッ ク 概 念 の 構 造
サービス・ドミナント・ロジックの概念構造の捉え方は様々である。グッズの購買行動
は内在するサービシィーズの購買である為、サービシィーズはグッズになくてはならない
存在であるとする構造。つまり、先に挙げた南(2008)や藤川(2008)のように、内在サ
ービシィーズや付加的な外部サービシィーズが重要であるとする考えである。
O’Shaughnessy&O’Shaughnessy のように、サービスという存在が上位概念として存在し、
その下にグッズ・マーケティングやサービス・マーケティングが分割的に存在するとした
論理構造。解釈する人により様々な形をなすのがサービス・ドミナント・ロジックである
ように感じられるが、それらの論理構造を足して、俯瞰で見てみると、サービス・ドミナ
ント・ロジックの真の論理構造が見えてくる。サービス・ドミナント・ロジックの中では、
サービスという存在を比喩表現すると、地球のような存在であり、その中の海と陸がグッ
ズとサービシィーズとして存在するのである。海と陸は違うものであるが、同じ地球を構
成する必要不可欠なものであるという事。グッズとサービスの間には上下関係はない。し
かし、違うモノである。二つが揃って初めて、一つの存在になるような関係であるという
ことである。つまり、グッズもサービス、サービシィーズもサービスなのである。したが
って、O’Shaughnessy&O’Shaughnessy のようにグッズとサービシィーズを分割して考え
ることは不必要なのである。むしろ、分割して考えるから、理論が複雑になる。海が水を
提供するように、グッズが物的豊かさを提供する。陸の木々たちが空気を提供するように、
サービシィーズが心理的豊かさを提供するのである。そのようにして、お互いが補い合う
事で、より豊かなものが生み出されるとする考え方こそ、サービス・ドミナント・ロジッ
クなのではないだろうか。
Ⅷ -2 終 わ り に
サービス・ドミナント・ロジックについて、なぜ必要なのか、当理論をどのように生か
20
していくべきなのか、今後確固たる理論にしていく為の課題など、様々な角度から当論文
で検討・考察してきた。従来のマーケティング研究で謳われてきた企業と消費者の立場や、
製品とサービスの関係性の違いを改めて考え、また、従来の「サービス」という言葉の捉
え方と、当理論での違いにまで言及した、そこで、単に従来のサービス・マーケティング
がグッズ・マーケティングを支配する理論でないことを明らかにした。むしろ、全く新し
い考え・理論であると言っても過言ではないだろう。
しかし、まだまだ万人が同じ解釈が出来る程の論理性は持ち合わせていない為、今後と
も、より深い検証をしていく必要があるだろう。また、実際に現実社会で本当に実践可能
なのかどうか、事例研究も併せて行う必要性も同時に感じる。なぜなら、まだ数えられる
程の事例研究しかされていないからだ。したがって、この現在進行中の理論分析に今後と
も注目し、発展していくことを願う。
21
参考文献
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余漢爕(2010)「サービスドミナントロジック」-第 14 章 S-D ロジックに対する比較的見
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「サービスドミナントロジック -第 9 章 S-D ロジックとリレーションシップ・
マーケティング」井上崇通・村松潤一 編著『サービスドミナントロジック』同文館出
版 pp.120-133。
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