VOL.111

「社労士便り 6 月」
(Vol.111)
年次有給休暇-1
今月のテーマは、
「年次有給休暇」
(労働基準法第 39 条。以下「本条」といいます。)
第 1 項のうち「継続勤務」です。
● 本条第 1 項の条文
1. 使用者は、その雇入れの日から起算して 6 か月間継続勤務し全労働日の 8 割以
上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した 10 労働日の有給休暇を与
えなければならない。
● 基準日の斉一的な取扱い
継続勤務の起算日は、労働者の雇入れの日です。これは原則的に労働契約の成立日
ですが、採用内定の場合には、具体的に就労が開始するいわゆる入社日を起算日とし
て考えることになります。
一方、労働者各人により雇入れの日が異なり、したがって年次有給休暇の基準日(継
続勤務による年休取得日及び出勤率算定期間の起算日)が異なることは、休暇権発生
要件の一としての 8 割出勤の計算をする必要も加わり、多数の労働者を使用する事業
場においては事務的に繁雑です。
そこで、全労働者に斉一的に特定の日(4 月 1 日など)を基準日とすることも、①8
割以上の出勤率の算定は、基準日の繰り上げにより短縮された期間は全期間出勤した
ものとみなすものであること、②次年度以降の年次有給休暇の付与についても、初年
度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基
準日より繰り上げることの要件を満たしている場合(※ 例)に認められることと解
されています。
なお、こうした斉一的な取扱いは、例えば、基準日の前日に雇入れられた者と 5 か
月前に雇入れられた者との休暇日数はいずれも 10 日となり、勤務期間の長短が考慮
されない結果を招きますが、基準日の斉一的な取扱いを行う以上はやむを得ないと考
えることになるでしょう。
※
例:斉一的取扱いとして、4 月 1 日に入社した者に入社時に 10 日、1 年後であ
る翌年 4 月 1 日に 11 日を付与する場合、また、分割付与として、4 月 1 日に入社
した者に入社時に 5 日、
法定の基準日である 6 か月後の 10 月 1 日に 5 日付与し、
次年度の基準日は本来翌年の 10 月 1 日であるが、初年度に 10 日のうち 5 日分に
ついて 6 か月繰り上げたことから同様に 6 か月繰り上げ、4 月 1 日に 11 日付与す
る場合など。
● 継続勤務
「継続勤務」という文言は、出勤を意味するようにも解せますが、労働契約の存続
期間すなわち事業場における在籍を意味するものと解されます。在籍していればよい
ので、休職期間中や休業期間中も継続期間中に該当します(昭 63.3.14 基発 150 号)
。
また、継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであ
り、次の場合も含むと解せます。
1.
定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再雇用している場合(退職手
当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含みます。)
。ただし、退職
と再雇用との間に相当期間が存し、客観的に労働関係が断続していると認めら
れる場合はこの限りではありません。
2.
日雇又は短期契約労働者でも、その実態より見て引き続き使用されていると
認められる場合。日雇の場合には、多くの場合、休日以外の日に事実上就労し
ない日があり、これによって継続勤務の事実が中断するかどうかが問題となり
ますが、専ら同一事業場の業務に従事していれば、休日以外に欠勤その他就労
しない日が多少あっても継続勤務の事実は中断されないと解されます。
また、休日以外の日に労働者が当該事業場に出勤せず、他の事業場で働いて
いた場合は労働の継続は中断されますが、休日又は労働者の意思と関係なく出
勤できなかった日に他の事業場で就労したとしても、これだけによって労働の
継続は中断されないと解されます。
さらに、短期契約労働者の場合においては、契約更新する場合に直ちに更新
をせず、数日の間隔を置いてから契約を更新している事業場もみうけられます
が、このような場合に継続勤務の事実が中断したとみられるか否かの判定に当
たっては、日雇の場合と同様の見解が当てはまり、さらには契約更新時に間隔
を置くことが年次有給休暇の付与義務を免れるための脱法的意図でなされて
いるものかどうかも考慮し、法の適正な運用が図られるべきであると解されま
す。
3.
出向の場合、出向前の勤務と出向後の勤務を継続するものとみるべきか否か
という問題があります。いわゆる移籍型出向の場合は、出向元との労働関係は
いったん消滅し、労働関係は新たに出向先との間に成立することから、本条と
の関係についても継続勤務とみることは困難と考えられます。
一方、在籍型の出向の場合には、出向労働者は、出向元及び出向先の双方と
労働契約関係が存することになり、この両者を統合したものが当該労働者の労
働関係ということになるので、出向元における勤務期間を通算して継続してい
るものと解されます。したがって、在籍出向している労働者については、出向
元における勤務期間を通算した勤務年数に応じた年次有給休暇を付与しなけ
ればなりません。
4. 休職とされていた者が復職した場合
5. 会社が解散し、従業員の待遇を含め権利義務関係が新会社に包括承継された場
合
6. 全員を解雇し、所定の退職金を支給し、その後あらためて一部を再採用したが、
事業の実態は人員を縮小しただけで、従前とほとんど変わらず事業を継続して
いる場合。
● 事例:競争事業に従事する労働者の場合
競輪、競馬等の競争事業においては、所定労働日が主としてレースの開催日に限ら
れている従業員(例:馬券売場の馬券発売、払戻し業務の従事者)が存在しています
が、その所定労働日数については、年間を通算した場合、48 日以上である例も見られ
ます。
このため、これら労働者に対して年次有給休暇を付与すべきかどうかを判断する必
要がありますが、一方で、その勤務の実態をみると本条にいう「継続勤務」に該当す
るか疑義があります。
解釈例規では、①概ね毎月就労すべき日が存すること、②雇用保険法に基づく日雇
労働求職者給付金の支給を受ける等継続勤務を否定する事実が存しない場合に、継続
勤務と解されています。
(参考文献等)

労働法全書平成 26 年版:財団法人労務行政研究所編(労務行政)

新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法:西谷敏・野田進・和田肇編
(日本評論社)

労働基準法(上)
:厚生労働省労働基準局編(労務行政)

労働法:菅野和夫著(弘文堂)

労働基準法解釈総覧(労働調査会)

労働法(労働時間・休日・休暇):棗一郎著(旬報社)

労働行政対応の法律実務:石嵜信憲編著(中央経済社)

採用から退職までの法律知識:安西愈(中央経済社)

労働時間・休日・休暇の法律実務:安西愈(中央経済社)
● プロフィール
特定社会保険労務士 佐藤
敦
平成 16 年:神奈川県社会保険労務士会登録