スンクスで作るモノクローナル抗体

一般講演3
スンクスで作るモノクローナル抗体
佐渡 義一
重井医学研究所免疫部門
モノクローナル抗体は通常、マウス、ラットで作られる。これはモノクローナル抗体の作製時
に使用される細胞融合パートナー細胞が齧歯目のマウス由来だからである。パートナー細胞は同
種または近縁種のものを用いる必要があるためである。マウス、ラット以外ではモノクローナル
抗体はウサギで作製されている。その他の実験動物での作製は実用レベルに達してはいない。
私たちはスンクスでモノクローナル抗体を作製することを開始したが、第一の理由は齧歯目の
動物ではないこと。これは(1)マウス、ラットの蛋白質抗原に対するモノクローナル抗体を必
要としたためである。また、(2)私たちは腫大したリンパ節を B 細胞の起源とするリンパ節法
によるモノクローナル抗体作製をマウス、ラットで行っているため、スンクス、モルモットなど
の小動物が適していると考えたからである。
スンクスの尾根部筋肉内に抗原エマルジョンを注射すると、傍大動脈リンパ節(腸骨リンパ節
に相当)と仙骨リンパ節が腫大することが分かった。この腫大したリンパ節を B 細胞の起源とし
て使用することにした。
細胞融合に使用するパートナー細胞の作製は抗原エマルジョンを注射したスンクス
(Jic:Sun-Her 系統)のリンパ節細胞を血清添加 GIT 培養液に入れ、培養したところ、マウス SP2
細胞に良く似た増殖する細胞を見つけた。この細胞を 4 種類株化した。これらの株化細胞は抗体
を産生していないが、スンクスリンパ節細胞と細胞融合させると、ごくまれに、比較的安定に抗
体を産生する融合細胞が出現した。これらの融合細胞の中から、実際に融合を行い融合効率の良
い細胞を見つけ、パートナー細胞として使用した。
現在のところの融合効率は 1 回の細胞融合で 1 から 2 個のクローンが確立できる程度である。
確立したクローンはクローンごとに安定性が異なる。培養を継続すると安定に抗体産生をするも
のもあるが、徐々に抗体産生をしなくなる細胞に変化する株もある。このような状態であるが、
サブクローニングを行うことにより、抗体産生細胞を維持できることから、スンクスでモノクロ
ーナル抗体ができたとしている。
確立したスンクス抗体はおもに 4 型コラーゲンの NC1 領域に対するものである。回転培養によ
る高濃度抗体の作製はマウス、ラットの場合は 3 mg/ml 程度の濃度であるが、スンクスの場合は
0.3‐0.6 mg/ml 程度であった。確立した抗体の精製、蛍光色素の導入、酵素の導入はマウス、ラ
ットの場合と同様に行うことができた。
ラット 4 型コラーゲンα1/α1/α2 鎖分子に対する抗体でネイティブの抗原と反応する抗体が初
めてできた。いままでできなかった理由は、この蛋白質のアミノ酸配列が極めて似ているため、
ラットとマウスの間では免疫原性がないためラットとマウスでは抗体ができなかったためである。
(本研究は重井医学研究所と岡山理科大学理学部動物育種・保全学研究室の共同研究である。)