動物性集合胚研究における生殖細胞の生成の是非に関する検討

動物性集合胚の胎内移植による�
ヒト生殖細胞の作成に関して�
斎藤�通紀�
京都大学大学院医学研究科�機能微細形態学�
科学技術振興機構�ERATO�
京都大学�物質ー細胞統合システム拠点�
京都大学 iPS細胞研究所�
マウス初期胚に由来する2つの多能性幹細胞:
胚性幹細胞 (ESCs) とエピブラスト幹細胞 (EpiSCs) �
ESCs �
EpiSCs�
ナイーブ型多能性
プライム型多能性
着床前胚に由来�
三胚葉に均等に分化
生殖細胞に分化
キメラ形成能�有
着床後胚に由来
三胚葉に分化
生殖細胞に分化 小/無
キメラ形成能�小/無
EpiSCs は試験管内で生殖細胞に分化しにくい
(Hayashi et al., Cell, 2011)�
ESCs�
BF�
BV�
SC�
d4�
d6�
SC�
PGCLC induction�
d6�
d4�
d2�
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EpiSCs�
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SC�
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SC�
PGCLC induction�
d6�
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BF�
BV�
ヒト多能性幹細胞�
ヒトiPS細胞 �
三胚葉に分化(株による偏り有)
生殖細胞に分化 ?
キメラ形成能�?
着床後の多能性状態に相当 ?
プライム型多能性 ?�
サルES細胞はキメラに寄与しない�
最近、マウスEpiSCsがキメラに寄与することを証明する成果が発表された:
(1)E-cadherin の強制発現
“None showed germline transmission”
最近、マウスEpiSCsがキメラに寄与することを証明する成果が発表された:
(2)Bcl2 の強制発現
キメラ胎児生殖巣に DDX4 陽性細胞は出現するものの、成体での
生殖系列への寄与は確認されず(中内先生、私信)。�
ヒトiPS細胞からヒト生殖細胞の誘導
(Sasaki, Yokobayashi, et al., Cell Stem Cell, 2016)�
BLIMP1-tdTomato;
TFAP2C-EGFP
BTAG hiPSCs (XY)�
ヒトiPS細胞�
ACTA, CHIR for ~2 days
incipient mesoderm-like cells
(iMeLCs)
初期中胚葉様細胞�
BMP4, LIF, SCF, EGF�
BF�
d2� AG�
BT�
d4�
d6�
POU5F1, SOX2, NANOG (+)
POU5F1, SOX2, NANOG (+)
T, EOMES, MIXL1 weakly (+)�
BTAG (+) 細胞はヒトやカニクイザルのPGCsと似た
遺伝子発現を示す。
BTAG (+) cells ≈ ヒトPGCLCs,
確かな結論を出すにはさらなる研究が必要
マウス、カニクイザル、ヒトにおける多能性スペクトラムの発生座標
(Nakamura et al., Nature, 2016)�
implantation�
implantation�
ヒトiPS細胞は着床後約1週間のサルエピブラストと同等の遺伝子発現を示す �
動物性集合胚の胎内移植によるヒト生殖細胞の作成に関して:�
まとめと考察(1)�
中内らによる報告から、マウス・ラット間では、プライム型の多能性を有する
EpiSCs から効率よく異種間キメラを作成できることが示された。�
マウス・ラットの EpiSCs の生殖細胞への寄与は確認できず(中内ら、私信)。
ヒトPSCs からヒトPGCLCs が誘導できること、ヒトPSCs はマウスEpiSCs
よりも発生学的に早い段階の細胞に相当すること、から、中内らと同様な方法
(アポトーシスの抑制)でヒト胚盤胞にヒトPSCs を導入すると生殖細胞に寄与
するヒトキメラが作成される可能性がある(研究不可。同種霊長類での検証は
重要)。
霊長類・ヒト間キメラでもヒト生殖細胞が形成される可能性はあるが、米国・英国
ともに霊長類・ヒトキメラの作成を厳しく規制している。�
マウス・ヒト、ブタ等大型動物とヒト間キメラでは、遺伝学的距離・生殖細胞の
形成機構の差異・生殖細胞の移動・生殖細胞の発生を支持する生殖巣体細胞の
必要性、などの観点から、機能するヒト生殖細胞(精子や卵子)が得られる可能性
は低い。
動物性集合胚の胎内移植によるヒト生殖細胞の作成に関して:�
まとめと考察(2)�
その上で、慎重を期す場合、ブタ等大型動物とヒト間キメラでは、中内らの方法
(組織特異的転写因子の発現)に従い転写因子の発現などにより誘導する細胞種
を限定する方法、あるいは生殖細胞の発生に必須な遺伝子(Nanos3, Prdm9
など特異的遺伝子が多く存在する)をあらかじめ破壊しておく方法が考えられる。
さらに、諸外国同様、交配を禁止すれば問題はないと考えられる。
「ヒトiPS細胞またはヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する
指針」に従い作成されうる生殖細胞と、動物性集合胚の作成により生成されうる
生殖細胞に、本質的な差異は無いと考えられる。後者は、動物に統合された形で
形成される可能性はあるが、上述したように交配を禁止すれば問題はないと考え
られる。
人の尊厳に影響を及ぼさない動物性集合胚研究として、現時点の私見としては、
全身性キメラとなる場合はヒト発生14日に相当する付近まで(改めて議論する
価値のある問題と考える)、それ以降は、目的とする臓器・組織に限定した研究が
適切ではないか。この場合も神経系や生殖細胞(生殖巣)に関しては注意を要する
ので、所属機関の倫理委員会などで適切に審査するべきである。