ウイルスの増殖と細胞内酵素の関係 The relationship between virus growth and host cell protease （農学部共同獣医学科/獣医衛生学）中島勝紘（国立感染症研究所）酒井宏治北沢実乃莉 *竹原一明 *連絡先 E-mail: [email protected] 1．背景と目的 A 型インフルエンザウイルスと B 型インフルエンザウイルスは表面にヘマグルチニン（HA）タンパク質とノイラミニダーゼ（NA）タンパク質を持っている。これらのウイルスが、細胞内で増殖するためには HA タンパク質が酵素（プロテアーゼ）により開裂され、活性化することが必須である。人や動物にウイルスが侵入した際、どのプロテアーゼが HA タンパク質を開裂するのかはまだ特定されていなかった。今回、我々は培養細胞を用いて HA タンパク質を開裂し活性化させることが証明されている幕貫通型プロテアーゼ TMPRSS2 に焦点を当て、TMPRSS2 を発現しないマウス（KO マウス）と通常のマウス（WT マウス）を用い感染実験を行った。 http://www.vetmed.hokudai.ac.jp/organization/microbiol/influ1.htmlより 2．方法 TMPRSS2 遺伝子をノックアウトしたマウス（TMPRSS2 KO マウス）と TMPRSS2 遺伝子を発現している通常の野生型マウス（WT マウス）への A 型及び B 型インフルエンザウイルスの経鼻感染を行い、ウイルス学的解析を行った。 3．結果及び考察季節性インフルエンザウイルス（H1N1、 H3N2）の TMPRSS2 KO マウス感染肺内でのウイルスの増殖性は WT マウスに比べると非常に低く、病原性がほとんど無くなっていた。B/Ibaraki/MA 感染において、 TMPRSS2KO マウスと WT マウスの間で、致死および体重減少の推移に有意な差は認められなかった。本結果から、マウス生体内で、B 型インフルエンザウイルスには TMPRSS2 以外のプロテアーゼによる影響が病原性に関与していると考えられた。