演題番号:32 演題名:内視鏡生検材料を用いたリンパ球クローン性解析

演題番号:32
演題名:内視鏡生検材料を用いたリンパ球クローン性解析
発表者氏名:○奥田 優 1) 山本祥文 1) 金子直樹 1) 平岡博子 1) 板本和仁 2)
発表者所属:1) 山口大学農学部獣医内科 2) 山口大学農学部獣医外科
水野拓也 1)
1. はじめに:リンパ系腫瘍は犬において最も発生頻度の高い悪性腫瘍の一つであり、消化器原発の消化器型リン
パ腫は犬のリンパ腫の 5∼7%の割合で発生するとされる。消化器型リンパ腫の確定診断には開腹手術下での楔状
生検材料による病理組織学的検査が適切とされ、内視鏡生検材料を用いたリンパ腫の診断は一般的に困難であると
されてきた。近年、少量の材料から解析が可能な polymerase chain reaction (PCR) 法を用いた犬リンパ系腫瘍のクロ
ーン性解析法が報告され、臨床的に有用である可能性が示唆されている。そこで本研究では、消化器型リンパ腫、
ならびにその他の消化器疾患に罹患した症例の内視鏡生検材料に対して、PCR 法を用いた犬リンパ系腫瘍のクロー
ン性解析を行い、内視鏡生検材料に対する本法の有用性を明らかにすることを目的として研究をおこなった。
2. 材料および方法:79 症例より得られた胃、十二指腸、結腸の内視鏡生検材料から DNA を抽出し、PCR 法を用
いて IgH 遺伝子と TCR 遺伝子をそれぞれ増幅し、クローン性解析を行った。また、病理組織学的にリンパ腫と診
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断されなかった 71 症例に対して PCR の結果と予後に関連があるかについてχ 検定を用いて解析した。
3. 結果および考察:病理組織学的検査においてリンパ腫またはリンパ腫疑いと診断された 8 症例のうち 7 症例は
PCR で陽性を示し (IgH 1 症例、TCR 6 症例)、1 症例は陰性を示した(陽性率 87.5%)
。一方、病理組織学的にリン
パ腫と診断されなかった 71 症例のうち、5 症例が TCR 遺伝子にクローン性を示した。この中には、内視鏡による
生検と試験開腹による全層生検を同時に行った症例も含まれており、後者の病理組織学的検査ではリンパ腫であっ
た症例も含まれていた。また、病理組織学的検査でリンパ腫と診断されなかった 71 症例の生存期間と TCR 遺伝子
のクローン性の結果を統計学的に解析したところ、TCR 遺伝子のクローン性を示した症例では示さなかった症例に
比較して有意に予後が悪かった。内視鏡生検材料を用いた病理組織学的検査ではリンパ腫を診断できなかった可能
性も考えられるが、少なくとも PCR 解析で TCR 遺伝子のクローン性が認められた場合には予後が悪いことが明ら
かとなった。以上の結果から、内視鏡生検材料を用いた PCR 解析は病理組織学的検査で診断することが困難なリ
ンパ腫症例を検出できる可能性があり、また TCR 遺伝子のクローン性の証明は予後不良因子として臨床的に有用
であると考えられた。