鹿児島大学医学部

 鹿児島大学 KAGOSHIMA UNIVERSITY
国立大学法人鹿児島大学広報センター 〒890-8580 鹿児島市郡元 1-21-24 電話 099-285-7035 FAX 099-285-3854 E-mail: [email protected] URL:http://www.kagoshima-u.ac.jp/ NEWS RELEASE (2015年7月21日) タイトル: ヒト iPS 細胞での再生医療で最重要克服課題の腫瘍化を「直接的」に阻止
する新技術 —腫瘍化原因細胞を特異的に殺傷する世界初かつ臨床化準備
中の遺伝子組換えウイルス—
報道各社各位
本学の報道に関しては大変お世話になっております。
このたび、本学の大学院医歯学総合研究科の小戝健一郎教授、三井薫講師らが、革新的がん
治療薬として独自開発を進めてきた m-CRA(多因子で精密にがん細胞を特異標的して治療す
る増殖制御型アデノウイルス)技術を応用することで、ヒト iPS 細胞などのヒト多能性幹細胞
を用いた再生医療の臨床応用において安全面での最重要の克服課題となっている「腫瘍化(が
ん化細胞だけでなく奇形腫も)」を「直接」阻止する新技術を開発しました。これは、腫瘍化の
可能性を減弱させるという従来の「間接的」な技術とは違い、「『腫瘍化原因細胞』である混在
する未分化細胞(奇形腫の原因)を特異的に殺傷・除去することで腫瘍化を『直接』阻止する」
という新しい戦略です。しかも「腫瘍化原因細胞(未分化細胞)の中だけで増殖し、その細胞
だけを特異的に殺傷する遺伝子組換えウイルス技術」の開発の報告は世界初であり、科学的に
も独創先駆性が極めて高い研究成果です。さらに本研究で特に高い効果を示したサバイビン依
存性 m-CRA(Surv.m-CRA)は、本学・本邦発のがんへの革新的なウイルス医薬として実用化
を目指した医師主導治験を本年度開始する予定であるように、臨床用の製剤としても開発を進
めている(2015年5月20日:別紙2本学プレスリリース参照)ものです。世界初のヒト
iPS 細胞での再生医療の臨床応用が本邦で行われ、安全性の点で腫瘍化が懸念される問題とし
てクローズアップされていますが、Surv.m-CRA は再生医療の臨床応用での問題克服にも早急
に対応できる可能性も持つため、今回の成果は再生医療の分野において臨床的にも高い価値を
持つものです。
<ポイント> ・ ヒト iPS 細胞での再生医療の安全な臨床応用に関して、腫瘍化(発がん、奇形種)の克服
は最重要課題である。この問題への従来の戦略は「間接的」な腫瘍化抑制のため、完全に
は克服できない可能性がある(臨床的には極めて重要な懸念)。
・ 本研究は、
「腫瘍化原因細胞を特異的に殺傷・除去する」という「直接的」腫瘍化阻止技術
という新しい戦略の開発であり、中でも「腫瘍化原因細胞の中だけで増殖して殺傷する遺
伝子組換えウイルス技術」は世界初の報告である。
・ これは、革新的ながん治療薬として独自開発を進めてきた m-CRA(多因子で精密にがん細
胞を特異標的して治療する増殖制御型アデノウイルス)の応用により開発したものである。
特に本研究でも高い効果を示したサバイビン依存性 m-CRA (Surv.m-CRA)は、本学・本邦
発のがん治療薬の実用化に向けた医師主導治験を本年度開始する予定であるため、再生医
療への早期の臨床応用も期待できる。
<今回の成果の学会発表予定> 小戝研究室では「革新的ながんへのウイルス医薬(遺伝子治療)」等のバイオ研究とその実用
1 化への取り組みと併せて、
「多能性幹細胞での再生医療での腫瘍化を直接阻止する完全オリジナ
ル技術の開発」の研究に一貫して取り組んできました(別紙1の図を参照)。本技術(後述の研
究内容③)、もう一つの新技術(別のウイルスベクター技術:後述の研究内容②)、そして
Surv.m-CRA のがん治療薬としての開発の状況について、7 月 24〜26 日に大阪国際会議場で開
催されます、第 21 回日本遺伝子治療学会学術集会(http://www.conet-cap.jp/jsgt2015/)にて、以
下の3演題として発表いたします。 1. 腫瘍化原因細胞を特異的に殺傷する m-CRA)技術(今回の主発表の技術、後述の研究内
容③)
:演題名; ”Conditionally replicating adenovirus kills tumorigenic pluripotent stem cells” 三井薫 他、2015 日 7 月 25 日(土)9:00-9:50. Oral Session I (OR-16). 大阪国際会
議場 12F 第 2 会場(1202 会議室)
2. 腫瘍化細胞を特異的に同定(可視化)・殺傷するレンチウイルスベクター(Tumorigenic
Cell-targeting Lentiviral Vectors: TC-LVs) ( 後 述 の 研 究 内 容 ② ): 演 題 名 ; ”An efficient
construction of lentiviral vectors that identify and eliminate tumorigenic cells in pluripotent stem
cells” 井手佳菜子 他、2015 年 7 月 25 日(土)17:20-18:20. Poster Session II-1 (PO-73).
大阪国際会議場 12F ポスター会場 (特別会議場前)
3. Surv.m-CRA のがん遺伝子治療:演題名; ” Development of the original survivin-responsive
conditionally replicating adenovirus toward the investigator-initiated GCP clinical trial” 小戝健
一郎、7 月 24 日(金)13:00-14:30 シンポジウム1「悪性腫瘍に対するウイルス療法の臨
床展開に向けて」. 大阪国際会議場 Hall 1
* 本技術(研究内容③)の論文は(今回の学会発表に論文出版が間に合わなかったので雑誌
名などの詳細は述べられませんが)既に国際的専門誌に印刷中であり、近く論文としても
発表(併せて同号で重要な論文として取り上げられる)予定です。 * 取材を希望される場合は、本件お問い合わせ先へご連絡ください。 <本件お問い合わせ先> 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 遺伝子治療・再生医学分野 小戝健一郎
〒890-8544 鹿児島市桜ヶ丘8丁目 35-1 TEL:099-275-5219 FAX:099-265-9721
2 研究の背景と内容の詳細 <この分野の研究の背景とこれまでの問題点> l 腫瘍化は臨床応用の最大の克服課題 多能性幹細胞である胚性幹細胞(ES 細胞)や人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は、私達の体を構成
するすべての細胞や組織になる能力を持つと考えられており、再生医療における革新的な医
療・医薬創出の基盤ツールとして期待されています。一方で、これらの再生医療(多能性幹細
胞から作った目的細胞の移植療法)の臨床応用において、得られた分化細胞の中に残存する腫
瘍化原因細胞(未分化細胞やがん化細胞)からの腫瘍化(奇形腫発生や発がん)の危険性は依
然残っており、この腫瘍化阻止は最重要の克服課題です。
l 従来の対処戦略の限界 これまでに研究発表された腫瘍化阻止の戦略は、①iPS 細胞の作製・樹立方法の改良(リプ
ログラミング遺伝子の選択:がん遺伝子を除く等、遺伝子導入方法の検討:染色体を傷つけな
い、腫瘍化しにくい細胞種を選択、細胞培養方法の検討により培養中の遺伝子変異を少なくす
る、など)、②複数の遺伝子発現あるいは全ゲノム配列の検査等による「安全な iPS 細胞の選
択」、③分化方法の改良による腫瘍化原因細胞となる未分化細胞の混在の減少、といったあくま
で「間接的」な抑制の戦略でした。これらは危険性の減少という点では有用である一方で、多
能性幹細胞のそもそもの本質(自己増殖、多能性など)に基づく腫瘍化の可能性には対処する
ものではないため、少量でも混在した未分化細胞の混在から奇形種が発生する可能性は完全に
除去できません。また多能性幹細胞は培養中に遺伝子変異が起こりやすいことが知られており、
一旦安全な細胞を選択して株化したとしても、将来的に臨床用に大量に培養している途中で変
異が起こらないか、その培養を続けた全ての多能性幹細胞が安全な細胞から変化していないか
までは、保証できません。また最近、ヒト iPS 細胞から遺伝子の変異によらない発がんも起こ
り得るという研究結果も出されています。
l 幹細胞での遺伝子細胞治療での教訓 この点で遺伝子細胞治療の研究と臨床応用の歴史は教訓となると思われます。つまり、基礎
研究や動物での前臨床研究(安全性非臨床試験)では腫瘍化が起こらないということが十分確
認されて行われた臨床研究において、実際のヒト患者さんでは発がんが高頻度で起こったとい
う事実があります。よって従来の戦略に基づいた研究開発ももちろん重要ではある一方、この
ように全く新しい多能性幹細胞を用いた細胞治療などにおいては、基礎研究や動物での前臨床
研究の結果は、実際のヒトでの臨床試験で腫瘍化が本当に起こらないかまでは完全に保証でき
ない可能性がある以上、さらに優れた方法、特にこれまでにない「直接的な腫瘍化阻止技術」、
つまり「腫瘍化の原因となる細胞(混在する未分化細胞、あるいはがん化細胞)を特異標的し
て殺傷する」という新戦略に基づく新技術の開発は必須です。
<今回の研究成果:特に③について> 小戝教授の研究グループは、これら間接的な抑制法とは一線を画す技術として、独自に開発
したウイルスベクターによる「直接的」阻止技術を、次の三つの戦略・新技術を開発してきま
した(別紙1の図を参照)。
① 目的細胞の単離技術—Adenoviral Conditional Targeting in Stem Cell (ACT-SC 法)
(既報告)
: 一つ目の新戦略、いかなる目的細胞でも単離・純化を行う新技術です。2006 年に米国遺
伝子細胞治療学会の学会誌「Molecular Therapy」(我々の原著論文と併せて、その号の
最重要論文が選ばれる表紙にも選ばれ、さらに同号のニュース欄でもこの技術の重要性が
取り上げられました)で発表したアデノウイルスベクターを用いた多能性幹細胞からの目
3 的細胞の単離技術(Adenoviral Conditional Targeting in Stem Cell: ACT-SC 法)です。この
技術を用いることにより、目的細胞において発現している遺伝子を指標として、いかなる
目的細胞でも単離・純化を行うことができます。目的細胞だけを移植できることによる治
療効果の向上だけでなく、腫瘍化原因細胞を除去することでの安全性の向上が期待できま
す。
② 腫瘍化原因細胞を特異的に同定(可視化)
・殺傷するレンチウイルスベクター(Tumorigenic
Cell-targeting Lentiviral Vectors: TC-LVs): 二つ目の新戦略は、「腫瘍化原因細胞を特異
的に殺傷する」ものです。その戦略の一つ目の新技術として、今回学会発表を行う「腫瘍
化原因細胞を特異的に同定(可視化)・殺傷するレンチウイルスベクター」(Tumorigenic
Cell-targeting Lentiviral Vectors: TC-LVs)を開発しました。TC-LVs は、可視化のため
の蛍光タンパク質と細胞殺傷のための自殺遺伝子の二つの遺伝子を同時に発現させるこ
とが可能です。さらに今回の技術における特筆すべき工夫は、最適の腫瘍化原因細胞標的
プロモーター(つまり未分化細胞だけを厳密に特異化する「特異性」と、可視化や自殺遺
伝子を十分機能させるためのプロモーター「活性」の両者を備え持つものが必要ですが、
そのようなレベルでの解析はこれまでなされていません)を網羅的解析・同定できるよう
に、候補となる発現制御プロモーターを簡単にこのベクターに搭載できるような、迅速効
率的な作製法を開発しました。つまりこの TC-LVs 技術により最適な腫瘍化標的プロモー
ターの網羅的解析・同定が可能となり、最終的に同定した最適の腫瘍化原因細胞標的プロ
モーターを搭載した TC-LVs は多能性幹細胞の腫瘍化原因細胞を特異的に同定・可視化し
殺傷する最適のツールとなることが期待されます。
③ 腫瘍化原因細胞(未分化細胞)の中だけで増殖し、その細胞だけを特異的に殺傷する世界
初の遺伝子組換えウイルス(m-CRA)技術(今回の主発表): 二つ目の新戦略「腫瘍化
原因細胞を特異的に殺傷する」における二つ目の新技術が、今回の報告である、科学的な
革新性と臨床的な重要性を併せ持つ、腫瘍化原因細胞を特異的に殺傷除去する制限増殖型
ウイルスの m-CRA 技術です。これについて、以下に詳細を記載します。
l 革新的がん治療薬としての m-CRA 技術と Surv.m-CRA 開発の背景と現状:
今回、多能性幹細胞の腫瘍化原因細胞を特異的に殺傷・除去する技術となったのが、
小戝教授が革新的ながん治療薬として開発してきた m-CRA 技術であり、またその技術で
開発された Surv.m-CRA ウイルス医薬です。
世界的にも開発・実用化が期待されている革新的ながん治療薬は、遺伝子治療の遺伝
子組換えウイルスベクター技術を発展させたがん細胞のみで特異的に増殖する「腫瘍溶
解性ウイルス」で、その一つが制限増殖型アデノウイルスベクター(CRA)です。小戝教授
は、まず迅速・効率的にアデノウイルスの遺伝子を複雑・高度に組換え(作り変え)で
き、従来の CRA の性能を越える次世代の「多因子で精密にがん細胞を特異標的して治療
する CRA(m-CRA)」の基盤技術を独自開発することに成功しました(Nagano et al, Gene
Ther, 2005,国内・国際特許取得)。完全オリジナルの迅速・効率的な m-CRA 作製技術
で複数の m-CRA を作製・解析し、その中で特に治療効果と安全性が優れていたのが、正
常細胞ではほとんど発現せず、がん特異的に高発現しているサバイビン(Survivin)に反
応してウイルスが増殖しがんを殺傷する Survivin 依存性 m-CRA(Surv.m-CRA)でした
(Kamizono et al, Cancer Res, 2005、国内・国際特許取得)。Surv.m-CRA はアデノウ
イルスの増殖に必須の E1A 遺伝子の発現制御に Survivin プロモーターを用いているた
め、Survivin の発現に反応してウイルスが増殖します。Surv.m-CRA は比較実験でも従
来の CRA よりも優れたがん治療効果と安全性を示し、また従来の抗がん剤や放射線治療
が効果を示さない「がん幹細胞」にはむしろ治療効果が増強するなど、革新的ながん治
療薬として開発と実用化が期待されています。臨床用の GMP 製剤の製造、GLP 基準で
非臨床安全性試験などの前臨床研究も着実に進め、本年度(平成 27 年度)、本学(アカ
4 デミア)発のオリジナルの医薬として、世界で初めて患者さんに投与する First-in-human
の医師主導治験を本学(鹿児島大学)で実施予定です(本件については、2015年5
月20日:別紙2本学プレスリリース参照)。
l
多能性幹細胞の腫瘍化原因細胞を特異的に殺傷・除去する新技術の内容 小戝教授、三井講師は、がん細胞だけを特異標的殺傷できる m-CRA 技術を応用するこ
とで、
「多能性幹細胞の腫瘍化原因細胞(未分化細胞、がん化細胞)を標的治療する新技
術」を開発できるのではないかと発想し、実験を行いました。
まず、がん細胞で高発現している Survivin と Tert(テロメア逆転写酵素)について、
内因性遺伝子の発現とプロモーター活性を調べたところ、ヒト ES 細胞とヒト iPS 細胞
において、未分化状態特異的に極めて高値を示し、さらに未分化状態のヒト ES 細胞とヒ
ト iPS 細胞において、Survivin プロモーターは Tert プロモーターよりも高い活性を示し
ました。これまで Tert はがん細胞に限らず、正常でも特殊な未分化細胞(例えば胚細胞)
などでは高値を示していることを示唆する報告はありましたが、Survivin はがんでは研
究がなされていますが、正常の未分化細胞で特異的に高発現しているという明確な報告
はありませんでしたので、Survivin プロモーターが正常細胞のヒト ES 細胞とヒト iPS
細胞でも未分化状態で極めて特異的に、それも極めて高レベルで活性化するというのは
予想していない結果でした。そこで次に、アデノウイルスの増殖に必須の E1A 遺伝子の
発 現 制 御 に Survivin プ ロ モ ー タ ー お よ び Tert プ ロ モ ー タ ー を 用 い た m-CRA
(Surv.m-CRA および Tert.m-CRA)を未分化状態のヒト ES 細胞とヒト iPS 細胞に感
染させたところ、アデノウイルスの旺盛な増殖と強力な細胞殺傷効果を示し、特に
Surv.m-CRA は優れた殺傷効果を示しました。一方分化細胞あるいは正常細胞において
は、アデノウイルスは感染しますが、ウイルス増殖および殺傷効果はほとんどみられま
せんでした。さらに「未分化細胞特異的な殺傷効果」を正確に検証するため、赤色蛍光
タンパク質を発現するヒト ES 細胞とヒト iPS 細胞と分化した正常細胞との共培養にお
いて詳細な検討をしたところ、未分化なヒト ES 細胞とヒト iPS 細胞に特異的な殺傷効
果(正常細胞は障害しない)を示しました。つまり本研究で用いた m-CRA は感染細胞を
可視化するために、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現カセットを組み込んでいるため、
m-CRA 感染細胞は蛍光顕微鏡下では緑色を示します。ヒト ES 細胞は赤蛍光を発現して
いますが、m-CRA 感染群では、赤色を示す細胞はほとんど残存しておらず、緑色/赤色
の両方を示す細胞も見られませんでした。一方、正常細胞(核のみが青く染まっている
細胞)では、緑色を示す細胞がありますが、形態的な変化は観察されませんでした。こ
れは、m-CRA は未分化なヒト ES 細胞とヒト iPS 細胞と分化した正常細胞との両方に感
染したこと、しかしヒト ES 細胞とヒト iPS 細胞でのみ特異的に増殖し、その未分化細
胞だけを特異的に殺傷できたことを示します。最終的に、m-CRA を感染させたヒト ES
細胞を移植したマウスの実験(in vivo の移植実験)では、奇形腫の発生が完全に阻止で
きることも確認できました。以上のことから、革新的ながん治療薬の技術として開発し
た m-CRA 技術、そしてその技術で開発した医薬の中でも特に優れ、がん治療薬として実
用化を目指している Surv.m-CRA が、分化細胞中に残存する腫瘍化原因細胞を直接的か
つ特異的に標的として殺傷するという「全く新しい多能性幹細胞の直接的腫瘍化阻止技
術」にもなることを、今回の研究で開発することに成功しました。
<今回の成果の意義と今後の展開> l
科学的研究: 「腫瘍化原因細胞を特異的に殺傷・除去する」という「直接的」腫瘍化阻止技術という
戦略自体がこれまでほとんど報告がなく、さらに今回の「腫瘍化原因細胞の中だけで増殖
して殺傷する遺伝子組換えウイルス技術」は(m-CRA に限らず)世界初の報告であり、
科学的な独創先駆性は高いものです。また国際特許も申請しており、本邦発のシーズとし
て知財確保できているので、今後の本邦発の再生医療の研究・実用化に活用していただけ
5 ます。
今後は今回の基盤技術開発の成果を元に、様々な発展的な技術開発や新シーズの創出が
期待できます。例えば本研究で用いた m-CRA は標的細胞を可視化するために、GFP を搭
載していますが、GFP の代わりに治療遺伝子を搭載することで、さらに腫瘍化原因細胞
の殺傷性や腫瘍特異性を向上させることができると期待されます。また TC-LVs 法での解
析などで、未分化状態で特異性が優れ高活性を示す遺伝子プロモーターを新規同定できれ
ば、これを m-CRA 技術に導入して、新規の「多能性幹細胞の腫瘍化原因細胞を特異的に殺
傷・除去する新しい m-CRA」が次々に開発できると思われます。 l
臨床的意義:
本研究において、優れた効果を示した Surv.m-CRA は、がんへの革新的医薬として、
実用化を目指した医師主導型治験を本年度から計画しています。つまり治験レベルでの臨
床用 GMP グレードの m-CRA も製造、試験などが進められていることからも、再生医療
の分野の臨床応用にも比較的迅速に対応できる可能性を持っています。
m-CRA 技術の基本特許、Surv.m-CRA の物質特許も国内・国際特許共に取得できてお
り、また本研究も国内・国際特許出願していることから、知財の確保も万全です。よって
今後、本邦発の様々なヒト iPS 細胞を用いた再生医療の実用化においても、本技術を用い
てより安全な医療として実用化していくことが可能です。
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