微量RNAサンプルを用いたMegasort® による遺伝子発現解析

i nnovation
微量 RNA サンプルを用いた Megasort
による遺伝子発現解析
®
―プラナリア再生関連遺伝子のスクリーニング―
DNAマイクロビーズを用いた遺伝子発現解析 Megaclone®・
Megasort
® 1)
(10 ng)をそれぞれ RiboAmpTM RNA Amplification Kit のプロ
は、配列の既知・未知に関わらず100 万種類以
トコールに従って1 回増幅した後、3′
末端にT7プロモーター
上の cDNAをそれぞれ異なるビーズ上に固定化して解析でき
が付加されたcDNA に変換した。次に、得られた各サンプル
るため、配列情報が少ない生物種においても網羅的な発現解
由来のcDNA を、RNA Transcript SureLABELTM Core Kit を
析が可能な優れたスクリーニング方法です。Uni-Length 法
用いてFluorescein、CyTM5 でそれぞれ標識し、蛍光プローブ
の採用により網羅性および遺伝子アノテーション能が向上し、
(A)を調製した。
さらに高い評価をいただけるようになりました(BIO VIEW
一 方 、total RNA を 増 幅 せ ず に 用 い る 場 合 で は、RNA
44 号、44∼45 ページ参照)
。
Transcript SureLABELTM Core Kit を直接用いて、total RNA
今回は、微量の RNAしか得られない場合の Megasort 解析
10 µg から蛍光標識プローブ(B)を調製した。
例をご紹介します。
なお、Megaclone® マイクロビーズは、Uni-Length 法で調製し
たヒトReady made DNA マイクロビーズ(HL - 60、Quick Sort
■解析例1:増幅 RNAを用いた Megasort® の有効性の
用)を用いた。
®
確認
Megasort® では、各サンプルから調製したMegaclone® マイク
ロビーズ上で蛍光標識プローブを競合ハイブリダイゼーション
させた後、セルソーターで蛍光強度の差があるビーズを分取
することにより、サンプル間で発現差のある遺伝子の cDNA
断片を回収します。しかし、サイズの小さい検体サンプルや
レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)サンプ
ルのように微量の RNA しか得られない場合、通常の標識方
【結果】
total RNA(10 ng)を増幅して調製した蛍光標識プローブを
用いた場合(図 1-A)
と、total RNA(10 µg)から直接調製した
蛍光標識プローブを用いた場合(図 1-B)では、ほぼ同等のセ
ルソーター解析図が得られました。なお、ここには示しませ
んが、total RNA 100 ng を増幅して調製したプローブの場合
も、同様な結果が得られています。
法では十分な蛍光強度を得ることができません。このような
場合には増幅 RNA を用いるのが有効です。
(A)
(B)
104
104
103
103
れの標識プローブを用いてMegasort® を行い、それらのセル
102
101
FL4
ブを用いた場合で同等なMegasort 解析パターン(セルソー
ター解析像)が得られるかどうかを確認するために、それぞ
TPA 添加サンプル
®
FL4
用いた場合と、total RNA を増幅せずに調製した標識プロー
TPA 添加サンプル
本実験では、total RNA を増幅して調製した標識プローブを
102
101
ソーター解析像を比較しました。
なお、RNA の増幅には、ng 単位の微量なtotal RNA サンプル
100
100
から µg 単位のアンチセンス RNA(aRNA)を得ることができ
る RiboAmpTM RNA Amplification Kit を用いました。また、
RNA からの蛍光標識プローブの調製には、RNA Transcript
SureLABELTM Core Kit を用いました。
101
102
103
104
100
100
101
102
103
FL1
FL1
TPA 非添加サンプル
TPA 非添加サンプル
104
図1 RNA を増幅した場合としなかった場合の Megasort® プロット
の比較
(A)10 ng のtotal RNA から増幅して調製したプローブの場合
(B)10 µg のtotal RNA から調製したプローブの場合
【方法】
モデル実験として、好中球様分化 HL - 60 細胞に TPA(12-O -
これらの結果から、得られる RNA 量が微量な場合、増幅
tetradecanoylphorbol 13-acetate)を添加して変動する遺伝子
RNA を用いてMegasort®を行うことが有効であることが確認
のパターンを調べる Megasort 解析を、total RNA を増幅し
されました。増幅 RNA を用いたMegasort® の例として、プラ
て調製した標識プローブ(A)と total RNA を増幅せずに調製
ナリア再生関連遺伝子をスクリーニングした例を次にご紹介
した標識プローブ(B)を用いて行った。
します。
®
まず、各サンプル(TPA 添加、非添加サンプル)の total RNA
24
●
BIO VIEW No.47
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■解析例2:プラナリア再生関連遺伝子のスクリーニング
表1 Megasort® とリアルタイム RT-PCR 結果の比較
プラナリアは、切断してもそれぞれの断片が個体に再生する
遺伝子
高い再生能を持つことから、幹細胞システムの研究に使用さ
Cluster ID
UP
15
○
+
+
+
51
○
+
+
+
60
○
±
±
+
80
○
れています。そこで、プラナリアを切断後、経時的にサンプ
リングした再生過程にあるプラナリアから total RNA を調製
し、解析例 1 の微量 RNA 増幅法を用いて増幅 RNA を調製
し、それらをサンプルとして Megasort® を行い、再生過程で
変動を示す遺伝子をスクリーニングしました。また、得られ
た遺伝子の一部についてリアルタイムRT-PCR により発現量
を検証しました。
リアルタイムRT-PCR *2
Megasort®*1
DOWN グループ I
グループ II グループ III
++
++
++
3
○
−
−
−
34
○
−
−
−
65
○
−
−
−
【方法】
5
○
○
±
−
±
(1)プラナリアからの total RNA の調製
9
○
○
±
+
±
20
○
○
1 週間絶食させた体長 5 ∼ 7 mm 程度のプラナリアを 6 つに
切断し、0.5、1、3、6、12、24、36、72 時間飼育した後、それ
ぞれ 5 匹分からtotal RNA を抽出した。得られた各 total RNA
はコントロール(切断前)
、グループ I(0.5、1、3、6 時間)
、グ
*1 ⃝印は、3 つのグループのいずれかにおいて、発現の上昇(UP)あるいは
抑制(DOWN)が観察された遺伝子を示す。
*2 +:発現量増加;−:発現量減少
ループ II(12、24 時間)
、グループ III(36、72 時間)の 4 サン
プルにまとめ、以下の解析に用いた。
(A)
(B)
104
104
103
103
®
間で Megasort を行い、それぞれ再生過程で発現上昇(UP)
102
FL4
FL4
ブを用いて、コントロールに対して各再生過程サンプルとの
コントロール
各 total RNA 約 30 ng から増幅して調製した蛍光標識プロー
グループ I
UP
(2)Megasort®
101
102
101
あるいは発現抑制(DOWN)
している領域にゲートを設定し、
ゲ ート 内 に プ ロットさ れ る ビーズ を 回 収 し た 。 な お 、
Megaclone® マイクロビーズはBrennerらの方法に従って調製
DOWN
100
100
101
102
103
104
100
100
101
102
FL1
FL1
コントロール
コントロール
103
104
し、各プローブと同じサンプル由来のビーズを等量ずつ混合
して用いた。得られたビーズからcDNA を回収し、再生過程
で UP あるいは DOWN として得られた cDNA から576 クロー
ンずつをシーケンスし、得られた配列をクラスタリング後、
図2 プラナリア再生関連遺伝子のスクリーニング
(A)コントロール実験
(B)コントロール vs グループ I
UP、DOWN の各ゲートに入るビーズを回収した。
NCBI の公開データベースに対してホモロジー検索した。
回収されたビーズ上のcDNA のシーケンス解析により、合計
(3)リアルタイム RT-PCR
Megasort® で複数個の配列が得られたクラスター形成遺伝子
のうち、コンセンサス配列から弊社 Perfect Real Time サポー
トシステムのノウハウによってプライマーが設計可能であっ
た 12 個の遺伝子について、SYBR® RT-PCR Kit(Perfect Real
Time)および Smart Cycler® II System を用いたリアルタイム
RT-PCR により各サンプル中の発現量を調べた。なお、便宜
上、得られたデータは、Megaclone® 作製用ライブラリーでい
ずれのサンプルからも検出された Cluster ID 20 の遺伝子を
基準として各サンプル量を標準化し、各遺伝子の発現量は
それぞれ切断前のコントロールの値と比較して+(上昇)あ
るいは−(抑制)として表示した(表 1)
。
【結果】
942クローンの配列が得られ、クラスタリングの結果、89 個
のクラスターと120 個の Singlet の約 210 種類の遺伝子が得
られました。その中には、ヒートショックタンパク質、転写
因子、細胞骨格、タンパク質合成に関わるタンパク質などに
相同性を示す遺伝子がいくつか見いだされました。ただし、
プラナリアでは遺伝子解析が比較的進んでいないこと、およ
び Brennerらの方法で調製した Megaclone® マイクロビーズ
(3′
末端側 GATC から Poly(A)までを固定)を用いたことな
どから、有効なアノテーションが得られた遺伝子は約 1 割で
あり、残りの多くは機能未知の新規配列と考えられました。
そこで、さらに信頼性の高い発現量に差がある遺伝子を絞り
込むため、Megasort® で得られた遺伝子のうち 12 個につい
て、リアルタイムRT-PCR によりサンプル中の各遺伝子の発
それぞれ 5 匹のプラナリアからは10∼20 ng のtotal RNAしか
TM
現量を調べました。表 1 に示したように、対象とした遺伝子
得られなかったので、RiboAmp RNA Amplification Kit を用
のうち 10 個で良好な PCR 増幅が見られ、Megasort® で観察
いて増幅した後、再生過程で変動する遺伝子を3 パターンの
された発現量の変化とリアルタイムRT-PCR の結果はほぼ一
Megasort でスクリーニングしました。結果の一例として、コン
致しており、微量の RNA サンプルでも Megasort® 解析が可
トロール vs グループI のMegasort®プロットを図 2 に示します。
能であることが確認されました。
®
BIO VIEW No.47 ●
25
i nnovation
【参考文献】
■おわりに
今回ご紹介した実験では、微量の RNAしか得られないサン
プルでも、RNA 増幅を行うことによりMegasort® 解析を行え
ることが確認できました。一般的に、公開データベース上で
遺伝子情報があまり得られない生物種では、Megasort® で得
られた遺伝子に有効なアノテーションが得られない場合も多
く、その後の解析が難しい場合もあります。しかし、現在の
Megasort®では、Uni-Length法(3′
末端側約 400∼600 bpを固
®
定)によるMegaclone マイクロビーズを採用しており、解析
鎖長が長くなったことによりアノテーションが得やすくなっ
ています。例えば、綿花 ESTを用いたシミュレーションでは、
Blastxで他生物種の遺伝子との相同性から機能が推測され
る配列は、従来法では 20%に対し、Uni-length 法では 50%に
増加するとの結果が得られています。したがって、現在の
Uni-length 法を用いたMegasort® では、多くの生物種で有効
な発現解析が期待できます。
また本稿では、Megasort® で絞り込まれた遺伝子の発現を
リアルタイムRT-PCR で 1 つずつ確認していく方法について
ご紹介しましたが、これとは別に、Megasort® によって絞り
込まれた遺伝子から Functional DNA チップを作製し、それ
を用いてさまざまな条件における対象遺伝子の発現変動を
網羅的に調べることも可能です。弊社では、Functional DNA
チップの作製・解析受託も承っており、皆様の遺伝子発現
解析研究をトータルにサポートいたしております。
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BIO VIEW No.47
1)Brenner S. et al.(2000)Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 97, 1665-1670.
■本稿でご紹介した製品
・RiboAmpTM RNA Amplification Kit
Code AL301
10 回
¥90,000
・RNA Transcript SureLABELTM Core Kit
Code TX815
Code TX815S
20 回
¥67,000
5回
¥22,000
・SYBR® RT-PCR Kit(Perfect Real Time)
Code RR045A
200 回
¥60,000
・Smart Cycler® II System 基本システム
Code SC200N
本文中の製品に該当するライセンス確認事項は 52ページをご覧ください。
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