◆ はじめに ◆ み な さ ん , こ ん に ち は。 マ セ マ の 馬 場 敬 之 ( ば ば け い し ) で す 。 大 学 数 学「 キ ャ ン パ ス・ゼミ」シリーズに続き,大学物 理 学「 キ ャ ン パ ス・ゼ ミ 」 シ リ ー ズ も 多 く の 方 々 に ご 愛 読 頂 き, 大 学 物 理 学 の 新 た な ス タ ン ダ ー ド と して 定 着 し て き ているようです。 そ し て 今 回 , 『解析力学 キャンパス・ゼミ 改 訂 1 』 を 上 梓 す る こ と が 出 来 て , 心 よ り 嬉 し く 思 っ て い ま す。 こ れ は, 解 析 力 学 に つ い て も, 本 格 的 な内容を分かりやすく解説した参考書を是非マセマから出版して欲しいと いう た く 山 の 読 者のご要望にお応えしたものな の で す 。 解 析 力 学 と は, ニ ュ ー ト ン 力 学 を ラ グ ラ ン ジ ュ の 運 動 方 程 式 や ハ ミ ル ト ン の 正 準 方 程 式 に よ り, よ り 一 般 的 に 再 定 式 化 し た 力 学 の こ と で あ り , か なり洗練された数学を利用するので,これを難解な力学と感じる方も多い と 思 い ま す 。 確 か に い き な り 一 般 化 座 標 や一 般 化 運 動 量 を 定 義 し て , た た み 込 む よ う に 数 学 的 な 解 説 を さ れ た ら, 初 め て 解 析 力 学 を 学 ぼ う と さ れ る 方が 困 惑 し 途 方 にくれてしまうのは当然のこと だ と 思 い ま す 。 で す か ら, 本 書 で は ま ず 自 由 落 下 や 単 振 動( 調 和 振 動 ) や, 太 陽 の 周 り の惑星の運動など,ニュートン力学で定番の例題を使って,ラグランジュ の運動方程式とハミルトンの正準方程式がニュートンの運動方程式と等価 な も の で あ る こ と を 示 す こ と に し ま し た。 こ れ に よ り, 解 析 力 学 独 特 の 一 般化座標や一般化運動量を利用することの必然性を納得して頂けると思い ます 。 で も, ニ ュ ー ト ン の 運 動 方 程 式 と 等 価 で あ る の な ら , 何 故 ラ グ ラ ン ジ ュ の運動方程式やハミルトンの正準方程式を持ち出す必要があるのか ? 疑問 に 思 わ れ る 方 も い ら っ し ゃ る は ず で す。 そ れ は , ニ ュ ー ト ン の 運 動 方 程 式 でさまざまな力学モデルを記述しようとすると複雑すぎて実用的でないこ と が 多 い た め, こ れ ら の 方 程 式 を 利 用 す る 必 要 が あ っ た の で す 。 特 に , 天 体 の 運 動 を 扱 う 天 文 学 に お い て, ラ グ ラ ン ジ ュ の 運 動 方 程 式 が 重 用 さ れ て きま し た 。 し か し, ラ グ ラ ン ジ ュ の 運 動 方 程 式 や ハ ミ ル ト ン の 正 準 方 程 式 の 重 要 性 は こ の こ と の み に と ど ま ら ず, こ こ で 用 い ら れ て い る 手 法 が 統 計 力 学 や 流 体力 学 そ れ に 数 値解析,さらに量子力学におい て も 重 要 な 役 割 を 演 じ る か 2 ら で す 。 つ ま り, 解 析 力 学 は 多 く の 物 理 学 の テ ー マ の 十 字 路 の よ う な 役 割 を果たしているのです。さらに,応 用 数 学 の 観 点 か ら 見 て も 興 味 深 い テ ー マ が目白 押 し で す 。 この面白くて役に立つ解析力学をできるだけ多くの読者の皆さんに理解 して頂けるよう,検 討 を 重 ね な が ら 本 書 を 書 き 上 げ ま し た。 お そ ら く ス バラシクかりやすい本格的な解析力学の参考書になったと自負していま す。読 者 の 皆 様 の ご 批評をお待ちしております。 この 『 解 析 力 学 キャンパス・ゼミ 改訂 1 』は, 全 体 が 3 章 か ら 構 成 さ れ て お り , 各 章 を そ れ ぞ れ 10 〜 20 ペ ー ジ 程 度 の テ ー マ に 分 け て い る の で , 非 常 に 読 み や す い は ず で す。 解 析 力 学 は 難 し い も の だ と 思 っ て い ら っ し ゃ る方も,まず 1 回この本を流し読みされることを勧めます。初めは難しい 公式の 証 明 な ど 飛 ば しても構いません。オイラー 角( 空 間 座 標 軸 の 回 転 ), ラグラ ン ジ ュ の 運 動 方程式,ラグランジアン,一般 化 座 標 ,一 般 化 運 動 量 , 一 般 化 力 , 汎 関 数 と 変 分 原 理, オ イ ラ ー の 方 程 式 , 作 用 積 分 と 最 小 作 用 の 原理,仮 想 仕 事 の 原 理 ,ダランベールの原理,ラグ ラ ン ジ ュ の 未 定 乗 数 法 , 最 速 降 下 線 , ハ ミ ル ト ン の 正 準 方 程 式, ハ ミ ル ト ニ ア ン , ル ジ ャ ン ド ル 変 換 , 位 相 空 間 と ト ラ ジ ェ ク ト リ ー, リ ウ ビ ル の 定 理 , 正 準 変 換 , 母 関 数 , ポ ア ソ ン 括 弧, ヤ コ ビ の 恒 等 式, 無 限 小 変 換 な ど な ど, 次 々 と 専 門 的 な 内 容が目に飛び込んできますが,不思議と違和感なく読みこなしていけるは ずです 。こ の 通 し 読 み だけなら,おそらく 2 週間も あ れ ば 十 分 の は ず で す 。 これで 解 析 力 学 の 全 体像をつかむ事が大切なので す 。 1 回 通 し 読 み が 終 わ っ た ら, 後 は 各 テ ー マ の 詳 し い 解 説 文 を 精 読 し て, 例題を 実 際 に 自 分 で 解きながら,勉強を進めてい っ て 下 さ い 。 この精読が終わったならば,後は自分で納得がいくまで何度でも繰り返 し 練 習 す る こ と で す 。 こ の 反 復 練 習 に よ り 本 物 の 実 践 力 が 身 に 付 き, 「 解 析 力 学 も 自 分 自 身 の 言 葉 で 自 在 に 語 れ る 」 よ う に な る の で す。 こ う な れ ば,「 解 析 力 学 の 試 験も,院試も,共に楽勝です ! 」 この『解析力学 キャンパス・ゼミ 改訂 1 』により,皆さんが奥深くて面白 い本格的な大学の物理学の世界に開眼されることを心より願っています…。 け い し マセマ代表 馬場 敬 之 こ の改 訂 1 で は ,Appendix ( 付録 ) で,量子力学入門の解 説 を 新 た に 加 え ま し た 。 3 ◆ 目 次 ◆ 講義1 解析力学のプロローグ § 1. 解析力学のプロローグ …………………………………………8 § 2. ラグランジュの運動方程式の紹介 § 3. ハミルトンの正準方程式の紹介 § 4. 基礎数学のプロローグ …………………………10 ……………………………26 ………………………………………40 ● 解析力学のプロローグ 公式エッセンス ………………………56 講義2 ラグランジュの運動方程式 § 1. ラグランジュの運動方程式の基本 …………………………58 § 2. ラグランジュの運動方程式の応用 …………………………78 § 3. 変分原理とオイラーの方程式 ………………………………102 § 4. 仮想仕事の原理とダランベールの原理 ……………………128 ● ラグランジュの運動方程式 公式エッセンス ………………140 4 講義3 ハミルトンの正準方程式 § 1. ハミルトンの正準方程式の基本 ……………………………142 § 2. 位相空間とトラジェクトリー ………………………………156 § 3. 正準変換 ………………………………………………………172 § 4. ポアソン括弧 …………………………………………………194 § 5. 無限小変換 ……………………………………………………210 ● ハミルトンの正準方程式 公式エッセンス …………………220 ◆ Appendix(付録) 量子力学入門 …………………………………222 ◆ Term・Index(索引) ……………………………………………………226 5 §1.解析力学のプロローグ さァ,これから“解析力学”(analytical mechanics) の講義を始めよう。 解 析 力 学 と は 何 か と 問 わ れ れ ば,「 ニ ュ ー ト ン 力 学 を , 一 般 化 座 標 や 一 般 化運動量を用いて,数学的により洗練された運動方程式で表現する力学」と 答え る こ と が で き ると思う。 具体的には,ニュートンの運動方程式の代わりに,解析力学の創始者で あ る “ ラ グ ラ ン ジ ュ” と“ ハ ミ ル ト ン ” の 名 を 冠 し た“ ラ グ ラ ン ジ ュ の 運 せいじゅん 動方程式”と“ハミルトンの正準方程式”を使って運動を記述するのが, 解 析 力 学 な ん だ ね 。 解 析 力 学 は, ニ ュ ー ト ン 力 学 と は 異 な り , 高 校 で 習 う こ と は な く , か な り 数 学 的 な 要 素 が 強 い の で, 馴 染 み の あ る 方 は 少 な い と 思う 。 しかし,現実に起こっている運動をニュートンの運動方程式で記述しよ う と す る と 複 雑 に な る こ と が 多 い の で, こ れ を シ ン プ ル に 一 般 化 し て 表 現 す る た め の 手 法 と し て, 解 析 力 学 が 考 案 さ れ た ん だ 。 し た が っ て, ニ ュ ー ト ン の 運 動 方 程 式 と, ラ グ ラ ン ジ ュ の 運 動 方 程 式 や ハ ミ ル ト ン の 正 準 方 程 式は 等 価 な 運 動 方程式と言うことができる。 こ こ で , こ れ ら 3 種類の運動方程式を列挙し て 示 そ う 。 (ⅰ) ニュートンの運動方程式: ・ m・ i x i = f i ……① ( i = 1 , 2 ,…, f ) (ⅱ) ラグランジュの運動方程式: ( ) ∂L d ∂L − = 0 ……② ( i = 1 , 2 ,…, f ) d t ∂・ ∂ qi qi { (ⅲ) ハミルトンの正準方程式: ( ∂H dqi dt = ∂ pi ∂H dpi dt = − ∂ qi ……③ ( i = 1 , 2 ,…, f ) x i や q i : 座 標 , p i: 運 動 量 , L : ラ グ ラ ン ジ ア ン H:ハミルトニアン,f:自由度 ) ラ グ ラ ン ジ ア ン L や ハ ミ ル ト ニ ア ン H の 意 味 は 分 か ら な く て も, ラ グ ラン ジ ュ の 運 動 方程式も,ハミルトンの正準方 程 式 も 意 外 と ス ッ キ リ し て 8 ● 解析力学のプロローグ い る と 思 わ れ た と 思 う。 こ こ で, 3 つ の 方 程 式 の 添 字 i = 1 , 2 , … , f の , f に つ い て 簡 単 に 説 明 し て お こ う。 こ の f は“ 自 由 度 ” と 呼 ば れ る 自 然 数 の こ と だ 。 た と え ば , 1 質 点 の 放 物 運 動 の 場 合, ニ ュ ー ト ン の 運 動 方 程 式 に おいて も x 軸 方 向 と y 軸方向の 2 つの運動方程式 が 必 要 な の で , 自 由 度 これを①では,x1 軸方向 x2 軸方向と考える。 f = 2 となる。もし,これらの運動に何の束縛条件もなければ,3 質点の 4 4 4 4 4 4 4 4 4 2 次 元 運 動 の 自 由 度 は f = 3 × 2 = 6 と な る し, 5 質 点 の 3 次 元 運 動 の 自 由 度 は f = 5 ×3 = 1 5 と な る ん だ ね。 つ ま り, 自 由 度 と は , 運 動 を 記 述 す る のに必要な未知の座標の数のことであり,従って,それを求める方程式の 数 で も あ る ん だ ね 。 そ し て, ラ グ ラ ン ジ ュ の 運 動 方 程 式 も , ハ ミ ル ト ン の 4 4 4 正準方程式もニュートンの運動方程式と等価な方程式であるため,特に工 夫をし な け れ ば , 同 じ自由度 f をもつことになる の も 分 か る と 思 う 。 4 4 4 4 4 4 4 しかし,①のニュートンの運動方程式と等価といっても,②のラグラン ジ ュ の 運 動 方 程 式 を 導 く だ け で も, か な り の 数 学 的 な テ ク ニ ッ ク が 必 要 と はん なる。さらに,ラグランジュの運動方程式と関連して,汎関数と変分原理 や,最速降下線問題,それに仮想仕事の原理など,解説すべきテーマがた く山ある。③のハミルトンの正準方程式についても同様に,位相空間とト ラ ジ ェ ク ト リ ー, 正 準 変 換, ポ ア ソ ン 括 弧 な ど, た く 山 の テ ー マ が 目 白 押 し な ん だ ね 。 そ し て , 解 析 力 学 で 用 い ら れ る, こ れ ら 数 学 的 な 手 法 は , 流 体力学 や 統 計 力 学 , それに量子力学にまで,密接 に 関 連 し て い る 。 だ か ら, 解 析 力 学 は 非 常 に 実 り 豊 か な 物 理 学 の 1 分 野 で あ る に も 関 わ ら ず,それと同時に,数学的な解説がかなり高度になるので,よく分からず に途中 で 投 げ 出 し て しまう方が多いのも事実なん だ 。 本 書 で は , そ う し た 失 敗 が 起 こ ら な い よ う, ま ず , こ の プ ロ ロ ー グ で , 単 振 動( 調 和 振 動 ) や 放 物 運 動 も 含 め た 5 題 の 典 型 的 な 運 動 の 例 題 を 用 意 した。そして,これらの運動に対するラグランジュの運動方程式やハミル ト ン の 正 準 方 程 式 を 立 て, そ れ を 変 形 し て , ニ ュ ー ト ン の 運 動 方 程 式 を 導 く 練 習 を し て 頂 く こ と に し た。 予 め こ の よ う な 練 習 を し て お け ば , 解 析 力 学 の 基 本 的 な 考 え 方 に 接 し, 慣 れ る ことができるので,本格的な解析力学の 講義にも異和感なく入って頂けると思う。 9 §2.ラグランジュの運動方程式の紹介 そ れ で は , こ れ か ら, 解 析 力 学 の プ ロ ロ ー グ と し て , 解 析 力 学 で 用 い ら (ま れ る 2 種 類 の 方 程 式 の 内 の 1 つ で あ る, “ラグランジュの運動方程式” たは ,“ラグランジュ方程式”)を紹介することに し よ う 。 qi でラグ ラ グ ラ ン ジ ュ の運 動 方 程 式 は , 一 般 化 座 標 q i と そ の 時 間 微 分 ・ ラ ン ジ ア ン L を 偏 微 分 し た, 偏 微 分 方 程 式 の 形 で 表 さ れ る。 こ の よ う に 書 く と 何 か 難 し く 感 じ る か も 知 れ な い け れ ど, こ れ は 本 質 的 に , ニ ュ ー ト ン の 運 動 方 程 式 と 等 価 な も の な の で, こ の こ と を , こ こ で は , ( Ⅰ ) 自 由 落 下 運 動 , ( Ⅱ ) 単 振 動( 調 和 振 動 ) , ( Ⅲ ) 放 物 運 動, ( Ⅳ ) 単 振 り 子, ( Ⅴ ) 惑 星の 運 動 の 5 つ の例題で実際に確認してみよう 。 ● ラグランジュの運動方程式に慣れよう! で は ま ず ,“ ラ グ ラ ン ジ ュ の 運 動 方 程 式 ”( La g r a n g e' s e q u a tio n o f m o t i on ) ( ま た は , 単 に “ラグランジュ方程式”と 呼 ぶ ) に つ い て , そ の 基 本事 項 を 以 下 に 示そう。 ラグランジュの運動方程式 d dt ( ( ∂∂・qL ) − ∂∂ qL = 0 ………(* a ) i i ( i = 1 ,2 , …,f ) 自由度 ただし,L:ラグランジアン, qi :一般化座標, t:時刻 L = T − U ( T:運動エネルギー,U:ポテンシャルエネルギー ) ) 今 は , ど の よ う に し て, こ の ラ グ ラ ン ジ ュ の 運 動 方 程 式 (* a ) が 導 か れ たのか ? な ど を 考 え る 必 要 は な い。 と に か く, こ の 方 程 式 を 使 っ て , 慣 れ るこ と に 専 念 し て頂けたらいいんだね。 ま ず , こ の ( * a ) の 方 程 式 の 独 立 変 数 で あ る q i は ,“ 一 般 化 座 標 ” 2 ,…,f (g e n e r al i z e d c oo r di nat e)と呼ばれる変数のこ と で , i は , i = 1 , これは,“自由度” (degree of freedom) のことで,既に解説した。 と変 化 す る の で ,(* a ) は具体的には,次のよう な f 個 の 方 程 式 を 表 し て いる こ と に な る 。 10
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