実習指導マニュアル/平成27年3月 - 社会福祉法人 全国社会福祉協議

実習指導マニュアル
平成27年3月
全国母子生活支援施設協議会
研修広報委員会
はじめに
社会福祉士については、2007 年 12 月(平成 19 年)「社会福祉士及び介護福祉士法」
が改正されました。改正の主な点は2つ。1つは、これまでの分野別の教科が、よりジ
ェネラリスト養成の科目に構成されたこと。もう1つは、実習教育を拡充し対人援助専
門職としての実践力の獲得を目指したことです。そのため実習を「相談援助実習」と改
称し、演習などの実習関連科目の時間を増やし、担当教員や実習指導者の資格要件をよ
り厳しいものにしました。
また、保育士についても 2010 年3月(平成 22 年)に保育士養成課程等検討会の中間
とりまとめが出されて以降、養成教育も専門性を求めるカリキュラムとなり、それまで
必修科目としてあった「養護原理」「養護内容」が「社会的養護」、「社会的養護内容」
と改称され、内容も社会的養護にまとめられました。
このように社会的養護の要の職員となる社会福祉士・保育士の養成教育が変化し、そ
の専門性や実践力を高める方向へと進む中で、母子生活支援施設の支援を担う職員も同
じく専門性や実践力が求められています。今後の母子生活支援施設における実習指導は、
実習生を受け入れ単に指導するということではなく、優秀な後進を育成し将来は社会的
養護で力を発揮し、子どもの最善の利益を求め、保障する職員に育て上げるための第1
歩であり、我々の使命であると捉えていきたいと考えます。
本実習指導マニュアルでは、上記の視点のもとに第Ⅰ部施設(職員)編と第Ⅱ部実習
生編の2部構成としてそれぞれの項目を解説します。基本的には社会福祉士の相談援助
実習の指導について記載し、保育士実習についても必要に応じて併記いたします。また、
実際に実習指導を行っている施設から資料を提供していただいたので、参考として掲載
しています。
これまで、歴史的にも長い間の実習指導を積み重ね、施設独自のマニュアルや要項を
持たれている母子生活支援施設も少なくありません。このマニュアルが決してお仕着せ
ではなく、最新の専門職養成教育の情報提供と新たな気づきとなりましたら幸いです。
また、これまで実習指導を行っていなかった施設におかれては、ぜひ実習生の受け入れ
とその指導についてご検討いただきたいと思います。
最後になりましたが、実習指導の情報を快くご提供いただいた各母子生活支援施設の
皆様に、深く感謝を申し上げます。
平成 27 年 3 月
全国母子生活支援施設協議会
会長
-2-
大塩
孝江
実習指導マニュアル 目次
第Ⅰ部
施設(職員)編
1.実習に関する流れ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
キーワード
・学校からの実習受入依頼~実習評価表提出の流れ
(施設・学校・実習生のやりとり、要点、関係書類等)
2.実習受け入れの目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
キーワード
・社会福祉専門職養成の意義
・実習指導マニュアル
3.実習委託契約の内容
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
キーワード
・指導の義務と権利
・実習生の権利擁護
・指導料
4.実習生が習得する内容
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
キーワード
・各職員の職務や役割の理解
・支援技術の理解
・ソーシャルワーク、ケアワーク
・自立支援計画の策定
・自己覚知
5.実習プログラム
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
キーワード
・実習前~実習中(前後半、1週間、1日ごと)~実習後までのプログラム
・ねらい
・指導内容
-3-
6.指導の際の留意点
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
キーワード
・担当者
・SVの役割
・使用する教材
7.実習生の評価
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
キーワード
・評価の視点
・評価の基準
第Ⅱ部
実習生編
1.母子生活支援施設の概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
キーワード
・法的位置づけ
・役割・機能、実施している支援
・入所経路(関係機関)
・施設の課題、これから施設に求められる役割
2.受入施設の概要
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
キーワード
・設立の経緯
・地域の特徴
・施設運営や支援の方針、特徴
3.利用者の状況
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
キーワード
・利用者の年齢構成
・利用者の入所理由
・利用者の課題、支援の際の視点
・DV被害者
・生活困窮者
・児童虐待
・緊急一時保護(DV、児童虐待、生活困窮等)
・法的手続き(保護命令、離婚調停等)
-4-
4.実習記録
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
キーワード
・書き方
・記録の際の視点
5.実習の際の留意点
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
キーワード
・個人情報の取扱い
・健康管理
-5-
第Ⅰ部
施設(職員)編
1.実習に関する流れ
キーワード
・学校からの実習受入依頼~実習評価表提出の流れ
(施設・学校・実習生のやりとり、要点、関係書類等)
社会福祉士も保育士も、実習に関する一連の流れは、ほぼ同じで概ね以下のようにな
ります。
①実習の依頼(前年度)→
②実習受け入れ承諾書の送付→
③事前訪問(実習生+教員)→
④事前訪問時の説明→
⑤事前(予備)実習→
⑥本実習(指導)→
⑦実習巡回訪問(教員)→
⑧実習巡回訪問対応→
⑨実習終了→
⑩実習評価と関係書類の送付
*太字が施設対応
上記の流れについて以下、解説をします。
◆実習に関する流れの概要
①
実習の依頼は、都道府県ごとに設置される養成(校)協議会が各施設に割り振る場
合と直接、養成校から依頼がある場合があります。
-6-
-1-
②
概ね前年度に依頼状が送付され、依頼を承諾すると実習予定の学生の氏名、概略等
が送付されます。
③
実習生だけの事前訪問や、複数回の事前訪問を実施している養成校もありますが、
施設としては少なくとも1回は教員の訪問を求めるべきでしょう。
なお、この訪問時に実習生の調書等、個人情報に関わる書類の提出があります。ま
た、後述しますが実習指導契約書の説明や契約の取り交わしについての話があります。
④
施設が実習生に渡す資料の多くが、この時に提示され説明を行います。
⑤
保育士の実習の場合は、行わない養成校が多いです。
⑥
社会福祉士の実習期間は 24 日間 180 時間以上、また複数個所の実習の場合はうち
1か所で3分の2を満たすこと。保育士の実習期間は週 40 時間で 10 日間です。
⑦
相談援助実習では毎週 1 回、計 4 回の教員による巡回訪問が義務づけられています
が、実際にはそのうちの 2 回を帰校指導日として、巡回訪問に代えています。帰校指
導日は実習日として換算してはいけません。
保育士の場合は、実習中に 1 回巡回訪問があります。
⑧
巡回訪問時の面接は、教員と実習生とのやりとりだけではなく、実習指導者と教員
また、実習生を加えての三者で行うなど情報交換が大切になります。
⑨
実習を終了するにあたって、実習生に対しての大切なスーパービジョンがあります。
このことは「8.実習生の評価」のなかで詳しく解説します。
⑩
評価を行うとともに、その評価表、実習生の個人情報が記載された書類等を返却し
ます。
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-2-
2.実習受け入れの目的
キーワード
・社会福祉専門職養成の意義
・実習指導マニュアル
すでに「はじめに」でも触れましたがここで再度、実習受け入れの目的と参考資料を
掲示します。
国家資格である社会福祉士の養成が始まった当初から、
「現場で活躍できるのか」
「知
識だけでは通用しない」等の資格や養成に否定的な意見が聞かれました。おそらく現在
もそのような意見がある程度残っているのだろうと思われます。
このことは、当時の現場が勘や経験といった暗黙知だけで充分通用したこと。パター
ナリズムが残っていたり、ルーチンワークが主な業務であったりしたこと。ケアワーク
とソーシャルワークの未分化などが考えられます。また、養成校側でもいくつか原因が
あったと思います。
しかしその後、様々な価値観のもとに利用者の多種・多様なニーズの変化や解決困難
な課題の複雑・重層化にともない、それらの課題に対応できる支援力を強めていきたい
現場は、勘と経験だけの職人技のような支援に限界を感じたのです。この経緯は、母子
生活支援施設も同じです。
現場でソーシャルワークの展開や機能強化が求められる中、今般の社会福祉士養成の
改正は、まさにその狙いや目標が一致したものになったと言えるわけです。
【参考資料】
実習受け入れマニュアル
◇◇母子ホーム
<意義>
実習生を受入れるにあたっては、未来の福祉人材の育成と確保につながることを目的
としている。また利用者にとっても、多くの人と関わることで、人間性や社会性を養う
機会になると考えられる。そして、職員も、職務や担うべき役割の見直しを行うこと、
また相談援助実習の担当職員が職員へのスーパービジョンの力量や多職種間での職務調
整を行ううえでのマネジメントの力量を向上させることにつながる意義を有している。
<方針>
社会福祉士、保育士、介護等体験、職場体験の様々な職種、多様なタイプ(年齢、経
歴等)を今後も積極的に受入れ、事業の社会化を目指す。
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-3-
◎事前オリエンテーション
オリエンテーション後
事務所:日程表を事務所のボードに掲示、昼礼等で全員に確認
◎事前訪問時の説明
施設内見学、施設の理解
【以下省略】
◆支援業務の概略
実習生は教員の指導の下、実習先のことを調べています。しかし、母子生活支援施設
は他の社会的養護と比較すると情報量が少なく、その調査にも限界があるようです。こ
の事前訪問では、できるだけわかりやすい説明や文書を提示し、また関連文献などあれ
ば貸与してください。
この訪問時で最も重要なことは、入所施設である母子生活支援施設はプライバシーの
尊重と個人情報の保護が責務であり、実習生もその責務があることを伝えることです。
また、実習生の個人情報の保護についても施設として責任を持つことを説明します。
【参考資料】
〇○〇荘における社会福祉士相談援助実習について
〇○○荘では社会福祉士の相談援助実習として、日中、学童保育や乳幼児保育に参加
することにより、入所児童との信頼関係を構築していく中で、対人援助技術について学
ぶ。
また兄弟姉妹関係、親子関係にも視野を広げ、背景や課題について理解し、支援方法
について学ぶ。ケース記録や自立支援計画の通読、立案し、ソーシャルワーカーとして
の理解を深め、ソーシャルワーカーとしての位置づけを体験的に学ぶことを目的として
いる。
1.実習に対する意識
・事前学習を行い、実習テーマ、意義、目的などを自分なりに設定しておく。
・施設職員、支援者としての意識を持ち、入所者のプライバシーについては
守秘義務があることを忘れないこと(守秘義務に関する誓約書を提出する)
・積極的に子どもと関わり、わからないことがあれば職員に質問する。
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2.服装、持ち物
・服
装
―
運動できるもの、汚れてもいいもの(ジャージなど)
、スニーカー
・持ち物
―
名札(ひらがな、もしくは漢字にふりがなを書く)
、
スリッパ(上履き不可)、お弁当(土曜、長期休み、外出活動日など)
帽子(夏期)
、筆記用具、メモ帳
・宿直時
―
夕食、朝食、昼食、シーツ、枕カバー(タオル)、パジャマの替わり
になるようなジャージやTシャツなど、洗面用具
3.実習簿について
・出勤簿は自分で日付を入れる。
・入所者の名前はイニシャルで学年、年齢を記載する。
・観察事項、考察事項を分けて書く。観察事項は主観、感想を含めず、事実のみを記
載する。
(会話は「
」を使って)自分の言動、行動も忘れずに記載する。
4.実習の流れについて
・実習前半で子どもの名前を覚え、施設の生活の1日の流れを見て、慣れる。
・その後、子どもとの関係作り、集団における子どもの関係、兄弟姉妹、母子関係、
施設の機能、役割などに視野を広げ、考察を深め、実習課題を意識した実践を行う。
・初回宿直時に日誌を読む。二週目以降、宿直時にケース記録・自立支援計画を読む。
その他希望する関係資料を子どもが登校している間などで読む。
・日誌、ケース記録、自立支援計画は利用者のプライバシーにかかわるものであり、
何らかの形で実習に役立たせ、支援方法を考える手段として責任をもって読むこと。
また過去にとらわれず、現状を第一に考え、今後の関わりを考えていくための資料
とする。その上でどのような個別支援が必要かを考える。
・その他、各行事の準備、乳幼児の補完保育など必要に応じ、職員の取り組みを経験
する。
5.最後に
・限られた実習期間では目標を十分に達成することは難しい。大切なのは取り組む姿
勢であり、どこまでできたかということ。
- 10 -
-5-
3.実習委託契約の内容
キーワード
・指導の義務と権利
・実習生の権利擁護
・指導料
実習指導を行うということは、実習生に現場で展開しているソーシャルワークを指導
し、一定レベルの実践力の獲得を目指さなければいけないということになります。言い
換えると、現場は実習生にきちんとした実習指導を行う義務を負い、実習生はそのよう
な実習指導を受ける権利を有することになります。
以上のような意味から、また実習生の権利擁護(ハラスメントの防止)の観点からも
実習指導契約書を交わすことをお薦めします。
実習指導料については、上記の観点から考えると適正な価格があると思われます。
【参考資料】
相談援助実習委託契約(協定)書(案)
(実習受入施設・機関)(以下「甲」という。)と、(養成校)(以下「乙」という。)と
は、乙が乙の学生の相談援助実習(以下「実習」という。)の指導を甲に委託すること
に関し、次のとおり委託契約(協定)を締結する。
(実習の委託)
第1条
実習の最終的な責任は乙が負うものとし、その教育の一部として乙は甲に対し、
実習の指導を委託し、甲はこれを受託するものとする。
(実習の内容)
第2条
実習期間は、23 日間かつ 180 時間以上とする。
2
実習場所は、原則として
とする。
3
実習生の員数及び氏名、実習時期については、別表1に定める。
4
乙は甲に「実習要綱」等を提示し、甲は乙に実習の指導(以下「実習指導」
という。)の方針等を説明し、実習の指針とするが、具体的な実習内容につい
ては、甲乙協議の上、決定するものとする。なお、甲と乙の協議により第2項・
第3項は変更することができる。
(実習教育と指導に関する合意書)
第3条
実習指導は、あらかじめ甲が乙に示した実習指導者を責任者として行うものと
し、詳細については別に定める「相談援助実習にかかる教育と指導に関する合
- 11 -
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意書」(以下「合意書」という。
)によるものとする。
(連携と協力)
第4条
甲と乙は、実習の実施に当たって、双方、連携と協力を図り、円滑な実習を行
うことができるよう努力するものとする。
(事故の責任)
第5条
本委託契約第2条で規定する実習を甲にて実施している乙の学生(以下「実習
生」という。)が、実習中に過失等により、甲または甲の利用者および第三者
に損害を与えた場合は、実習生もしくは乙がその損害賠償の責任を負うものと
し、その責任の範囲は、乙が加入する賠償責任保険によるものとする。
2
実習生の実習期間中における事故および災害等による責任は、甲に故意または
過失がある場合を除き、実習生もしくは乙が負うものとする。
(緊急時の対応)
第6条
乙は甲に対し、あらかじめ実習中の事故、病気、天災等緊急時における連絡先
を伝えておくものとする。但し、やむを得ない事情により甲が乙に対して連絡
することが困難な場合は、当該事故等に対して甲の判断で対応後、速やかに乙
に連絡するものとする。
(利用者への説明責任)
第7条
甲は、実習に関して、利用者への説明責任を果たし、利用者の権利を侵害しな
いよう、適切な配慮を行うものとする。
(実習生の権利)
第8条
2
甲は、実習生の権利を侵害しないよう、適切な配慮を行うものとする。
乙は、甲に対して実習生に関する個人情報を必要最小限の範囲で提供するもの
とし、甲は実習生の個人情報について守秘義務を負うものとする。
(実習生の義務)
第9条
乙は、実習生に対し、実習期間中に知り得た事実について、実習期間中はもと
より実習終了後においても、個人情報保護法並びに社会福祉士及び介護福祉士
法の趣旨に則り、守秘義務を負わせるものとする。
2
実習期間中の実習日および実習時間は、甲の職員の勤務日および勤務時間に準
じるものとする。
3
実習生は、必要な事項の報告など、甲の実習指導者の指示に従うものとする。
(実習指導料)
第 10 条 乙は甲に対し、実習指導料として実習生1人につき
円を支払うも
のとする。但し、実習期間中、実習生が実習に要した費用については、実習指
導料とは別途清算するものとする。
(実習フィードバック・システム)
第 11 条
甲並びに乙は、実習の経過と結果において相互の疑義と評価を容認し、情報
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を率直に伝え、相互に回答し、その後の実習と実践を向上させる目的で、合
意書に基づき実習フィードバック・システムを構築するものとする。
(契約(協定)の解除、変更)
第 12 条
合意書第7条「実習中止の措置」に該当する状況に至った場合は、甲乙協議
の上、本委託契約(協定)の解除もしくは変更を行うことができる。
(その他)
第 13 条
本委託契約(協定)の履行に関し、とくに定めのない事項の取扱いおよび解
釈上、疑義が生じた場合の取扱いについては、その都度、甲乙協議によるも
のとする。
以上、契約(協定)の締結を証するため、本書を2通作成し、甲乙両者記名捺印の上、
各自1通を保有するものとする。
平成
年
月
日
甲
印
乙
印
【別表1】
実習生の員数・氏名・実習時期
No. 実習生氏名
1
実習期間
年
実習期間
月
日~
年
月
年
日
実習期間
月
日~
年
月
年
日
月
日~
年
月
日
2
3
4
5
出典:日本社会福祉士会
www.jacsw.or.jp/08_iinkai/jisshu/download/model01.doc
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4.実習生が習得する内容
キーワード
・各職員の職務や役割の理解
・支援技術の理解
・ソーシャルワーク、ケアワーク
・自立支援計画の策定
・自己覚知
実習生は事前教育の中で、それぞれ実習における自分の目標とそれを達成するための
具体的な取り組みを文書にまとめています。事前訪問の際、その文書の提示を受けます。
施設としては、できるだけ実習指導プログラムに本人の希望を反映させますが、当然反
映が難しい取り組みや目標もあります。事前訪問の打ち合わせ時にその点についても、
説明が必要になるでしょう。
母子生活支援施設に限らず、日本の福祉施設はソーシャルワークとケアワークが混在
しています。とりわけ入所型施設はそれが顕著です。実習生には、その現実をきちんと
理解してもらい、各職種の職員の役割や業務を説明する必要があります。
ここでは、厚生労働省が示す社会福祉士の「相談援助実習における目標と内容」を挙
げておきます。なお、日本社会福祉士養成校協会はこれをもとに、相談援助実習ガイド
ラインを 2013 年 11 月に新たに策定しています。
さらにミクロ・メゾ・マクロに視点を置いた個別支援計画票を参考として示します。
【参考資料】
厚労省が示す相談援助実習の目標と内容
ねらい(目標)
①
内
相談援助実習を通して、相談援助 ア
容
利用者やその関係者、施設・事業
に係る知識と技術について具体的かつ 者・機関・団体等の職員、地域住民やボ
実際的に理解し実践的な技術等を体得 ランティア等との基本的なコミュニケ
ーションや人との付き合い方などの円
する。
滑な人間関係の形成
②
社会福祉士として求められる資質
技能、倫理、自己に求められる課題把 イ
利用者理解とその需要の把握及び
握等、総合的に対応できる能力を習得 支援計画の作成
する。
- 14 -
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ウ
利用者やその関係者(家族・親族・
友人等)との援助関係の形成
③
関連分野の専門職との連携のあり
方及びその具体的内容を実践的に理解 エ
する。
利用者やその関係者(家族・親族・
友人等)への権利擁護及び支援(エンパ
ワメントを含む。)とその評価
オ
多職種連携をはじめとする支援に
おけるチームアプローチの実際
カ
社会福祉士としての職業倫理、施
設・事業者・機関・団体等の職員の就業
などに関する規定への理解と組織の一
員としての役割と責任への理解
キ
施設・事業者・機関・団体等の経営
やサービスの管理運営の実際
ク
当該実習先が地域社会の中の施
設・事業者・機関・団体等であることへ
の理解と具体的な地域社会への働きか
けとしてのアウトリーチ、ネットワーキ
ング、社会資源の活用・調整・開発に関
する理解
出所
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厚労省提示を筆者が表示
個別支援計画票
個別支援計画票(母親・子どものイニシャル)作成日
ミクロ
(具体的方法)
メゾ
マクロ
例)
例)
例)
離婚手続き
施 設 の 生 活 に 慣 れ 仮入学手続き
短期目標
支援内容
作成者
る
弁護士との連携
挨拶周りに同行
在住証明の発行
申立書の作成支援
買い物、通院の同行 教育委への同行
家裁へ安全確認
例)
中期目標
実家との関係修復
実家に施設での生
支援内容
(具体的方法)
活を伝え、来訪を促
す
例)
退所に向けての準
長期目標
備
退所後の不安に対
応(相談、アフター
支援内容
ケアの説明)
(具体的方法)
出典 菅田賢治 子どもの発達・アセスメントと養育・支援プラン 明石書店 2013 p251
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- 11 -
5.実習プログラム
キーワード
・実習前~実習中(前後半、1週間、1日ごと)~実習後までのプログラム
・ねらい
・指導内容
実習指導を実施する上で、大変重要なことが 2 点あります。それは実習指導プログラ
ムの作成とプログラムの中に事例研究または個別支援計画の作成(両者含む場合もあり
ます。)を位置づけることです。事例研究や個別支援計画(自立支援計画)の様式は、
養成校で準備している場合があり、それを利用しても良いでしょうし、施設で独自の工
夫をされた様式を使用しても良いでしょう。大切なことは相談援助実習の総仕上げとし
て位置づけ、発表の機会を与えてあげることです。ソーシャルワーク実習の 1 つの山場
となるわけです。
また、実習プログラムを施設用と実習生用の2種に分けて作成する方法もあります。
ここではその2種の実習プログラムを掲載いたします。
【参考資料】
次頁↓
1、2枚目が実習生用、3,4枚目が施設用です。
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- 13 -
事前学習
(1)職場実習
事前
Ⅰ期
課題用紙
「実習の流れ」
「実習について」
守秘義務誓約書
倫理綱領
パンフレット
要覧
施設長
実習担当
職員
・各種制度の知識
・障害、疾患の理解
・秘密保持
・基本的社会性
・社会人としてのマナー
・秘密の保持
・資料分析能力
・プログラムの説明と調整
・実習日程および諸注意
・関係資料の提供
・施設概要の説明
・個人情報保護について確認
・「50 年史」の通読
・機関誌「○○」の通読
・「○○のしおり」の通読
ような課題を抱えた母子と向き合っていくのか
課題意識を持つ
③当該施設の歴史および法規定について理解する
④母子や施設利用母子に関係する諸制度等の理解
⑤職員に準ずるルールの確認
①施設の歴史を理解する
②施設の業務(日々の業務の流れ、職員の配置、少
「○○のしおり」
・自己覚知
・子どもとの関係形成等について職員と振り返りを
⑥子どもと関係形成をはかり、子どもを理解する
5
6
⑧宿直業務を理解する
⑦補完保育等乳幼児保育の理解
読
・少年指導員日誌、母子支援員日誌、宿直日誌の通
・宿直業務(1回目)を体験する
・連絡会の参加
行う
「50年史」
・記録の知識、技術
解する
・少年指導員の関わりを観察する
・学童保育に入り、子どもとの関係形成に努める
4
⑤学童保育の役割について理解する
機関紙「○○」
・コミュニケーションスキル
・施設内見学
④施設の事業およびその方針・実績等について理
3
・観察技法
DVD
・情報を統合する能力
・DVD「母子寮の歴史・壊れた家族」
③施設の組織概要、業務分掌について理解する
年指導員の業務内容等)を理解する
施設要覧
実習担当者
・資料分析能力
(挨拶・言葉遣い)
施設パンフレット
施設長
・実習への動機付け
・実習課題の確認
教材
担当者
必要な価値・知識・技術
・実習オリエンテーション
確認
②施設を利用している母子の状況を理解し、どの
具体的実習内容
○○○
①実習概要の確認
実習課題(ねらい)
(母子活支援施設)
2
1
段階
実習日
社会福祉相談援助実習 (4週間実習)実習生受け入れプログラム
- 14 -
エコマップ
実習生用自立支
援計画課題シー
ト
・支援技法
・ニーズの把握
・アセスメント力
・プランニング力
・可能であれば子どもとの相談場面面接に同席する
・母との日常会話を実践する
・職員間チームアプローチの実際を観察し、考える
・関係機関とのチームアプローチの実際について職員より説明
⑥自立支援計画の立案方法を学
18
び、作成する
を受ける
・連絡会の参加
26
25
・自立支援計画の策定
・策定した自立支援計画に基づいた支援の実践
する
⑧チームアプローチについて理解
解する
⑦関係機関との連携のあり方を理
24
23
22
21
20
19
・自己覚知
・ネットワークの知識
ート
・記録の知識、技術
や関わり技法等を体験する
・母親・子どもとの関係形成等についてともに振り返りを行う
て理解する
⑤ニーズ把握の方法を理解する
16
17
プランニングシ
・観察技法
・少年指導員・母子支援員のかかわりを観察し、生活場面面接
④母と子の影響、自立支援につい
・面接技法
ート
・コミュニケーションスキル
・フリースペースでの母子支援員の母とのかかわりを観察する
③世帯への支援について理解する
アセスメントシ
・情報を統合する力
フェースシート
ケース記録
・選択したケースの検討
職員
施設長
・資料分析能力
・通読するケース記録の選定
・宿直業務(3回目、4回目目)を体験する
・連絡会の参加
15
いて理解する
②子どもとの関係形成の方法につ
①ケースの理解を深める
・母親・子どもとの関係形成等について職員と振り返りを行う
⑦補完保育等乳幼児保育の理解
・職員間チームアプローチを観察する
・母との日常会話を実践する
⑥間食提供についての理解
14
13
Ⅲ期
12
いて理解する
⑤子どもとの関係形成の方法につ
・秘密保持
・自己覚知
・フリースペースでの母子支援員の母とのかかわりを観察する
(3)SW 実習
・記録の知識、技術
・母子支援員の業務について職員より説明を受ける
11
10
要覧
・観察技法
・通読するケース記録の選定
どもを理解する
宿直日誌
・コミュニケーションスキル
・宿直業務(2回目)を体験する
④子どもと関係形成をはかり、子
8
9
少年指導員日誌
職員
・情報を統合する力
・間食提供の立案、実施
母子支援員日誌
施設長
・秘密保持
③利用者の状況を理解する
教材
担当者
必要な価値・知識・技術
7
確認
実習担当
・少年指導員日誌、母子支援員日誌、宿直日誌の通読
具体的実習内容
・資料分析能力
①少年指導員の業務を理解する
実習課題(ねらい)
・学童保育に入り、子どもとの関係形成に努める
(2)職種実習
段階
②母子支援員の業務を理解する
Ⅱ期
実習日
- 15 -
・「50 年史」の通読
6
・少年指導員の関わりを観察する
⑧宿直業務を理解する
⑦補完保育等乳幼児保育の理解
どもを理解する
⑥子どもと関係形成をはかり、子
る
えさせる
直日誌の通読
・少年指導員日誌、母子支援員日誌、宿
由や業務を遂行する上で必要な知識等について考
・宿直業務(1回目)を体験する
・少年指導員の業務について観察させ、業務を行う理
る技術を十分有していないことに留意する
・子どもと関係形成を図る際、実習生が保育等に関す
・自己覚知
・連絡会の参加
振り返りを行う
⑤学童保育の役割について理解す ・子どもとの関係形成等について職員と
績等について理解する
④施設の事業およびその方針・実
・日々のスーパービジョンを確保する
「50年史」
5
・記録の知識、技術
明する
・観察技法
に努める
機関紙「○○」
ども生活と連動していることを理解できるよう説
・コミュニケーションスキル
・施設内見学
いて理解する
③施設の組織概要、業務分掌につ
・学童保育に入り、子どもとの関係形成
4
3
「○○のしおり」
DVD
内容等)を理解する
2
要覧
・基本理念や組織機構、財政が日々の職員の業務や子
・情報を統合する能力
職員
・DVD「母子寮の歴史・壊れた家族」
パンフレット
実習担当
・実習生との関係形成
・秘密の保持
・施設全体像を把握できるよう説明する
倫理綱領
施設長
・実習生の事前の取り組みを評価する
・社会人としてのマナー
「実習の流れ」
・資料分析能力
②施設の業務(日々の業務の流れ、 ・機関誌「○○」の通読
①施設の歴史を理解する
⑤職員に準ずるルールの確認
諸制度等の理解
④母子や施設利用母子に関係する
・実習生の課題意識を基本的に支持する
・「○○のしおり」の通読
(1)職場実習
Ⅰ期
守秘義務誓約書
・基本的社会性
・施設概要の説明
ついて理解する
(挨拶・言葉遣い)
・秘密保持
・関係資料の提供
課題意識を持つ
・個人情報保護について確認
・障害、疾患の理解
・実習日程および諸注意
えた母子と向き合っていくのか
③当該施設の歴史および法規定に
「実習について」
・各種制度の知識
・プログラムの説明と調整
を理解し、どのような課題を抱
課題用紙
施設要覧
実習担当者
・資料分析能力
・実習課題の確認
②施設を利用している母子の状況
を提示
施設パンフレット
施設長
・緊張を緩和する
・実習に必要な知識の有無を把握し、実習までの課題
・実習への動機付け
・実習オリエンテーション
①実習概要の確認
職員の配置、児童支援員の業務
事前学習
事前
教材
担当者
指導方法・指導上の留意点
必要な価値・知識・技術
○○○
具体的実習内容
実習課題(ねらい)
(母子生活支援施設)
1
段階
実習日
社会福祉相談援助実習 (4週間実習)実習生受け入れプログラム
- 16 -
ート
エコマップ
業務を行う理由や業務を遂行する上で必要な知識
等について考えさせる
・面接技法
・記録の知識、技術
・連絡会の参加
の実践
・策定した自立支援計画に基づいた支援
・自立支援計画の策定
について職員より説明を受ける
・関係機関とのチームアプローチの実際
し、考える
・職員間チームアプローチの実際を観察
26
25
に同席する
・可能であれば子どもとの相談場面面接
ともに振り返りを行う
・母との日常会話を実践する
する
⑧チームアプローチについて理解
解する
・自己覚知
・ネットワークの知識
・プランニング力
・アセスメント力
・ニーズの把握
を体験する
⑦関係機関との連携のあり方を理 ・母親・子どもとの関係形成等について
・支援技法
観察し、生活場面面接や関わり技法等
・少年指導員・母子支援員のかかわりを
のかかわりを観察する
24
23
22
21
20
び、作成する
⑥自立支援計画の立案方法を学
18
19
⑤ニーズ把握の方法を理解する
て理解する
17
16
との関連で選定出来るように支援する
・自立支援計画の作成、考え方について説明する
応じて助言する
・ニーズ把握の進捗状況について把握しつつ、必要に
援する
・事例について実習生自らの意見を整理できるよう支
ト
援計画課題シー
実習生用自立支
プランニングシ
・少年指導員、母子支援員の業務について観察させ、
・観察技法
・通読するケース記録を選定するに当たり、実習課題
ート
・子どもとの関わりにおいて悩みや不安を受け止める
・コミュニケーションスキル
・選択したケースの検討
④母と子の影響、自立支援につい ・フリースペースでの母子支援員の母と
アセスメントシ
・世帯の様子を観察する
フェースシート
ケース記録
・情報を統合する力
職員
施設長
・通読するケース記録の選定
・日々のスーパービジョンの確保
・宿直時に職員との懇談を設ける
・秘密保持
的に説明する
要覧
・資料分析能力
する
・宿直業務(3回目、4回目目)を体験
・連絡会の参加
・職員間チームアプローチを観察する
職員と振り返りを行う
・母親・子どもとの関係形成等について
・母との日常会話を実践する
のかかわりを観察する
・フリースペースでの母子支援員の母と
明を受ける
③世帯への支援について理解する
いて理解する
②子どもとの関係形成の方法につ
①ケースの理解を深める
・自己覚知
・通読するケース記録の選定
・母子支援員の業務について職員より説
等について説明し、考えさせる
・記録の知識、技術
・宿直業務(2回目)を体験する
・母子支援員の業務について実際の事例を中心に具体
業務を行う理由や業務を遂行する上で必要な知識
宿直日誌
・少年指導員、母子支援員の業務について観察させ、
・コミュニケーションスキル
・観察技法
少年指導員日誌
職員
・宿直時に職員と実習生との懇談を設ける
・間食提供の立案、実施
15
(3)SW 実習
⑦補完保育等乳幼児保育の理解
⑥間食提供についての理解
いて理解する
⑤子どもとの関係形成の方法につ
どもを理解する
に努める
・学童保育に入り、子どもとの関係形成
・情報を統合する力
母子支援員日誌
実習担当
施設長
・日々のスーパービジョンを確保する
・実習生との関係形成に努める
・資料分析能力
・秘密保持
・少年指導員日誌、母子支援員日誌、宿
直日誌の通読
教材
担当者
指導方法・指導上の留意点
必要な価値・知識・技術
具体的実習内容
14
13
Ⅲ期
12
11
10
9
④子どもと関係形成をはかり、子
8
②母子支援員の業務を理解する
①少年指導員の業務を理解する
実習課題(ねらい)
③利用者の状況を理解する
(2)職種実習
段階
7
Ⅱ期
実習日
6.指導の際の留意点
キーワード
・担当者
・SV(スーパービジョン)の役割
・使用する教材
ここでは実習指導を担当する者(実習指導者)の資格等について、述べていくことと
します。まず、社会福祉士を取得して3年以上の相談援助業務に携わっていること。母
子生活支援施設の職種では母子支援員が該当します。さらに実習指導者講習会の課程を
修了した者であることが必須です。
実習指導者講習会は当初、全社協の主催する4日間の講習会と、日本社会福祉士会の
主催する2日間の講習会しかありませんでしたが、現在は各地の養成校が主催して実施
することになりました。2日間の講習の場合、初日が実習指導に関する概論とプログラ
ミング論、マネジメント論、2日目がスーパービジョン論というスケジュールでスーパ
ービジョンが講習の半分を占めています。また、この講習で使われるテキストは教員の
テキストと実習生のテキストと三者それぞれ準拠した内容となっています。
このように実習指導ではスーパービジョン(SV)が大変重要になります。時間は短
くても毎日行うよう、実習指導プログラムには位置づけてください。
実習のなかで使用する教材については、利用者の支援に使われている様々なツールが
考えられますが、これまで発行した全母協の出版物も、そのツールとなりえます。参考
までに以下に記します。
【参考例】
①
私たちのめざす母子生活支援施設(ビジョン)
②
全母協通信
③
全母協倫理綱領とその解説
④
全国大会、全国職員研修会の資料
⑤
全国母子生活支援施設実態調査
⑥
母子生活支援施設運営指針
⑦
母子生活支援施設運営ハンドブック
⑧
第三者評価基準・母子生活支援施設版
- 22 -
- 17 -
7.実習生の評価
キーワード
・評価の視点
・評価の基準
養成校から送られる評価表を実習前に見ておくことが大切です。何をもって評価の対
象とするのか、養成校ごとに違いがあります。社会福祉士としての専門性、言い換える
と専門職として求められるコンピテンスは変わらないものだと思われますが、評価表は
残念ながら統一したものとはなっていません。
評価する段階で、実習を思い出しながら行うということのないように、評価項目をあ
らかじめ理解しておく必要があります。
また、実習生自身にも自己評価をこの評価表を使ってしてもらうことも意義があるで
しょう。自己評価をもとに実習を二者で振り返ってみることで、実習中に「できたこと」
「できなかったこと」や、長期の実習で実習生の自己覚知がどれだけ進んだかなど、様々
な確認が行えます。
さらに、実習終了のこのタイミングで重要なスーパービジョンがあります。以下の三
点をぜひ実習生に伝えてください。
①
実習中に受けた「傷つき体験」を克服すること。
24 日間という長い実習の中では、いかに実習指導者が配慮してもこの傷つき体験と
いうことは避けられません。実習生は様々な価値観を持っているので、
「こんなことで」
ということでも傷つき体験となるのです。その多くは実習中のスーパービジョンで対応
することも可能ですが、実習が終了する前にこのメッセージを伝えることは大切です。
②
スペシフィックなソーシャルワーク体験をジェネリックなソーシャルワークに
本来この作業は教員の指導のもとに行われるべきです。残念ながらこのような教育を
導入していない教育現場が存在するのも事実です。ジェネラリストになるためには、こ
の過程が必須ですので、実習生には意図的にこの作業を普段の学習で意識してもらうた
めにも、ぜひ伝えてください。
③
これからの進路について
実習生が 4 年生であれば、卒業(論文)・就職活動・国家試験対策と重要なことが控
えています。180 時間 24 日間という実習を乗り越えたことを支持し、将来の選択肢と
して社会的養護または児童福祉の仕事を選んでほしいと伝えてください。
さらにこの「評価」については、別な観点もあることから「宮城県ソーシャルワーク
- 23 -
- 18 -
実習教育研究会報告書 2010 年 5 月」から一部抜粋して参考資料とさせていただきます。
【参考資料】
まず評価の対象であるが、これは実践現場の立場として捉えると事前教育段階における事前訪
問や実習指導プログラムの作成、実習中はその全て、事後教育段階では実習評価表や事後訪問、
実習報告会への参加などがそれにあたる。単に終了後に養成校に送付する実習評価表のみを指し
ているのではない。実習評価表については、かつて「評価項目および評価基準の統一の必要性」
を認識して社養協東北ブロックにおいてワーキング・グループが立ち上げられたが、評価表の統
一には至っていない。むしろ、このワーキング・グループの議論のなかで白川先生が提示した社
養協北海道ブロックの取り組みである、
「評価表と評価項目に対応した実習指導上のポイント」
という評価の枠組みが、研究課題として残されていよう。
この評価の枠組みであるが、今年度も特養パルシア実習において実習指導プログラム上、施設
ソーシャルワーク 9 機能に関連して、実習経験上必要となる価値・知識・技術を具体的に例示し
ている。これらの例示の精度を上げることで、評価の枠組みづくりに関連付けられないだろうか
と考えられる。
2つめは、実習指導プログラムの評価と実習指導の評価である。三者の合意に基づいて、実習
指導プログラムは実習指導者が作成している。これまで MM 共同研究会から本研究会までの数々
の事例を展開してきたが、その過程の中で実習指導プログラムの重要性が年を追うごとに認識さ
れてきた。実習指導をうまくすすめるためには、実習指導プログラム作成にあたって実習指導者
の時間と労力がかなり必要になるということであり、ないがしろにはできないのである。その上
で、実習指導プログラムと実習指導の評価の方法として、毎日のスーパービジョンの中で、指導
者と実習生が相互に行なうという手法も、提示されている。
また、実習指導プログラムと実習指導の評価は、実習受け入れ現場がこの実習をどのように捉
え、後進育成にどう応じているかということにも繋がることから、実習現場の評価にもなるもの
である。
3つめとしては、評価システムの構築であるが、すでに白川先生が指摘している「目標からは
じまる一貫した評価システムの構築」が課題であることは認識されている。
「目標」については
前述したパルシア事例で「本日の目標」が、実習指導プログラムに記載されている。この目標を
一連の評価に、どのように結び付けていくかが課題となるのではないだろうか。また、評価シス
テムである以上、評価者が変わっても同じ結果になるような、スケールが必要になるのではない
かと思われる。さらに実習前評価システムとの関係はどうなるのか、その課題は多いと言える。
さて、ここで事業評価の手法として最近取り入れられている、アウトプット指標、アウトカム
指標⁽¹⁾を用いて仙台長生園の実習評価を考えてみる。アウトプットは実習指導にかかわる事前
準備(事前訪問、実習指導プログラムの作成)、や 24 日間の実習段階における実習指導の全て、
- 24 -
- 19 -
事後訪問・実習報告会への参加がそれに相当するのではないだろうか。
これまで評価というと、この部分を指していたがアウトカム指標で考えると、この実習が長生園
に与えた影響や、これからの長生園の実習指導にどう反映するか、という部分も含まれてくる。
とりわけ本実習で実習生から提起された、いくつもの課題の抽出とその解決策の提案、たとえば
リスクマネジメントやサークル活動の課題にどう取り組んでいくのか、ケース研究で提示された
利用者への支援計画の扱いなど、それらも評価の対象となるのである。
アウトカム指標の評価の場合は、短期・中期・長期と一定の時間軸をもって評価しなければなら
ないであろうし、また指標である以上、数値的な評価が必要になることから、それが可能なのか
検討する必要がある。
いずれにしても、この事業評価の手法は新たな評価の視点となるのではないだろうか。
社会福祉士養成教育が大きく変わるなかで、この実習評価についてはあまり論じられていないの
ではないのだろうかと思える。とりわけ当事者団体である日本社会福祉士会が編集した、
「社会
福祉士実習指導者テキスト」では、実習評価については実習プログラミング論のなかで、ほんの
わずか十数行のみ触れられているだけである。
実習評価なくして、次の実習指導に臨むのはある意味、無責任なことではある。一連の実習の
段階の中で、実践現場の責務は実習段階の評価であろうと、今回このテーマを考察するなかで深
く考えさせられたのである。
注
(1)成果という意味の英語で、研究がもたらす本質的な成果のことを指す。論文や特許の数といった外形的なものでな
く、実際に社会にどんな影響を与えたかを評価すべきという考えから、注目されるようになった。産業技術研究所や厚
生労働省などが、評価のポイントをアウトカムに置く方式を 2005 年から始めた。
(出典
出典
朝日新聞出版発行
「知恵蔵 2007」
)
白川充ら「宮城県ソーシャルワーク実習教育研究会報告書」2010 年 5 月 p156~158
菅田執筆分
- 25 -
- 20 -
第Ⅱ部
実習生編
1.母子生活支援施設の概要
キーワード
・法的位置づけ
・役割・機能、実施している支援
・入所経路(関係機関)
・施設の課題、これから施設に求められる役割
ここでは、母子生活支援施設の成り立ち、法的根拠、そして時代の変化と共に施設が
求められるものや役割が変化してきたことを学びます。
母子生活支援施設は、かつて「母子寮」と呼ばれ、昭和初期頃からその原型がありま
した。当時の不況による生活困窮を受けて、昭和7年の救護法や昭和 13 年「母子保護
法」により、貧困母子家庭への扶助が行われました。
戦後の昭和 22 年制定の児童福祉法に母子寮は、配偶者のない、またはこれに準ずる
女子及び児童を入所させ保護する児童福祉施設として規定されました。当時は第2次世
界大戦による戦災死で夫や住まいを失った母子家庭も多く「寝る場所と住む場所を」と
の切実な要望にこたえる「屋根対策」と呼ばれる住居対策が中心となりました。昭和
22 年 212 か所だった母子寮は昭和 30 年には約 650 か所に増えています。
その後時代の変化に伴い死別から離婚を理由とする生別母子家庭が増加し、多様な生
活課題を抱えた母子家庭の利用が中心となりました。
平成9年児童福祉法の改正により「母子生活支援施設」と名称を変え、目的も「自立
の促進のためにその生活を支援し」として、母子を「保護する」から「保護するととも
に、生活を支援する」施設へと位置付けられました。
今では施設の支援機能の強化や、サテライト型による地域への展開、退所者のアフタ
-ケア、トワイライトステイ、ショートステイなどによる地域の子育て支援を充実する
保育機能の強化など、総合的な自立支援、子育て支援の場としてその役割が増大してき
ています。
(参考)
第三十八条
母子生活支援施設は、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女
子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これら
の者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他
の援助を行うことを目的とする施設とする。
(*ここでいう児童は 18 歳までで、必要に
- 26 -
- 21 -
より 20 歳まで延長することもあります)
第四十八条の二
乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療施
設及び児童自立支援施設の長は、当該施設の所在する地域の住民に対して、その行う児
童の保護に支障がない限りにおいて、児童の養育に関する相談に応じ、及び助言を行う
よう努めなければならない
◆役割・機能
母子生活支援施設が現在担っている役割や機能、利用の経路や支援の内容、関係機関と
の連携について学びます。
母子を共に入所させ共に支援を受けることができるという施設の特性を活かし、安定
した居住環境の中で生活基盤を築き、家庭生活の保障と子育て支援、そして退所後の生
活の安定が図られるよう、個々の母子の様々な状況に応じて、就労、日常家庭生活及び
子育て支援を行い、必要に応じて心理療法による心身の安定を図り、また関係機関との
連絡調整を行う等の支援により、その自立の促進を目的とします。そのために、母子や
その家庭の状況等について充分アセスメントを行い、その自立を支援するための計画を
策定し、それに沿って一貫した支援を行います。退所後の支援の継続も求められます。
母への支援として、DV 被害からの回避・回復、離婚等法的手続き、種々の制度利用、
子育て、日常家庭生活、就労に向けた取り組みや就労継続、対人関係の円滑化への支援
を行います。
子への支援としては、学習・進学就職、放課後、被虐待児・発達障害等の支援機能を
持っています。
多様化、個別化する課題に対応することや、安定した生活基盤の形成、子どもの進学・
就職を支援することによって、「貧困」や「虐待」などの世代間の負の連鎖を防止する
ことを目指しています。
更に
社会的養護を担う施設として、家族関係再構築への支援をはじめ、子どもの適
切な養育を保障し権利を養護するため、子どもの自己肯定感の回復、信頼できる大人と
しての職員との出会い、暴力によらない人間関係の構築、そして子どもが社会人として
自立していくために必要なソーシャルスキルの獲得を支援します。
・施設設備や職員配置の基準
児童福祉施設の設備及び運営に関する厚生省令に基づき、都道府県等の自治体条例に
よって設備や職員配置の基準、利用者の人権への配慮、人格の尊重や、職員の資質向上
が義務付けられています。
- 27 -
- 22 -
◆入所・利用について
入所は、利用者の居住する地域の福祉事務所が窓口となります。福祉事務所の職員と
の相談の中で母子の状況をよく話し合うことで選択肢の一つとして母子生活支援施設
の利用があります。DV相談などの窓口となる婦人(女性)相談所や、子どもに関する
相談を通じた児童相談所の経路からも、最終的には福祉事務所の「委託」により母子生
活支援施設の利用を決定します。
特にDV被害などで夫などから探索を逃れる場合は、
「広域措置」
(遠隔地の施設への
入所)が必要となります。
利用料は、住民税や所得税の税額に応じて変わります。生活保護世帯や非課税世帯など
は、利用料が不要な場合もあります。
・関係機関との連携
支援の内容について、福祉事務所、母子自立支援員、児童の通学する学校、児童相談
所、母子福祉団体及び公共職業安定所並びに必要に応じ児童家庭支援センター、婦人相
談所等関係機関と密接に連携して、母子の保護及び生活支援に当たらなければならない
とされています。
地域の要保護児童対策協議会などと連携し要保護児童や、見守り・支援の必要な世帯
の早期発見・早期対応ネットワークを構築することも必要です。
◆施設の課題、これから施設に求められる役割
母子生活支援施設が現在抱えている課題、そして今後のあり方を考えます。
母子家庭は増加している中、施設数が増加した昭和 30 年代に建築された施設の老朽
化による休止・廃止が続き、また母子生活支援施設のない県があるなど、施設数減少や
地域的にアンバランスが起きています。休止に至らないまでも老朽化による利用者数の
低迷が施設の「暫定定員」化となり、運営の財政的課題を抱えるケースも多くなってい
ます。
支援を行う職員についても、利用者の課題の多様化などのニーズに加算職員の配置に
より対応してきたため、加算職員配置の差によって支援の「格差」の問題が起きるなど、
施設間の「格差」が広がっています。
DV被害者の利用が多くなっているため施設情報の開示に消極的な場合もあり、母子
生活支援施設の役割が地域や社会に十分知られていないケースも多くみられ、全体の母
子世帯のうち利用率は1%に満たない状況です。
職員配置の充実、研修や実践を通じた職員の専門性を高めること、また施設や支援の
内容についての有効な情報開示を行うと共に自己評価や第三者評価の受審などを通じ
て、施設と支援の質について高い均一性を保持し保障していくことが重要です。
- 28 -
- 23 -
施設内での支援(インケア)の一層の充実を図ると同時に、地域の母子世帯のニーズ
に耳を傾け、拾い上げ、取り組むために地域へ出ていく支援(アウトリーチ)も求めら
れています。地域には母子家庭にとどまらず父子家庭を含めたひとり親家庭の抱える課
題が多くあり、すべてのひとり親家庭で、子どもの育ちが守られ、貧困の連鎖を断ち切
るような支援を実現するため、例えば「地域ひとり親支援センター」などの地域拠点を
構築することが求められます。それを支え支援の専門性を高めていくため、職員の専門
性の向上や配置基準の改正による質・量一体での人材の確保と改善が必要です。
施設が持つ機能や職員の持つ専門性を施設内にとどめることなく地域で活用するこ
と、地域の様々な福祉課題に取り組むことがこれからの福祉施設に求められています。
- 29 -
- 24 -
2.受入施設の概要
キーワード
・設立の経緯
・地域の特徴
・施設運営や支援の方針、特徴
母子生活支援施設の経緯については、歴史ある一つの施設の経緯を例にとり紹介いた
します。また、地域の特徴、施設運営や支援の方針・展開についても同施設の具体的取
り組みを例示いたします。
●設立の経緯
・昭和 15 年 12 月着工
・昭和 16 年 10 月
・昭和 22 年 6 月
・昭和 22 年 12 月
・昭和 23 年 5 月
・昭和 25 年 6 月
・昭和 26 年 4 月
・昭和 39 年 3 月
・昭和 49 年
・昭和 62 年 4 月
・平成 10 年 4 月
・平成 13 年 4 月
・平成 13 年 10 月
・平成 14 年 4 月
・平成 15 年 6 月
・平成 18 年 4 月
翌 16 年 8 月竣工(恩賜財団○○県軍人援護会が要
援護母子を収容するため設
立)
開 寮
天皇来寮
児童福祉法施行
児童福祉施設母子寮として発足(認可)
○○県が施設を買収し(土地は昭和 17 年 3 月取得)
県立母子寮を設立
県立児童福祉施設として経営発足
県児童福祉施設として条例設置
全面改築着工 翌 50 年 2 月完成
社団法人○○が県から委託運営開始
○○ホームに名称変更
母子寮を母子生活支援施設に変更
入所期間が満 20 歳に達するまで在所できるに変更
入所・・・措置から福祉事務所との契約
退所・・・保護実施解除申請→母子保護実施解除
通知書
DV防止被害者保護に関する法律施行
DV被害者保護に関する法律全部施行
地方自治法の一部改正により「指定管理者制度」が
創設された
指定管理制度が創設されたことにより、公の施設で
ある○○県立母子生活支援施設の設置目的を、より
- 30 -
- 25 -
効果的・効率的に達成するため指定管理制度を導入し、
施設の管理運営を行う
●現在の施設の規模
・名
称
○○県立○○ホーム
・所在地
○○県○○市○丁目○番○号
・開設年度
昭和 49 年度
・定
員
20 世帯
・構
造
鉄筋コンクリート造 2階建て
延床面積
1002.5 ㎡
敷地面積
2408.26 ㎡
・主な付属物
自転車置き場.駐車場.砂場.物干し場.会議室.倉庫.相談
室.滑り台.シーソー.ブランコ.鉄棒
・主な設備
居室 20 室.保育室.調理室.洗面所.静養室.学習室.洗濯場.
風呂3か所.
トイレ(共同4か所)
●「○○ホーム」の移転改築計画
老朽化・津波浸水対策のため、平成 27 年度を目途に移転改築整備を進め
ている
その際に、○○市立○○園と統合し、定員を 40 世帯とする計画である
●地域の特徴
・人口約 36 万人都市
・市のほぼ中間に位置している
・川幅の広い河口および海の近くに位置している
・津波浸水地域であるため、対策(想定6m)として先に述べた移転改築が
必要な位置に属している
・学校(小中学校・・保育所)及び大学病院・診療所が散在している
・中核都市である
・県庁所在地に位置している
・関係機関として、児童相談所・女性相談所等が位置している
●施設運営・支援の方針等
□管理運営にかかる目標
☆職員間の連携
- 31 -
- 26 -
毎月所内会議を開き、利用者の現状と処遇について共有し意見交換等
を行い、職員の資質向上に努めている
☆職員の研修
・全母協研究大会・ブロック研究大会等に積極的に参加して、職員の
意識開拓や資質の向上に努めている。特に、ブロックで年4回実施
している困難ケースの事例を通して行う「自立支援計画についての
研修会」には積極的に参加した上、他職員に所内研修で伝達・意見
交換等行っている
・県内5施設の職員が職種別に研修会を開き、運営・利用者に対する
支援等について、事例研修や意見交換等を行っている
・○○県母子生活支援施設協議会では、県外・県内の関係機関および
関連施設を訪問し、他の機関・施設との協働・協力・連携を視野に
毎年1回訪問し、研究を実 施している
□利用者に対する支援の方針
☆利用者の母・子を保護し、自立構成を図るとともに、付設保育室で
児童の保育を行う
・1歳児より保育支援(病後児保育・補完保育含む)を行う
・DV被害者に対する警察・弁護士等の連携および関係福祉事務所
と情報交換を行う
☆各家庭の生活・職業・教育・心配事等各種相談に応じるとともに支
援する
・心理的な相談は臨床心理士を配置し、相談に応じている
・基本的生活習慣が身につくよう支援を行う
☆子育てに積極的に取り組む支援を行う
・児童クラブ活動を実施している
・不登校児への支援および保育所・学校・児童相談所等関係機関と
連携を図る
☆就労のための支援を行う
・母子寡婦福祉連合会が厚労省より認可を受けた「無料職業紹介」・
県から委託を受けた「就業・自立支援センター」およびハローワー
クと協働し、就労の斡旋に努める
・求人情報を迅速に提供する
・資格取得のための講習会等の情報提供をする
・病児保育・土.日.祝日保育の情報提供をする
☆経済的な支援を行う
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・母子寡婦福祉資金(貸付)の情報提供を行う
・児童扶養手当・ひとり親医療受給者証・児童手当・年金免除等公
的補助の手続き支援を行う
・大学等の入学支度金としての就学助成の情報提供をする
・小・中・高等学校進級の入学支度金の交付をする
・民事法律扶助(法テラス)の紹介をする
☆一時保護委託業務の実施
・女性相談所より、委託業務を受けている
☆子育て短期支援事業の実施
・契約市町村より、委託業務を受けている
☆退所者への支援を行う
・就労相談・子育て等の相談を随時受付けている
・大学等の入学支度金としての就学助成の情報提供をする
・退所者が必要とする関係機関と継続的な連携を図る
以上のように母子生活支援施設の中には、戦前より設立されたところも少なくありま
せん。その多くは、軍事扶助法上の軍人の遺族母子を対象に建てられました。また、救
貧対策として主に宗教等の援助を得て建設された母子生活支援施設にも歴史がありま
す。
設立の意義や時代背景の変化と共に、その時代のニーズに合わせた施設運営を知るこ
とも重要なことだと言えます。
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3.利用者の状況
キーワード
・利用者の年齢構成
・利用者の入所理由
・利用者の課題、支援の際の視点
・DV被害者
・生活困窮者
・児童虐待
・緊急一時保護(DV、児童虐待、生活困窮等)
・法的手続き(保護命令、離婚調停等)
平成 24 年度全国母子生活支援施設実態調査から利用者の状況を見ます。全国に 255
施設あり(実態調査の回答 246 施設)、施設全体の定員は 4,936 世帯で、そのうち 3,612
世帯の母子世帯(母親 3,612 人、児童 5,739 人)が生活しています。新規入所世帯(平
成 23 年度中に入所)は、全国で 1,593 世帯ありました。
◆利用者の年齢構成
母子生活支援施設は 18 歳に至るまでの子どもを対象にしています(必要があると認
められる場合は、20 歳に達するまで利用を延長することができます)
。子どもの年齢・
就学状況は、
「0 歳」が 3.8%、
「3 歳未満児」が 17.3%、これを含む「未就学児童(6
歳以下)
」が 42.7%、小学生が 36.6%、中学生が 12.7%などです。その母親等の年齢
は、30 歳代が約半数の 44.7%、次いで 40 歳代が 27.3%、20 歳代が 22.0%となり、そ
の世帯の子どもの人数は、1 世帯あたり 1.59 人となります。10 歳代で母親になった場
合も含め、利用する母親の年齢層は 60 歳代までと子ども以上に幅があります。近年の
状況は、乳幼児が増加し、小学生が減少、中学生以上は横ばいとなっています。
◆利用者の入所理由
在所世帯の入所理由は、
「夫などの暴力」が約半数 46.8%となり、次いで「住宅事情」
21.9%、「経済事情」13.9%と続き、このような「暴力・貧困」の理由が、8割以上を占
めています。
「夫などの暴力」については、過去8年間で 10.6 ポイント増え、新規入所
世帯の入所理由の 55.5%となっています。入所の直接的な理由として、夫の暴力が非常
に多いが、住宅や経済事情、またその他の理由として児童虐待、入所前の家庭環境の不
適切、母親の心身の不安定、職業上の理由などが潜在的にあり、これらの理由が複雑に
重なり合って入所に至ったケースも少なくありません。
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◆利用者の課題、支援の際の視点
入所理由の通り、DV防止法の制定によりDV被害世帯の受入先となり、DV被害者
や被害を受けた児童の受入が増加し、広域的かつ緊急的な対応が必要となっています。
また障害のある利用者、外国籍の利用者の比率も高まっています。このように課題のあ
る母子世帯の就労環境は厳しく、非常に低所得で母親と子どもの生活が困窮している状
況です。
母子生活支援施設は、生活や子育てに大きな困難を抱えている母親と子どもが、今の
状況や課題をどう捉えているかアセスメントをして、どのような支援が必要か見立てま
す。そこから課題解決の方向性を見出し、課題解決と、母親と子どもが入所して生活す
る場での日常生活支援を組み合わせて、利用者を支え自立に向けて総合的な支援を行っ
ています。また、入所にあたっての支援、就労や生活安定の支援、心理的課題への対応、
退所やアフターケアなど一連の過程を踏み、切れ目のない支援を、母子支援員や少年指
導員・個別対応職員・心理療法担当職員それぞれが専門的な関わりをして、職員のチー
ムで世帯を支えています。
◆DV被害者
DVにより入所した世帯の受入で、
「施設の所轄する福祉事務所からの受入」が減り、
「県内の所轄以外の福祉事務所からの受入」32.7%、「県外からの受入」32.6%で、広域
的な入所が多くなっています。このように、DVの被害を打ち明けられず耐えかねて、
加害者から逃れるため、住み慣れた場所や物品を置いて、不本意な形で別の土地で入所
して母子共に生活を始めています。
DV被害者は、被害によって「自分が悪いのではないか」と常に思うように、加害者
によってコントロールされて誤った価値観を植え付けられ、自分が存在する意味や価値
を見失い不安定になっている母親も多くみられます。自己評価が低く、場合によっては、
母親や子どもの行動や対人関係に変化をもたらし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)
など心の病気となるケースもあります。
居場所が知られないよう安全確保と、配置された心理療法担当職員の心理的ケアや、
医療の専門家の治療と連携して支援することが必要となります。
◆生活困窮者
利用する母子世帯は、就労して生計を立てようとしますが、社会的に貧困な状況にあ
ります。
入所する母親の就労状況は、年々就労している割合(64.7%、今回最低値)の減少傾
向が続いています。就労する母親の雇用形態は、正規雇用者が全体の 14.2%とさらに減
り、その他非正規雇用も時給パート勤務が増加しています。母親の収入状況は、正規雇
用者の 58.5%が「10-15 万円未満」、非正規雇用者の 94.3%が「15 万円未満」、そのうち
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51.3%と最も多いのが「5-10 万円未満」、雇用形態を問わず低所得状態で自立を阻む要
因となっています。
また就労している世帯の 31.2%が生活保護を受給し、就労していない世帯では 74.2%
が受給しています。全施設の生活保護受給者の割合は 46.2%となり、就労していながら
生活保護を受給せざるを得ない状況は、典型的なワーキングプアと言えます。
◆児童虐待
DVを含む児童虐待の件数は全入所児童数の全体の 53.7%(3,085 件)に及びます。
内訳は身体的虐待 748 件、性的虐待 60 件、ネグレクト 387 件、心理的虐待 1,890 件と
なっています。入所前の父親等による虐待 76.8%(2,354 件)だけでなく、入所後に発見
された虐待も 839 件あり、そのうち母親から受けている身体的虐待 99 件、ネグレクト
203 件、心理的虐待 135 件です。被虐待児に対しては虐待に関する専門性を持ってかか
わり、虐待体験からの回復ができるよう、児童相談所等など関係機関と連携して適切な
支援を行っています。
◆緊急一時保護(DV、児童虐待、生活困窮等)
全国の母子生活支援施設の中で緊急一時保護を実施している施設は 162 施設(65.9%)
あり、受入総件数は年間 1,132 人でありました。延べ日数は 16,925 日で、平均 18.4 日
です。DVにさらされた経験は、母と子どもも複雑で重篤な心の傷を負い、心理的に不
安定になったり、児童虐待に及ぶことも多くあります。被害者の母親と子どもは、加害
者の追及が及ばないように保護を求め、婦人相談所等を経由して避難してきます。施設
では一定の期間、いつでも母と子が生活できる生活必需品等を整えておきます。慣れな
い場所での不安を減らすように、相談や安全管理体制、関係機関との連携を行っていま
す。
◆法的手続き(保護命令、離婚調停等)
DV被害によっての入所が増えて、母親と子どもへの精神的なフォローを行うととも
に、入所の早い時期に離婚等に向けて弁護士などの専門家と協働して、支援体制を構築
しなければならないケースも多くあります。保護命令や支援措置の法的手続きは、慣れ
ない手続きや居場所がわかってしまう場合もあり、精神的に不安定な母親も多いため、
その都度、内容・リスクなどを説明し、共に支えています。具体的には、安全確保やサ
ポートの為の同行を行い、また必要な際の代弁等を行います。
*利用者の状況のデータの出典:平成 24 年度全国母子生活支援施設実態調査報告書(全国母子
生活支援施設協議会)より
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4.実習記録
キーワード
・書き方
・記録の際の視点
実習記録 (ノート) は、実習の事前学習・訪問(オリエンテーション)から始まって、
配属中、事後学習において使用するものです。実習のことが、この記録を読むことによ
ってわかるようになっていきます。大切に取り扱い、保管するようにしましょう。
また、最後に実習のまとめを記載しましょう。
◆記録の目的
記録の最も基本的な意義は、「よりよき援助」のために活かすことにあります。自分
の援助関係が記録に写し出されることになります。
ただ書きっぱなしにするのでなく、必ず読み返しましょう。記録を活かさすためには、
まず、読み返してみることです。最初の頃に自分がどんな態度で実習に臨んでいたか、
どんなところに目が行き、行かなかったかなどがフィードバックでき、自分の姿に気づ
く材料となります。
記録は、自分のためだけに書くのではなく、実習指導者や大学の教員に読まれること
が前提となります。記録をもとにスーパービジョンが行われます。単に実習で何をした
のかだけでなく、したことを通して感じたこと、気づいたこと、そこから考えたことが
記録に出てきます。実習生の援助者としての姿を現し、その適正を判断するものとなり
ます。他者から見られるから、当たり障りのないことだけを書いていくと、実習生個々
の自分らしさが記録に出てこなくなってしまいます。記録を通して「見られる自分」も
意識してみましょう。
◆具体的な記載・活用の方法
(1). 記録の時間
実習記録は毎日書くことになります。できる限り実習の時間内に記録の作成時間を1
時間ぐらい作ってもらいましょう。その日の実習の都合により、不可能な場合は、家で
書くことになりますが、記録のために夜更かしをすると、次の日の実習に影響します。
家で書く場合でも、時間を決めて、限られた時間で書くようにしましょう。
(2). 記録のための準備
記憶だけで書くと、忘れてしまうこともでてきます。実習中に必要なことは、TPO
を考えてメモをとっておきましょう。記載は、黒のボールペンを使って、わかりやすい
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字で書きましょう。誤字・脱字のないように、国語辞典なども用意しましょう。また、
法や制度について確認しないと書けないことも出てくるかもしれません。社会福祉六法
や参考書等も必要になるかもしれません。事前に用意しておきましょう。
(3).
記録の内容
毎日の記録については、①本日の実習課題
②実習状況(日課や実習内容)
③考察を
記載しましょう。
目的意識をもって実習するために、前日とのつながり、全体の中での位置を考え、必
ず毎日の課題を考え、記載しましょう。
実習状況については、日課とどんなことを体験したか、見たか、聞いたかが中心にな
ります。
考察は、記録の中心的部分ですから、課題の達成度、実習を通して体験したこと、体
験を通して感じたこと、気づいたこと、それらを通して考えたことを記載しましょう。
実習指導者に質問がある場合は、質問していることがわかるように明確にしましょう。
(4).
記載の方法
考察は、基本的には、叙述体と呼ばれる日記風の書き方になります。特に印象に残っ
た場面では、短い逐語録のようなかたちで記載するのも、効果的な記載の方法になりま
す。最後の実習のまとめは、要約体で書くことになります。課題を中心としながら、ま
とめるのも、一つの方法です。
○体験事項がわかるように明瞭に書きましょう。
6W1H=Who
When
Where
What
Whom
Why
How
を念頭に
おいて文章化しましょう。
○何をしただけでなく、必ず体験を通して感じたこと、気づいたこと、それらを通して
考えたことを記載しましょう。具体的には、実習記録では、施設の利用者及び職員な
どとどのように関わり、自分はその人(たち)のことをどのように見たのか、感じたの
か、また、職員からどのような指導、助言、指示、注意を受け、実際に行動したのか、
それらによって学んだこと、疑問に思ったこと、自己の課題となったことを率直に書
くことが大切です。
○施設の運営管理や支援・サービスなどを制約している制度やその他の諸条件をきちん
と学ぶことなく、一方的な表面的な批判だけを実習記録に記述することのないよう、
心がけましょう。
○プライバシーには、特に注意し、利用者の方の名前は、個人を識別できないようイニ
シャルや仮名(Aさん)を使い、匿名化して記述しましょう。また、実習先への通勤途
上で紛失したりすると利用者や実習先のプライバシーの大きな問題になりますので、
電車やバスで通勤する人は、移動中の保管には注意しましょう。
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不特定多数の目にふれる場所で、実習ノートを開いたり、実習体験を公開することの
ないようにしてください。
(5).
実習記録の活用
書く行為を通して、私たちは、考えることができ、発見ができます。実習期間中、
毎日の記録を書く作業を通して、書くことの新たな面白さを見出すことでしょう。
記録は活用されないと意味がありません。実習指導者からの指導内容を読み、翌日
からの実習に活かすことが、大切です。もし、指導内容がうまく理解できなかったり、
不明な場合は、必ず確認するようにしましょう。また、自分で実習をフィードバック
するために、読み返してみましょう。それまでの自分の実習の姿、考え方と今の自分
との比較ができ、経過的に実習を捉えることができるようになります。そのことが、
今後の課題を考える機会にもなります。
実習後においても、自分の実習を振り返ったり、報告をする時の大切な資料となり
ます。
活用するという視点から、「実習記録」を位置づけて、記載するようにしましょう。
◆実習記録の指導を通じてのスーパービジョン
記録は古くから専門職が、用いてきた専門技術です。記録することで「援助の継続
性」や「経験の蓄積」を図り、さらに後継者の育成に役立てられてきました。実習記
録の作成と活用によって、実習の連続性と経験の蓄積を図ることが求められます。
実習生は、毎日の記録を作成し、実習指導者に提出します。指導者はコメントを書
き、それを読んだ実習生は、そこで示唆されていること、サポートやヒントをそれ以
降の実習に活用していきます。
「書く」
「読む」という作業を実習生と指導者双方が行
い、実習期間中、毎日、繰り返される実習ノートのやり取りは、最も頻繁に行われる
スーパービジョンの形態です。
(1).
事実とそれについての理解を書き分ける
体験した事柄と、それについての考察を書く。例えば実習以外の過去の体験や知識
等、事実に基づかない、主観的な記述は避ける。事実の羅列で終わらない。
(2). 記録が一方的にならないよう配慮する
例えば、記録の内容が利用者のことのみ、あるいは職員の言動のみでなく、実習生
自身の行動や理解、感情にふれた記述であること。
(3).
記録者の理解力
体験した内容を理解するために必要な基礎知識があること。
(4). 「書かなかったこと」「書けなかったこと」について
体験したことの全てを書くわけではありません。何らかの取捨選択を行います。そ
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の際の選択基準を自覚することで、自分の傾向を知る機会になります。
◆記録
(1).
実習記録は、毎日、その日一日の実習経過などについて克明に記録し、翌日(休日
の場合は次出勤日)に自習指導者に提出し、捺印とコメントを受けること。
(2).
実習記録には、実習で体験した諸事実、それらに対する疑問、考察、感想、また、
実習中に受けた指導内容などについて、正確かつ明晰に記録すること。
(3).
その日の課題を明確に記録し、事実と解釈を混同させることなく、客観的に記録
すること。
(4).
法や倫理綱領等を遵守して、個人の秘密は守り、人権尊重の立場に立ち、記録の
ルールに則って記録すること。
(5).
文字は丁寧に、誤字や当て字に注意して、国語辞典等を活用する等、正しい日本
語で記録すること。
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5.実習の際の留意点
キーワード
・個人情報の取扱い
・健康管理
・服装、持ち物
実習時の留意点をここに例示します・
・実習を行う目的、意味等を明確にし、自分の中での意識付けを行いましょう。
・実習先について事前学習はしっかり行いましょう。
・やむを得ず遅刻・早退・欠勤する場合には、必ず事前に連絡して許可を得ましょう。
・日々、目標や課題を持ち積極的に行動しましょう。
・疑問や質問はできるだけその日のうちに解決しましょう。
・対応方法等で迷った時や子どもと一緒に公園等に外出する時は、必ず職員に声を
かけ、その指示に従いましょう。
◆個人情報の取り扱い
・実習中に職員から説明を受けた母子のケース・プライバシーについては、実習終了後
も口外しないでください。また、実習日誌等にも入所者の実名を記載せずにイニシャル
等で記載をします。
(守秘義務の厳守)
・利用者との個人的な関係(物品のやり取り・住所、電話番号等を教える、外で会う
等)を結んではいけません。
・入所者に入所前の家庭状況や出身地、入所理由などについて必要以上に尋ねないで下
さい。
・入所者から知りえたプライバシーを他の入所者に話さないで下さい。
◆健康管理
・健康管理には十分気を付けるとともに、体調の悪い場合は早めに職員に伝え、無理
をしないようにしましょう。
(風邪・インフルエンザ等に罹った場合、学校等と協議し、実習の延期等も検討します。
)
◆服装、持ち物
服装
・華美にならず、清潔で動きやすい衣服、スニーカー
・エプロン(ひらがな、もしくは漢字に振り仮名をつけた名札を縫いつけましょう)
・爪を切り、マニュキアや化粧品には十分注意しましょう。
・長い髪は結んで清潔で活動しやすいようにしましょう。
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・夏休み中の実習は、必要に応じてサンダル・帽子・水着を持参することがあります。
・ノースリーブ・派手なプリント柄の服装は好ましくありません。
持参品
・健康診断書、細菌検査の結果、健康保険証コピー
・筆記用具・実習ノート・メモ帳・印鑑
・個人票・計画表・出勤簿等
・上履き・運動靴
・着替え・手拭用ハンカチ・弁当(外の店利用可)
・宿直の用意(シーツ・タオル・緊急時でも対応できる服・その他宿泊に伴うもの)
・その他指示したもの。また必要と思われるもの。
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研修広報委員会
担当副会長
菅田
賢治
仙台市社会事業協会(宮城県)
委員長
乙部
公裕
みのり苑(三重県)
委
員
大町
千恵子
江戸川区そよ風松島荘(東京都)
委
員
犬塚
清
半田同胞園(愛知県)
委
員
児玉
弘
和歌山すみれホーム(和歌山県)
委
員
岩城
克枝
沙羅の木(山口県)
(敬称略、役職は平成 26 年度当時)
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社会福祉法人
全国社会福祉協議会
発行人
大塩
孝江
全国母子生活支援施設協議会
編集
平成 27 年 3 月
〒100-8980
研修広報委員会
刊行
東京都千代田区霞が関3-3-2
TEL03-3581-6503
新霞が関ビル
FAX03-3581-6509
E-Mail:[email protected]