炭素材料を添加したモルタルの電気抵抗率の推定に関する実験的検討

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №213
炭素材料を添加したモルタルの電気抵抗率の推定に関する実験的検討
(株)日建技術コンサルタント
1.まえがき
坂本 圭祐
3.結果および考察
コンクリートは絶縁体に近い材料である。しかし、その
コンクリートに電流を流すことができればコンクリート構
1)
造物に以下のような様々な機能 を与えることができる。
(1)供試体寸法の決定
一般に通電物の長さと電気抵抗率の大きさは比例関係に
ある。そこで、本実験においてより精緻なデータがとれる
(1)避雷針としての機能
供試体寸法を検討する。供試体寸法は 40×40×160mm と
(2)風力発電等の放電ユニットとしての機能
40×40×40mm の 2 種類で実験を行った。含水率と電気抵抗
コンクリートに導電性を付加させる材料として、蓄電材
率の関係の一例を図‐1 に示す。40×40×160mm では、含
料等に利用されてきたが大部分は廃棄処分され有効利用さ
水率のわずかな変化に対して電気抵抗率が急激に増加し、
れていない炭素粉末に着目した。
無限大になるようなデータ精度が粗い測定結果となった。
これまでの研究において、モルタルに炭素粉末を加えた
その理由として、水道水よりも電気抵抗率が大きいモルタ
場合、炭素粉末添加率や含水率により電気抵抗率が変化す
ルでは含水率による影響が顕著に出たためと考えられる。
ることが明らかとなっている。そこで本研究では、炭素粉
40×40×40mm では、含水率の変化に対する電気抵抗率の変
末率や含水率を変化させたモルタルの電気抵抗率の評価を
化が比較的精緻に測定できた。そこで以降の検討では、供
行い配合要因と電気抵抗の関係を推定する手法について検
試体寸法を 40×40×40mm とした。
16
電気抵抗率(kΩ・m)
討を行った。
2.実験概要
実験水準を表‐1 に示す。水セメント比(以下、W/C)は
50、60、70%の 3 通りとし、炭素粉末添加率(以下、CP)
40×40×160mm
40×40×40mm
近似曲線(指数)
12
8
ρ = me-aη
4
0
は 0、5、10、15、20 の 5 通りとした。
0
表‐1 実験水準
W/C
(%)
50
60
70
CP
(%)
0
5
10
15
20
0
5
10
15
20
0
5
10
15
20
4
図‐1
8
12
含水率(%)
16
含水率と電気抵抗
(2)推定式の検討
単位量 (㎏/ )
水 セメント 細骨材 炭素粉末
1264
0
1135
106
1004
212
632
873
318
742
424
1354
0
1223
106
1092
212
316
527
961
318
830
424
1417
0
1286
106
1155
212
451
1024
318
893
424
図‐1 より含水率と電気抵抗率の関係が下に凸な指数関
数の様な挙動を示していることがわかる。また、含水率の
増加に伴い、電気抵抗率が 0 に向かって漸近していること
がわかる。そこで、含水率と電気抵抗率の関係が式①のよ
うな指数関数で近似できると考え、
含水率 η と電気抵抗率
ρ の関係式 m、a の係数を求めた。
通電試験は、電気抵抗率が簡便に測定できる直流電源に
①
i)係数 m の決定
よる方法を採用することにした。測定方法は、供試体の側
CP と係数 m の関係を図‐2 に示す。CP が増加するに伴い
面に不陸整正のため道電性グリースを満遍なく塗り、ゴム
係数 m は減少したことから、
係数 m と CP の間には相関があ
付き銅板をくっつけ拘束具で固定する。銅板と電圧計を銅
るといえる。そこで、係数 m と CP の関係が式②のような関
線でつなぎ、電圧を最大(32V)まで出力し、低電圧装置
数で近似できると考えた。近似した曲線式を式②に示す。
の電圧・電流値および回路内に設置した電流計の電流値を
測定する。供試体は練混ぜ後、材齢 28 日まで水中養生し、
82.4 118
②
ⅱ)係数 a の決定
温度 20℃、湿度 60±10%の恒温恒湿室に保存し、質量が
CP と係数 a の関係を図‐3 に示す。CP が増加するに伴い
一定となるまでの間、温度 110℃の乾燥炉で乾燥させてい
係数 a は減少する傾向となることから、
係数 a と CP は相関
る間において電流値の測定を行った。
関係にある。そこで、基本配合である W/C=0.6 を基準とし
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2
た係数 a の予測式をたてることとした。図-3 より得られる
1.6
W/C=0.6 の場合の係数 a の近似式を式③に示す。
1.00
3.20 1.2
係数a
③
CP=0.05
CP=0.1
CP=0.15
線形 (CP=0.05)
CP=0.2
線形 (CP=0.1)
線形 (CP=0.15)
線形 (CP=0.2)
0.8
W/C と係数 a の関係を図‐4 に示す。W/C が増加するに伴
0.4
い係数 a はわずかであるが減少する傾向が見られたため、
0
係数 a に関しては W/C も要因の1つと推測する。
0.4
W/C=0.6 の場合の係数 a と W/C=0.5 および 0.7 の係数 a
0.5
図‐4
の比(以下、c)を式③に乗ずることによって W/C=0.5、0.7
0.6
0.7
W/C
W/C と係数 a の関係
0.8
5
での a を求めることができると考えた。
4
は大きくなるが、W/C と c が直線関係にあると仮定して近
3
c = -1.84(W/C) + 2.11
c
図‐5 に W/C と c の関係を示す。
W/C=0.5 のときばらつき
2
似式を求めた。
1.84 2.11
1
④
式③と④の積により係数 a が求められた。
1.84 1.00
3.20 0
2.11
0.4
⑤
0.5
ⅲ)推定式の提案
図‐5
電気抵抗率(kΩ・m)
以上の結果より、W/C および CP、含水率を用いて電気抵
抗率を推定する式を構築した。
82.4 ここに、
a
3.20 CP
1.00
⑥
118
1.84 W C
2.11
含水率と電気抵抗率との関係の一例を図‐6 に示す。含
水率 7~10%の範囲において概ね実測値を計算値で表現で
0.6
0.7
W/C
W/C と c の関係
16
計算値
12
実測値
W/C=60%
CP=10%
8
4
0
0
4
きている式⑥を暫定式として提案する。
200
係数m
12
16
4.まとめ
100
本研究によって得られた成果を以下に列挙する。
W/C=0.5
W/C=0.6
W/C=0.7
50
(1) 供試体の大きさによる電気抵抗の違いを考慮し、本実
験に適する供試体寸法を決定した。
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
CP
図‐2 CP と係数 m の関係
2
W/C=0.5
W/C=0.7
線形 (W/C=0.6)
1.2
(2) 電気抵抗率を W/C および CP、含水率の関数として求め
る推定式を提案した。
推定式: W/C=0.6
線形 (W/C=0.5)
線形 (W/C=0.7)
ここに、
a
W/C=0.5: a = -1.47(CP) + 0.85
W/C=0.6: a = -3.20(CP) + 1.00
W/C=0.7: a = -3.46(CP) + 0.91
1.6
係数a
8
含水率(%)
図‐6 含水率と電気抵抗率の関係
m = -82.4loge(CP) - 118
R² = 0.82
150
0.8
82.4 3.20 CP
1.00
118
1.84 W C
2.11
(3)配合設計段階において要求された電気抵抗率を(2)
の推定式を用いることで配合設計上の情報を得るこ
0.8
とが可能となる。
0.4
0
0
0.05
0.1
CP
0.15
0.2
【参考文献】1)日本コンクリート工学協会:新機能・高機
図‐3 CP と係数 a の関係
能に挑戦するコンクリート、コンクリート工
学、Vol.36、No.1
- 174 -