「独禁法事例研究」第10回(平成27年2月18日) 1 福井経済連による私的独占事件 論点紹介役から、以下のとおり、事案の概要の発表が行われ、類似事案である北海道低 音空調設備工事の入札談合事件について、三菱電気冷熱プラント株式会社は違反行為の実 施期間が他社と同様であるのに命令の対象となっていないのは甘いのではないか、福井経 済連事件では適用法条が異なり課徴金がかからないのは不公平感があるのではないかとの 指摘がなされた。 福井県経済農業協同組合連合会事例紹介 1.事例紹介 1 2.事例比較 事例 『福井県経済連』 『北海道低温空調設備工事』 工事内容 特定共乾施設工事 低温空調設備工事 施主(注文主) 福井県内の農業協同組合 (JA福 北海道内農業協同組合又は 井) 農業協同組合連合会(ホクレン協同連 合会除く) 施主代行者 福井県経済連 ホクレン協同連合会 施工業者(工事業者) A社~E社 ① ナラサキ産業株式会社 ② 株式会社北海道日立 ③ 三菱電気冷熱プラント株式会社 違反事業者 福井県経済連 上記施工業者 3 社 根拠 私的独占の禁止 不当な取引制限の禁止 事業者が、単独に、又は他の事業 事業者が、契約、協定その他何らの名 者と結合し、若しくは通謀し、そ 義をもってするかを問わず、他の事業 の他いかなる方法をもってする 者と共同して対価を決定し、維持し、 かを問わず、 他の事業活動を排除 若しくは引き上げ、又は数量、技術、 し、又は支配することにより、公 製品、設備若しくは取引の相手方を制 共の利益に反して一定の取引分 限する等に相互にその事業活動を拘束 野における競争を実質的に制限 し、又は遂行することにより、公共の すること(2 条 5 項) 利益に反して一定の取引分野における 競争を実質的に制限すること(2 条 6 項) 違反行為概要 福井経済連は、 受注予定者を指定 3 社は共同して、受注予定者を決定す するとともに、 受注予定者が受注 る。受注予定者以外の者は受注予定者 できるように、 入札参加者に入札 が受注できるように協力する旨の合意 価格を指示し、 当該価格で入札さ の下に受注予定者を決定し、受注予定 せていた。 者が受注できるようにすることによ り、公共の利益に反して、農協等発注 の特定低温空調設備工事の取引分野に おける競争を実質的に制限していた。 排除措置命令 排除措置命令 課徴金 申し入れ 排除措置命令(3 社) - 課徴金(2 社上記①②) ①JA福井 ホクレン ②福井県経済連 ホクレン担当者は、特定の工事業者に 対し、受注予定者についての意向を示 すことがあった。 2 その後、概要以下のとおり、質疑が行われた。 ● 三菱電気冷熱プラントは、課徴金の減免申請を行い、課徴金を免除されたのではな いか。 入札談合に発注者が関与しているときの法的構成として、関与が組織レベルの場合 と個人レベルの場合とで、発注者による私的独占になるかどうかが変わってくるのか。 福井の事案の場合、経済連が発注者だった場合にはどうなるのか。 ● 福井の事案は、行為の態様として、「共同して」に該当しにくかったのではないか。 もともと既設業者が受注する慣行があったところに経済連が出て行ったということで、 競争が存在していたといえるのか。 私的独占事件で、 「排除」抜きに「支配」だけで違反となった事例は珍しいのではな いか。 入札談合事件で、発注者が関与している事案は、最近でも多いので、発注者に対し ても啓蒙していく必要がある。 ● 工事業者の側からすると、今後、不当な取引制限でなく発注者による私的独占であ ると主張する事案が増えるのではないか。 公取により不当な取引制限として審査が開始されたものが、途中から私的独占事件 に変更されるということは、実務上、ありうるのか。 ● 新聞報道では、本件も、もともと他地区を含めたカントリーエレベーターの不当な 取引制限事件だったのではないか。 〇 他地区の案件がどのように処理されるのかは、現時点では不明であるが、可能性とし ては、福井県を含めた工事業者による不当な取引制限事件となる可能性もまったくない わけではない。 ● 福井では、工事業者による横の連絡の立証ができず、他方、経済連の支配は立証で きたということではないか。 〇 横の連絡があったのかなかったのかは、本件では言及がないので、はっきりしない が、横の連絡があったとしても、支配が強ければ私的独占でという事例もありうるか もしれない。 3 ● 私的独占で審査が開始された事案がカルテル事件となった場合には、調査開始日は どうなるのか。 〇 事案によるのではないか。当該行為が私的独占とも不当な取引制限とも評価できる 場合に偶々不当な取引制限と評価されただけという場合と、審査の過程で当該行為と は別にカルテルが見つかったという場合とでは、異なるのではないか。 ● 米国のハブアンドスポーク事案や日本の郵便区分機の事件からすると、本件も十分に カルテルの認定が可能なのではないか。 全国的にカルテルが行われている中で、特定の地域だけ支配行為があったので切り取 るというのは、市場画定の方法としていかがか。 〇 市場が重畳的に存在する場合には、公取がその中から一つ選ぶということはありうる。 福井県の11農協が発注する共乾施設工事がすべて本件の特定共乾施設工事に含まれ ているのであれば、市場の画定としておかしくはないのではないか。 ● 違反行為が行われた範囲を市場としているという点で、シール談合事件的なのではな いか。 ● 一定の取引分野は、福井県が実施する補助事業により発注されたものとして定義され ているので、単に違反行為が行われた範囲を市場としているとは言えないのではない か。 〇 不当な取引制限と構成し、経済連を違反行為者とすることは法解釈上ありえないこと ではないが、経済連を不当な取引制限としても、売上がなく課徴金がかからないと思わ れるので、いずれにしてもあまり意味がない。 ● 経済連の行為を事業者団体の行為とみて、8条を適用することは可能か。 〇 事業者団体としてではなく事業者としての経済連の行為が問題となっているので、8 条の適用は適当ではないと思われる。 2 流通取引慣行ガイドライン改正案 白石教授から、流通取引慣行ガイドライン改正案について概要の説明が行われた後、概 要以下のとおり、質疑が行われた。 4 ● 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準についての考え方において、潜在的競争 者への影響も考慮するとされているが、より明確な記述にしてほしい。 「注7」で「価格が維持されるおそれがある場合」として、競争の実質的制限の表 現を用いて、そのおそれが生じる場合としているのが目新しい。 再販売価格維持行為について、 「正当な理由」が認められることはほとんどなく、か なり厳しい内容になっているのではないか。 ● 垂直的制限行為によって、新商品の販売が促進される、新規参入が容易になる、品質 やサービスが向上するなどの場合には競争促進的な効果が認められうるとしているが、 実務上、これらの3つの場合に限定されては困る。 「正当な理由」については、まず認められず、弁護士としては、再販売価格維持行為 はだめとしかアドバイスできないのではないか。 「選択的流通」については、EU の議論も踏まえ、もっと広い議論があってもよいので はないか。 ● 経団連は、垂直的制限行為について、競争促進効果と競争制限効果の比較考量すべし と提言していたと思うが、結局、今までと何も変わらない感じである。 フリーライダー問題についても、「より競争制限的でない他の方法」との要件が厳しい ものとなっている。 「有力な事業者」のシェアの基準について、見直す必要はなかったのか。 〇 その点については、平成26年度中に、検討を開始することとなっている。 ● これまでとは、何も変わっていないのではないかという印象である。 和光堂最高裁判決との関係については、同判決のいう「ブランド内競争」とガイドライ ン改正案のいう「流通業者感の競争」とは、それぞれ別の概念ではないか。 〇 和光堂最高裁判決自体は、本当に見直されてはいけないほど重みがあるのかという点 については議論があろう。 「注5」は総論を引用していながら、「注7」はそうではないというのは、バランス を欠くようにも見える。 ● 再販売価格維持行為について、例えば、薬価の定まっている医療用医薬品について、 病院の買い叩きを防ぐために行われる場合などは、患者の負担は変わらないので、「正 当な理由」のあることにならないか。 5 ● 「正当な理由」が認められる場合として、予測ではなく、実際に競争促進効果が生じて いること求められているように見える。ガイドラインとしては、予測ができないと問題 ではないか。 ● 入札談合の個別調整の場合のように、「正当な理由」が事後的に認められるということ もありうるのではないか。 ● 競争促進効果が生じるかどうか、とりあえず子会社を作ってみて試してみるといった ことも必要になるかもしれない。 ○は白石先生発言、●は参加者発言 6
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