杉山教諭の挑戦(11月27日) NO.35 ~ 「起承転結」のある単元 ~

杉山教諭の挑戦(11月27日) NO.35
~ 「起承転結」のある単元 ~
教室の北面、東面を埋め尽くした15枚以上のB紙。子どもたちの考えをつなぎ、学習
課題に迫り、時には次の学習課題を見つけた問題解決の足跡。誰もいない5年1組の教室
で椅子に座り、B紙を眺めていると、起承転結のストーリーが迫ってきます。
【起】。トヨタ自動車やデンソーといった大企業の生産システムをインターネットや訪
問見学で知り、我が国の自動車産業の様子を垣間見た子どもたち。「自動車づくりってす
ごいんだ」「へぇ、そうなんだ」という思いを抱いた子どもたちに、杉山教諭は次なる一
手を打ちました。
【承】。二本木新町にある脇田工業所の訪問です。これをきっかけに学区内に7つの自
動車部品工場があることを知りました。「自分の近くに自動車関連工場があるなんて知ら
なかった」見慣れた光景が違って見えてきたことでしょう。子どもたちは訪問してわかっ
た事実を整理しながら、自動車産業を自分の近くに引き寄せていきました。
【転】。整理した事実から、生産に従事している人々の工夫や努力に気付き始めた子ど
もたち。彼らの中に驚きや感動に似た気持ちが高揚してきたタイミングを見計らい、杉山
教諭は一つの事実を提示しました。自動車の輸出量の変化を示すグラフです。1985年を境
に減少してる原因を議論する過程で、子どもたちは「現地生産」という生産方法を知りま
した。この現地生産システムについて調べを進めると、現地の企業や人たち、日本国内企
業に必ずしもよい影響ばかりではないことがわかってきました。子どもたちの心は揺れ、
問題意識はさらに高まりました。別の見方をすれば、
子どもたちの中で自動車産業へアプローチする観点が
増えました。それは思考の広がりを意味します。同時
に、自分たちでは解決できない問題も生じてきました。
この問題を新たな方法で解決することで、思考の深ま
りが期待できると判断した杉山教諭は、アイシンAW
の副社長という要職に携わってみえた、堀田喜久氏を
ゲストティーチャーとして招きました。子どもたちは
堀田氏の言葉を新たな知識や考え方として吸収してい
知識や考え方が深まった授業
きました。
【結】。20日(金)、単元の最後の授業が行われました。学習課題は「日本の自動車
はこれからどうしたらいいのだろうか」。本時の子どもたちの姿は、学習指導要領の目標
『我が国の産業の発展に関心をもつようにする』を具現化したものです。授業の中盤に差
し掛かった頃、「現地生産」「技術」「人口問題」「大企業と中小企業」「外国との関係」と
いった観点別に解決の見通しを話し合っていた子どもたちに、杉山教諭は「グループにな
り、班の考えを一文にまとめよう」と指示を出しました。それぞれがこだわっていること
が違います。それを一文にする作業は、複数の根拠から新たな考えを創ることです。
・外国と協力して新しい技術を開発し、効率を上げ、売り上げを上げる。
・外国との信頼や他の国との協力も必要になるけど、外国と新しい企画や開発をもっ
ともっと進めてほしい。
・外国と信頼関係をつくるために、現地生産を進めながら、日本で技術をつくる。
学習課題に対する子どもたちの答えには、『外国との協力』『信頼』という言葉が使わ
れ、これからの期待が漂うものです。16時間という単元をくぐり抜け、産業の発展に関
心をもった姿です。講師として来ていただいた市教委の鳥居指導係長の「夢と希望がもて
る社会科でありたい」という願いもここから滲みます。
少し前、杉山教諭は「このB紙はしばらくは処分できそうもありません」と話してくれ
ました。「実感させたい」「寄り添いたい」といった思いで、単元計画を修正しながら、
授業を創った結果、起承転結のある単元が出来上がりました。杉山教諭のこれからの単元
づくりのベースになることでしょう。これは教師にとって紛れもない授業力なのです。