29 菊池則雄さん(2015.9.18号)

かつうらしい
ひと
菊地さん。その専門は藻類学とあって、
い。
「名前も〝ノリオ〟ですしね」と笑
海藻の説明をし出したらもう止まらな
地域おこし協力隊・ぬまっち特派員が勝浦の様々なモノ・コトとつなが
生物の声を伝える仕事
藻博士の裏側を知りたくなった。
う 菊 地 さ ん。そ う 聞 く と、ま す ま す 海
今回は柳さんの補助として参加者に解
を掛ける今回の主役、菊地則雄研究員。
り地域で活躍する勝浦らしい人=「かつうらしいひと」にフォーカス!
磯・いそ探検隊
く、絶滅が危惧されているアサクサノ
お仕事を激写すべく『培養庫』と書か
な数収蔵されている。中には戦前の海
さっそく海の博物館の展示フロアの
さらに奥、普段来場者は立ち入ること
れた鉄扉を開けると、そこには予想通
藻 も 収 められているが、お し ば は 水 に
ピンク色のところは海藻なんです。白
りのアカデミックな光景が!妖しい光
戻 す こ と が で き、顕 微 鏡 観 察 や DNA
「いつもヤドカリは住宅難なんです。
貝の殻を置いてあげるとすぐに物件探
を浴びるフラスコにはプクプクと泡が
鑑 定 も で き る。
「恒久的に残していく
リを培養するためのものだったのだ。
浮かび、中でゆらりとした物体が水中
のが私の仕事。こうすれば私がいなく
のできない研究員たちの秘密の隠れ家
を漂っている ……「空気を入れて水流
なっても、
ここにくれば判るでしょう」。
くなってるのは海藻が死んでしまった
を作ってやると、すっときれいに伸び
そう、これは時 空 を 超 え て 生 物 の メッ
しを始めます」
。ちびっこたちを前に、
るんです。一週間に一度くらい水を交
セージを伝える壮大な作業なのだ。
(?)に 潜 入 す る。 菊 地 さ ん の 日 々 の
換します。ノリはこのようにして育て
ところです」
。岩 を 指 差 し な が ら 語 る
るんです」と言う菊地さん。このフラ
が多いことから、「『これ初めて見たん
く、勝浦は民間のダイビングショップ
かう。だが、自ら現場に赴くだけでな
岩礁へ、そして時には海中へ採取に向
基礎研究には、藻類の収集という作
業 が 欠 か せ な い。 菊 地 さ ん は 干 潟 へ、
基礎があるからこそ産業につながるの
究の、
さらに基礎になる研究なんです。
ます。生産量を上げる産業のための研
ておくことで養殖に使う可能性が探れ
あります。ほかの種類の特徴を把握し
ですが、環境の変化で全滅する恐れも
ぼひとつの種類しか使われていないの
目 標 だ と 言 う。
「日本の養殖ノリはほ
や系統をより明確にすることが今後の
す土台としての基礎研究をしつつ、や
豊 か な ん で す 」。 そ う し た 資 源 を 活 か
が多いです。勝浦は海の自然が本当に
やサザエをはじめ、魚やイセエビなど
ジメの海中林にはそれを食べるアワビ
元ですから動物も豊富。特に広大なカ
富な場所。海藻は海の動物の食べ物の
「日本は世界でも海藻の種類が多い
所ですが、中でも勝浦近辺は海藻の豊
護や人々の暮らしに活かされる。
礎研究を支え、やがてそれが自然の保
り ま す 」。勝 浦 の 海 の 自 然 と 生 業 が 基
は貴重。ここが危険という情報も分か
くれたこともあります。人からの情報
ます。とてもめずらしい海藻を採って
とか。海老網の漁師さんも情報をくれ
いるとか、こっちの方がサザエが多い
潜りしますよね。あそこにこんなのが
「やはり漁師さんからの情報
ま た、
は多いです」と、菊地さん。
「勝浦は素
かけにしたい」との想いだった。
ての普通を、価値として認識するきっ
れば嬉しいです」。それは「地元にとっ
動をすることで、その価値が認識され
で勝浦の自然の素晴らしさを伝える活
はその一つだと思います。海の博物館
けで違ってきます。例えばダイビング
すよね。自然の魅力はガイドがいるだ
されて活かされるようになると良いで
じるかもしれないですが、それだけで
だけの豊かな自然があるのを普通に感
ん は 語 る。「 地 元 の 方 は、 勝 浦 に こ れ
も寄与できるようになればと、菊地さ
勝浦の自然と人とともに
なりわい
です』って、写真を見せてくれたりし
がて研究が観光や自然体験、暮らしに
です」
。
ます」といった具合に、ダイバーたち
スコは魔術に使うものではもちろんな
海藻の中でも特にノリを深く研究し
ている菊地さん。ノリの仲間は日本に
イソギンチャクのプロフェッショナ
説 を し て 回 る。
「こういう岩の表面が
菊地則雄さん
のり お
一方、標 本 庫 に は 押 し 花 の 海 藻 版 で
ある〝おしば〟という海藻標本が、膨大
けんすけ
ル、柳研介研究員が生き物について解
説する。この日は、千葉県立中央博物
館分館〝海の博物館〟で行われている、
博物館前の磯の観察会〝磯・いそ探検
隊〟に参加。夏休みとあって大勢の親
子連れで大賑わいだ。
「 こ れ が ヒ ジ キ 茹 で た ら お い し い
のかな?」。歓声を挙げる親御さんの中
にもう一人の研究員が。
「あ、これ高級
な 生 き 物 だ よ。こ れ は ね、イ セ エ ビ の
殻だよ」
。殻 を 拾 い 上 げ た 女 の 子 に 声
8 月に行われた「磯・いそ探検隊」の様子。大勢
の家族連れで賑わう人気企画だ
種類あるそうだが、それぞれの特徴
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の情報を活かすことができるという。
価値のあることです。その価値が認識
左の海藻は、勝浦市に生育する海藻をおしばにしたもの。
上から順に「ハバノリ」「マクサ」「ワカメ」(写真提供:海の博物館)
KATSUURA 2015.9.18
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菊地さんが 2010 年に新種発
表したノリ
「アカネグモノリ」
。
おしばにして海の博物館に保
管されている
!?
ノリはかせのノリオ
さんと勝浦の海
【 菊地さんの仕事の数々 】 ❶難しそうな文献に囲まれる菊地さん
❷小さな糸のような状態になったノリの「糸状体」を培養 ❸採取した
海藻をおしばにする ❹海藻の切断面を顕微鏡で確認 ❺なんと菊地さ
ん自らダイブ!海中の藻類を採取・観察する(❺は写真提供:海の博物館)
取材・撮影・文・デザイン:沼尻亙司 イラスト:瀧川由貴子
記事の問合せ▶勝浦市企画課地域活力推進係 ☎ 0470-73-3337
昭和 43 年 6 月 12 日生まれ。
東京都世田谷区出身。千葉県
立中央博物館分館海の博物館
の主任上席研究員。専門は藻
類学。東京水産大学(現:東
京海洋大学)卒業後、長崎県
水産部を経て、研究員として
千葉県立中央博物館へ。海の
博物館設立と同時に勝浦市へ
移住。奥様と、中学生、小学
生のお子さんの 4 人家族
7
人
培養中のアサクサノリ
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katsuurashii-person