Q.地域密着型の「多機能性を活かした柔軟な支援」の柔軟性とはどこまで求められるの でしょうか。 A.地域密着の地域とは、その人の生活圏をイメージしています。人が生活を確立してい くためには、生活圏の中にスーパーやクリーニング店、警察署や郵便局、銀行などさまざ まなものの存在が不可欠です。これらと関係を持ちながら、これらを使いながら、利用者 の望む暮らしをしましょう、というのが地域密着型サービスなのです。ですから非常に関 係力が問われ、地域密着型サービス事業所と地域がどんな関係力を持っているのか、利用 者と地域がどういう関係力を持っているのか、が鍵になってきます。 「望む暮らし」というニーズが発生しますが、このニーズに対して、さまざまなものを 利用しながらその人の生活を確立することが多機能なのです。いろいろな機能があって、 そこにあてはめていくことが多機能だと思うかもしれませんが、そうではありません。大 切なことは「何々したい」というニーズの実現なのです。 私のところで 94 歳のターミナル時期の利用者がおりました。点滴は一番細い針でも漏れ てしまいます。とにかく口から食べることが一番元気が出て意識もはっきりされるので、 むせたりしないよう相当時間をかけて、かろうじて食べている状態です。その方には、も のすごく気にかけている孫がいました。その孫が結婚することとなり、それを聞いたとき にその方が言ったのは「結婚式に出たい」と言うことだったのです。まさかターミナルで 結婚式に出る、と言われたらどうしますか?家族にとっては、「何を言っておるのか。今に も死ぬところではないか。それよりも新婚旅行から帰るまで何とか保たせてほしい」とい うのが要望でした。ところが本人は出るつもり、まんまんなのです。そのときにスタッフ たちは、「本当に出られないか」と考えてみました。田舎なので結婚式場で花嫁衣装を着る のではなくて、家で着物を着て、角隠しをして相手の家の仏さまと神さまを拝む習慣があ るんです。そこが花嫁姿を見られるチャンスだということになりました。このようなスタ ッフの一生懸命な姿に、家族もそこまでしてくれるならと結婚式への出席も承諾されまし た。看護師も同行したのですが、地域の人が「あら~おばあちゃん」と言って、いっぱい 集まって来て毛布をかけてくれたりして、スタッフは何もすることがないほどです。そこ には、本人と地域の人との強い関係力がありました。そして、結婚式に行ったら、孫や家 族の人がそんな状態できてくれたことにウルウルになりながら手を握ってくれて、本人も その日はとっても元気でした。次の日は結婚式自体をすっかり忘れていましたが。 生活の質だとか、人間の尊厳がどうのこうのと言いますが、こういうことをひとつずつ 積み上げていくことが地域密着であり、ニーズ対応であり多機能なのです。結婚式に連れ て行きなさいという機能はどこにも謳ってありません。しかし、そこのサービス機関がそ ういうことまできちんと対応するのであれば、これはまさしく多機能なのです。多機能化 とはどこから生まれてくるかというと、多様なニーズなのです。 (評価機関学習会 サンライフたきの里施設長岩尾貢氏)
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