水中パラシュートによる船舶用制動機の提案

水中パラシュートによる船舶用制動機の提案
7班
米道
卓音
1.はじめに
現在、船舶には制動機が搭載されておらず、水の
抵抗による減速とスクリューの逆回転による推進力
によって制動されている 1)。この制動機の不在によ
って船舶は制動に大きな時間・距離を必要としてい
る。このことが、近年増加している船舶同士の衝突
事故の原因の一端であるとすると、事故を未然に防
ぐために制動機を開発する必要があると考えられる。
以上の理由により本研究では、新たに船尾後方水
中に設置するパラシュート型の制動機を考案し、性
能の評価をすることを目的とする。
2.抵抗力について
流体中の物体が受ける抵抗力 F は、以下の式によ
って与えられる 2)。
F =C
1
ρV 2 S
2
(1)
図1
実験模式図
図2
実験の様子
ρは流体の密度、V は流体と物体の相対速度、S は物
体の前方投影面積、C は抵抗係数である。
ここで、(1)式を抵抗係数 C について解くと
C=
2F
ρV 2 S
(2)
とすることができる。抵抗係数 C は無次元の定数で
あるため、水のような既知の流体中においてあらか
じめ速度 V、面積 S を求めておき、抵抗力 F を測定
することによって抵抗係数 C を求めることができる。
流体力学における相似則によれば、レイノルズ数
が一定の範囲内にあるとき、流体の運動は相似の関
係を持つため、新たに速度 V'、面積 S'を仮定した系
について求めた抵抗係数 C と共に(1)式に代入する
ことによって
F '= C
1
ρ V '2 S '
2
(3)
と、この系が受ける抵抗力 F'を求めることができる。
3.実験装置と方法
3.1 実験装置
図 1 の よ う に 、 断 面 が 300mm × 300mm 、 全 長 が
2000mm の水槽に水をはり、ポンプを接続することで
定常流を作成した。ここに全長 120mm の船の模型を
流れに逆らう向きで浮かべ、船前方と水槽をばねば
かりと紐で接続した。さらに、船後方にパラシュー
トを設置してこれを水中に沈めた。実際の実験中の
様子を図2に示す。
3.2 パラシュートの作成と種類
パラシュートの素材にブルーシートとテグスを用
図3
パラシュート部の改善案 1,2
いた。半径 R の円形に切り取ったパラシュート部の
外周に 350mm のテグス 8 本を等間隔に取り付けこれ
らのテグスを 1 本にまとめてコード部とした。
R=35,50,70,100mm となるように 4 種類作成した。
また、針金によってパラシュート部を補強した改善
案 1,2(図 3)、コード部の素材をゴムテグスに変更し
た改善案 3 をそれぞれ作成した。
3.3 安定するパラシュートの選定
流速 0.3m/s の条件下で R=70mm のパラシュートを
実験装置に取付け、水中で安定して開くことができ
るかを目視で確認した。同様の実験を改善案 1~3
について同様に行った。
3.4 抵抗力の測定
3.3 節で述べた予備実験の結果、改善案 3 が最も
安定したため、以降の実験では全てのパラシュート
に改善案 3 を用いた。
まず、流速 0.3m/s のもとで R=35mm のパラシュー
トを装置に取り付け、パラシュートを取り付ける前
とのばねばかりの変化量を記録した。同様にして、
他の半径のものについても変化量を記録した。
次に、R=100mm のパラシュートを用いて流速を
0.3m/s から段階的に下げていき、ばねばかりが受け
る力を記録した。
なお、上記 2 つの実験中、ばねばかりが受ける力
は連続的に変化したため、2 分間測定を続けるなか
で平均値と最大値をそれぞれ目測により求めた。
4.実験結果
4.1 安定するパラシュートの選定
4 種類のパラシュートの安定性を確認したところ、
改善案 1,2 は全く安定せず、改善案 3 は改善しなか
ったものよりも安定した。
4.2 抵抗力の測定
パラシュート面積と抵抗力の関係を図 4 に、流速
と抵抗力の関係を図 5 にそれぞれ示す。
5.考察
5.1 パラシュートの安定性について
4.1 節に述べたように改善案 1,2 が安定しなかった
理由は、水中で予想以上に強い抵抗力を受けて針金
が変形したことにより、パラシュートとしての形を
維持できなかったためであると考えられる。
次に、改善案 3 が安定した理由としてテグスの持
つ弾性力の有無が考えられる。パラシュートが水中
で見かけ上釣合いの状態となったときにも、水流の
不規則性やパラシュート作成時の誤差によってパラ
シュート内において力の勾配ができてしまったと考
えられる。弾性力の無いコードを用いた場合はこの
力の勾配によってパラシュートが傾いてしまったの
に対してコードに弾性力をもたせることによってこ
の力の勾配を弾性力が釣り合わせたのだと推測した。
5.2 抵抗係数の算出
図 5 に示した結果および(2)式を用いて本研究に
おける抵抗係数を算出し、図 6 に示した。
抵抗係数はおおよそ 1.6 という一定の値をとった
と言える。また、半球型の抵抗係数は 1.33 である 2)
ため、これと近い値をとったと言えるのではないか。
一方、測定した力に 10%、流速に 10%、パラシュー
ト面積に 5%の不確かさが存在していたとすると、(2)
式に基づき不確かさの伝播則に従うと、算出した抵
抗係数にはおおよそ 22.9%の不確かさが存在してい
ると考えられる。
5.3 制動機としての性能の評価
全長 120m の客船 3)を想定し、半径を 1000 倍の 100m
にしたパラシュートが 20 ノット(10m/s)で航行中に
展 開 し た と 仮 定 す る と 、 (3) 式 よ り 抵 抗 力 は 約
2.5*106N と予測できた。さらに、この客船の重量を
5000 トン程度とする 3)と、パラシュート展開時の加
速度は-0.5m/s2 と予測できた。
このモデルの運動方程式は(1)式に以上の値を用
いることで非線形微分方程式として記述でき、下式
(4)となった。
5 × 10 6
dV
+ 0.8 × 10 4 πV 2 = 0
dt
(4)
10
m / s となり、速度が 5m/s
0 .05 t + 1
に半減するまで約 20 秒かかるとわかった。
6.おわりに
パラシュート型制動機が 10m/s で巡航中の船で作
動した時の加速度は-0.5m/s-2 程度と予測でき、船を
5m/s まで減速させるのに約 20 秒かかることがわか
った。以上より、本制動機は船の制動を補助するこ
とが十分可能だとわかった。
参考文献
1) 鈴木和夫,船体抵抗と推進,成山堂書店,2012
2) 渡辺敬三,流体力学-流れと損失,丸善,2002
3) 東海汽船(2015/1/7 アクセス)
これを解くと、 V =
http://www.tokaikisen.co.jp/shipinfo/largeship/