『法のスペシャリスト&管理業の第一人者に聞く! 管理業務のトラブル

賃貸管理業務グループディスカッション
『法のスペシャリスト&管理業の第一人者に聞く!
管理業務のトラブル解決法』 まとめ
A グループ
発表テーマ:③賃貸住宅の部屋の中で自殺した場合の賠償について
(1) 家主側からの請求
a
原状回復費用の請求について
自殺によって発生した清掃費等は特別損耗であり原状回復費として請求。
特別損耗とは、賃借人の過失によって発生した損耗であり、これについては賃借人
負担。
b
損害賠償の請求について
賃借人は,法律上善管注意義務を負っており,賃貸住宅内で自殺して賃貸住宅の使
用価値,資産価値を低下させたのであれば,債務不履行ということで損害賠償請求が
できる。自殺をすると、その物件について清掃だけでなく,以後の賃貸借において家
主側は告知義務を負うことになり,その結果,家賃の値下げ等を余儀なくされ,さら
には風評被害等により契約締結自体困難となる。
c 請求の相手方
本人は自殺している以上,相続人又は連帯保証人に対して請求。
d 第三者の自殺の場合
全く無関係の第三者がマンションの屋上から飛び降りて亡くなったような場合につ
いては、第三者は善良なる管理者の注意義務は負っていないので,債務不履行責任と
して損害賠償を請求することはできない。但し,他人の土地・建物に入って自殺をす
ることは、違法行為になるので,不法行為責任として,損害賠償を請求することにな
る。
(2) 告知について
告知期間については、法律的な決まりはなく、いつまで告知しなければならないのか
との決まりはないが,一般的に 10 年程度は覚悟する。したがって,家賃の値下げ等の影
響は,10 年程度先まで発生するが,裁判所が損害として実際にどこまで認めるかという
のは事案による。ただ,家主側に 10 年間告知義務を負わせるのであれば、10 年分の賠償
も認められてしかるべきではないか。
自殺があった部屋の両隣・上下の部屋については,告知義務は発生しないと考えてよ
いのではないか。
1
共用部分(廊下,エレベーター)で自殺があった場合には、告知義務が発生するとい
われてもおかしくない。告知義務が発生する以上、それによって家賃の値下げ等を余儀
なくされた場合には,家主側は賠償を請求することが出来るのではないか。ただ、居室
内と違い共用部分は一時的に使う部分なので告知期間はそれに応じて短くてもいいので
はないか。
(3) 実際の対応
家主が最も心配するのは風評被害。
そのため,家主は,自殺があった部屋の家賃を値下げして賃貸するよりも,封印して
誰にも貸さないことにして,誰にも告知せず,風評被害の拡大を防ごうとすることが多
い。
また,裁判についても消極的な家主が多い。裁判になると公開法廷で裁かれるため,
風評被害を拡大し,自殺のあった部屋だけでなく,他の部屋まで契約締結が困難になっ
てしまうことを家主は心配する。そこで,示談として相続人や連帯保証人と交渉するこ
ととなる。
B グループ
発表テーマ:④家主が亡くなった場合、入居者が亡くなった場合、連帯保証人が亡くなっ
た場合。
(1) 家主が亡くなった場合
家主が亡くなり,相続されて、所有者(貸主)が変わった場合、改めて賃貸借契約の
締結が必要か。管理会社が管理の場合も、家主管理の場合も基本的には通知だけでよい
との結論。
(2)
入居者が亡くなって、同居人が継続して入居する場合、賃貸借契約の締結が必要かど
うか。必ずしもしなくてはいけないものではないが、トラブル回避の為には、改めて賃
貸借契約の締結をしたほうがよい。再締結にかかる手数料は賃借人との話し合いで決め
てよい。また、同居人に審査上の問題があると思われても、明け渡し請求は難しい。
連帯保証人が亡くなった場合、その相続人が連帯保証人の地位を相続する。
(3) 連帯保証人との関係
家主が亡くなった場合であれ、賃借人が亡くなった場合であれ、賃貸借契約は相続さ
れることになるので,連帯保証契約も継続する。したがって,連帯保証人と改めて連帯
保証契約を結びなおす必要は必ずしもない。
相続によって賃貸借契約が継続する以上,賃借人が亡くなる前に発生している債務に
ついて連帯保証人は責任を負うし免れることはできない。したがって,賃借人が自殺し
た場合の損害賠償も連帯保証人が負担しなければならないし,家賃の滞納等があれば連
帯保証人が負担しなければならない。
2
賃借人が亡くなって相続が発生し,新しい賃借人に変わった後に発生した債務につい
ても連帯保証人が負担するかについては問題がある。
法律上は,賃貸借契約が存続し,連帯保証契約も存続する以上,新しい賃借人となっ
た後に生じた債務についても連帯保証人は責任を免れることができない。ただ,連帯保
証人にとって、主債務者が誰かという人的要素は契約の内容において重要ということに
なるので、改めて連帯保証契約は結びなおすべきではないか。また,家主としても,新
しい賃借人と信頼関係のある連帯保証人の方が,賃貸物件の管理が容易となる。そこで,
連帯保証契約については結びなおしたほうがいいと思われる。
(4) 実際の対応
家主の相続人から、誰が借りているかわからないので一軒ずつ調べてほしいとの依頼
もある。不動産管理の実務家としては,このような相談があった場合や,適切かつ円滑
な賃貸物件の管理や家賃集金等のためにも,契約の当事者が誰なのかということを明確
するため,契約書の取り直しは必要ではないかと思う。
法的には、通知のみで良いことであっても,実務では家賃の督促業務、振込先の変更
等いろんな問題があり,契約の当事者を明確に特定しておく必要がある。トラブルの起
こった時に,相続が発生していて,相続人が複数いて,しかも相続人の中には遠方に住
んでいる方がいる等した場合,そこから調査等を始めると,膨大な時間がかかって、家
賃回収の時期を逸する。
仲介・管理をしている物件については、問題やトラブルが発生した場合に早期に対応
できるようしておく必要があることを考えると,再度新たな賃貸借契約を結びなおして、
契約当事者をきちんと確定して、いつでも何かあってもすぐ連絡が取れるようにしてお
くといった対応が必要。
したがって,法的には通知のみで OK ということであっても,管理会社・仲介業者と
して実務的に対応することを考えると,再契約等の契約書をやりなおすということは、
必要ではないかと思う。
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C グループ
発表テーマ:⑤騒音トラブルについて
(1) 確認と調査
騒音クレームが 1 人からのものか、複数人からのものかによって、判断する。調査の
結果,複数人から騒音の話が出てきた場合、実際に騒音問題が発生している可能性が高
いと考えられるが,クレームを言っているのが 1 人だけの場合には、クレームを言って
いるその人にも原因がある可能性がある。
管理会社としては,どうしてもクレームを言って来た側の方についてしまいがちにな
るが,全部その人の話を鵜呑みにしてしまうと、今度は,言われた側の入居者の方が逆
にクレームをつけるといったように,隣人間の感情的なもめごとに巻き込まれる等,家
主としては悪状況になる可能性もある。
これから高齢化を迎えてくることもあるので、お年寄り関係のクレームも懸念される。
耳が遠くなった事で、テレビのボリュームが大きくなったりとかすると、近隣からク
レームが入るおそれ等も、これから対応する部分が出てくるんじゃないかとの話し合い
になった。
騒音については、人によってうるさく感じたり、これぐらいはいいやと感じたり、主
観によるところもあるため,クレームが出たということで、直ちに騒音を出しているん
じゃないかと判断せずに、それが本当に騒音というべきものなのか、慎重に調査し,判
断をするということが必要。
(2) 判断のポイント
先ずは,騒音の大きさが重要。生活音については、人が生活している以上全く音を出
さないことは不可能なので,慎重に受忍限度の範囲内かどうかを判断する必要がある。
また,音の大きさだけでなく,たまにドンと音がするのか、音が鳴り続けているのか、
それから騒音が出ている時間帯等によっても受忍限度の範囲内かどうかの判断は異なっ
ている。昼なのか朝なのか夜なのか等。いくら生活音だからと言っても夜中もずっと音
が出続けるといったら、これは受忍限度の範囲を超えるということになる。音量だけで
なく,時間帯や騒音が継続する時間とか、そういったものを総合考慮する。
さらに,物件の場所やそこに住んでいる人の属性も考慮する。都会の学生アパートの
場合と閑静な住宅街の家族用のアパートでは受忍限度の範囲内かどうかも変わってくる。
(2) 対応
実際に調査をしたところ、やっぱり騒音だという判断に至った場合の対応としては,
まず一つは自治体に相談してみる。各自治体によっては、迷惑防止条例を定めていると
ころがあり、自治体に相談すれば自治体の方から注意をしてもらえるというケースがあ
る。
次に騒音のレベルにもよるが,周りの人がノイローゼになるくらい騒音が激しいとい
うことになりますと、刑法の傷害罪ということになるので、警察に言って警察に動いて
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もらうことも可能。騒音おばさんの例が有名。結局、懲役 1 年(執行猶予なし)の実刑
判決が確定している。これは明らかに故意。意図的に嫌がらせ的な騒音を発生させてい
る場合については警察に通報するなりして、厳正な処分を求める。
そこまでない場合については弁護士に相談するなりして、損害賠償だとか仮処分で差
し止め等を行う。また,契約書の中には大体、隣近所と平穏な生活を維持するようにと
条文に入っていることが多いので,契約に違反したということで契約の解除したうえで、
立ち退きを求める。
いずれにしても、法律問題になると立証の必要がある。騒音は,録音しようとしても
録音方法によって違いが出るので、最終的には騒音計等で測るしかない。
(3) 実務上の問題
実際に不動産の管理をしていると、騒音等のクレームは頻繁にあるが,実際には騒音
だと騒いでいる方が単なるクレーマーといった場合もある。
したがって、実際に騒音と言ってきても、本当に騒音か疑問な場合も多い。
したがって,管理している側としては、実際にそういうクレームがあった時は、必ず
現場に行って確認・調査をすることが重要。その結果,やっぱり受忍限度を超えた騒音
を出しているということであれば、まず騒音を出している入居者に対して,近隣に迷惑
をかけていると思いますという通知をし、それでも改善できなければ法的な措置をとる
しかない。騒音等のクレームの電話がかかってきた場合、その確認と調査は管理業者・
賃貸仲介された業者が、まずやらなければいけないことなので,その確認と調査を行っ
た上で,法的な手続きを検討すべき。
D グループ
発表テーマ:⑥入居者が警察に逮捕された場合の対処方法は?
契約者が逮捕されたということは,それなりの罪を犯したことが想定される。
逮捕されたといっても、法律上で逮捕というのは原則 3 日間(逮捕の期間は 72 時間)
。
ただ,勾留されると,そのまま警察に留め置かれる。勾留されるということになると通
常で 10 日間、勾留延長まで含めると 20 日間身柄を拘束される、更に起訴されるという
ことになると、裁判が終わるまでとなり身柄拘束期間は長期化する。
ここで問題となるのが、身柄拘束が長期化して家賃の滞納が発生する可能性,特に,
その後に刑務所に行くことになる場合は,いつ家賃が払われるのか分からない。契約を
解除したくても,私物が残置されている。
この場合、家賃の支払いをどうするか,賃貸借契約の解約の意思があるかどうか等は、
連帯保証人であるとか緊急連絡先・身内の方に確認する。
また、所轄の警察者に行って逮捕された入居者の方に面会を申し入れる。ただ,犯罪
の内容によっては接見禁止がついている場合がある。この場合には,担当の弁護人以外
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は,身内でも本人とは会えない。接見禁止がついていなくても,本人が会いたくないと
いうと会えない。
したがって,その場合には,担当の弁護人に相談する。弁護人がわかりさえすれば、
家賃の支払い方法等を弁護人と相談することができるが、誰が弁護人かわからない場合
もある。
弁護士会に問い合わせても、弁護士会が回答してくれかどうかは分からない。警察に
弁護人に連絡を取ってもらうようお願いするとしても,警察が連絡してくれるかどうか
は分からない。
したがって,家族か連帯保証人にまず連絡を取りあうことが重要なので,連絡先等を
把握しておく必要がある。
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E グループ
発表テーマ:⑦入居中の小修理について(トイレのボールタップ他)
(1) 対応
現在、協会等で使われている賃貸借契約書の条文、小修繕・小修理については入居者
負担と明記されているし、そのように説明していると思うが、原則、建物本体・設備に
関しては、家主の方が負担すべきではないかと言う意見の方が多かった。
ただ,小修繕・小修理といっても,入居して間もない修繕だった時はどうするのか、1
万円以内は小修繕なのかどうなのか等,曖昧なところがあるので、極力家主を説得して
費用を負担してもらうべきなのではないかという意見になった。
ただ、全ての入居者からのクレームについて家主に負担を説得するという形で処理す
るのもまた問題がある。借主の要求が過剰にならないように,契約上は借主負担ですと
いう説明をしたうえで、ただ今回は家主の好意でさせていただきますと言うような、話
術を含めた形で対応した方が良いのではないかとなった。
家主側についても、全ての方が理解があるとは限らないので説得するにしても、普段
からのコミュニケーションであるとか、信頼関係を構築しておかないと、中々そういう
話も難しいのではないかと、そしてご理解いただけないような家主であった場合、いよ
いよであれば管理契約の解除の決意も必要ではないかという意見まで出た。
(2) 小修繕・小修理の範囲
難しいのは、小修繕の範囲。一口に小修繕と言っても必要費なのかそれとも有益費な
のかによっても法律的に取り扱いが違ってくる。必要費は、直ちに家主が負担しないと
いけない。入居者が立て替えていた場合も直ちに家主が負担しないといけない。それに
対して有益費は、契約終了時に精算する。ただ,法律の実務でも、必要費なのか有益費
なのか,それとも造作なのかの判断は難しいものがある。
小修繕というところでいえば,通常 1 万円以内ぐらいの、電球を交換等のものではな
いかと考えられる。1 万円を超えるようなものは小修繕とは言えないと考えるのが普通で
はないか。
どこまでが小修繕か、宅建協会で想定してあるものは、ゴムパッキンの交換費用や元々、
ついている水廻り等の照明器具の電球等。
基本的な基準が、何が小修繕で何が大きな修繕とは決まりがないので管理業者と入居
者とのコミュニケーションの中で話し合いで決める。
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