■特集:インフラ系~安全・安心を求めて~ FEATURE : Infrastructure systems - In pursuit of safety and security (巻頭言) 安全・安心社会の構築に向けたインフラ技術 森崎計人 常務執行役員 Recent Trends in Infrastructure for Social Safety and Security Kazuto MORISAKI 安全・安心社会の構築は,高度経済成長を経て成熟し ンジニアリング事業を行う複合企業体として,構造物お た社会を形成する我が国において,今後の安定した成長 よびそれらを組み合わせたシステムを提供しており,イ に不可欠なものである。そのための社会インフラの整備 ンフラ整備に総合的な貢献ができると確信している。以 について,いくつかの視点で考えてみたい。 下に,当社グループの技術と製品を紹介する。 まず自然災害に対する備えである。2011年に起こった インフラのハード面を構成する素材として,鉄鋼材料 東日本大震災により,自然災害の脅威とそれに対する社 とそれを接合した構造物が重要な位置を占める。その信 会の多層的な備えが不可欠であることを改めて思い知ら 頼性を高め,長寿命化を図ることは,安全性を高めるの された。我が国は地震多発地帯に位置し,阪神淡路大震 みならず,インフラの維持・更新コストを下げることに 災をもたらした兵庫県南部地震をはじめとする直下型地 つながる。鋼材関係では,橋梁用高耐候性鋼の開発,耐 震や,今後予想される南海トラフ巨大地震などとそれに 震安全性の観点から,溶接用高HAZ靱性鋼や塑性変形 伴う津波への備えが課題である。また,我が国はアジア エネルギー吸収の大きい低YR鋼の開発などを進めてい モンスーン地帯に位置し,急峻な地形もあいまって,台 る。また,溶接部の応力集中と残留応力を緩和し,耐震 風や集中豪雨による高潮,土砂災害,豪雪による被害も 性と疲労寿命を向上させる溶接材料と溶接工法を開発し 我々の生活を脅かしている。今後,地球温暖化の進行に ている。本特集号で紹介した技術の他,一部は既刊の厚 伴う気候変動により,さらに激甚化し,頻発することが 鋼板,溶接・接合の特集号でも紹介しており,併せてご 懸念される。このような自然災害に対して,ハードだけ 参照戴きたい。 でなくソフトを組み合わせた対策が求められ,国レベル 自然災害を防止・軽減するインフラ製品として,当社 では国土強靭化計画が進められている。 グループは特長のある各種鋼製砂防製品,落石・雪崩対 つぎに,老朽化したインフラへの対策である。1960年 策設備,高潮や津波による被害を抑える護岸設備を提供 代の高度経済成長期に道路や上下水道,橋,学校などの している。これらに共通するコンセプトは「柔構造」で 社会インフラが一斉に建設され,その多くが耐用年数と ある。ワイヤネットや格子型による透過型の砂防堰堤は, される50年を迎えている。また産業分野においても,石 土石流の捕捉を確実に行うと同時に,安全性と施工性に 油コンビナートや製鉄所,あるいは大型船舶などの大型 優れている。また当社独自のフレア護岸設備は,波の力 構造物の老朽化が進行している。これらについて,劣化 を効果的に逃がす構造を採用している。このフレア護岸 診断と補修・維持管理を適切に行うとともに,更新に当 は消波ブロックを不要とし、天端高さが低く眺望がえら たっては長寿命化が図られなければならない。 れるなど,景観性にも優れている。 そして,快適な社会生活の実現である。過去の高度経 人に優しい安全で快適な生活を支える製品・技術とし 済成長時代には,大量・高速・効率・画一化がキーワー て,当社グループでは振動音響制御技術を活かした多種 ドであったが,現在は個別・ゆとり・快適・多様性がキ の吸音板を開発・製品化している。新幹線のトンネル抗 ーワードと言える。また,進行する高齢化に対応した人 口に設置可能な高耐力の吸音板は,大幅な騒音低減効果 に優しい社会を実現していかねばならない。そのために を発揮している。また透明な部材で構成された透光性吸 は,利用者の立場に立ち,安全性や,静粛性,景観保全, 音板は,透視性と高い吸音性能を併せ持つ景観保全に優 きめ細やかなサービスを可能とするシステムなどが求め れた製品である。また,本号で紹介していないが,無線 られている。 LANを活用した医療情報提供システムなど、高齢化に 対応した安全・安心な社会づくりに資する製品開発に取 このような安全・安心社会の構築とそのための社会イ り組んでいる。 ンフラの整備について,当社グループの取り組みを本特 集号で紹介する。インフラ整備に当たっては,前述のと 以上のように当社グループは,安全・安心社会の構築 おりハードとソフトの組み合わせの重要性が昨今強く認 とそれに向けたインフラ整備の課題に対し,これからも 識されている。当社グループは,鉄鋼・アルミ・銅など 信頼される技術,製品,サービスを提供することで社会 の素材メーカーとして,より強靭(じん)で長寿命の材 に貢献していく所存である。関係各方面からのご指導と 料を提供するとともに,それらの溶接・接合,機械,エ 忌憚のないご意見を戴ければ幸甚である。 神戸製鋼技報/Vol. 65 No. 1(Apr. 2015) 1
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