漢方薬において、痔疾患に対しての処方としては、乙 字湯が有名である。漢方薬には「証」という、患者様の 体質や体調に基づいて治療を行う概念があるが、痔 であるという理由だけで乙字湯が処方されており、証 の検証が行われていない可能性がある。このことか ら、証の違いによって効果に差が現れるのか、また乙 字湯の添付文書の効能・効果にあてはまる症状なの か調査を行い、漢方薬の適正使用を検討することを目 的とした。 乙字湯が処方された患者様17名に、ツムラの「虚実 診断のための質問表」を用いてアンケート調査を実施 し、虚証・中間証・実証に分類した。 併せて排便状況も確認し、これらの結果を乙字湯の 効能・効果に記載されている「体力中等度以上で、大 便がかたく、便秘傾向のあるものの次の諸証:痔核、 きれ痔、便秘、軽度の脱肛」と比較した。 倫理規定:本研究は、ツルハホールディングス学術研究発表審議会の承認を得て 行った(承認番号:HD20150005) 乙字湯が処方されている男女比は、男性が58.8%、女性が41.2%で、男 性に処方される事が多かった(図1)。乙字湯の効能効果に挙げられてい る「体力中等度以上」に該当する実証と中間証の患者様は、実証が 58.8%、中間証が23.5%で、全体の82.3%を占めた(図2)。乙字湯の効果 を実感できた患者様は、76.5%だった(図3)。また、乙字湯が処方されて いる患者様の中で、自分の排便体質を便秘症と回答した方は、52.9%と 上位を占めた(図4)。当店で応需している乙字湯の処方箋は服用回数が 1日2回だが、1日2回の服用方法を遵守している患者様は41.2%で、半 数以上は自己調節して服用していた(図5)。 実証の患者様は、全員が乙字湯の効果を実感できており、中間証の患者 様も90%の方が効果があると回答した。一方、虚証の患者様は全員が効 果不十分と回答した(図6)。排便体質から分析した場合においては、乙字 湯の効能効果に当てはまらない下痢症と回答した患者様では、十分な効 果が得られていなかった(図7)。 乙字湯を服用している方で、効果が不十分だと感じている方は、証が合っておらず、添付文書の効能・効 果に 当てはまっていない可能性がある。 これらのことを踏まえ、漢方薬の効果に疑問や不満を持っている患者様に対し、証の考え方を提案する ことによって、薬剤師が漢方薬の適正使用を推進するために貢献することが可能であると考察した。
© Copyright 2024 ExpyDoc