総合的な学習の時間

総合的な学習の時間
Ⅰ
1
総合的な学習の時間における「見通す」学習活動
学習過程を探究的にする
総合的な学習の時間を探究的な学習とするためには,学習過程が以下のようになることが重要。
・課題の設定 : 体験活動を通し,課題意識を持つ
・情報の収集 : 必要な情報を取り出したり収集したりする
・整理・分析 : 収集した情報を,整理したり分析したりして思考する
・まとめ・表現 : 気付きや発見,自分の考えなどをまとめ,判断し,表現する
こうした,探究の過程は,常に順序よく繰り返されるわけではなく,前後することもあれば,
一つの活動の中に複数のプロセスが一体化して,同時に行われる場合もある。あくまでもおよ
その流れのイメージとして捉え,このイメージを教師が持つことによって,探究的な活動を具
現化するために必要な指導性を発揮することにつながる。また,この探究の過程は,何度も繰
り返され,スパイラルに高まっていく。
2
探究の過程における「見通す」学習活動
(1) 探究の過程へ位置付ける
生活現実の中の問題から課題を設定
し,その解決に向けて本気になって,真
剣に探究的に学ぶことこそが,確かな総
合的な学習の時間を実現する。この探究
の過程との関係で「見通す」学習活動を
考えるならば,それは【課題の設定】の
場面と関係が深い。総合的な学習の時間
にあっては,子供が自ら課題意識を持
ち,その意識が連続発展することで,自
ずと見通しを持った学習活動になるこ
とが考えられる。教師によって一方的に
課題が示されたり,学習活動のねらいが
示されたりするのではなく,子供自身が
課題を設定し,見通しを持って学習活動
を行うことが重要である。
※
総合的な学習の時間においては,「横断的・
総合的な学習」であることに加え「探究的な学
習」や「協同的な学習」とすることが重要
(2) 総合的な学習の時間における3つの「見通し」
① <内容>に関わる「見通し」・・・おおよそどのようになるか?
② <方法>に関わる「見通し」・・・どのように解決できるか?
③ <時間>に関わる「見通し」・・・いつまでに(何時間で)解決できるか?
(3) 総合的な学習の時間における[見通し]の場面
① 1時間を単位とした「見通し(振り返り)」 ・・・
② 学習過程を単位とした「見通し(振り返り)」・・・
③
単元全体を通した「見通し(振り返り)」・・・・・
-中総1-
単位時間の見通しを持つ
課題設定,情報の収集,
整理・分析,まとめ・表現
課題の設定(まとめ・表現)
3
Ⅱ
1
協同的な学びと「見通す」学習活動
(1) 多様な情報を活用して協同的に学ぶ
体験活動では,それぞれの子供が様々な活動を行い多様な情報を手に入れる。それらを出し
合い情報交換をしながら学級全体で話し合うことで課題が明確になり,それぞれの子供が今後
の学習への見通しを持つことができるようになる。学級という集団での協同的な学習を有効に
機能させ,多様な情報を適切に活用することで,探究的な学習へと高めていく。
協同的な学びは,その後の各過程での学習活動の深まりと広がりへとつながる。
総合的な学習の時間における「振り返る」学習活動
探究の過程における「振り返る」学習活動
「振り返る」学習活動は探究の過程におけ
る「まとめ・表現」の場面との関係が深い。
様々な学習活動をまとめたり,表現したりし
て「振り返る」ことで,その学習の意味や価
値に気付き,自らの学びへの手応えを感じる
ことができる。学習過程においてこのリフレ
クションを行うことが,総合的な学習の時間
を質的に高めるとともに,確かな学力の定着
へと方向付けてくれる。振り返りの場面にお
いては成果(物)とともに解決に至るプロセ
スを評価(自己・他者)していく必要がある。
(1)「成果の振り返り」
成果(物)としては,例えば,調査結果をレポートや新聞,ポスターにまとめたり,写真や
グラフ,図などを使ってプレゼンテーションとして表現したりすることなどが考えられる。情
報収集,整理・分析を行った結果を他者に伝えたり,自分自身の考えとしてまとめたりする学
習活動を通してそれぞれの子供の既存の経験や知識と学習活動により整理・分析された情報と
がつながり,一人一人の子供の考えが明らかになったり,課題がより一層鮮明になったり,新
たな課題が生まれたりする。
(2)「成長の振り返り」
自らの学習過程における成長を「振り返る」ことで,学習によって成長した自分に気付き,
次への新たな意欲を持つことができる。また,失敗体験の意義やそのことから得られる成果を
再認識することにもつながっていく。
2
協同的な学びと「振り返る」学習活動
協同的に取り組む学習活動においては,目的や内容,方法などについて繰り返し問われる。こ
のことは,子供が自らの学習を「振り返り」,その価値を確認することにもつながる。
・目 的 ・・・ なぜ,その課題を追求してきたのか?
・内 容 ・・・ これらを追求して何を明らかにしようとしているのか?
・方 法 ・・・ どのような方法で追及すべきなのか?
協同的な活動により一人一人が考えを深め,自らの学習に対する自信と自らの考えに対する確
信を持つことができる。学級集団や学年集団を生かすことで,個の学習と集団の学習が互いに響
き合うことに十分配慮し,振り返る場面を意識した質の高い学習を成立させることが求められる。
-中総2-
Ⅲ
実践事例
事例1 自分の体験する仕事内容について,グループ討議を通して考え見通す学習の事例
単元名
「生き方学習」 ~職業体験する仕事内容について考えよう~
第2学年
1 単元の目標
仕事をする上での苦労や達成感を考え経験することから,働くことの意義や自己の生き方について考
えようとする。
2
評価規準
評
価 の 観 点
評
価 規 準
1
課題設定する力
多くの職業について関心をもち,よりよく生きていくた
めの課題設定をしている。
2
情報収集する力
職業体験学習のための必要な情報を収集している。
3
整理分析する力
職業体験学習を通して,働くことの意義について考えを
まとめている。
4
まとめ・表現する力
体験したこと学んだことを関連付け,今までの職業観と
比較して,考えをまとめている。
3 単元について
本単元では,自分の興味・関心のある職業を体験することを目的とし進めていく。そのために,まず
自分の興味・関心のある職業は何かを考え,それをもとに体験可能な職業を選んでいく。そして,体験
の前には自分の体験する仕事内容について考え,職業体験の見通しを持たせる。同時に,職場体験依頼
の電話や体験後のお礼状の書き方などの学習を通じて,社会における礼儀やマナーについても身に付け
させたい。また,体験後のレポート作成では,働くことについて体験前と体験後を比較し振り返りを行
う。
これらの活動から,働くことの意義について学び,より具体的な将来設計や進路選択につなげられる
ことを期待して本単元を設定した。
4
指導計画(単元の展開・全10時間)
次
学 習 活 動
見通しと振り返りに関わる留意点等
第一次 ○職業体験学習オリエンテーションとして, ・自分の興味のある職業をあげさせる。
事前調査アンケートを行う。
(1)
第二次
○職業体験学習の計画を立てる。自分の体験 ・
「どのような仕事があり,その仕事にはどん
する仕事内容についてまとめる。(2)
な思いが込められているか」を考えさせる。
○体験時のマナーや依頼の電話の仕方につ ・言葉遣いに注意をさせる。
いて考える。
(1)
○職業体験に向けて,グループ討議を行う。 ・班討議の内容がずれないように,具体的な
(1:本時 1/1)
例をあげながら説明をする。【見通し】
-中総 3-
○体験後のお礼文の書き方について考える。 ・お礼文が作文にならないように,言葉遣い
また,レポートのまとめ方について理解す
に注意させる。
る。
(2)
第三次
○職業体験を行う(夏季休業中1~2日)
・体験中,必要に応じてメモ(記録)を取ら
せる。
第四次
○職業体験のレポートをまとめる。
(3)
・体験前と体験後の比較をさせる。
【振り返り】
5 学習指導と評価の様子
本時の学習
(1)目 標
・他者との協同的活動から,自分の体験する職業の仕事内容と目的を考えることができる。
・職業体験で行う仕事に対して,目的意識を持って意欲的に取り組むことの大切さを考え自分の
言葉でまとめることができる。
(2)展 開
見通しと振り返り活動の留意点
過程
主な学習活動
評価規準と評価方法
導 入 『自分の体験する仕事につい
・班討議の進め方について,具
10分
て考えよう』
体的な例をあげながら説明す
①発表と班討議の説明
る。
②発表
・前時の学習として,自分の体
・班を作り各自の体験する職
験する職業において「どのよ
業で,
「どのような仕事があ
うな仕事があり,その仕事に
り,その仕事にはどんな思
はどんな思いが込められてい
いが込められているか」を
るか」をまとめている。
発表する。
・友達の体験する職業での仕事
内容を聞き,自分の体験する
職業の仕事にも当てはまりそ
展 開
うなものがあったらメモを取
30分
らせる。(ワークシート)
ま とめ
10分
③班討議
・友達の発表に対して,他に
考えられる仕事(その仕事
に込められる思い)がない
か話し合いを行う。
・友達の発表を聞いたり,
班討議を行う中で,気付
いたことが書かれてい
る。(情報収集の力)
【ワークシートから】
・班長が話し合いを進行するよ
うに指示をする。
・友達の考えを聞いてメモが取
れるようにする。
(ワークシー
ト)
④自分の体験する職業の仕事
内容を考える。
・発表する。
(全体)
・自分が体験する職業の仕
事内容とその仕事に込め
られる思いが書かれてい
る。(整理分析する力)
【ワークシートから】
・班討議を踏まえて,実際に自
分が体験する職業では「どの
ような仕事があり,その仕事
にはどんな思いが込められて
いるか」を再度考えてさせる。
-中総 4-
6
具体的な授業改善のポイント
【指導事例と学習指導要領との関連】
中学校学習指導要領 第4章 総合的な学習の時間 第3の2の(7)において,
「職業や自己の将来に
関する学習を行う際には,問題の解決や探究活動に取り組むことを通して,自己を理解し,将来の生き
方を考える等の学習活動が行われるようにすること」と示している。職業体験や職場体験は体験そのも
のが学校以外の地域社会における自己のあり方を考えるきっかけとなり得るものであり,体験において
学ぶ職業の内容や職場における職業人の生き方に触れる機会は,職業理解を深めると同時に自ずと自己
の将来を考える機会ともなっていく重要な学習である。
総合的な学習の時間は体験活動そのものをねらいとするものでは無く,自らが課題を発見し,よりよ
く問題解決を図っていく資質・能力や主体的・創造的・協同的に取り組む態度を育てていくことをねら
いとしている。
本事例においてはどのような仕事に取り組んでいくかをグループ内で発表することを通して,自分の
課題設定場面での選択や学習内容を振り返ると同時に,他者の選択した職業の仕事やその内容を聞くこ
ととグループ討議を通して,実際の体験活動への見通しを持たせ,自主的に取り組む体験活動とその意
欲付けをねらった実践である。また,体験後のレポート作成を意識させることで,振り返りの活動へと
つなげていきたいものである。
【見通しと振り返りの工夫】
本事例では,職業体験に向け「どのような仕事があり,その仕事にはどんな思いが込められているか」
ということを考える。協同的な活動として班での発表と討議を行い,自分の考えを深められるようにす
る。ここでの班は,日常生活で用いている4人班である。そのため,班活動の際は異業種での活動とな
る。あえて異業種での班活動を取り入れることで,いくつかの効果が考えられる。特定の職業に限定さ
れないため,様々な視点から仕事について考えることができる。そのため,自分の体験する職業と異な
る仕事を聞いて自分の体験する職業にもあてはまる仕事はないかという気付きにつながる。更に,どん
な職業でも行われるような共通する仕事でも,その仕事への思いは職業ごと少しずつ違っているという
ことを考えることができる。また実際の体験では,自分が予想していなかった仕事を頼まれることもあ
る。このようなときも,グループでの発表や討議の中で出された仕事内容を思い出しながら,予想外の
仕事でもあってもその仕事に対する思いを考え,前向きに仕事に取り組むことにつながる。これらの学
習活動から,職業体験で行う仕事について見通しを持たせ,目的意識を持って仕事(体験活動)に取り
組み,働くことへの関心を深めたい。
また今まで行っていた職業体験後のレポート作成では,
「疲れた」
「期待していた仕事ができずに,つ
まらなかった」などの感想になりがちであった。そこで,「どのような仕事があり,その仕事にはどん
な思いが込められているか」という事前の見通しから,体験前と体験後を比較する中で振り返りにつな
げ,価値観の変容を見取っていく。そこから,働くことの意義について考えられるようにしていきたい。
これらの活動から,働くことの意義について学び,より具体的な将来設計や進路選択につなげられる
ことを期待したい。
-中総 5-
【具体的な活動の様子】
【活動を振り返って】
「仕事に対する思い」として,生徒たちが最初に持っていた考えはとても浅い考えであった。
例えば,飲食店での仕事として皿洗いがあげられる。その仕事にどんな思いを持って 取り組んで
いるかという考えが「とにかく綺麗にする」といったものであった。しかし,協同的な活動とし
て討議を行うことで「衛生管理を徹底するため」
「お客様においしく食べてもらうため」などの意
見が出され,仕事に対する価値観が高められた。授業後には,「職業体験が楽しみ」「どんな仕事
も頑張りたい」などと言う生徒もおり,本事例を行った成果が感じられた。
“〔コラム〕
総合的な学習の時間の「 評価 」
評価が変われば授業が変わる。それによって生徒が育つ。評価は教師にとって ,生徒に
どのような資質や能力や態度が育ったのかを明確にしてくれるものです。生徒にとって
は,自分の学習状況を把握し,自己を見つめ直すきっかけとなり,その後の学習や発達
を促す働きをします。総合的な学習の時間における評価は ,子供たちの学習過程におい
て多様な評価が可能なものであり,かつ,学習過程において適切に行われるものである
ことが大切であります。それは,探究的な学習の過程では,子供たちは不確かな状況を
抱えながら学習を進めていることが多いからです。
-中総 6-
事例2
職場体験報告会を通じた,振り返り学習の事例
単元名
「自分を見つめよう」~職場体験学習を通じて~
第2学年
1 単元の目標
「働くこと」について学ぶ活動を通して,働く人の思いや考え方を感じ取り,自分の生活や将来
と結び付けてとらえ,これからの自己の生き方を考えることができるようにする。
2
評価規準
1
評 価 の 観 点
課題設定する力
2
情報収集する力
3
整理・分析する力
4
まとめ・表現する力
評 価 規 準
職業についての知識や適性について理解し,職業体験を
有意義にするための適切な課題を設定している。
職業や自己についての資料・話などの情報を,収集・分
類し,ポートフォリオ等に生かしている。
他の生徒や,体験先の方々など,違う立場の人の考えを
聞き根拠や理由を明確にして,考えをまとめている。
職場体験学習から学んだことを生かしたポートフォリオ
等を作成し,体験報告会に向けた活動に取り組んでいる。
3
単元について
この単元では,職場体験,小学生や下級生との職場体験報告会(学校種間連携)を中心に取り
組んでいく。その中で,望ましい勤労観・職業観を育てるとともに,職業という視点を持つこと
で社会への視野を広げ,自己の生き方を考えることができるようにすることをねらいとしている。
職場体験は,学校を離れて社会に出る体験となるため,生徒一人一人が課題に直面し,自ら考
え・主体的に判断するよい機会となる。実際に,大人の中で働く,という体験から得られる気付
きの意義は大きい。また,その気付きを,生徒自身が自分の中で意味付けることができるように
することが,「生き方」を考えるという意味で大切なことだと言える。
さらに本単元では,小学校で取り組む(暮らしを支えるさまざまな仕事・将来の自分)と関連
付けることで,「職業と生き方」を結び付け,中学生の視点で捉えた勤労観・職業観を,小学生
に向けて発表する職場体験報告会を取り入れている。ここでは,自分の体験を言語化する「発表」
という課題に仲間と協同して取り組むことで学習を深め体験から学んだことを整理・分析し,表
現することがねらいである。
また,一方的な「発表」ではなく交流の場としており,連携・継続して取り組んでいる言語活
動の充実を図った双方向のやり取りが期待できる。小学生という対象を意識した発表活動を行う
ことで,対象に合わせた発表の工夫を行うとともに,小学校の学習と中学校の学習との連続性を
図り,中学校生活に対する不安を解消して期待につなげることにも役立つのではないかと考えて
いる。
4
指導計画 (単元の展開・全14時間)
次
学 習 活 動
勤労観の形成 3時間
第一次
① 勤労の尊さ
② お金の大切さ・仕事ってなに
-中総 7-
見通しと振り返りに関わる留意点等
得られた情報を整理し将来へ見通しを持
たせる。
【見通し】
第二次
第三次
③ 将来設計をしよう
職場体験先を決めよう
④自分が体験したい職業を絞り込もう
⑤体験事業所を決定しよう
⑥ マナー・ルールの大切さ
⑦ 仕事内容を確認しよう
⑧ どんな準備が必要か確認しよう
体験学習に必要な情報を収集し,体験で
必要なことを考える。【見通し】
第四次
職場体験をしよう(夏休みの1日)
体験したことをすぐに振り返り,ワーク
シートに残す。【振り返り】
第五次
職場体験のまとめをしよう 5~8時間
⑨体験をまとめよう[個人レポート作成]
⑩ポスターセッション前の話し合いと発表
の練習 本時
⑪学級発表会を開こう(総合1~2時間)
⑫小学生・本校1年生に職場体験報告会実
施しよう
⑬報告会のまとめをしよう。(総合1時間)
個人としての体験活動の振り返りをしっ
かりした上で,グループなどの話し合い
に向かう。【振り返り】
またグループとしての振り返りを個人の
振り返りとして生かす。【振り返り】
5
学習指導と評価の様子
本時の学習
(1)目 標
・体験から学んだ「大切なこと」についてまとめ,効果的に伝えることで,自己の振り
返りを行う。
・対象(小学生)を意識した発表活動を行うための話し合いを行う。
(2)展 開
過 程
主な学習活動
評価規準と評価方法
見通しと振り返り活動の留意点
報告会での,グループ発
導 入
小学生や1年生を意識した仕事
表について学年全体へ
5分
内容や,「大切なこと」の伝え方
の説明会を受ける。
について理解させる。
報告会での具体的な発
表手順の説明。
展 開
35 分
まとめ
10 分
報告グループごとに集 学んだ「大切なこと」
まって話し合いと報告 のグループ内異業種同
士の共通点を見付ける
の練習。
〈整
・体験から得た各自の ことができている。
理・分析する力〉
「大切なこと」を小グ
ループで発表し合い, 【発表・ワークシートから】
グループとしての「大
切なこと」を見付け, 相手を意識し,伝える
工夫ができている。
まとめる。
・小学生を意識した発表 〈まとめ・表現する力〉
【ワークシートから】
を考え工夫する。
報告会の手順,担当の最 本日の活動を生かした
終確認をグループごと
改善をしている。
に報告。
〈まとめ・表現する力〉
【ワークシートから】
-中総 8-
互いの意見交換から自分の体験
を振り返り,その共通点を見付け
ることができるようにする。
体験をもとにした発表を行い,学
んだことや感じたことを適切に表
現する。
小学生や1年生の前で効果的に
発表するための工夫や,見通しを
しっかり立てているか確認する。
6 具体的な授業改善のポイント
【指導事例と学習指導要領との関連】
中学校学習指導要領 第4章 総合的な学習の時間 第3の2の(7)において,「職業や自己の
将来に関する学習を行う際には,問題の解決や探究活動に取り組むことを通して,自己を理解し,
将来の生き方を考える等の学習活動が行われるようにすること」と示している。職業体験や職場
体験は体験そのものが学校以外の地域社会における自己のあり方を考えるきっかけとなり得るも
のであり,体験において学ぶ職業の内容や職場における職業人の生き方に触れる機会は,職業理
解を深めると同時に自ずと自己の将来を考える機会ともなっていく重要な学習である。
本実践においては体験活動を軸とした学習の終末部分における「~への発表会」を通して,単
に学習活動を振り返り,学んだことや感じたことをまとめるだけでなく,他者への発表を通して,
自らの学習活動全般をより丁寧に振り返り,職業理解・自己理解をより深まりのあるものとなる
ように仕組んだ実践である。また,発表活動への取組は発表者相互の協力による協同的な学びと
もなり,発表を視聴してくれた対象者からの感想や反応等を自らの学びと重ね,加えて他者の発
表からの学びを重ねることにより,自己の学びの客観的な評価も可能となるものである。自らの
評価を次の学習への課題発見や関心・意欲の高まりにつなげていきたい実践である。
【見通しと振り返りの工夫】
職業学習や,職場体験についての個人としての振り返りを行い,一連の活動あるいは職場体験
のまとめを行うとともに下級生や小学6年生にプレゼンテーションを行うという経過の中で,改
めて自分の活動に対する明確な振り返りを行うことを目的としている。
職場体験は,感想やインタビュー結果などとともにレポートにまとめ,一旦提出する。これを
後日ポートフォリオの形式で写真や資料などを加え,内容を整理し見やすく伝えやすい形にする。
これは実施した職場体験をレポートやポートフォリオ作成の過程で,自分自身が振り返るとと
もに,それを他者に表現することを意識しながら作成することで体験を再構成するものである。
また,作成したポートフォリオは展示を行うだけでなく,学級・学年での発表会を通して情報を
交換し,共有化することで様々な職種に対する理解を深めるとともに,職場体験から得られた職
業や労働についての価値や課題について振り返りを行っていく。特にポートフォリオは,作成す
る前から「発表」「展示」を前提にしていることを伝え,生徒たちに最初の段階から相手を意識
して作成すること,相手が見たときの反応を見通して作成するように指導していく。
こうした,個の見通し・振り返りと学年・学級での情報交換による振り返りに加え,ここでは
下級生や小中連携を意識したプレゼンテーションを行うという活動を行うことで,その締めくく
りとしている。
同様の経験をしていない年下の児童・生徒に対し,対象を特定した上で伝えるという取り組み
を通じて,自分たちだけでは気付かなかったあいまいな部分を明確にし,より深い振り返りを行
うことを目的としている。
【具体的な活動の様子】
生活班での発表会
学級発表
発表会グループでの原稿作成
-中総 9-
報告会の打ち合わせ【本時】
報告会練習【本時】
職場体験報告会(1年生)
報告会打ち合わせ【本時】
職場体験報告会(小学 6 年生)
職場体験報告会(小学 6 年生)
【活動を振り返って】
職場体験自体は1日の体験であったが,生徒の希望にできるだけ近付けられるよう,保護者の協力
のもとに取組を行った。職場体験では,やはり体験先の確保と生徒の興味関心とのマッチングが最も
難しい課題であったが,おおよそ事前の学習や興味・自己分析などに近い形での体験ができたと思え
る。取組みの期間を何日間とするかも課題であり,3日間程度の実施が望ましいとも思われたが,相
手方の事情や生徒や家庭の側の事情などもあり,1日の実施となった。生徒の感想・受け入れ先との
相談の中で,今後も検討が必要であると思われる。
活動の「見通し」「振り返り」については,事前に活動の全容を生徒たちに示し「見通し」を持た
せたことで,体験を「楽しかった」で終わらないものにしようと努力する姿勢が伺えた。この「見通し」
の指導が,活動全体の中での緊張感や,学習意欲の向上につながっていったと感じている。また,次
の発表の機会を想定した上で,ポートフォリオ作成による個人の「振り返り」も,予想以上にしっか
りとしたものになり,次の活動を「見通す」ことで,自己の体験をより深く「振り返る」ことができ
-中総 10-
ていた。
展開例を示した発表前の話合いでは,各自の体験から得られた,働くことや仕事の“大切なこと”
を「振り返り」,その共通項を探ることでグループとして働くことの本質を理解し,発表する際の具
体的な手順について「見通す」ことができた。職場体験報告会では,こうした学習の総まとめと,活
動の最後の「振り返り」の場として発表を行うことができた。
また,この活動は一方では聞き手となった,中学1年生・小学6年生にとっての次年度あるいは入
学後の「見通し」を持たせることにもつながったのではないかと考えられる。
【職場体験学習を通じての生徒の感想・反省】
・職場体験をして,その仕事の大切さやその仕事ならではのことがたくさん学べてよかったです。今
回の発表で,1年生も興味を持ってくれたのでよかったです。
・仕事というものをはじめてして,すべての動作について責任があるということを感じた。仕事は大
変だったけど楽しいこと,うれしいこともあって将来は仕事をバリバリしていきたいと思った。
・仕事場のみなさんはいつも笑顔で,楽しそうに仕事をしていた。私もみんなが笑顔だったので,自
然と笑顔で仕事をしていた。
・薬局に行って仕事ってとても大変だけど,お客様が喜んでいる姿がとてもうれしいなと感じた。
・菓子作りが好きで,洋菓子店に体験させていただいたけど,ただ好きってだけでは,働いてはいけ
ないなと思った。実際に体験してみて洋菓子店で働くことの大変さを学んだ。今回は自分の将来を
考えるよい体験となった。
【報告会の児童・生徒の反省と感想】
中学生
・自分達が伝えたいと思っていたことは,伝えられたと思う。回数を重ねるごとに,うまく発表がで
きた。
・よく聞いてくれたから伝えることがスムーズにできた。
・クイズ形式にして,私達も楽しく,6年生達も楽しく伝えられることができた。
・実際に職場体験で作ったものを見せながら発表することができた。
小学生
・働くことはとても大変なことだけど,自分の好きな仕事なら生きがいになるということがわかり
ました。
・働くときの大切なポイントは,お客様に喜んでもらえるよう心をこめて働くことと,いっしょに
働く仲間を大切にすることだとわかりました。
・いろいろなところがあって,中学2年生になったら職場体験に行くんだということもわかったの
で,何にするか決めておくといいなと思いました。
・中学2年生の発表は,すごくわかりやすくて楽しく教えてくださったので,自分たちも中学2年
生になったときに生かせるといいなと思いました。
〔コラム〕
「 3年間を見通した指導計画 」が・・・
指導要領には指導計画の作成に当たって,全教育活動の関連の下に,目標,内容,育てる資
質や能力・態度,学習活動,指導方法や指導体制,評価計画などを示すことと小学校での取
組を踏まえることを明記しています。しかし,中学校における総合的な学習の時間について
は学年の指導体制にゆだねられていることが多く,ともすると学年任せで,学年独自の指導
に陥ってしまっているようなことはないでしょうか。地域との関係や各教科,道徳,特活,
などと関連付けられた総合的な学習の時間を考えていこうとするとき,また,小学校の取組
からのつながり等を考えたとき,中学校3年間を見据えた全体計画に基づく展開が必要とな
ってくるのではないでしょうか。
-中総 11-