いる複合生物でした。菌類と藻類は、双方 に利益があるギブアンドテイ クの「共生」 関係にあります。しかし、地衣類に限らず どの生き物も、自然界では他の生物とお互 いに何らかの関わりをもって生きているは ずです。湿度も気温も快適な条件下で、試 験管の中に糖分など食べものを予め用意し てやれば、特定の微生物一種だけを「純粋 培養」することも可能です。しかし、自然 界では、こんな都合のよい棲み家はそうそ う無いはずで、おそらく完全に単独で生き ている生物というのはいないでしょう。 お互いに仲良しの関係を「共生」 一般に、 といいますが、この日本語が示す内容は幅 広く、若干曖昧です。2者の関係がどうあ れ、単に同じ場所に共に居て一緒に生きて いる、という意味の広義の「共生」は、む しろ「共棲」と書く方が妥当かもしれませ 共生とは? ~ 用いられています。 生」は、このように緩やかな広い意味で =お互い に 対 応 す る 英 語 は「 mutual の」というニュアンスが強調された と を「 相 利 共 生 」 と 呼 び ま す。 こ れ (ウインウイン)の関係こそ、厳密 Win な 意 味 で の「 共 生 」 な の で は? と 考 え 藻 類 や、 マ ツ タ ケ と マ ツ の 木 の 菌 根 (ミューチュアリズム)と mutualism い う 言 葉 で す。 地 衣 類 を 作 る 菌 類 と Win- は「 syn = 同 じ、 一 緒、 共 に 」 の「 biosis = 生 命 」 で す か ら、 日 本 語 と よ く 似 た 語 ら れ る 方 も 居 ら れ る で し ょ う。 こ の よ 共生などはまさにこの相利共生の 一 方、 双 方 に メ リ ッ ト が あ る 源を持つ言葉だといえます。社会で〝人間 う に、 お 互 い 相 手 に 利 が あ る 共 生 の こ 自 然 界 に は 多 く、 普 遍 的 に 存 在 れ ら は 種 数、 バ イ オ マ ス と も に え る で し ょ う。 そ の 証 拠 に、 こ 方が幸せな上手な生き方だとい ←例 で す。 地 衣、 菌 根 と も に、 双 た餌のおこぼれをもらって居候と どの腸内居住者たちは宿主が食べ 同様です。サナダムシや腸内菌な ンゴムシなど節足動物の腸内でも ますが、これは、小さな昆虫やダ いろな寄生虫や微生物が住んでい ← どを探すと見つかるでしょう。意外な し、 非 常 に 成 功 し て い る と 判 断 く、消化管の中で消化酵素を分泌 ところでは、河川敷のヤナギの樹液で りに集まる習性を利用 他 方、 相 利 共 生 の 対 義 語 と し て、相手には迷惑をかけずに片方 してくれれば、宿主の消化を助け 夏の主役といえば子供たちに大人 気 の ク ワ ガ タ で し ょ う。 「クワガタ= して灯火採集ができま だけが得をするという関係を「片 ることになるでしょう。逆に、居 います。 ムシなどは片利共生の例でしょ ないといわれる寄生虫のサナダ 化 管 に 住 み、 あ ま り 害 を 及 ぼ さ しょう。 と、 も は や 共 生 と は い え な い で の生育を不良にしてしまうようだ 候が次第に栄養を奪っていき宿主 通信 秋 か ら 冬 に か け て、 クワガタたちはどこに う。 人 間 ほ ど の サ イ ズ の 大 型 動 彼らが迷惑を掛けないだけではな す。 こ の 方 法 は 生 き 物 利 共 生 」 と 言 い ま す。 人 間 の 消 してひっそり生きています。もし、 ますが、実は一年中ク ワガタを見つけること ができるのです。私も 5月の菅平高原でさっ そく採集しました。今 回は、色々なクワガタ と、その探し方をご紹 い る の で し ょ う か。 実 物 だ と、 消 化 管 の 中 に は、 い ろ (出川洋介) は、 彼 ら は 朽 木 の 中 で しましょう。また、野外活動には危険 らが生息できるように 通 り に し て、 今 後 も 彼 採 集 を 終 え た 後 は、 クワガタの住み家を元 異なってきます。 によって見つかる種も 2 )。朽木の部位や樹種 こ と が で き ま す( 写 真 すと幼虫や成虫を見る ナタなどで注意深く崩 冬 を 越 し ま す。 朽 木 を 34 が伴います。小さなお子さんは、保護 ヤマトフタスジスズバチ 今年も筒を設置したところ、ヤマトフタス ジスズバチがやってきました。入口にふたを する母バチ(右)と、筒の中の様子(左)。 介したいと思います。 る代表的なクワガタ。 夏 は「 ノ コ ギ リ ク ワ ガ タ 」 や「 コ クワガタ」などおなじみの種が現れ (小嶋一輝) カラフトイバラ 昨年、樹木園に 移植したカラフト イバラが花を咲か せています。 春のクワガタと言え ば「 コ ル リ ク ワ ガ タ 」 写真 1:コルリクワガタの♀。春にみられ 樹液には集まらず生涯朽木の中で過ごす。 者と共に行動するようにしましょう。 周 辺 の 樹 皮 捲 れ、 枝 先、 木 の 根 元 な 2015 年 6 月 29 日 です。小さいながらも 金属光沢を放ち、とて も美しい種です(写真 1) 。雪解けから初夏 になるまで昼間、彼ら はブナなどの新芽に集 まったり、その周辺を 飛 ん だ り し て い ま す。 菅平など標高の高い地 写真 2:ルイスツノヒョウタンクワガタ。 ま す。 ク ヌ ギ や コ ナ ラ の 樹 液 や そ の 域で見られます。 号で紹介されて されます。 クワガタ採集 と自然の共生〟などと言われる場合の「共 ん。 こ れ は 英 語 の symbiosis (シンビオシ ス)に近い概念でしょう。この単語の意味 ウメノキゴケ → 相利共生の例。菌類と藻類との複合 生物である地衣類のウメノキゴケ。 菌類は藻類の光合成産物を分けても らうかわりに、極度の乾燥から藻類 を守る。 小さな隣人たちⅣ ~ 前回(菅平生き物通信 ・ ・ 号)ま でに説明をした地衣類という生き物は、藻 33 類と菌類とが協力して一つの身体を作って 30 もよく見られます。また、夜には明か 36 5日 ↑マツタケ 相利共生の例。マツタケはアカマツ から光合成産物を分けてもらう代わ りに土壌中のリンや窒素を集めて提 供する。 ↑エンマコオロギの腸内菌 片利共生の例。宿主エンマコオロギ の消化管の中に住む、” 居候 ” のよ うな腸内菌の一種。宿主の食べたも のをわずかに貰って生きている。つ い昨年発見されたばかりで未だ名前 がついていない。宿主にとって、こ の居候の腸内菌が居てもいなくても 変わりが無いようである。 29 夏の虫」というイメージが強いと思い 第 41 号 2015 年(平成 27 年)7 月 12 日発行 発行者:筑波大学菅平高原実験センター © 筑波大学菅平高原実験センター よく見ると細かな毛で覆われたそれ 1 ~ 2 ㎜ 程 の 棍 棒 状 で 先 端 が 赤 く、 いくつもついているのを発見。全長 5月、センター内の圃場を歩いて いると、サクラの葉に小さな突起が れるタイプのようです。虫こぶを開 のは開放型のハフクロフシ型と呼ば は多様な形がありますが、今回のも れた開口部がありました。虫こぶに さて、今回見つけた虫こぶを顕微 鏡で見てみると、裏面には毛で覆わ サクラの葉 についた虫こぶ は、 どうやら 「虫こぶ」 のようでした。 け て み る と、 中 か ら わ ㎜ 程の小さなダ 生することで形 眼では認識できないほ ニ が 出 て き ま し た。 肉 ずか 成されるこぶ状 ど 微 小 で、 細 長 い 後 体 虫 こ ぶ と は、 植 物寄生性の虫が寄 の 突 起 の こ と で、 ちゅうえい と も 呼 ば れ ま す。 虫こぶを形成する 生物としてはタマ バ チ や タ マ バ エ、 ア ブ ラ ム シ、 ダ ニ などが知られてい ま す。 ま た、 特 定 の植物に対しての スタッフ自己紹介 センター長 物化」のメカニズムを詳しく研究す ることで、植物が誕生した仕組みを 明らかにしようとしています。他に れ育ち、学生時代には山登りに精を 野県と同じく海のない岐阜県に生ま すが、時々菅平にやってきます。長 段は筑波キャンパスに勤務していま 学生命環境系の石田健一郎です。普 験センター長になりました、筑波大 はじめまして。沼田前センター長 に代わり、この4月から菅平高原実 性が見えてくることを期待していま のプロジェクトで藻類の新たな多様 ほとんど研究されていないので、こ や森林、渓谷といった環境の藻類は うとしています。敷地内にある草原 リストを作るプロジェクトを始めよ 含めて、敷地内に棲息する全生物の 植物や動物はもちろん微小生物まで も、藻類の多様性解明をめざした研 出していましたので、菅平の環境は す。 教授 石田 健一郎 私にとっては懐かしく、心が落ち着 対 4 本 の た め、 容 易 に し、 フ シ ダ ニ の 脚 は 2 脚を持っているのに対 他のダニが4対8本の 藻を細胞内に取り込んで葉緑体にす メーバ状の単細胞藻類の一群で、緑 クロララクニオン藻というのは、ア と 進 化 の 研 究 を 専 門 に し て い ま す。 私は、クロララクニオン藻という 藻類のグループを中心に、系統分類 大 き な 活 躍 を し て い た だ け る よ う、 さんがここで得たものを礎に、将来 味します。菅平で学んだ全国の学生 大学院生の学びの場であることを意 生だけではなく全国の大学の学生・ います。このことは、筑波大学の学 究も行っています。当センターでは、 くのを感じます。 当センターは、文部科学省の「教 育関係共同利用拠点」に認定されて 識 別 が 可 能 で す。 虫 こ ることで「植物化」して藻類になっ 形成するダニ」の意でフシダニとい 本通信の印刷・配布は、 ぶ の こ と を「 フ シ 」 と を持つものが多く、形成される虫こ う名がつけられました。 努力したいと思っています。 ぶも種によって様々な特徴がありま 東郷堂さんにご協力いただいています。 たことがわかっています。この「植 す。外敵からの防衛、成長・繁殖の 発行予定です 次号は9月 多様で奥深い虫こぶ。他にはどん な形があるのか、皆さんもぜひ探し (横田麻梨子) 場として役立ちますが、農作物にも れます。 てみてはいかがでしょうか。 も言う事から、「フシを ることが分かりました。 サクラの葉についていた虫こぶ→ 寄生するため時には害虫として扱わ み寄生する特異性 フシダニ科の一種であ 部 と 無 数 の 環 節 か ら、 0.2 「虫癭」や「ゴール」 ↑ フシダニ科の一種
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