16. 非晶質・微結晶 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 石河 泰明 「16.1 基礎物性評価」では、カルコゲナイド系、金属複合化合物、酸化ガラス、などの幅広 い材料について、物性制御やデバイス応用など様々な発表が行われた。 Te を含むカルコゲナイド系の相変化材料に関する研究が約半数を占め、相変化メモリへの実 用に向けての基礎研究が続いている。相の種類ではなく体積変化の差が反射率を決めているこ とを実験的に示しされた(東北大他)。また、同じ材料系で相変化を用いた高速シャッターへの 応用研究が目新しかった(慶大他)。一方、酸化物ガラスと金属 Mg の反応を利用した金属複合化 合物は、新しい作成法として構造、物性両面で参加者の興味を集めた(神戸大) 。 酸化物ガラスおよび関連する結晶の構造と物性制御に関しても、活発な議論が行われた。 講演奨励賞の受賞講演では、SrGe4O9 相にドープされた Mn4+イオンの発光が、Si 置換により、 熱失活しにくくなるという実用上大変興味深い結果が報告された(東北大)。また、フツホ ウ酸ガラスに,赤外線レーザーを十字に交差させて照射することで、結晶成長優位軸である c 軸方向のみならず、c 軸に直交する方位にも配向した BaAlBO3F2 単結晶ラインの形成が可 能であることを報告した(長岡技科大)。また、ガラスにおける弾性率評価が、精度良いプ ローブとして用い得る可能性が示された(東北大)。非晶質材料の機能向上には、結晶相の 活用と制御が不可欠であるという印象を受けた。発光材料の応用に関しては、非晶質材料の 局所構造と発光との相関が議論された(神戸大)。非晶質材料の特徴である多様な局所構造 を生かした材料展開は今後も重要であると考えられる。また、Li を添加した Te ガラスにお いて、希土類の発光が変化することが紹介された(名工大他)。更なる研究の深化には、材 料の本質的な構造の理解が必要であると感じた。 「16.3 シリコン系太陽電池」では、結晶 Si 物性、結晶 Si ヘテロ接合太陽電池、薄膜 Si 系太陽電池、太陽電池モジュールの信頼性評価などについて広く発表が行われた。 非晶質 Si 太陽電池の高効率化には、膜物性のみならず、太陽電池特性との相関、下地層 への影響などを考慮する必要がある。本セッションにおいては、非晶質 Si 太陽電池におけ る i 層の成膜温度が与える影響などが議論された(阪大) 。また、非晶質 Si の膜物性と太陽 電池特性との相関が詳しく比較され、高効率化に要求される非晶質 Si の膜物性が改めて示 された(産総研)。非晶質 SiOx 太陽電池に対してフーリエ変換光電流法が検討され、太陽電 池の状態でも i 相の欠陥評価が可能であることを示された(岐阜大他)。評価技術に関して、 高感度電子線ホログラフィーによる薄膜 Si 太陽電池内部の電位分布の可視化に関する報告 があった(ファインセラミックスセンター・産総研)。非晶質 Si での p-i-n 層における電 位分布変化が、nm オーダーの解像度を有する明瞭な濃淡画像として可視化されるとともに、 その断面プロファイルとして電位分布が 10 mV 程度の高精度で定量計測可能であることが 示された。太陽電池内部の電位分布評価はデバイス構造設計・動作解析や劣化機構の解明に とって極めて重要であり、他の太陽電池へも広く適用が期待される。作製技術に関する報告 では、表面にフォトニック結晶(PC)構造を有する微結晶 Si 太陽電池に関して新たな進展 が示された(京大)。これまでは PC 構造が微結晶 Si 層の下地にあり、その凹凸に起因する 微結晶シリコン層の欠陥発生を抑制するため微結晶 Si 層膜厚が 0.5 m 以下に制限される という課題があった。今回、微結晶 Si 層の上部に PC 構造を形成する技術が新たに開発さ れ、その結果、微結晶 Si 層の膜厚増大が可能となった。1 m の微結晶 Si 層を有するセル が作製され、25.3 mA/cm2 の電流密度が得られた(効率=9.9%)。さらに微結晶 Si 層を 2 m まで増大させた場合、電流密度としては 29.4 mA/cm2 が得られており、開放電圧、曲線因子 のさらなる改善による変換効率 12%達成への潜在的可能性が示された。 太陽電池用 Si 結晶については、高品質化に関する研究を中心に報告がなされた。粒界を 意図的に用いた転位抑制法(名大)や、3次元転位発生計算モデルによる熱履歴の最適化(九 大)などが報告され、今後の Si 結晶の高品質化が期待される。また、FT-IR や PL により結 晶粒界近傍における不純物析出や再結合が評価されており(明大)、これらの結果が結晶の 高品質化にフィードバックがかかることが望まれる。太陽電池中の仕事関数やキャリア分 布の評価法に関する報告もなされたが、実用太陽電池への応用の観点からすると、さらなる 研究の進展が望まれる。 Si 系太陽電池の高効率化に重要な表面パシベーション技術について、誘電体の固定電荷 活用(兵庫県大他)、Si 基板表面への不純物ドープ(名大) 、MIS 型構造での最適仕事関数を 有する透明電極層の探索(豊田工大他)等の、積極的な電界効果付与による高性能化へのア プローチや、界面近傍における極薄酸化層や水素がパシベーションに果たす役割などが議 論された。また、裏面電極型の低コストパターニング技術(福島大他)や、高密度プラズマ を活用した高速スパッタ技術の進捗(SCREEN ファインテック)などが報告された。 結晶系 Si 太陽電池モジュールの信頼性については、発表が 7 件あり、いずれも活発な議 論が行われた。うち 2 件は近年話題の PID(Potential Induced Degradation:高電圧誘起の 出力劣化)に関する報告(北陸先端大、SCREEN ホールディング他) 、4 件が封止剤 EVA からの 酢酸発生に関する報告(産総研、農工大、東レ他)、残る 1 件は力荷重によるセル間のイン ターコネクターの破断に関する報告であったが(産総研) 、試験に供されたモジュールに使 用されている部材の種類や条件が個々の結果に影響を与える可能性があり、それらもデー タの一部として明確化し、総合的に評価することが望まれる。 最後に執筆に際しご協力を賜りました、前田 幸治先生(宮崎大)、内野 隆司先生(神戸大)、 正井 博和先生(京大)、松木 伸行先生(神奈川大)、新船 幸二先生(兵庫県大)、田口 幹朗様 (パナソニック)、久松 正様(シャープ)に感謝致します。
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