超重症児保育の保育による反応の変化について

超重症児保育の保育による反応の変化について
山口宇部医療センター 療育指導室 保育士 児玉 恵・森谷 晃壮
はじめに
私たちは、保育時、超重症児に対して国立病院機構全国保育協議会の「反応の捉えにくい患者へのア
プローチ方法のチェックシート」を用いて保育中の様子を記録している。
それにも関らず、保育時と保育時以外の差を客観的に捉えることが出来ていないという現状がある。
大江、川住ら(2014)は、国立病院機構に勤務する保育士を対象とした調査の中で、
「重度・重複障害児
に該当する超重度障害児(超重症児)に対する療育活動は週 1 回、一回一時間程度の音楽遊びや読み聞かせ
を中心とするものが多く、働きかけに対する反応の有無について『反応がない』状況でも日常生活の様
子とは異なる時があると感じている可能性がある、等の知見が得られた」と述べている。
今回、当院の行なう未就学児対象の保育「ひよこクラブ」に所属する 2 名に対し、保育時と保育時以
外(一人で過ごす時間)の様子を比較し、その差異について検討したので報告する。
研究方法
① 対象児
対象児は、以下の 2 名である。
〔症例 1〕5 歳 女児
診断名 18 トリソミー、両大血管右室起始症
超重症児スコア 39 人工呼吸器装着
身体状況 気管切開、経管栄養、笑顔の表出あり
〔症例 2〕3 歳 女児
診断名 低酸素脳症後遺症、逆流性食道炎
超重症児スコア 16 常時吸引が必要
身体状況 経管栄養、笑顔の表出はまれ
② 日時および場所
時間 症例 1 および症例 2 共に 14:00~14:40 (保育時、保育時以外、共に同一時間帯)
期間〔症例 1〕22 回ずつ記録
保 育 時 2013 年 8 月 30 日~2014 年 6 月 20 日
自室にて観察者による記録を実施。
保育時以外 2013 年 10 月 28 日~2014 年 7 月 7 日 (体調不良時は除く。)
自室にてビデオ撮影を実施。
〔症例 2〕20 回ずつ記録
保 育 時 2013 年 10 月 11 日~2014 年 9 月 26 日
症例 1 の居室にて観察者による記録を実施。
保育時以外 2013 年 11 月 28 日~2014 年 7 月 7 日(体調不良時は除く。)
自室にてビデオ撮影を実施。
内容
保 育 時 音楽遊び(楽器、歌等)
感覚遊び(ふれあい、制作等)
保育士が抱っこをして抗重力姿勢
保育時以外 居室にて一人で過ごす。
③ 方法
国立病院機構全国保育士協議会「反応の捉えにくい患者へのアプローチ方法のチェックシート」に、
状況(入眠、半覚醒、覚醒)と体位(座位、抱っこ座位、側臥位、仰臥位)を加えひよこクラブ評価表を作り
直した(表 1)。
表 1 ひよこクラブ評価表
第
回
き動の目
曜日
有 or 無
閉眼
発声
開眼
頭の動き
まぶた
振戦
左寄り
右腕
右寄り
右手・指
上寄り
下寄り
定位
追視
顔
の
動
き
評価表
年
月
日
有 or 無
身
体
の
動
き
左腕
左手・指
両手・指
右足・指
視線合う
左足・指
まゆげ
全身
舌動き
リラックス
口もぐ
力が入る
笑顔
開口
入眠
状
況
口力が入る
半覚醒
覚醒
座位
コ
メ
ン
ト
体
位
抱っこ座位
仰臥位
側臥位
※各項目の評価は、1 回でも反応があれば、有と評価しチェックを入れた。反応がかった
場合は、記入しなかった。
その評価表を使い保育時は、ひよこクラブ担当の保育士 3 名で観察し、反応の有無を記録した。
保育時以外は、2 名の対象者をビデオカメラにて撮影し、後日、ビデオを見ながら記録した。保育時、
保育時以外の評価の比較は、フィッシャー正確確率検定を用いた。
結果
1、症例 1 の保育時と保育時以外の比較について
ひよこクラブ評価表(表 1)でとった記録 22 回を図 1 に示す。保育時、22 回中開眼 18 回(覚醒)、閉眼 4
回(入眠)、笑顔 12 回、保育時以外、22 回中開眼 9 回、閉眼 13 回、笑顔 3 回あり、保育時と保育時以外
での開眼、閉眼と笑顔の 3 項目で有意差があった。(p<0.01)その他の項目では、差がなかった。
保育時以外
保育時
22
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
回
閉開ま左右上下定追視ま舌口笑開口発頭振右右左左両右左全リ力
眼眼ぶ寄寄寄寄位視線ゆ動も顔口力声の戦腕手腕手手足足身ラが
が・動
合げきぐ
・ ・・・・ ッ入
たりりりり
入あき
う
指 指指指指 クる
ス
る…
目の動き
顔の動き
身体の動き
保育時と保育時以外で有意差あり p<0.01
図 1 症例 1 評価表での比較 22 回
次に、覚醒状況と体位について詳しく分析した(図 2、図 3)。
入眠
入眠
覚醒・半覚醒
覚醒・半覚醒
9
18
4
21
保育時
12
5
13
保育時以外
図 2 症例 1 の保育時と保育時以外の覚醒状況
6
抗重力有
抗重力無
図 3 症例 1 の保育時と保育時以外の
すべてを含めた抗重力姿勢の有無
保育時と保育時以外の覚醒状況では、保育時、22 回中 4 回入眠、18 回覚醒、保育時以外、22 回中 13
回入眠、9 回覚醒で、覚醒の頻度で、保育時と保育時以外で有意差があった(図 2)。保育で覚醒が促され
ている。(p<0.01)
症例 1 の抗重力姿勢の有無による覚醒状況を分析した(図 3)。
保育時、保育時以外をすべて含めて抗重力姿勢の有無による覚醒状況を分析してみると、保育時、保
育時以外に関わらず抗重力姿勢で行なうことで覚醒が促されることが分かり、抗重力姿勢の有で有意差
があった。(p<0.01)
この事からも日中は、体を拳上させた方が、覚醒の頻度が高いことが分かった。
2.症例 2 の保育時と保育時以外の比較について
ひよこクラブ評価表(表 1)にとった記録 20 回の結果を図 4 に示す。症例 2 も同様に保育時以外と比べ
ると保育時に体の動きが多く見られている。しかし、保育時、保育時以外のすべての項目で有意差がな
かった(図 4)。
保育時以外
保育時
20
15
10
5
0
回
閉開ま左右上下定追視ま舌口笑開口発頭振右右左左両右左全リ力
眼眼ぶ寄寄寄寄位視線ゆ動も顔口力声の戦腕手腕手手足足身ラが
が・動
合げきぐ
・ ・・・・ ッ入
たりりりり
入あき
う
指 指指指指 クる
ス
る…
目の動き
図 4 症例 2 評価表での比較 20 回
顔の動き
身体の動き
すべての項目に保育時と保育時以外で有意差なし
発声の項目で、保育時、20 回中 9 回(45%)、保育時以外、20 回中 5 回(25%)見られた。
保育時、体を動かしたことにより痰が多くなり発声があったという変化であると考えたが、有意差がな
く、保育との関係は不明であった。
次に、覚醒状況と体位について詳しく分析した(図 5、図 6)。
入眠
覚醒・半覚醒
1
5
5
保育時
覚醒・半覚醒
33
15
19
1
入眠
保育時以外
図 5 症例 2 の保育時と保育時以外の覚醒状況
抗重力有
1
抗重力無
図 6 症例 2 の保育時と保育時以外の
すべてを含めた抗重力姿勢の有無
保育時と保育時以外の覚醒状況では、保育時は、20 回中 1 回入眠、19 回覚醒、保育時以外は、20 回
中 5 回入眠、15 回覚醒で、保育時と保育時以外で有意差がなかった(図 5)。
症例 2 の抗重力姿勢の有無による覚醒状況を分析した(図 6)。
保育時は、抗重力姿勢しか行なっていないため分析が出来なかったが、保育時以外は、抗重力姿勢の
有無での覚醒状況に有意差がなかった。
保育時、保育時以外をすべて含めて抗重力姿勢の有無による覚醒状況の有意差を分析してみると、症
例 2 は、有意差がなかった。
保育時、保育時以外に関わらず、日中は覚醒して過ごしていることが分かった。
考察
ひよこクラブ評価表(表 1)を使い、記録をとることで患児の保育時と保育時以外の様子を知ることが
出来た。しかし、今回の記録方法では、体の動きが、数回あっても一回あっても有と判断する方法を取
っており、記録方法での検討が今後、必要になってくると考えられる。
症例 1 については、保育時と保育時以外とを比較して、開眼、閉眼と笑顔で有意差が見られた。また、
覚醒でも有意差があった。
症例 1 が、覚醒し保育を楽しんでいるのではないかと推測する。保育士として些細な反応を捉えその
反応を引出し発達につなげていくことが重要であるが、保育時に動きが多くなったからといって保育の
効果ではない可能性もあることが分かった。
また、抗重力姿勢で体を拳上させることで覚醒が促される事が分かった。
症例 2 については、現在の保育方法では、保育時以外と保育時であまり変化がないことが分かった。
今後、保育内容について検討しより感覚を刺激するような内容を実施していきたいと思う。
今回、覚醒が促されたり、笑顔が見られたりしたことが、保育士との関わりだけであるとは言えない
が、保育での効果がより現れるように今後も成長発達を促していきたいと考えている。
おわりに、今回の研究を通して症例 1 と症例 2 の保育時と保育時以外の変化を理解することが出来、
私にとっては、意義深いことであった。あまり反応が見られないという超重症児でも保育時と保育時以
外では、異なる変化があるということが分かり、今後の保育では、さらなる反応を引き出していきたい。
文献
1) 全国保育士協議会(2008) 「反応の捉えにくい患者へのアプローチ方法」43
2)大江啓賢、川住隆一(2014) 重度心身障害児及び重度・重複障害児者に対する療育・教育支援に関す
る研究動向と課題 山形大学紀要(教育科学)第 16 巻 53