(vol.55) <ファンドマネジャーの視点-セミナー編> Tokio Marine

(vol.55)
<ファンドマネジャーの視点-セミナー編>
~2015年度の投資環境および運用戦略~
Tokio Marine Asset Management
東京海上アセットマネジメント株式会社
2015年3月
弊社では、各資産クラスのファンドマネジャーが日頃考えている点についてお伝えする「ファンドマネ
ジャーの視点」をお届けしています。去る 2015 年 3 月 11 日に「2015 年度の投資環境および運用戦略」と
題しましてマーケット・アウトルック・セミナーを開催いたしました。冒頭、運用本部長の湯澤よりイン
トロダクションを行い、講演1では運用戦略部の菊池より「米国主導のグローバル景気回復とその死角」
、
講演 2 では、債券運用部の秦より「債券市場の構造変化と投資機会」
、講演 3 では、株式運用部の佐藤より
「新時代に入る日本」について講演いたしました。今回は、その講演についての概要をお伝えいたします。
************************************************
「イントロダクション」
Ⅰ
執行役員
運用本部長 湯澤 達朗
2014 年度の振り返り
昨年度のセミナーの会場アンケートでは、2014 年度に最もリターンが高くなる資産として外国株式を選
ぶ回答が最大となりました(54%)
。弊社ではリターンが最も高い資産として国内株式、次いで円安効果も
加味した外国株式を想定していました。
2014 年度(4 月~2 月まで)の結果を見ると、国内株式が最大のリターンを計上したことに加え、他資産
のリターンもその方向はほぼ弊社で想定した通りのものとなりました。但し、日銀の追加緩和の影響は弊
社想定より大きく、結果として円債や外貨資産のリターンは弊社想定より高くなりました。また、米長期
金利低下やドル高も想定以上の動きとなりました。アウトルックの提示は、リターンをピンポイントで当
てることよりも、その背景にある考え方や投資の立ち位置を示すことがより重要であると考えていますが、
2014 年度については今のところ、①米国金融政策の端境期、②日銀管理強化による円債レンジ圏推移、③
国内株式のグロース物色への転換等、昨年度のセミナーで提示させて頂いた弊社の考え方に概ね沿った動
きになったと考えています。
TMAM予想
(表 1)
353.62
349.57
0.59%
0.85%
1,625.22
1,211.66
1,969.00
国内債券
野村BPI
JGB 10Y
国内株式
TOPIX配当込
TOPIX
外国債券
WGBI exJ (USD)
US 10Y
Bunds
1,009.43
外国株式
Kokusai (USD)
S&P500
DAX
7,232.60
為替
実績
2014年2月末 2015年3月末 期待リターン 2015年2月末
2.65%
1.62%
1,859.45
9,692.08
1,450.00
-1.1%
21.2%
363.04
0.35%
2,085.33
1,523.85
リターン*
2.9%
28.1%
980.00 USD -2.9%
3.20%
JPY 3.7%
2.00%
989.77 USD -2.2%
1.99%
JPY 13.5%
0.33%
7,695.41 USD 6.4%
1,990.00
JPY 13.6%
9,730.00
7,837.93 USD 8.0%
2,109.66
JPY 25.4%
11,401.66
$/¥
102.07
109.00
6.8%
119.55
16.1%
€/¥
140.97
140.00
-1.0%
134.09
-5.5%
出所:実績値は Bloomberg、予想値は TMAM 作成
*上記の実績リターンは2014年3月末から2015年2月末の数値です。
-1-
Ⅱ
2015 年度アウトルック
2015 年度の期待リターンについては、2014 年度と比べれば低くなるものの、引き続き国内株式のリタ
ーンが最も高く、次いで外国株式が高いと想定しています。
TMAM予想
(表 2)
2015年2月末 2016年3月末 期待リターン
国内債券
野村BPI
JGB 10Y
国内株式
TOPIX配当込
TOPIX
外国債券
WGBI exJ (USD)
US 10Y
Bunds
外国株式
Kokusai (USD)
S&P500
DAX
363.04
363.53
0.35%
0.40%
2,085.33
2,293.00
1,523.85
1,650.00
989.77
1.99%
0.33%
0.1%
1.6%
~ -1.3%
10.0%
19.8%
~ 0.1%
966.63 USD -2.3%
2.50%
JPY
0.5%
0.50%
7,837.93
8,380.00
2,109.66
11,401.66
2,250.00
JPY
12,250.00
USD
レンジ
6.9%
9.5%
$/¥
119.55
123.00
2.9%
€/¥
134.09
128.00
-4.5%
為替
JPY
9.2%
~ -6.4%
JPY
20.3%
~ -1.6%
13.8%
~ -8.0%
8.2%
~ -11.9%
出所:実績値は Bloomberg、予想値は TMAM 作成
2015 年度の市場のポイントを一言で言い表すなら、
「Crowded Trades」と考えています。2015 年度は、
これまで世界中で緩和方向に向いていた金融政策が、少なくとも米国と欧州/日本において実際に反対の
方向に動き出す年となると予想されています。これまでも金融政策は金融市場に大きな影響を与えてお
り、金融政策変更に対応した運用戦略が構築されるが故に似通ったポジションに傾きがちと考えます。
つまり多くの人が同じような戦略を取る結果として、一方に傾いたポジションの解消が市場に与える影
響は、想定外に大きくなる可能性があります。米国の利上げや原油価格動向がグローバルの金融市場に
与える影響については、次に続く講演のマクロ見通しで着目頂きたいと思います。
金融政策や原油価格動向は、金融資産間の相関を高める方向に作用しますが、一方でこうした相関を
和らげるボトムアップの固有要因も見られます。債券の講演では債券需給動向、また株式の講演では日
本のガバナンス改革にご注目下さい。
最後に、金融市場のボラティティを回避することは容易ではありませんが、ボラティリティの高まり
を想定した対応策について 3 点挙げます。
① 分散(市場の相関が高まる時には固有ボトムアップ戦略など市場連動性の抑制が重要)
② 腹八分目(予期せぬ変動時に買い増せる余力)
③ アクティブマネジャーの活用(パッシブでないフォーワードルッキングな行動)
-2-
「米国主導のグローバル景気回復とその死角」
運用戦略部 チーフエコノミスト 菊池 修
Ⅰ マクロ経済及び物価のベース・シナリオ
2015 年の米国経済は 2.5%の潜在成長率を超える安定成長の一方、中国経済は投資主導から消費主導へ
の転換(「新常態」
)を目指す政府の経済運営姿勢を反映した景気減速、欧州経済はロシア・ウクライナ
問題で低迷した昨年からの持ち直し、日本経済も消費増税で急減速した昨年からのリバウンドが予想さ
れます。物価動向は、グローバルで需給ギャップが残存していることや、原油安の影響を受けて、各国・
地域で目標とする物価水準を下回る状況が継続することが想定されます。
Ⅱ 金融市場へのインプリケーション
上記のマクロ経済シナリオを、資産運用に生かす上で重要な視点が 2 点あると考えます。
①米国を中心に考え、他国を相対的に捉える
②金融政策と景気循環で、経済局面を捉える
なぜならば、①は金融市場の主要プレーヤーは依然として米国人投資家であること。②は我々が運用
対象としている金融資産の価格形成においては、足元の経済実体も然ることながら、実体経済に先んじ
る金融政策が大きな影響を与えるためです。
(1) 米国経済及び金融市場
2015 年の米国経済は、2006 年以来 9 年振りの利上げの実現を目指す 1 年になることでしょう。また、
利上げの結果として、2016-17 年の減速が見えてくる 1 年とも言えます。2014 年は(図 1)のとおり「様
子見」と「金融引締め」の端境期で、米国金融政策当局の姿勢にも、大きな柔軟性が残っていましたが、
2015 年はそうした金融政策の柔軟性がやや失われることが予想されます。
米国経済の位置取り
景気循環
(図 1)
景気底入れ
景気拡大
2015
金融引締
景気鈍化
2016
景気後退
2005-6
2014
金
融
政
策
様子見
金融緩和
2013
2009-12
2007-8
上記を踏まえた金融市場の考え方ですが、2015 年のベース・シナリオは次ページ(図 2)左上「株高・
金利高」の組み合わせと考えています。これは 2014 年とほぼ同様の位置取りです。但し、今年はサブ・
シナリオがベース・シナリオの真逆に位置する右下の「逆業績相場」と想定しています。2014 年の金融
政策は次ページ(図 2)の通り「様子見」と「金融引締」の端境期だったため、米国景気減速懸念やデフ
レ懸念が少しでも発生すれば、金融政策当局の金融引締め姿勢は後退し、株価は下支えされる状況でし
た。資産運用上の考え方としては「金利は上下するものの、株価は下落しくい」、つまり「イエレン・プ
ット付の業績相場」と考えていました。対して、2015 年のサブ・シナリオとして想定すべきは、利上げ
が実現し、来年以降に景気減速も視野に入る中で、次ページ(図 2)右下の「株安・金利安」ではないか
考えています。昨年とは異なり、
「イエレン・プットが外れ、米国金融市場を巡る不透明感が高まる1年」
と判断しています。
-3-
(図 2)
米国金融市場
株価上昇
株価下落
39%
12%
A. 業 績 相 場
金利上昇
(金融引締め)
2013
2015
B. 逆 金 融 相 場
ベース・
シナリオ
2014
2015
2009-12
金利低下
(金融緩和)
サブ・シナリオ
D. 金 融 相 場
C. 逆 業 績 相 場
2007-8
イエレン・プット
35%
14%
注: 各象限にあるパーセンテージは1963年から2013年の51年間の生起確率
(2)グローバル経済及び金融市場
次に、グローバル経済から読み取れることは主に 2 点あると考えます。
1点目は、グローバルでの金融政策格差の拡大。米国が利上げ方向へ金融引締め姿勢にシフトする一方、
中国は昨年の「金融引締め」から「様子見姿勢」へと緩和方向にシフト、日本と欧州は金融緩和を継続
出所:IMF、世銀
します。2 点目が、昨年は消費増税で特殊な位置取りにあった日本経済が、今年度は確りしていることで
す。昨年は消費増税に伴い物価が約+2%上昇、経済活動は個人消費を中心に急減速しました。今年はそう
した不透明感が払拭される中、発表される指標は昨年の反動もあり、プラスの数字が出易いことがあげ
られます。
こうした経済情勢から導き出される、米国人投資家目線での金融市場は次のようになると考えます。
①米国の株式・債券市場における不透明感は強い。②中国は景気減速が続く中、債券市場には投資妙味
があるものの、株式市場には妙味なし。③欧州及び日本市場は債券・株式市場ともに投資妙味があり。
では、欧州と日本市場のどちらが優位か。中長期的には、デフレに陥るか否かの瀬戸際にある欧州に
対して、日本はデフレ脱却のチャンスが訪れていると考えています。今年の日本は、景気も循環的に回
復、企業収益も改善する中、政府・日銀も賃上げを政策的にサポートしており、賃金が上昇、1998 年以
来のデフレ期に終止符が打たれる1年だろうと考えています。従って、欧州と比較しても日本経済(≒
日本株)の相対的な魅力度は高いと考えています。
グローバル金融市場
(図 3)
株価上昇
株価下落
中央銀行による金融市場不安定化
金利上昇
(金融引締)
(≒通貨高)
A. 業 績 相 場
B. 逆 金 融 相 場
米
国
日
本
欧
州
中
金利低下
(金融緩和)
(≒通貨安)
D. 金 融 相 場
国
米国サブシナリオ
C. 逆 業 績 相 場
ドル高/商品安
ドラギ・プット、黒田プット
米国との相対的な位置取り
-4-
Ⅲ ベース・シナリオの死角※とモニター方法
※「金融市場動向を見る上で気になっている点」
今年度のベース・シナリオの死角と考えているのは①「グローバル・インフレ懸念」
、②「米国経済の
下振れ」
、③「欧州政治経済情勢の混乱」の 3 点です。全て図 2 の「逆業績相場=株安・金利安」に繋が
るリスクです。
① グローバル・インフレ懸念
景気の強い米国にとっては、商品安効果で金融引締めを急ぐ必要がなくなるというメリットがあると
考えます。また、金融引締めを意図しながらも、インフレ懸念が高まらないことから、長期金利の急騰
を避けられるというメリットもあると考えます。
一方、ドル高・自国通貨高で輸入物価上昇圧力の高まり易い新興国にとっては、資源価格が低下する
ことで、そうしたインフレ圧力を一部相殺できるというメリットがあると考えます。年明け後に欧州や
新興国で金融緩和の動きが相次いでいる理由は、そうした商品安の効果と言えます。
逆に言うと、何等かの理由でインフレ懸念が高まり、下の(図 4)左上のフェーズに入ると、米国では
商品安のメリットが消えることから、利上げ姿勢が強まり、ドルや長期金利の上昇圧力が一段と強まる
こととなります。そうなると、ドル高によるインフレ圧力上昇、ドル高・金利高による対外債務の増加
により新興国が問題視されます。近いところでは 2013 年 5 月に当時のバーナンキ議長が QE 終了を仄め
かした時期の新興国債券・株式市場の調整、少し昔に遡ると、1997 年のアジア通貨危機などがその例か
と思います。その動向をモニターする指標として「米国の時間当り賃金」と「原油市場の動向」に注目
します。
(図 4)
為替及び商品市場
米ドル高(=米国以外通貨安)
米ドル安(=米国以外通貨高)
【ドル債務も増加】
【EM景気減速】
...金利高+ドル高
...米利上げ
商品高
→ ドル高/EM通貨安
→ インフレ圧力増
米 国 : ミックス
米 国 以 外 : インフレ圧 力
米 国 : インフレ圧 力
米 国 以 外 : ミックス
→ EM利上げ...
インフレ
懸念
【EM経済悪化事例】
2015
1994年:メキシコ通貨危機
1997年:アジア通貨危機
2013年:バーナンキ・ショック
2014
商品安
米 国 : デフレ圧 力
米 国 以 外 : ミックス
15-Sub
米 国 : ミックス
米 国 以 外 : デフレ圧 力
-5-
②米国経済の下振れ
米国経済が下振れるタイミングは、ある程度の利上げが実現した 2016 年以降と考えていますが、米金
融政策当局による利上げ姿勢の強まりを反映して、そのネガティブなインパクトが前倒しで現れるリス
クも否定はできません。具体的には、商品安による資源国経済の減速、ドル高による債務増効果による
新興国経済の減速が、ドル高と相まって米国の輸出減・輸入増を惹起するリスクがあります。また、新
興国市場の不安定さや、米国内での資源関連企業の設備投資減や企業収益減が、債券市場や株式市場の
不安定化に繋がり、ひいては米国経済全体を減速させるリスクもあると思います。一方、ドル高や商品
安によるインフレ抑制は、実質購買力の増加を通じて、米国経済を下支えする効果がありますので、ポ
ジティブとネガティブのどちらの効果がより大きいかを把握する必要があります。そこで、米国経済を
モニターする指標として、新規失業保険申請に注目します。米国の経済成長率や市場が注目している雇
用統計との相関の強さに加えて毎週木曜日に発表されるといった速報性も併せ持つ、優れた経済指標で
す。
(表 3)
ドル高・商品安の実態経済への影響
ドル高の影響
米 国
商品安の影響
×純輸出減
日 本
●純輸出増
●実質所得増
欧 州
●純輸出増
×ドル建債務増
中 国
資源国
●純輸出増
×ドル建債務増
×純輸出減
● は 経 済 へ の プラス、 × は マイナスの 影 響 を 示 唆
ピンク部 分 は マイナスの 影 響 が 含 ま れ る 部 分
-6-
③欧州政治情勢の混乱
欧州は、域内・域外で不透明要因があると認識しています。まず域内ですが、今年は既にギリシャで
選挙がありましたが、5 月には英国、9 月にはスペインでカタルーニャ地方選挙、秋口にはポルトガルや
スペインで国民選挙があります。そこで、野党が国民受けするポピュリズム的な主張を繰り返し、ギリ
シャと同様に反ユーロ的な動きが、英国やスペインなどに波及すると、ユーロ圏を支えているドイツの
国民レベルでも、反作用的に反ユーロの動きが強まり、ユーロ統合を巡る遠心力が作用するリスクがあ
ります。他方、域外では欧州経済に重くのしかかったウクライナ問題や、中東で火種となっているイス
ラム国の問題も、政治・社会・経済的に繋がりの深い欧州にとって大きな問題になり得るのではないか
と考えています。
(表 4)
2015年 の 欧 州 政 治 日 程
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
2016年以降
12月
16-17:英国民投票の可能性
英国総選挙(5/7)
スペイン地方選挙(5月)
カタルーニャ州選挙(9月)
スペイン総選挙(12月頃)
政治日程
ポルトガル総選挙(秋頃)
ギリシャ選挙→トロイカ交渉
ギリシャ・トロイカ交渉(4/30) ギリシャ国債償還
そこで、欧州政治をモニターする指標として欧州周辺国の対独スプレッド、特に国民レベルの選挙が
あるスペインのスプレッドが拡大しないかに注目します。もう1点は、ロシアの金融市場動向、特に、
ロシア経済の代理変数としてロシア・ルーブル、ロシア債務のデフォルト・リスクを債券市場動向でモ
ニターしたいと考えています。
以上をまとめますと、金融市場のベース・シナリオは以下の 4 点であると考えます。
1) 米国は利上げを意図する 1 年、イエレン・プットが外れ、金融市場の不透明感が強まる
2) 米国と日本・欧州・中国の中央銀行の政策スタンスが乖離、ドル高・商品安局面は続く
3) 米国対比の相対感で、中国株は魅力なし、欧州及び日本株・債券は魅力あり
4) 日本と欧州経済を比較すると、日本経済に比較優位あり
以上、マクロ経済シナリオと死角を検討すると、米国には利上げを巡る不透明感、欧州では内外政治
情勢を巡る不透明感がある中で、日本経済の位置取りがベストではないかと考えています。
-7-
「債券市場の構造変化と投資機会」
債券運用部長 秦 正英
Ⅰ. 2014 年 10 月の日銀追加緩和政策
まず、足下の日本銀行の金融政策について説明します。日本銀行は 2014 年 10 月末に追加金融緩和政
策を打ち出し、従来は年間 50 兆円の長期国債を買入れる計画であったものを 80 兆円に拡大するととも
に買入平均残存年限を長期化することを決定しました。下の(表 5)は、残存年限ごとの日本銀行の国債
買入予定額を示したものです。下の(表 5)の最右列は仮に 2015 年 2 月の買入予定額が今後継続した場
合、新規に発行される国債のうち日本銀行がどの程度の割合を買入れるのかを示しています。長期国債
全体でみると新規発行される国債の 95%を日本銀行が買入れるという想定になります。日本銀行による国
債買入が国債市場に対し非常に大きなインパクトを与えることがわかるかと思います。
(表 5)
2 月の買入予定額が継続した場合
1年超3年以下
3年超5年以下
5年超10年以下
10年超~25年以下
25年超
合計
買入額/回
4,000
4,000
4,000
2,400
1,400
15,800
回数/月
6
6
6
5
5
(単位:億円)
買入額/月 ① 発行額/月 ② ①/②
24,000
25,000
96%
24,000
25,000
96%
24,000
24,000 100%
12,000
12,000 100%
7,000
9,666
72%
91,000
95,666
95%
出所:日銀、財務省のデータをもとにTMAM作成
Ⅱ.マイナス利回りの世界へ
次に主要国と比較し国内の債券市場の位置取りについて説明します。下の(図 5)は、2014 年 3 月末
と 2015 年 2 月末の日独米のイールドカーブの比較とその変化の度合いをみたものです。
(図 5)
出所:Bloomberg をもとに TMAM 作成
日本では、以前より短期金利がゼロに近い水準で推移していましたので今般の量的緩和により長期ゾ
ーンを中心に金利が下がっています。ドイツでは、ECB がマイナスの政策金利を導入していることから短
中期ゾーンの利回りが明確にマイナスに落ち込んでいます。黒田緩和以前は、長期金利は日本が最も低
い水準でしたが、足下ではドイツの長期金利は日本を追い越す水準まで低下しています。米国では、今
年の半ばあたりに想定されている利上げを織り込む形で 1 年前と比較すると短期金利が上昇しています。
一方で長期金利は依然として 2%近辺といった水準にあります。これは米国のインフレ率が依然低い水準
であることや、他の先進国と比較すると相対的に高い金利水準であることから余剰資金が流入しやすい
構造にあることが背景にあると思われます。
-8-
このような環境のなかで海外の投資家から見た日本の債券市場がどのように写っているのかを下の
(図 6)にて説明します。青線は、米国の 3 ヵ月物の短期国債の利回りの推移を示しています。赤線は、
日本の同じく 3 ヵ月物の短期国債にアセットスワップを掛けてドル建ての債券に転換した場合の利回り
の推移を示しています。両者を比較すると米国の投資家からみるとアセットスワップを利用し日本の短
期国債に投資したほうが、自国の短期国債に投資するよりも高い利回りを得られるということになりま
す。従いまして仮に今後も日本の短期国債の利回りがゼロもしくはマイナスであったとしても、引き続
きアセットスワップを利用した海外の投資家の資金が流入してくる可能性があると考えており、このよ
うなトレンドが国内短期金利を低位安定させる機能を果たしているものと思われます。
(図 6)
出所:BloombergをもとにTMAM作成
(注)円短期国債(3M)ドル建転換
米投資家が円短期国債(3ヶ月)を購入し、アセットスワップを利用することで、円建てのキャッシュフローをドル建てに変換した場合の利回り。
Ⅲ.今後の日銀金融政策
次に日本銀行による追加緩和の可能性について主要エコノミストへのアンケートを紹介します。追加
緩和があるとみているエコノミストはその時期として 2015 年 10 月を見込んでいるケースが多いようで
す。また、追加緩和なしとみているエコノミストも多数います。我々の見方では、少なくとも 2015 年度
中には追加緩和も緩和政策解除もないことをメインシナリオとしています。
まず、ファンダメンタルズの観点では、昨年末の原油価格の下落の影響を受けてコア CPI は下落基調
にあり、一時的ではありますが今年の夏場にはマイナスに落ち込む可能性もあります。ただし、前述の
マクロ経済シナリオでありましたとおり今年は日本経済のファンダメンタルズは改善方向にあると考
え、夏場以降は CPI が反転する可能性があるとみており追加緩和の可能性は低いと思われます。一方、
次ページ(図 7)は、民間のエコノミストのコア CPI の予測値を 2017 年 1-3 月期まで示したものです。
少し長めの期間をみても 1%前半というのが民間のエコノミストのコンセンサスで日本銀行が見込んでい
る 2%の物価上昇目標は難しいというのが現状ですので、緩和政策の解除の可能性も限定的と考えられま
す。
-9-
(図 7)
ファンダメンタルズ以外には政治要因が金融政策に関係してくると考えられます。(図 8)は、今後の
選挙や消費税引き上げのスケジュールを示したものです。昨年 4 月の消費税引き上げ後、国内景気が大
きく落ち込んだことは、政府にとってはトラウマになっていると思われ、2 回目の増税前後のタイミング
で日銀が緩和政策を解除することには懸念を示すものと思われます。また、これらの政治イベントを全
く考慮せず出口戦略を語ることは難しいのが実情ではないかと考えています。
(図 8)
出所:TMAM 作成
政府は、統一地方選や参議院選前後に緩和政策が解除されマーケットが不安定化することも避けたい
という心理が働きやすく、今後の政治イベントを考慮すると、黒田総裁任期中に緩和政策を解除するこ
とは実質的にかなり困難ではないかと思われます。
次に金融緩和政策の物理的限界あるいは副作用も追加緩和政策にとっては障害になるものと思われま
す。日本銀行による国債買入が進めば進むほど、市場ではモノ(国債)不足になります。数年後には国
債買切りオペレーションにおける応札倍率が 1 倍未満となるいわゆる“札割れ”が発生することもあり
得ます。札割れが日常化すると日本銀行は思うように長期国債の買入れが将来できなくなり、現在の金
融緩和政策のフレームワークを見直さざるを得なくなるものと思われます。また、フェールの発生件数
が追加緩和後上昇基調にあることは、緩和政策の副作用として市場の流動性が低下していることを示唆
しているものと思われ、今後も日銀が国債買入を進めれば進めるほど、市場流動性低下に拍車がかかる
ものと思われます。以上の諸点を考慮すると追加緩和の決断は簡単ではないと考えます。
- 10 -
Ⅳ.当面の債券市場見通しと運用戦略
最後に今後の市場見通しについて説明します。我々が想定するメインシナリオは以下のとおりです。
ただし、国債市場の流動性は低下していますので何らかの要因で市場のボラティリティが一時的に上
昇する可能性は十分あると考えています。また、リスクシナリオとしては、原油価格の急反発や予想以
上の賃金上昇等により、日本銀行が掲げている 2%の物価上昇目標の達成確率が高まり、市場参加者が日
本銀行の金融緩和政策の出口を早期に織り込む形で長期金利が上昇トレンド入りすることをあげていま
す。このリスクシナリオについては現状、起こる確率は低いものと考えています。
このような市場のボラティリティの上昇が十分にありえる環境では、アクティブ運用に好機があると
考えています。市場のボラティリティが上昇する局面では市場価格に歪みが生じやすくなりますのでア
クティブ運用で超過収益を獲得するチャンスではないかと考えています。また、先ほどマイナス利回り
の世界について説明しましたが、野村 BPI インデックスの約 50%を占める 7 年以下の国債の利回りは概ね
0.1%未満となっています。この環境下でパッシブ運用が好ましいかどうかは非常に議論のあるテーマで
す。以下が我々の予想する金利レンジと戦略ごとのポイントになります。
(表 6)
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金利戦略では、長期金利はレンジ内で低位横ばいとみていますのでデュレーションは長期化し、イー
ルドカーブ戦略では所有期間利回りの高いセクターのオーバーウェイトを継続します。(図 9)の薄いブ
ルーの線は 1 年間イールドカーブの形状に変化がなかった場合に見込めるリターンを年限別に示したも
のです。ご覧頂くと 20 年前後が高いリターンが期待できることが判るかと思います。全体のデュレーシ
ョンとの関係から 7 年-8 年ゾーンと合わせてオーバーウェイトしています。
(図 9)
クレジット戦略につきましてはスプレッドの水準が歴史的にみて非常にタイト化していますのでリス
ク対比でのリターンは全般的には低下していると考えています。個別銘柄に注目すると、例えば、今後
発行が予定されている金融機関のハイブリッド証券(バーゼルⅢ対応新型劣後債)に投資妙味があると
考えています。
最後に物価連動国債戦略についてですが 3 つの観点から魅力的な投資対象であると考えています。ま
ず、現在、物価連動国債のブレーク・イーブン・インフレ率は 1%未満です。一方で日本銀行は 2%の物価
上昇目標に対して強いコミットメントを示していますので現在の物価連動国債は割安な水準にあると考
えています。次に消費税オプションですが、日本の財政状況を考えた場合、消費税 10%からの更なる引き
上げの可能性も否定はできないと考えています。更なる消費増税は消費者物価に対して一定程度の押し
上げ効果がありますので物価連動国債にはプラスになります。そして最後に物価連動国債には名目国債
の利回り上昇に対してのヘッジ機能があると考えています。名目国債の金利が上昇する局面では物価が
上昇している可能性が高いのではないかと想定されますので、名目国債のマイナスパフォーマンスを物
価連動国債のプラスで一部補うことができると考えています。
(図 10)
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「新時代に入る日本」
株式運用部 シニアファンドマネージャー 佐藤 弘康
Ⅰ. 日本株式市場の注目点 ~ カタリストとファンダメンタルズ ~
市場が大きく変動する中、我々は昨今の日本の株式市場が新しい局面に入ったのではないかと考えて
います。そこで、我々がそのように考える背景は何なのか、構造的に何が変わったのかを中心に今回は
説明させて頂きたいと思います。
まず、株式市場におけるグローバルでの日本の立ち位置を認識しましょう。我々が最も注目している
のが下の(図 11)です。これはグローバルでの株式市場の騰落率を要因分解したものになります。例え
ば 2013 年の TOPIX(配当込)のリターンを 3 つに分解した場合、赤い部分が EPS の成長率、緑の部分
が PER の変化率、青い部分が配当利回りになります。これを見て頂くとお分かりになる様に日本はグロ
ーバルで唯一バリュエーションが切り下がっている市場ということになります。言い換えれば、企業の
利益成長率に株式市場の騰落率が連動していないという事が言えるのではないかと考えています。
(図 11)
Ⅱ. 日本のニューノーマル ファンダメンタルズの変化 ~ 大きな転換点を『経た』日本 ~
次に日本の企業構造、マクロ構造について説明させて頂きます。我々は日本経済が既にひとつの転換
点を迎えていると考えています。次ページ(表 7)はグローバルでの EPS の成長率を示しています。2015
年に TOPIX は+15%の EPS 成長率を達成する見込みであり、2014 年と 2015 年を合わせた 2 年間の累計
で 22%の成長と他の地域と比べても高い伸び率が予想されています。
この高い EPS 成長率の背景としては、内需企業にとっては賃金の上昇やエネルギー価格の下落による
コストの減少、外需企業にとっては円安効果や景気のグローバルでの不透明要因の低下によるものだと
考えられます。その中でも弊社で特に注目しているのは 2014 年に達成した 7%の成長率です。2014 年、
日本は消費税増税の影響等でリセッションに陥りましたが、そういった逆風下でも 7%の成長を達成して
います。他の地域が落ち込む中でのこの成長は日本経済の力強さを表していると考えています。
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(表 7)
下の(図 12)は鉱工業生産指数と TOPIX の EPS(12 か月先予想)の推移を示しています。過去 TOPIX
の EPS と鉱工業生産指数の動きは高い相関が見られました。しかしながら、東日本大震災後はこのトレ
ンドは大きく変化するようになりました。この背景にあるのは、輸出系製造業、内需系企業のぞれぞれ
の構造変化が起こっている、つまりマクロとミクロのデカップリングが起こっているという事を表して
いるのではないかと我々は考えています。
(図 12)
内需企業の構造変化という観点では、下の(図 13)を見て頂ければと思います。従来の製造業は円安で
価格を下げ、シェアを伸ばすという戦略をとっていました。しかしながら、現在の製造業は円安でも値
段を下げず、利益率を改善させ、能力増強し生産を増加させるという戦略をとっています。つまり、企
業はシェアアップよりも利益率を優先し、売上の拡大に繋げている事が見てとれるかと思います。
(図 13)
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下の(表 8)が産業別の海外売上高比率の推移になります。注目して頂きたいのは昨今、安定消費、内
需系企業が海外売上高比率を高めている事です。特に従来はあまり海外進出に積極的でなかった医薬、
食品分野で海外比率を高めている点に注目しています。
(表 8)
Ⅲ. 日本のニューノーマル 資本市場の変化 ~ 大きな転換点を『迎える』日本 ~
続いて資本市場の変化について述べたいと思います。昨今、世間で盛り上がりを見せているガバナン
ス改革ですが、このような経営者の思想を変えたのは、JPX 日経 400 の導入ではないでしょうか。それに
加えて日本版スチュワードシップコードの導入、日本版コーポレートガバナンスコードの設定等も考え
られます。我々はこれらの構造改革が長期的に日本の資本市場を変化させると考えています。そこで、
株式持ち合いがどれくらいのインパクトをもたらすのかをお見せしたいと思います。下の(図 14)は各
業種における持合企業と非持合企業の過去 3 年間の平均 ROE の比較になります。持合企業の平均 ROE が
4.5%なのに対して、非持合企業の平均 ROE は 6.2%と、非持合企業の方が高い資本効率を実現していると
いう現状があります。
(図 14)
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また、株式持ち合いの解消に伴い今後 ROE も向上してくると考えています。その背景にあるのがバラ
ンスシート改革です。下の(表 9)は年度別に ROE を分解したもので 1980 年と比べると現在の ROE は低
水準です。なぜ利益率は 2 倍になっているのに ROE は低いのでしょうか。この理由としては資産の回転
率が低く、資本のレバレッジが低かったという事が考えられます。この約 30 年間、企業は過剰な現金を
社内にため込み、余分な借入は行いませんでした。しかしながら、このトレンドは変わりつつあります。
右下の(図 15)の様に、企業は自社株買いや配当への支払いに余剰資金を回しつつあります。また、借
入を行いその資金を設備投資に回す企業も多く見られるようになってきました。我々はこの過剰資本の
解消が今後は更に進むと考えており、結果的に日本企業の ROE の向上につながってくると考えています。
(表 9)
(図 15)
Ⅳ. 2015 年度見通しの注目点 ~ 脱為替依存・グロース志向 ~
最後に、こういった市場の変化が株式市場にどのような影響をもたらすのか、今年のマーケットの見
、
通しと合わせて説明させて頂きたいと思います。我々は今後の株式市場のキーワードは「脱為替依存」
つまり円安が進まなくても株価が上昇すると考えています。下の(表 10)をご覧下さい。我々は来年度
の TOPIX の見通しとして、2016 年 3 月末で 1,650 ポイントと考えています。来年度も堅調な環境になる
と予想していますが、ただし 1 年を通してみると、投資タイミングには注意しなければなりません。
(表 10)
(図 16)
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下の(図 17)は四半期別の EPS の成長率を示しており、青色の棒グラフが消費税の反動で EPS が下が
った四半期になります。来年度の EPS 成長率は、今年度と比べて見た際の成長率のハードルは低いので、
伸び率が高まってくると考えており、この 4-6 月期に加え 7-9 月期にも同じ効果が期待されます。これ
らの要因に加えて原油安と給与アップの効果が夏以降顕在化する事によって、円安がなくても株式市場
は上昇すると考えています。2015 年 5 月以降に発表される会社の期初計画はかなり保守的な内容になる
と予想されますが、これらをこなした上で夏以降に株価は本格的な上昇局面になるのではないかと考え
ています。
(図 17)
下の(図 18)の様に TOPIX はこの 25 年間、年率換算でマイナス 3%の下落トレンドが続いていました
が我々はこの大きなトレンドが変わってくるだろうと考えています。日本のマクロ、資本市場の変化に
よって、1,500 ポイントの水準を明確にぬけてくるタイミングで、今後は大きな上昇局面に入ってくるの
ではないかと考えています。
(図 18)
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