研究員 の眼 - ニッセイ基礎研究所

ニッセイ基礎研究所
2015-02-26
研究員
の眼
企業業績を
強気に見やすい季節?
金融研究部 研究員 前山 裕亮
(03)3512-1785 [email protected]
1 年前を思い出してみると・・・
日経平均株価が一時 1 万 8500 円を超え、TOPIX も 7 年ぶりの高値。日本株式は年明け直後こそ海外
情勢を受けてややもたついたものの、その後は企業の業績拡大などが追い風となり、堅調に推移して
います。今期(2014 年度)から来期(2015 年度)に株式市場の関心が徐々に移りつつある中、市場関
係者の間では「来期(2015 年度)二桁増益」という声が聞こえてきます。
この「来期(2014 年度)二桁増益」はちょうど 1 年前にも耳にしたフレーズです。2014 年度の業績
予想はその後どうなったのか、TOPIX(東証株価指数)の EPS(一株あたり利益)で確認してみましょ
う(図表 1)
。2014 年 2 月時点では 2014 年度は前年同期比 10%の増益予想がされていました。しかし、
2013 年度が 2 月時点の予想から 2%ほど上ブレて着地したことに加え、業績予想が 3%引き下げられた
ことから(図表 2)
、同年 5 月までに増益幅が 5%まで落ち込みました。
図表1: TOPIX の予想 EPS の推移
120
2月末
(来期予想値)
5月末
(今期予想値)
図表 2: 2 月から 5 月の EPS 予想値の変化率
10%
5%
0%
7%
1%
-5%
100
3%
-1%
-3%
-10%
80
-15%
60
-12%
-14%
-20%
-25%
40
-30%
20
-35%
-31%
(出所)Bloomberg、2015 年は 2 月 20 日の値。
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-3%
ここで予想が引き下げられたのは、同年 4 月に消費増税が実施され、その影響だったと多くの方が
思われるかも知れません。しかし、消費増税が行われること自体は半年前の 2013 年 10 月に決定され
たことです。2 月の段階の業績予想は消費増税の影響が当然考慮されていたはずです。にもかかわら
ず、新年度に入って直ぐに予想が引き下げられてしまったということは、他に要因があったのではな
いでしょうか。
新年度を迎えるとトーンダウン
過去 9 年を見ると、うち 6 年は年度が替わってすぐに引き下げられたことが分かります(図表 2)
。
リーマンショックとそれに伴う金融市場の混乱が大きかった 2009 年度、東日本大震災直後であった
2011 年度以外でも下方修正、または良くて横ばいという年がほとんどでした。
では、なぜこのように新しい年度に入ると直ちに業績予想が引き下げられる傾向があるのでしょう
か。要因の一つとして新年度に対する情報の少なさが挙げられます。毎年、今ごろの時期(1-3 月)
に株式市場では新年度への注目が高まりますが、会社ではちょうど新年度に向けた事業計画などを取
りまとめている最中です。当然、市場関係者が入手できる業績を計る上で手がかりとなる情報は 4 月
以降と比べて少なくなります。つまり、この時期の新年度の予想は市場関係者の裁量の部分が大きく
なってしまっているのです。元来、筆者を含めて株式市場に携わる人は株価が上昇し、市場が活況に
なることを願っており、将来の見通しは楽観的になりがちです。ゆえに強気の予想になりやすくなっ
てしまうのではないでしょうか(図表 3)
。
図表 3: 新年度の業績予想のイメージ
情報量
1月~3月ごろ
4月以降
少ない
(会社から業績予想の開示なし)
多い
(会社から業績予想の開示あり)
↓
予想に対する
市場関係者の裁量
大きい
↓
予想の傾向
↓
トーン
ダウン
強気の予想になりやすい傾向
(市場関係者はそもそも楽観的)
小さい
(開示された会社予想を尊重)
↓
堅実な会社予想に沿った
慎重な予想になる傾向
冷静な視線が必要
株価の情報と共に来期の増益率などの投資家が日本株式の購入を検討したくなるようなデータを見
る機会が増えるかもしれません。しかし、過去の傾向からは今の時期に目にする新年度の予想は市場
関係者の期待が込められている可能性があることが見えてきました。
株式投資を考える上では、情報を鵜呑みにせず、情報を冷静に見極めることが必要であることを再
確認させられる事象なのではないでしょうか。
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