胆道系のIVR-PTC, PTCDからステントまで

IVR マニュアル/ 2003 日本血管造影・ IVR 学会「技術教育セミナー」より:齋藤博哉
連載 5
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IVR マニュアル/ 2003 日本血管造影・ IVR 学会総会「技術教育セミナー」より・・・・・・・・・・・・・
胆道系の IVR-PTC, PTCD からステントまで
旭川厚生病院 放射線科
齋藤博哉
はじめに
胆道狭窄に対してメタリックステント(以下 MS)が
臨床応用されてから 15 年が経過した。現在では悪性胆
道狭窄症例の内瘻術において, 少なくとも経皮的留置で
はチューブステントに完全にとって代わっている。多
くの種類の MS が開発・市販されており, 使用にあたっ
ては各 MS の特徴, 構造, 拡張力, 柔軟性, 視認性, 短縮
の程度, デリバリーの方法などをよく理解しておく必要
がある。
適応
1. 適応
① 手術不能の悪性胆道閉塞
② MS 留置により performance status(PS)の改善が
期待できる症例
③ バルーン拡張術, 長期間のブジーに抵抗性の良性
胆道狭窄
2. 適応外
① 全身状態の著しく不良な症例
(癌末期状態や敗血症など)
② 胆道内外瘻化が困難な症例
術前準備
<使用薬剤, 前投薬>
術前30分に硫酸アトロピン(0.5m)とソセゴン15 m 筋注
手技
1. 肝外閉塞
①PTBD チューブ(内外瘻チューブ)からの胆管造影
により, 閉塞部位を確認, MS 留置範囲を計測し,
用いる MS の種類, 長さを決定する。
・ MS 径は通常 8 ∼ 10 a を選択する。
・ MS 長はできる限り長いものを選択する。
②ガ イ ド ワ イ ヤ ー ( 0.035inch Uchida あ る い は
Amplatz extrastiff wire)を閉塞部を越えて十二指腸
まで十分挿入する。
③デリバリーシステムの挿入
④ステントリリース
⑤デリバリーシステムの抜去
⑥PTBD チューブを再度留置し, 造影により MS の拡
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張状態と造影剤の通過性を確認する。
中部胆管狭窄では, 短い MS や直線化しようとする力
が強い MS を留置すると, MS 両端部で胆管が過度に屈曲
する。このため, 粘膜過形成による再閉塞や胆汁うっ滞
1)
による debris の貯留, 結石形成をきたす危険性がある 。
また, tumor overgrowth による再閉塞を予防するため,
長めの MS を留置する。
下部胆管狭窄では, 狭窄部からファーター乳頭部まで
ある程度距離がある場合には, 乳頭機能温存のためMS全
体が胆管内に位置するよう留置するが, 膵頭部癌などで
はMS下端が十二指腸内腔に突出するように留置する 2)。
ベア・ステントを留置した場合, 留置後早期に腫瘍の
3, 4)
ingrowth による再閉塞が懸念される症例がある 。併
用療法を施行しない肝外胆管閉塞に対してはカバー・
ステントが第一選択であるというコンセンサスが得ら
4 ∼ 6)
。カバー・ステントにはステント間隙が
れつつある
ないため, 腫瘍の胆管内増殖を阻止することができ(腫
瘍の ingrowth による再閉塞の予防), より長期の開存
が期待できる。また, 腫瘍の overgrowth による再閉塞
に備え, 初回の留置から長めのカバー・ステントを留置
する。一方, カバー・ステントでは, 胆嚢管, 胆管分枝,
膵管を閉塞する危険性があることを知っておく必要が
ある。肝門部から肝内狭窄例では, 側枝が閉塞されると
閉塞性胆管炎や肝膿瘍を招く恐れがあるため, 現時点で
はカバー・ステントの留置は解剖学的変異がない症例
で左右肝管を限度とする。胆嚢管の閉塞に対しては, 胆
嚢が正常であれば胆嚢炎が出現しても, 抗生剤投与や経
皮経肝的胆嚢ドレナージ(PTGBD)で十分対応できる。
膵管が開存している症例では, 乳頭部にカバー・ステン
トを留置すると膵管口が圧迫されるため, 膵管閉塞によ
る膵炎を惹起する危険性がある。留置前に乳頭切開を
することで回避することができる。
2. 肝門部胆管閉塞
肝門部胆管狭窄に対する留置法は, PTBD チューブが
片側から留置されているのか, 両側から留置されている
のかによって種々の方法がある 2, 7 ∼ 10)。ほとんどの症例
で 2 本以上の MS を用いる multi-stenting になるが, 肝内
胆管から総胆管に無理な緊張がかかると, 過拡張状態と
1)
なり胆管粘膜の損傷をきたす 。胆管径に相応した MS
を side-to-end 法, partial stent in stent 法で留置する。
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技術教育セミナー
両葉に PTBD チューブが留置されている場合:
まず片側ルートを用いて, MS を総胆管から左または
右肝管まで留置する。ついで対側ルートから肝門部で
MS の一部が最初に留置した MS の中に重なるように留
置する(partial stent in stent 法)。
片葉のみに PTBD チューブが留置されている場合:
①まず総胆管から同側の肝管まで MS を留置する。次い
でその MS 間隙から対側肝管に partial stent in stent で
留置する。ただしこの方法は右前後枝が分断されて
いる場合では右からのルートでは留置困難なため, 主
に左 PTCD が留置されている場合に施行するように
する。
②T 字型留置法:片側ルートから左右肝管に橋渡し状
に MS を留置する。次いで, MS 間隙からガイドワイ
ヤーを下部胆管に誘導する。バルーンカテーテルで
MS 間隙を拡張後, 下流側から MS をリリースし, 最
終的に総胆管に肝門部で T 字型になるよう partial
stent in stent で留置する。
③片側から複数の MS を side-to-end 法で留置する場合
は, PTBD 挿入部位からみて最も遠位から近位に留置
するのが原則である。
④左右両側ルートから 2 本の MS を並列に留置する方法
もあるが(side by side), 並列に留置された 2 本の MS
が full expand すると総胆管は過拡張となり, 門脈本
幹が圧排, 閉塞することがあるため, できる限り ide
by side の留置は避ける。
いずれにせよ, 肝門部分断例では, 減黄効果, 胆管炎
の有無が予後に直結してくるので, 胆管造影像から狭窄
部の範囲, 形態を詳細に読影し, MS の種類, 大きさ, 留
置法などを十分検討して行うことが重要である。
3. 術後処置
図 1 膵癌に対するカバー・ステン
ト留置
a : PTBD 造影では中下部での閉
塞を認める。
b : 胆道鏡検査では胆管内腔に腫
瘍血管を伴った隆起性病変を
認める。
c : カバー・ステント留置後の造
影では, patency は良好であ
り, ステント径と内腔径が一
致している。
d : 留置後の胆道鏡検査で, ポリ
ウレタン膜が腫瘍を圧排して
いるのが観察される。
a b
c d
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図 2 肝門部胆管狭窄症例に 2 本の MS を partial
stent in stent で留置する手技
(両葉にPTBDチューブが留置されている場合)
a : ガイドワイヤーを挿入する。
b : デリバリーシステムを挿入し, MS を総胆
管から左肝管まで留置する。
c : 対側ルートから MS の一部が最初に留置し
た MS の中に重なるように留置する。
図 3 肝門部胆管狭窄症例に 2 本の MS を partial
stent in stent で留置する手技
(片葉のみに PTBD チューブが留置されてい
る場合)
a : ガイドワイヤーを挿入する。
b : デリバリーシステムを挿入し, MS を総胆
管から左肝管まで留置する。
c : MS 間隙から対側肝管に partial stent in
stent で留置する。
図 4 肝門部胆管狭窄症例に 2 本の MS を T 字型
に留置する手技
a : ガイドワイヤーを挿入する。
b : デリバリーシステムを挿入し, 左右肝管に
橋渡し状に MS を留置する。
c : MS 間隙から総胆管に 2 本目の MS を partial
stent in stent で留置する。
図 5 肝内胆管分離症例に 3 本の MS を留置する
手技
a : ガイドワイヤーを挿入する。
b : デリバリーシステムを挿入。PTBD 挿入側よ
りみて最も遠位の後区域枝に MS を留置。
c : 次いで前区域枝から左右肝管合流部まで
MS を side-to-end で留置。
d : 最後に総胆管から同側肝管まで MSを留置。
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①術後 2 時間程度のベッド上安静
②抗生剤投与
③PTBD チューブは 3 ∼ 7 日程度開放し, 再度 PTBD 造
影で MS の拡張, 造影剤の通過性が良好であることを
確認後抜去する。
合併症
1. 早期合併症とその対策
留置後 1 ないし 2 週以内の超早期に MS が再閉塞する
3)
ことがある(rapid obstruction) 。その機序として①胆
管内腔の腫瘍 volume が大きい場合, MS が腫瘍内に完
全に埋没してしまうことによって起こる閉塞(rebound
obstruction)と, ② MS による持続的な胆管粘膜の刺激
による反応性浮腫(reactive obstruction)や, ③フィブリ
ンの付着によって起こる再閉塞などがある。②③の場
合外瘻の維持, 洗浄で対処可能なことが多いが, ①の場
合にはカバー・ステントを含めた MS の追加留置(stent
in stent)が必要となることがある。また, 胆嚢管, 膵管
閉塞による胆嚢炎や膵炎が報告されている。発生頻度
は低く, 合併しても対症療法で改善する場合がほとんど
であるが, MS の位置に十分注意し, 抗生剤の予防投与
を行う。また, 膵管が開存している症例で乳頭部にカバ
ー・ステントを留置する場合, 留置前に乳頭切開をする
ことで膵炎の合併を回避することができる。また, カバ
図 6 肝門部胆管癌に対する multi-stenting
a b
a, b : 上部胆管から左肝管, 前区域枝の狭窄を
認める。また, 後区域枝も分断されている。
c d
c : 後区域枝から左肝管に 1 本目の MS を留置
する。次いで, MS 間隙からガイドワイヤ
ーを下部胆管に誘導する。
d : 2 本目の MS を T 字型になるよう partial
stent in stent で留置する。
e
f
e : 3 本目の MS を 1 本目の MS に一部重なるよ
うに, 前区域枝に留置する。
f : 留置後の造影では patency はきわめて良好
である。
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ー・ステント下端を十二指腸内に空置した場合, 食物残
渣による閉塞や逆行性胆管炎に悩まされる症例がある。
内視鏡的にカバー・ステントの抜去, 再留置を行う。
2. 後期合併症とその対策
第一に再閉塞が挙げられる。原因として良性狭窄では
粘膜過形成が最も多く, 悪性狭窄では tumor ingrowth や
1)
tumor overgrowth が原因となる が, tumor ingrowth 予
防の目的で, カバー・ステントが使われることが多くな
4 ∼ 6)
。再閉塞を来した場合には経皮的なド
ってきている
レナージが必要で, 腫瘍が原因の場合は再閉塞部に MS
の追加留置を行うが, 原疾患が末期状態となり外瘻抜去
ができないことも少なくない。ほかに胆泥, 結石形成,
真菌塊などが報告されている。胆管壁から遊離した MS
が存在すると, その周囲に胆汁がうっ滞し, debris や
sludge の付着さらに結石形成とつながる。適切な径の
flexibility のある MS を選択し, 遊離することなく胆管壁
1)
と密着させるような留置を心がける 。
保険に関する一口メモ
保険請求は「K689 経皮経肝胆管ステント挿入術」
8,110 点である。手技に伴う画像診断および検査の費用
は算定できないが, 造影剤, フィルム, 特定保健医療材
料の費用は別に算定できる。胆管ステントセット(自動
装置システム付き)永久型は, 24 時間以上体内留置した
場合に算定でき, デリバリーシステム付きの MS はカバ
ーありが 264,000 円, カバーなしが 307,000 円でカバー
なしの方が高い。MS 本数についての規定はないが, 通
常 3 セットまでとされ, 地域によるが 4 セット以上使用
した場合査定されることが多い。なお, ガイドワイヤー
を始めシース, 拡張バルーン, ドレナージカテーテルな
どは別に算定できない。
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【文献】
1)齋藤博哉:ステント療法最前線. 胆管ステント. 日
獨医報 48 : 410 - 416, 2003.
2)森田荘二郎:胆道疾患に対するドレナージ・ステント
留置術. 臨床医のための腹部血管造影・ IVR, 藤盛
孝博監修, 杉村和朗・廣田省三編集, 新興医学出版
社, 東京, 2003, p81 - 93.
3)齋藤博哉: Expandable metallic stent の胆道系への
臨床応用に関する研究−第 1 編初期成績−. 日医放
会誌 52 : 762 - 773, 1992.
4)齋藤博哉, 真口宏介:切除不能膵胆道癌の適切な内
瘻術をいかに選択すべきか? Medical Practice 13 :
445 - 450, 1996.
5)Miyayama S, et al : Covered Gianturco stent for
malignant biliary obstruction : Preliminary clinical
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6)Isayama H, et al : A prospective randomized study of
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the management of distal malignant biliary obstruction. Gut 53 : 729 - 734, 2004.
7)齋藤博哉, 高邑明夫:肝門部胆管癌に対する非手術
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8)齋藤博哉: IVR とステント療法 4. 胆道ステント療
法. 消化器疾患の最新医療, 森岡恭彦, 鎌田武信, 戸
田剛太郎監修, 幕内雅敏, 川野 淳, 千葉 勉, 中村
仁信, 森 正樹編集, 先端医療技術研究所, 東京,
2001, p372 - 376.
9)吉岡哲也:胆道ステント留置のコツ−肝内胆管閉塞
例, 臨床放射線のコツと落とし穴, 小塚隆弘編, 中
山書店, 東京, 1999, p80 - 81.
10)阪口 浩:胆道ステント留置術・バルーン拡張術,
IVR マニュアル, 打田日出夫, 山田龍作監修, 医学書
院, 東京, 2002, p213 - 219.