特 許 公 報 特許第5771376号

〔実 8 頁〕
特 許 公 報(B2)
(19)日本国特許庁(JP)
(12)
(11)特許番号
特許第5771376号
(45)発行日
(P5771376)
(24)登録日 平成27年7月3日(2015.7.3)
平成27年8月26日(2015.8.26)
(51)Int.Cl.
FI
C12N
5/02
(2006.01)
C12N
5/02
ZNA C07K
7/06
(2006.01)
C07K
7/06
A61K 38/00
(2006.01)
A61K
37/02
A61P 35/00
(2006.01)
A61P
35/00
A01N
(2006.01)
A01N
1/02
1/02
請求項の数4
(全10頁)
(21)出願番号
特願2010-209975(P2010-209975)
(22)出願日
平成22年9月17日(2010.9.17)
国立大学法人岩手大学
(65)公開番号
特開2012-060976(P2012-60976A)
岩手県盛岡市上田三丁目18番8号
(43)公開日
平成24年3月29日(2012.3.29)
審査請求日
(73)特許権者 504165591
(73)特許権者 304026696
平成25年9月5日(2013.9.5)
国立大学法人三重大学
三重県津市栗真町屋町1577
(出願人による申告)生物系産業創出のための異分野融
(74)代理人 100093230
合研究支援事業、農林水産省、産業技術力強化法第19
弁理士
条の適用を受けるもの
(72)発明者 鈴木
西澤 利夫
幸一
岩手県盛岡市上田三丁目18番8号
国立
大学法人岩手大学内
(72)発明者 今井
邦雄
三重県津市栗真町屋町1577
国立大学
法人三重大学大学院生物資源学研究科内
最終頁に続く
(54)【発明の名称】細胞増殖抑制剤、細胞または臓器の保存液
1
2
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式で表される化合物を有効成分として含有することを
特徴とする動物細胞または臓器の保存液。
【化1】
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す
)
【請求項3】
保存液の温度は、5∼37℃であることを特徴とする請
10
求項1の動物細胞または臓器の保存方法。
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す
【請求項4】
)
次式で表される新規化合物。
【請求項2】
【化3】
次式で表される化合物を有効成分として含有する動物細
胞または臓器の保存液に、動物細胞または臓器を浸漬す
ることを特徴とする動物細胞または臓器の保存方法。
【化2】
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す
( 2 )
JP
3
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4
)
灌流法、2)単純浸漬保存方法、の2つの方法に大別さ
【発明の詳細な説明】
れる。
【技術分野】
【0007】
【0001】
灌流法は、保存期間中に臓器灌流を行って、細胞に必要
本発明は、細胞増殖抑制剤、細胞または臓器の保存液に
な酸素や栄養素を補給し、かつ老廃物を除去することで
関する。
、臓器の代謝を維持し、保存期間の延長を図るものであ
【背景技術】
る。しかしながら、灌流法による臓器保存には、灌流温
【0002】
度、灌流圧、灌流量、灌流液の組成など様々な因子が関
本発明者らは、ヤママユガ科(Saturniidae)の天蚕(A
係するため、詳細な至適条件が確立されていない。
ntheraea yamamai)に関する研究の中で、アミノ酸配列 10
【0008】
、アスパラギン酸−イソロイシン−ロイシン−アルギニ
一方、単純浸漬保存法は、臓器を低温に保持して細胞の
ン−グリシン(DILRG)を有し、C末端がアミド化
代謝を抑制することで、酸素欠乏による組織障害を防止
されており、分子量が570.959である新規なペプ
する方法であり、簡便かつ有効な方法として、臨床現場
チドを見出し、このペプチドの休眠制御作用、ガン細胞
では、広く用いられている。具体的には、摘出前あるい
の増殖抑制作用を明らかにすることで、特許を取得して
は摘出後に、流入血管などから、低温の保存液を用いて
いる(特許文献1、2)。なお、このペプチドは、本発
臓器の血管床から血液成分を洗浄後、摘出臓器を同保存
明者らによって、「ヤママリン」と命名されてもいる。
液に浸漬する方法が一般的である。
【0003】
【0009】
また、本発明者らは、前記ペプチドの細胞浸透性および
実用化されている臓器保存液としては、グルコースと諸
細胞増殖抑制活性を上昇させるために、ペプチド誘導体 20
種の電解質を含んでなるユーロコリンズ液と、不浸透成
についての研究を進め、パルミチン酸との結合体(「C
分、膠質浸透圧成分、エネルギー代謝促進成分及びホル
16−ヤママリン」と命名されている)の顕著な細胞増
モンをそれぞれ含んでなるウィスコンシン液がよく知ら
殖抑制活性を報告している(非特許文献1)。
れている。しかしながら、ユーロコリンズ液は生存能力
【0004】
の高い腎臓には有効であるが、腎臓以外の臓器に対して
しかしながら、非特許文献1では、C16−ヤママリン
は、組織・細胞に対する保護効果が十分でないと言われ
以外のペプチド誘導体(C2、C8)に関しては、細胞
ており、また、ウィスコンシン液は製剤として不安定で
抑制効果が確認されていない。したがって、C16以下
あり、調製後は低温保存しなければならない欠点がある
の炭素数のペプチド誘導体についてはその有用な用途が
と言われている。
確立されているとはいい難かった。
【0010】
【0005】
30
このような欠点を克服するため、様々な臓器保存液も提
一方、医療技術の進歩に伴い、臓器の移植手術が広く行
案されている(例えば、特許文献3、4、5)。しかし
われるようになっている。傷病者における臓器の障害が
ながら、これらの臓器保存液も、製剤の調製と恒常性の
甚だ大きく、通常の治療による回復が見込めない場合に
維持が難しく、また、水に対する溶解度が低いなどの問
は、提供者の臓器を被提供者に移植して治療する。移植
題を有しているものもある。
手術のために臓器提供者(ドナー)から摘出された移植
【0011】
臓器は、血流が途絶し血流を介した酸素の供給がない状
さらに、上記のいずれの臓器保存液においても、臓器を
態(虚血状態)で、移植まで数分から数時間に渡り保存
低温に保持する必要があるため、移植後の臓器の機能回
される。この際、保存温度や保存液などの保存条件が適
復が妨げられているという根本的な問題もある。さらに
切に選択されなかったり、移植までに長時間を要する場
、冷却装置などを必要とし、臓器の搬送時の負担が大き
合がある。こうした場合、移植によって移植臓器内の血 40
いことも改善すべき点として指摘されている。
流が回復した際(再灌流時)に、移植臓器に基質的ある
【先行技術文献】
いは機能的な障害が生じる場合がある。例えば、肝臓移
【特許文献】
植においては、移植後に凝固活性の亢進や血栓形成を伴
【0012】
って微小循環障害に陥り、グラフト肝機能不全が認めら
【特許文献1】特許第3023790号
れる場合がある。このような障害は、一般的に移植臓器
【特許文献2】特許第3579711号
の虚血後再灌流障害とよばれている。
【特許文献3】特開2000-191401号公報
【0006】
【特許文献4】特開2002-60301号公報
こうした症状を防ぎ、移植用臓器を生理的に良好な状態
【特許文献5】特開2005-306749号公報
で保存するための方法についての検討がなされてきた。
【非特許文献】
そして、現在までに報告されている臓器保存法は、1) 50
【0013】
( 3 )
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5
【非特許文献1】Yang et al.
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A Palmitonyl Conjugat
化合物を有効成分として含有する細胞または臓器の保存
e of an Insect Pentapeptide Causes Growth Arrest i
液に、細胞または臓器を浸漬することを特徴としている
n Mammalian Cells and Mimics the Action of Diapaus
。
e Hormone (2007).
【0021】
【発明の概要】
【化3】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そして、上記の背景から、本発明者は、C16−ヤママ
リン以外のペプチド誘導体についての細胞増殖抑制効果
に関する新たな知見を見出した。
10
【0015】
本発明は、C16−ヤママリン以外のペプチド誘導体の
新規かつ有用な用途を提供すること、特に、移植臓器の
虚血後再灌流障害の発生を防ぎ、さらに、臓器の保存温
【0022】
度を低温としなくとも、十分な保存効果を発揮する細胞
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す
および臓器保存液を提供することを課題としている。
)
【課題を解決するための手段】
本発明の細胞または臓器の保存方法では、保存液の温度
【0016】
は、5∼37℃であることが好ましい。
本発明の細胞増殖抑制剤は、次式で表される化合物を有
【0023】
効成分として含有することを特徴としている。
20
さらに本発明の新規化合物は次式で表される。
【0017】
【0024】
【化1】
【化4】
【0018】
【0025】
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す
)
)
さらに、本発明の細胞または臓器の保存液は、次式で表
【発明の効果】
される化合物を有効成分として含有することを特徴とし
【0026】
ている。
本発明の細胞増殖抑制剤は、細胞の増殖を顕著に抑制す
【0019】
ることができる。したがって、継代培養のインターバル
【化2】
を柔軟に変化させることができ、細胞培養従事者等の労
力を著しく軽減することができる。また、本発明の保存
40
液は、細胞または臓器を効果的に保存することができる
。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の細胞増殖抑制剤は、有効成分として以下の化合
物を含有している。
【0028】
【0020】
(式中のRは、炭素数が6または10のアシル基を示す
)
本発明の細胞または臓器の保存方法は、次式で表される 50
【化5】
( 4 )
JP
7
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8
制することができるという新規な知見に基づいている。
このような昆虫由来のペプチドを利用した臓器保存液も
、従来全く知られていない。
【0034】
そして、酸素消費抑制効果が可逆的であることは、細胞
および臓器の保存剤として有用であることを意味してい
る。
【0035】
【0029】
すなわち、本発明の保存液は、N末端アシル化DILR
この化合物における式中のRは、アシル基を示しており 10
G−NH2 を溶液として調製したものであるが、例えば
(以下、「N末端アシル化DILRG−NH2 」という
、移植臓器を保存する場合、保存期間中は、臓器を保存
)、このN末端アシル化DILRG−NH2 は、従来、
液に浸漬することで酸素消費量を抑制し、移植前に、保
本発明者らの研究によって見出された、「アスパラギン
存液から臓器を取り出すことで、再び、臓器の酸素消費
酸−イソロイシン−ロイシン−アルギニン−グリシンを
量を正常に戻すことができる。したがって、酸素欠乏に
有し、C末端がアミド化されたペプチド」(以下、「D
よる臓器の組織障害を防止することができる。
ILRG−NH2 」という)のN末端に、アシル基を導
【0036】
入することで合成することができる。DILRG−NH
さらに、N末端アシル化DILRG−NH2 は、化学構
は、例えば、天蚕(Antheraea yamamai)の幼虫から
造の骨格となるアミノ酸の数が5と少なく、極めて短い
単離、精製したものを使用することもできるし、公知の
低分子であることから、例えば、保存液の調製および恒
ペプチド合成法により製造したものを使用することもで 20
常性の維持が容易である。また、常温での保存が可能で
きる。またその他の方法によって取得することもできる
、保存性、取扱い性にも優れ、長時間の保存も可能であ
が、経済性、大量生産性等を考慮すれば、ペプチド合成
る。
法による取得が好ましい。
【0037】
【0030】
また、本発明の保存液は、N末端アシル化DILRG−
そして、アシル基の導入は、公知の方法で行なうことが
NH2 単独の形態であっても、N末端アシル化DILR
でき、N末端アシル化DILRG−NH2 におけるアシ
G−NH2 とそれ以外の、例えば、グルコース、マルト
ル基の炭素数は、細胞浸透性、細胞の酸素消費量抑制効
ース、シュークロース、ラクトース、ラフィノース、ト
果、細胞増殖抑制効果の観点から、6または10とする
レハロース、マンニトール、ヒドロキシエチル澱粉、プ
ことができる。
ルランなどの糖質、グルコン酸、乳酸、酢酸、プロピオ
2
【0031】
30
ン酸、β−ヒドロキシ酪酸、クエン酸などの有機酸、塩
本発明の細胞増殖抑制剤の対象となる細胞としては、ヒ
化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化
トまたは非ヒト動物の組織から単離した幹細胞、皮膚細
カルシウム、燐酸二水素ナトリウム、燐酸二水素カリウ
胞、粘膜細胞、肝細胞、膵島細胞、神経細胞、軟骨細胞
ム、燐酸水素二ナトリウム、燐酸水素二カリウム、炭酸
、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞を含み、さらに
水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、
、家畜などの動物や魚類の精子、卵子または受精卵、昆
炭酸カリウムなどの電解質、L−アスコルビン酸、ビタ
虫細胞、植物細胞などが含まれる。
ミンEなどのビタミン、グリシン、グルタミン酸、リジ
【0032】
ンなどのアミノ酸、抗利尿ホルモン、インスリンなどの
さらに、本発明の細胞増殖抑制剤は、例えば、公知の培
ホルモン、クエン酸、クエン酸塩、ヘパリン、エデト酸
地で培養されている細胞に対して適量(例えば、終濃度
10μM∼10mM程度)添加して使用することができる。ま
ナトリウムなどの抗凝固剤、カルシウム拮抗剤、アドレ
40
ナリンβ受容体拮抗剤、アンギオテンシン変換酵素阻害
た、本発明の細胞増殖抑制剤は、例えば、有機溶媒等に
剤などの降圧剤、アデノシン酸燐酸などの核酸塩基、凍
溶解した状態で使用することができる。本発明の細胞増
結防止蛋白質などの凍結防止剤、活性酸素消去剤、細胞
殖抑制剤は、その増殖抑制活性を阻害しないことを条件
賦活剤、抗生物質、抗血小板因子、肝障害抑制剤、賦形
に、その他各種の公知の組成物を包含することができる
剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、粘性剤、再吸収促進剤、
。本発明の細胞増殖抑制剤によれば、継代培養のインタ
界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、防腐剤、乳化剤、等
ーバルを柔軟に変化させることができ、細胞培養従事者
張化剤、安定化剤、緩衝剤、pH調整剤などの、臓器保
等の労力を著しく軽減することができる。
存液に通常一般に配合される成分の1又は複数との組成
【0033】
物としての形態であってもよい。
そして、本発明の保存液は、N末端アシル化DILRG
【0038】
−NH2 が、細胞および臓器の酸素消費量を可逆的に抑 50
また、この発明の保存液を、例えば、ユーロコリンズ液
( 5 )
JP
9
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10
やウィスコンシン液などの公知の臓器保存液に配合して
化は、対応するカルボン酸の塩化物(塩化ヘキサノイル
用いるときには、それらの臓器保存能を改善することも
または塩化デカノイル)で処理することによっても達成
できる。
できる。以下、C6−DILRG−NH2 およびC10
さらに、この発明の保存剤によって、細胞、臓器を保存
−DILRG−NH2 を「C6−ヤママリン、C10−
する場合は、保存液中のN末端アシル化DILRG−N
ヤママリン」と記載する。
H2 の濃度は、細胞、臓器の種類やその他の条件に応じ
【0043】
て適宜決定することができる。具体的には、例えば、1
なお、精製は逆相カラム Develosil−ODS HG-5(2
0μM∼10mMの範囲を例示することができる。
0mm×250mm、野村化学(株)製)をHPLCの
【0039】
システム(ガリバー(株)日本分光)に接続して行った
そして、本発明の保存液を使用する条件として好ましい 10
。溶出は、4ml/分の流速で、0.1%トリフルオロ
適用温度は、5∼37℃、特に好ましくは、25∼37
酢酸(TFA)の存在下でアセトニトリルの濃度勾配(
℃である。本発明の保存液は、従来のように、必ずしも
0∼120分で0∼100%)を用いて行い、活性画分
低温で臓器を保存する必要がないため、移植後の臓器の
を溶出せしめた。吸光度は220nmで測定した。ペプ
機能回復がスムーズに行われることになる。もちろん、
チドは、サンプルプレート上で等量のマトリックス(4
臓器移植においては機能回復の問題はあるが、保存液の
0%アセトニトリル/0.1%TFAα−CHCAを飽
温度を低温(例えば、5℃以下)とすることもでき、こ
和させたもの)と混合した後乾燥させ、MALDI−T
の場合は、さらに長期間の細胞、臓器の保存が可能とな
OF MS(Discovery、(株)島津製作所製)によって
る。
構造確認した。
【0040】
【0044】
そして、本発明の保存液の対象となる細胞は、例えば、 20
<2>細胞増殖抑制試験
ヒトまたは非ヒト動物の組織から単離した幹細胞、皮膚
(1)HepG2細胞(ヒト肝がん細胞)
細胞、粘膜細胞、肝細胞、膵島細胞、神経細胞、軟骨細
HepG2細胞を、10%FCS(GIBCO社、Low-IgG牛胎児血
胞、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞を含み、さら
清)を含むDMEM培地(Sigma製)中で、37℃、CO2 濃度5%条
に、家畜などの動物や魚類の精子、卵子または受精卵、
件下で種培養を行なった。その後、種細胞を96well培養
昆虫細胞、植物細胞などが含まれる。
プレートに、1ウエル当たり100μLの2.0×10 cell/mL細
【0041】
胞を分注した。
さらに、本発明の保存液の対象となる臓器には、皮膚、
【0045】
血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、
このプレートを37℃、CO2 濃度5%条件下で、1日培養を行
胎盤または膵臓などが含まれる。
い、細胞がウエル底面に接着したことを確認した後、培
【実施例】
4
30
養プレートに、以下の3条件で、被検物質を添加し、37
【0042】
℃、CO2 濃度5%条件下で5日間培養を行なった。
以下に、本発明の実施例について説明する。本発明は、
1)Control として、PBSを1ウェル当たり1.0μL添
以下の実施例に限定されるものではない。
加
<1>N末端アシル化DILRG−NH2 の合成
2)DMSOに溶解した200mMのC6−ヤママリンを1ウ
ペプチド合成装置(PSSM−8、(株)島津製作所製
ェル当たり1.0μL添加(終濃度2mM)
)を用いて、通常の方法によって樹脂上にN末端遊離、
3)DMSOに溶解した20mMのC10−ヤママリンを1ウ
保護基付ペプチド、アスパラギン酸−イソロイシン−ロ
ェル当たり0.5μL添加(終濃度100μM)
イシン−アルギニン−グリシン−NH2 (DILRG−
細胞数は、WST-1アッセイ(Premix WST-1 タカラバイオ
NH2 )を合成した。
社製)による増殖確認試験で被検物質添加前、0日、被
そして、上記ペプチド樹脂をジメチルホルムアミド(DM 40
検物質添加後、1∼5日目まで毎日測定を行なった。
F)とピリジンの混合溶媒に懸濁し、ヘキサン酸(C6カ
【0046】
ルボン酸)またはデカン酸(C10カルボン酸)およびWSC
すなわち、対象のマイクロプレートの1ウェル当たり10
D(1-ethyl-3-(3-dimethylaminoprppyl)-carbodiimide h
μLのPremix WST-1を加え、37℃、CO2 濃度5%条件下で1
ydrochloride)を加え、室温で一晩攪拌した。反応終了
時間インキュベートした後、450nmで吸光度を測定した
後、樹脂を濾集し、DMFおよびメタノールで洗浄した。
。なお、WST-1アッセイによる細胞数は、あらかじめ作
このようにして得たアシル化ペプチド樹脂を通常の方法
成したWST-1アッセイ検量線より求めた。
で切り落としカクテル処理し、粗アシル化DILRG−
【0047】
NH2(C6−DILRG−NH2 、C10−DILRG
この結果、C6ヤママリン、C10ヤママリン無添加の
−NH2 )を得た。なお、ここに用いたヘキサン酸また
Controlで細胞がコンフラントになったのに対し、培養
はデカン酸とWSCDの混合物によるペプチド樹脂のアシル 50
開始時にC6ヤママリン、C10ヤママリンを添加した
( 6 )
JP
11
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12
ものでは、培養5日後においても、細胞がコンフラント
ェル当たり1.0μL添加(終濃度2mM)
にならずに、培養を継続することができた(表1)。
3)DMSOに溶解した20mMのC10−ヤママリンを1ウ
【0048】
ェル当たり0.5μL添加(終濃度100μM)
【表1】
各細胞に対するC6ヤママリン、C10ヤママリンの効
果は、培養開始日と培養5日目に、顕微鏡観察下で、視
野中にある細胞が増殖しているかどうかで判定した。
【0052】
これらの結果(表2)、細胞種によっては、若干のばらつ
【0049】
きがあるものの、基本的には、どの細胞でも、C6ヤマ
(2)各種細胞を用いたC6ヤママリンおよびC10ヤ 10
マリン、C10ヤママリンは、増殖抑制効果を有するこ
ママリンの添加効果確認
とがわかった([表2])。
1)K562細胞(CML,慢性骨髄性白血病)を、10%
【0053】
FCS(GIBCO社、Low-IgG牛胎児血清)を含むRPMI培
【表2】
地(日水製薬製)中で、37℃、CO2 濃度5%条件下で種培養
を行なった。
2)NHDF(正常ヒト皮膚繊維芽細胞、クラボウ製)
を、解凍後、Medium106SにLSGS特注増殖添加剤を加えた
培地(クラボウ社製)中で、37℃、CO2 濃度5%条件下で種
培養を行なった。
3)HepG2細胞(ヒト肝がん細胞)を、10%FCS(GI 20
BCO社、Low-IgG牛胎児血清)を含むDMEM培地(Sigma製)中
【0054】
で、37℃、CO2 濃度5%条件下で種培養を行なった。
なお、C6ヤママリン、C10ヤママリンの添加濃度や
【0050】
添加タイミングについては、適宜設定することができ、
その後、K562種細胞では96well培養プレートに、1ウエ
より長期間継代なしで培養することも可能である。した
4
ル当たり100μLの1.1×10 cell/mL細胞を分注した。NHD
がって、これらC6ヤママリン、C10ヤママリンは、
F種細胞では96well培養プレートに、1ウエル当たり100
継代培養のインターバルを柔軟に変化させることができ
4
μLの2.4×10 cell/mL細胞を分注した。HepG2種細胞で
、細胞培養従事者等の労力を著しく軽減する方法を提供
は96well培養プレートに、1ウエル当たり100μLの2.0×
するものである。
4
10 cell/mL細胞を分注した。
【0051】
【0055】
30
また、C6ヤママリン、C10ヤママリンによるこのよ
更に、細胞を分注した培養プレートに、以下の3条件で
うな細胞増殖抑制効果は、細胞の酸素消費量を可逆的に
、被検物質を添加し、37℃、CO2 濃度5%条件下で培養を
抑制することができたことによると推定することができ
行なった。
る。したがって、C6ヤママリン、C10ヤママリンを
1)Control として、PBSを1ウェル当たり1.0μL添
有効成分とすることで、細胞および臓器の保存液として
加
有効利用することができる。
2)DMSOに溶解した200mMのC6−ヤママリンを1ウ
( 7 )
【配列表】
0005771376000001.app
JP
5771376
B2
2015.8.26
( 8 )
JP
5771376
B2
2015.8.26
────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(72)発明者
佐藤
嘉則
岩手県盛岡市上田三丁目18番8号
(72)発明者
楊 平
岩手県盛岡市上田三丁目18番8号
(72)発明者
国立大学法人岩手大学内
江幡
国立大学法人岩手大学内
順良
岩手県盛岡市小鳥沢一丁目5番18号
審査官
(56)参考文献
大久保
智之
特許第5549912(JP,B2)
Journal of Peptide Science,2010年
4月12日,16,242-248
バイオサイエンスとインダストリー,2007年,65, 10,511-515
Journal of Insect Biotechnology and Sericology,2007年,76,63-69
蚕糸・昆虫バイオテック,2009年
4月,78, 1,3-11
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
C12N
5/00
C07K
7/00
A01N
1/00
A61K
38/00
A61P
35/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS
(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus