(19)日本国特許庁(JP) 〔実 10 頁〕 公開特許公報(A) (12) (11)特許出願公開番号 特開2015-187088 (P2015−187088A) (43)公開日 平成27年10月29日(2015.10.29) (51)Int.Cl. C07C FI テーマコード(参考) 5/22 (2006.01) C07C 5/22 4B017 C07C 11/21 (2006.01) C07C 11/21 4B018 A23L 1/30 (2006.01) A23L 1/30 B 4C083 A23L 2/52 (2006.01) A23L 2/00 F 4H006 A61K 8/31 (2006.01) A61K 8/31 4H039 審査請求 未請求 (21)出願番号 特願2014-65020(P2014-65020) (22)出願日 平成26年3月27日(2014.3.27) 請求項の数11 OL (全14頁) 最終頁に続く (71)出願人 000104113 カゴメ株式会社 愛知県名古屋市中区錦3丁目14番15号 (74)代理人 100064908 弁理士 志賀 正武 (74)代理人 100108578 弁理士 高橋 詔男 (74)代理人 100089037 弁理士 渡邊 隆 (74)代理人 100094400 弁理士 鈴木 三義 (74)代理人 100108453 弁理士 村山 靖彦 最終頁に続く (54)【発明の名称】シス異性体含有リコピンの製造方法 (57)【 要 約 】 【 課 題 】 触 媒 と し て 求 電 子 剤 で あ る 塩 化 鉄 ( III) を 用 い て 、 リ コ ピ ン の 分 解 を 抑 制 し つ つリコピンを効率よくシス異性化し、シス異性体含有リコピンを製造する方法の提供。 【 解 決 手 段 】 酢 酸 エ チ ル 、 ア セ ト ン 又 は ジ ク ロ ロ メ タ ン か ら な る 溶 媒 中 で 、 塩 化 鉄 ( III )存在下、リコピンをシス異性化することを特徴とする、シス異性体含有リコピンの製造 方 法 ; 反 応 開 始 時 点 に お け る 塩 化 鉄 ( III) と リ コ ピ ン の 含 有 量 比 ( 質 量 比 ) が 0 . 0 0 5∼0.04である、前記記載のシス異性体含有リコピンの製造方法;前記いずれか記載 のシス異性体含有リコピンの製造方法により製造されたシス異性体含有リコピンを原料と することを特徴とする、飲食品の製造方法;前記いずれか記載のシス異性体含有リコピン の製造方法により製造されたシス異性体含有リコピンを原料とすることを特徴とする、化 粧品の製造方法。 【選択図】なし ( 2 ) JP 1 2015-187088 A 2015.10.29 2 【特許請求の範囲】 、シス異性体含有リコピンを製造する方法に関する。 【請求項1】 【背景技術】 酢酸エチル、アセトン又はジクロロメタンからなる溶媒 【0002】 中で、塩化鉄(III)存在下、リコピンをシス異性化す リコピン(Lycopene)は、トマトに含まれてい ることを特徴とする、シス異性体含有リコピンの製造方 る赤い色素であり、天然に存在するカロテノイド化合物 法。 の一種である。リコピンは、β−カロテン等の他のカロ 【請求項2】 テノイド化合物と比較し、抗酸化作用が大きいことが報 反応後におけるリコピンのシス体含有量が50%以上で 告されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、 あり、かつリコピン残存率が70%以上であることを特 リコピンには11個の共役π結合があるため、様々なシ 徴とする、請求項1に記載のシス異性体含有リコピンの 10 ス異性体が存在しており、シス異性体リコピンは、トラ 製造方法。 ンス異性体リコピンよりも腸管吸収性がよいことも知ら 【請求項3】 れている(例えば、非特許文献2参照。)。 反応開始時点における塩化鉄(III)とリコピンの含有 【0003】 量比(質量比)が0.005∼0.04である、請求項 β−カロテンやリコピン等のカロテノイド化合物は、自 1又は2に記載のシス異性体含有リコピンの製造方法。 然界ではそのほとんどがトランス異性体として存在して 【請求項4】 いる。このため、通常、植物等から抽出・精製されたカ 反応開始時点における塩化鉄(III)とリコピンの含有 ロテノイド化合物含有組成物では、トランス異性体を多 量比(質量比)が0.01∼0.04である、請求項1 く含有する。そこで、カロテノイド化合物のシス異性体 又は2に記載のシス異性体含有リコピンの製造方法。 の含有率(シス体含有率)を高める方法が望まれている 【請求項5】 20 。例えば、特許文献1には、リコピンをはじめとするカ 反応温度が20∼75℃である、請求項1∼4のいずれ ロテノイド化合物に対して、熱処理、電磁波照射処理、 か一項に記載のシス異性体含有リコピンの製造方法。 又はラジカル反応を行うことにより、シス体含有率を高 【請求項6】 められること、さらに、リコピンのシス体含有率を、1 反応時間が1∼48時間である、請求項1∼5のいずれ 00℃の熱反応により約40%にまで、電子レンジによ か一項に記載のシス異性体含有リコピンの製造方法。 る電磁波照射処理により約65%にまで、ジクロロメタ 【請求項7】 ン溶液中でヨウ素を触媒として光異性化すること(ラジ 反応時間が3∼48時間である、請求項1∼5のいずれ カル反応)により約77%にまで高められたことが記載 か一項に記載のシス異性体含有リコピンの製造方法。 されている。 【請求項8】 【先行技術文献】 反応に用いるリコピンが青果物由来である、請求項1∼ 30 【特許文献】 7のいずれか一項に記載のシス異性体含有リコピンの製 【0004】 造方法。 【特許文献1】特開2012−211169号公報 【請求項9】 【非特許文献】 前記青果物がトマトを含む、請求項8に記載のシス異性 【0005】 体含有リコピンの製造方法。 【非特許文献1】ブーム(Bohm)、他3名、Journal of 【請求項10】 Agricultural and Food Chemistry、2002年、第5 請求項1∼9のいずれか一項に記載のシス異性体含有リ 0巻、第221∼226ページ。 コピンの製造方法により製造されたシス異性体含有リコ 【非特許文献2】ファイラ(Failla)、他2名、Journa ピンを原料とすることを特徴とする、飲食品の製造方法 。 l of Nutrition、2008年、第138巻、第482∼ 40 486ページ。 【請求項11】 【発明の概要】 請求項1∼9のいずれか一項に記載のシス異性体含有リ 【発明が解決しようとする課題】 コピンの製造方法により製造されたシス異性体含有リコ 【0006】 ピンを原料とすることを特徴とする、化粧品の製造方法 特許文献1に記載の方法のうち、熱処理では、シス体含 。 有率はせいぜい40%程度に留まり、電磁波処理は、電 【発明の詳細な説明】 磁波装置を必要とする。ラジカル反応では、食品加工に 【技術分野】 は使用できないヨウ素を使用しているため、異性化後の 【0001】 リコピンの使用用途が限定されてしまうという問題があ 本発明は、求電子剤を触媒として用いてトランス異性体 る。 リコピンをシス異性体リコピンへ異性化することにより 50 【0007】 ( 3 ) JP 2015-187088 3 A 2015.10.29 4 本発明は、触媒として可食性の求電子剤である塩化鉄( [11] III)を用いて、リコピンの分解を抑制しつつリコピン 含有リコピンの製造方法により製造されたシス異性体含 を効率よくシス異性化し、シス異性体含有リコピンを製 有リコピンを原料とすることを特徴とする、化粧品の製 造する方法を提供することを目的とする。 造方法。 【課題を解決するための手段】 【発明の効果】 【0008】 【0010】 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果 本発明により、トランス異性体よりも生体吸収性が良好 、リコピンのシス異性化反応を、酢酸エチル、アセトン なシス異性体の含有比率が高いリコピンを、効率よく得 又はジクロロメタン中で、触媒として塩化鉄(III)を ることができる。 使用して行うことにより、リコピンの分解を抑制しつつ 10 【図面の簡単な説明】 、効率よくシス異性化できることを見出し、本発明を完 【0011】 成させた。 【図1】実施例1において、溶媒として酢酸エチル、ア 【0009】 セトン又はジクロロメタンを用いた各反応溶液のシス体 すなわち、本発明に係るシス異性体含有リコピンの製造 含有率(%)の測定結果を示した図である。 方法、飲食品の製造方法、及び化粧品の製造方法は、下 【図2】実施例1において、溶媒として酢酸エチル、ア 記[1]∼[11]である。 セトン又はジクロロメタンを用いた各反応溶液のリコピ [1] ン残存率(%)の測定結果を示した図である。 酢酸エチル、アセトン又はジクロロメタンから 前記[1]∼[9]のいずれかのシス異性体 なる溶媒中で、塩化鉄(III)存在下、リコピンをシス 【図3】実施例2において、酢酸エチルを溶媒とし、塩 異性化することを特徴とする、シス異性体含有リコピン 化鉄(III)の濃度が異なる各反応溶液のシス体含有率 の製造方法。 [2] 20 反応後におけるリコピンのシス体含有量が50 (%)の測定結果を示した図である。 【図4】実施例2において、酢酸エチルを溶媒とし、塩 %以上であり、かつリコピン残存率が70%以上である 化鉄(III)の濃度が異なる各反応溶液のリコピン残存 ことを特徴とする、前記[1]のシス異性体含有リコピ 率(%)の測定結果を示した図である。 ンの製造方法。 【図5】実施例3において、アセトンを溶媒とし、塩化 [3] 鉄(III)の濃度が異なる各反応溶液のシス体含有率( 反応開始時点における塩化鉄(III)とリコピ ンの含有量比(質量比)が0.005∼0.04である %)の測定結果を示した図である。 、前記[1]又は[2]のシス異性体含有リコピンの製 【図6】実施例3において、アセトンを溶媒とし、塩化 造方法。 鉄(III)の濃度が異なる各反応溶液のリコピン残存率 [4] 反応開始時点における塩化鉄(III)とリコピ (%)の測定結果を示した図である。 ンの含有量比(質量比)が0.01∼0.04である、 30 【図7】実施例4において、ジクロロメタンを溶媒とし 前記[1]又は[2]のシス異性体含有リコピンの製造 、塩化鉄(III)の濃度が異なる各反応溶液のシス体含 方法。 有率(%)の測定結果を示した図である。 [5] 反応温度が20∼75℃である、前記[1]∼ 【図8】実施例4において、ジクロロメタンを溶媒とし [4]のいずれかのシス異性体含有リコピンの製造方法 、塩化鉄(III)の濃度が異なる各反応溶液のリコピン 。 残存率(%)の測定結果を示した図である。 [6] 反応時間が1∼48時間である、前記[1]∼ 【図9】実施例5において、酢酸エチルを溶媒とし、反 [5]のいずれかのシス異性体含有リコピンの製造方法 応温度が異なる各反応溶液のシス体含有率(%)の測定 。 結果を示した図である。 [7] 反応時間が3∼48時間である、前記[1]∼ 【図10】実施例5において、酢酸エチルを溶媒とし、 [5]のいずれかのシス異性体含有リコピンの製造方法 40 反応温度が異なる各反応溶液のリコピン残存率(%)の 。 測定結果を示した図である。 [8] 反応に用いるリコピンが青果物由来である、前 【図11】実施例6において、アセトンを溶媒とし、反 記[1]∼[7]のいずれかのシス異性体含有リコピン 応温度が異なる各反応溶液のシス体含有率(%)の測定 の製造方法。 結果を示した図である。 [9] 【図12】実施例6において、アセトンを溶媒とし、反 前記青果物がトマトを含む、前記[8]のシス 異性体含有リコピンの製造方法。 応温度が異なる各反応溶液のリコピン残存率(%)の測 [10] 定結果を示した図である。 前記[1]∼[9]のいずれかのシス異性体 含有リコピンの製造方法により製造されたシス異性体含 【図13】実施例7において、ジクロロメタンを溶媒と 有リコピンを原料とすることを特徴とする、飲食品の製 し、反応温度が異なる各反応溶液のシス体含有率(%) 造方法。 50 の測定結果を示した図である。 ( 4 ) JP 2015-187088 A 2015.10.29 5 6 【図14】実施例7において、ジクロロメタンを溶媒と 溶であるが、本発明に係る製造方法においては、リコピ し、反応温度が異なる各反応溶液のリコピン残存率(% ンを溶解可能な有機溶剤のうち、特に酢酸エチル、アセ )の測定結果を示した図である。 トン又はジクロロメタンを溶媒として用いる。酢酸エチ 【発明を実施するための形態】 ル、アセトン又はジクロロメタンを溶媒とすることによ 【0012】 り、リコピンの分解を抑制しつつ、塩化鉄(III)に触 本発明及び本願明細書において、シス体含有率(%)と 媒されたリコピンのシス異性化反応を効率よく行うこと は、全リコピン量に対する全シス異性体リコピン量の割 ができる。本発明においては、特に、酢酸エチル又はア 合(%)を意味する。また、リコピン残存率とは、異性 セトンを溶媒として用いることが好ましい。酢酸エチル 化処理(本発明においては、塩化鉄(III)触媒による 又はアセトンを溶媒とすることにより、異性化反応中の 異性化反応)前のリコピン量に対する異性化処理後のリ 10 リコピンの分解率を充分に低減させる(すなわち、リコ コピン量の割合を意味する。さらに、シス体含有量(% ピン残存率を顕著に向上させる)ことができるため、シ )とは、異性化反応後の反応溶液におけるシス異性体リ ス異性化が促進されてより効率よくシス異性体を得るこ コピンの含有量(%)を意味し、具体的には、下記式で とができる。特に、酢酸エチル又はアセトン中では、6 算出される。 0℃程度の比較的高い温度条件でもリコピン残存率が高 [シス体含有量(%)]=[シス体含有率(%)]×[ いため、シス異性化反応後に溶媒を留去する際にも製造 リコピン残存率(%)]/100 されたシス異性体が分解されにくいという利点もある。 【0013】 加えて、酢酸エチル及びアセトンは可食性の溶媒である なお、本発明及び本願明細書において、リコピンの含有 ため、これらの溶媒を使用して得られたシス異性体含有 量は、逆相カラムや順相カラムを用いたHPLC(高速 リコピンは安全性が高く、飲食品、医薬品、化粧品等の 液体クロマトグラフィー)法により測定できる。定量は 20 原料として好適である。 、クロマトグラム中における各リコピン異性体ピークの 【0017】 ピーク面積に基づいて算出される。より詳細には、シス 本発明に係る製造方法においては、リコピンのシス体含 体含有率(%)及びリコピン残存率(%)は、下記式に 有量と残存率のバランスが重要である。リコピンの分解 より算出できる。 が進み、リコピン残存率が低下すると、リコピン由来の 【0014】 分解物等が増加し、リコピンとしての純度が低下する可 [シス体含有率(%)]=[全シス異性体のピークのピ 能性がある。このため、リコピンの分解を抑制しつつリ ーク面積の合算値]/[全リコピンのピークのピーク面 コピンを効率よくシス異性化したシス異性体含有リコピ 積の合算値]×100 ンを得る点から、本発明に係る製造方法においては、異 [リコピン残存率(%)]=[異性化処理後の全リコピ 性化反応後において、リコピンのシス体含有量が50% ンのピークのピーク面積の合算値]/[異性化処理前の 30 以上であり、かつリコピン残存率が70%以上であるこ 全リコピンのピークのピーク面積の合算値]×100 とが好ましく、リコピンのシス体含有量が50%以上で 【0015】 あり、かつリコピン残存率が80%以上であることがよ 本発明に係るシス異性体含有リコピンの製造方法(以下 り好ましく、リコピンのシス体含有量が50%以上であ 、「本発明に係る製造方法」ということがある。)は、 り、かつリコピン残存率が90%以上であることがさら 酢酸エチル、アセトン又はジクロロメタンからなる溶媒 に好ましい。 中で、塩化鉄(III)を触媒として、リコピンをシス異 【0018】 性化することを特徴とする。本発明に係る製造方法は、 本発明に係る製造方法においては、触媒として、求電子 特定の溶媒中で、特定の求電子剤との反応を行うことに 剤である塩化鉄(III)を用いる。シス異性化反応の反 より、リコピンの分解を抑制しつつ、リコピンを効率よ 応液における塩化鉄(III)の含有量は、特に限定され くシス異性化することができる。なお、本発明に係る製 40 るものではないが、リコピンのシス異性化をより効率よ 造方法により得られたシス異性体含有リコピンが含有す く行えることから、反応開始時点における塩化鉄(III るシス異性体は、シス異性体であれば特に限定されるも )とリコピンの含有量比([塩化鉄(III)の含有量] のではなく、また、1種類のシス異性体を含有するもの /[リコピンの含有量])(質量比)が0.005以上 であってもよく、2種類以上のシス異性体を含有するも であることが好ましく、0.01以上であることがより のであってもよい。リコピンのシス異性体には、5−シ 好ましい。一方で、反応系における塩化鉄(III)の含 ス異性体、9−シス異性体、13−シス異性体等の様々 有量が多いほど、リコピンが分解されやすくなるおそれ な異性体がある。 がある。このため、リコピンの分解抑制の点から、反応 【0016】 開始時点における塩化鉄(III)とリコピンの含有量比 リコピンは、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ベン (質量比)が0.08以下であることが好ましく、0. ゼン、ヘキサン、石油エーテル等の様々な有機溶剤に可 50 04以下であることがより好ましい。異性化反応後のシ ( 5 ) JP 2015-187088 A 2015.10.29 7 8 ス体含有量とリコピンの分解抑制のバランスの点から、 ば、青果物の搾汁液から不溶性画分を回収し、この不溶 反応開始時点における塩化鉄(III)とリコピンの含有 性画分を、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、ジクロロ 量比(質量比)が0.005∼0.04であることが好 メタン、ジクロロエタン、低級脂肪族アルコール類等の ましく、0.01∼0.04であることがより好ましく 有機溶剤と混合して脂質画分を抽出した後、当該有機溶 、0.02∼0.04であることがさらに好ましい。な 剤を留去法等により除去することにより、オレオレジン お、「リコピンの含有量」は、全ての異性体を含む全リ が得られる。本発明においては、市販されているオレオ コピンの総含有量を意味する。 レジンを用いてもよい。 【0019】 【0023】 本発明に係る製造方法において供されるリコピンとして 本発明に係る製造方法においては、まず、酢酸エチル、 は、合成品であってもよいが、植物、動物、微生物等由 10 アセトン又はジクロロメタンを溶媒とし、リコピンと塩 来の天然物であることが好ましい。なかでも、リコピン 化鉄(III)を溶解させた反応溶液を調製する。当該反 含有量の多い青果物由来のものが好ましい。リコピン含 応溶液は、溶媒にリコピンを溶解させた溶液に塩化鉄( 有量の多い青果物としては、例えば、トマト、ナス、パ III)を添加することによって調製してもよく、塩化鉄 プリカ、ピーマン、ニンジン、スイカ、メロン、グレー (III)を含有する溶媒にリコピンを溶解させることに プフルーツ、カキ、サクランボ、アンズ、プラム、パパ よって調製してもよい。 イヤ、レッドグアバ等が挙げられ、特にトマトが好まし 【0024】 い。 反応溶液中のリコピン濃度は、特に限定されるものでは 【0020】 ない。本発明においては、例えば、全リコピン濃度を0 本発明に係る製造方法において供されるリコピンとして .001∼10mg/mLとすることが好ましく、0. は、水や有機溶媒を含まないか、又はこれらの含有量が 20 01∼10mg/mLとすることがより好ましく、0. 非常に少ないものが好ましい。リコピンと共に持ち込ま 01∼1mg/mLとすることがさらに好ましい。 れる溶媒が少ない方が、酢酸エチル等の特定の溶媒によ 【0025】 るリコピンのシス異性化効果が充分に発揮できる。例え 当該反応液を、所定時間保持することによって異性化反 ば、青果物由来のリコピンをシス化する場合には、酢酸 応を行う。反応温度が高いほど、異性化反応が進みやす エチル等の溶媒に、青果物の搾汁液を充分に濃縮した濃 いが、リコピンの分解も起こりやすくなる傾向にある。 縮物やオレオレジン(有機溶媒により抽出した後、有機 本発明に係る製造方法においては、異性化反応の反応温 溶媒を除去することにより得られる脂質画分)を混合し 度は、0∼80℃の範囲内で行うことが好ましく、20 てこれらに含まれているリコピンを溶解させることによ ∼75℃の範囲内で行うことがより好ましい。また、反 ってリコピン溶液を調製することができる。本発明に係 応時間としては、1∼48時間であることが好ましく、 る製造方法においては、青果物由来のリコピンには、青 30 3∼48時間であることがより好ましい。 果物等から抽出したリコピンも含まれる。 【0026】 【0021】 異性化反応の反応条件は、反応後のリコピンのシス体含 なお、青果物の搾汁液は、原料となる青果物を常法によ 有量及びリコピン残存率が所望の範囲内となるように調 り搾汁することによって調製することができる。搾汁機 節されることが好ましい。本発明に係る製造方法におい としては、パルパー、スクリュープレス、ギナー、デカ ては、異性化反応後のリコピンのシス体含有量が50% ンター、一軸又は二軸(同方向若しくは異方向回転型) 以上であり、かつリコピン残存率が70%以上、好まし エクストルーダー等の飲食品分野で搾汁、搾油に通常用 くは80%以上、より好ましくは90%以上となるよう いられるものを適宜組み合わせて用いることができる。 に、異性化反応におけるリコピン濃度、リコピンと塩化 搾汁は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことも 鉄(III)の含有量比、反応温度、及び反応条件等を調 できる。青果物は、搾汁前に、適当な大きさに細断又は 40 整することが好ましい。 破砕しておくことも好ましい。細断等には、ダイサー、 【0027】 カッター、スライサー、ハンマークラッシャー等の通常 本発明に係る製造方法によって得られたシス異性体含有 野菜や果物の細断や破砕に用いられるものを使用するこ リコピンは、原料としたリコピンと同様に、様々な用途 とができる。また、青果物又はその細断物等は、搾汁す に用いることができる。特に、溶媒として酢酸エチル又 る前に、必要に応じて加熱処理を行ってもよい。搾汁液 はアセトンを用いて行った本発明に係る製造方法によっ の濃縮処理は、減圧濃縮機、撹拌型薄膜式濃縮機、プレ て得られたシス異性体含有リコピンは、腸管吸収性に優 ート式濃縮機等の通常用いられる濃縮機を用いて、常法 れたシス異性体の含有率が高く、かつ安全であるため、 により行うことができる。 飲食品、化粧品、医薬品等の原料として好適である。当 【0022】 該飲食品としては、特に限定されるものではないが、各 青果物のオレオレジンは、常法により調製できる。例え 50 種飲料、ジュレ、ゼリー、ジャム、シャーベット、サプ ( 6 ) JP 2015-187088 9 A 2015.10.29 10 リメント(栄養補助食品)等が好ましい。 中でシス異性化反応は進行し、シス体含有率は、充分な 【実施例】 反応時間経過後にはプラトーに達していた。ジクロロメ 【0028】 タン中で反応させた場合が最もシス体含有率が高くなっ 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、 たが、リコピンは経時的に分解し、反応開始から24時 本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお 間経過時点(反応時間24時間)ではリコピン残存率は 、リコピンの各異性体を定量する際のHPLCは、下記 24.2%であった。一方で、酢酸エチル又はアセトン の条件で行った。 中では、ジクロロメタン中よりもシス体含有率は低かっ 【0029】 たものの、いずれも反応時間が6時間の時点ではシス体 <リコピンの順相HPLC条件> 含有量は50%以上と高かった。また、酢酸エチル又は 装置:日立高速液体クロマトグラフChromaste 10 アセトン中では、反応時間が24時間経過しても、リコ r((株)日立ハイテクノロジーズ社製)、 ピン残存率は90%以上と高かった。表1に示すように カラム:Nucleosil 300−5 〔固定相:シ 、シス体含有量は、反応時間が1∼6時間の時点ではジ リカゲル、内径:4.6mm×250mm、ジーエルサ クロロメタンを用いた場合に59.8∼63.8%であ イエンス(株)〕、 り最も高かったが、反応時間が12時間後以降では、酢 カラム温度:30℃、 酸エチル又はアセトンを用いた場合のほうが50%以上 サンプル注入量:10μL、 と高く、効率よくシス異性体が安定して得られていた。 移動相:ヘキサン(0.1% N,N−ジイソプロピル 【0032】 エチルアミン含有)、 【表1】 移動相の流速:1.0mL/min、 検出器:フォトダイオードアレイ検出器、 20 検出波長:460nm。 【0030】 [実施例1] 【0033】 溶媒として酢酸エチル、アセトン又はジクロロメタンを [実施例2] 用いて、塩化鉄(III)を触媒としてリコピンのシス異 溶媒として酢酸エチルを用いた場合の、リコピンのシス 性化反応を行った。反応に供する原料のリコピンは、ト 異性化反応に対する塩化鉄(III)の濃度の影響を調べ マトペーストから抽出した純度95%以上、オールトラ た。シス異性化反応に供する原料のリコピンは、実施例 ンス異性体比率99%以上のリコピン(オールトランス 1と同様のものを用いた。 異性体リコピン含有量:99.2%、シス体リコピン含 具体的には、原料のリコピンを0.1mg/mLとなる 有量:0.8%)を用いた。 30 ように酢酸エチルに溶解させた溶液を20℃に調整した まず、原料のリコピンを0.1mg/mLとなるように 後、さらに塩化鉄(III)を最終濃度が0.0005、 各溶媒にそれぞれ溶解させた溶液を20℃に調整した後 0.001、0.002、0.004、0.008、又 、さらに塩化鉄(III)を最終濃度が0.001mg/ は0.016mg/mL(反応溶液中の塩化鉄(III) mL(反応溶液中の塩化鉄(III)とリコピンの含有量 とリコピンの含有量比(質量比):0.005、0.0 比(質量比):0.01)となるようにそれぞれ添加し 1、0.02、0.04、0.08、又は0.16)と て溶解させた反応溶液を調製し、シス異性化反応を行っ なるようにそれぞれ添加して溶解させた反応溶液を調製 た。シス異性化反応中、反応溶液の液温は20℃に維持 し、シス異性化反応を行った。シス異性化反応中、反応 した。異性化反応開始前(塩化鉄(III)添加前)と異 溶液の液温は20℃に維持した。実施例1と同様にして 性化反応開始後から経時的に各反応溶液の一部をサンプ 、反応溶液から経時的にサンプリングし、リコピンのシ リングし、前記の方法で順相HPLC分析を行い、クロ 40 ス体含有率(%)、リコピン残存率(%)、シス体含有 マトグラフ中のピーク面積に基づいて、リコピンのシス 量(%)を求めた。 体含有率(%)、リコピン残存率(%)、シス体含有量 【0034】 (%)を求めた。シス体含有量(%)は下記の式から算 シス体含有率(%)の測定結果を図3に、リコピン残存 出した。 率(%)の測定結果を図4に、シス体含有量(%)の算 [シス体含有量(%)]=[シス体含有率(%)]×[ 出結果を表2に、それぞれ示す。この結果、塩化鉄(II リコピン残存率(%)]/100 I)の濃度が高いほど、リコピンのシス体含有率が高く 【0031】 なり、分解速度が速くなった。また、塩化鉄(III)の シス体含有率(%)の測定結果を図1に、リコピン残存 濃度が0.0005∼0.002mg/mLでは、リコ 率(%)の測定結果を図2に、シス体含有量(%)の算 ピンの分解はほとんどみられず、シス異性化が効率よく 出結果を表1に、それぞれ示す。この結果、全ての溶媒 50 進行していた。シス体含有率と残存率のバランスから、 ( 7 ) JP 11 2015-187088 A 2015.10.29 12 表2に示すように、塩化鉄(III)の濃度が0.001 シス体含有率(%)の測定結果を図7に、リコピン残存 ∼0.004mg/mLの場合に反応時間3時間以上で 率(%)の測定結果を図8に、シス体含有量(%)の算 シス体含有量が50%以上と高く、シス体含有率の高い 出結果を表4に、それぞれ示す。この結果、塩化鉄(II シス異性体含有リコピンを効率よく製造できた。 I)の濃度が高いほど、リコピンのシス化速度と分解速 【0035】 度が速くなった。酢酸エチルやアセトンを用いた場合と 【表2】 は異なり、塩化鉄(III)の濃度が0.0005∼0. 002mg/mLでも経時的にリコピンは分解されてお り、シス体含有率は80%以上と高いものの、シス体含 有量は反応時間12時間以上で50%未満と低かった。 10 リコピンの分解傾向はジクロロメタンを留去するまで続 くことから、ジクロロメタンを溶媒とした場合には、シ 【0036】 ス異性化反応の反応時間を短く(例えば、1時間以上3 [実施例3] 時間未満)し、反応終了後直ちに溶媒留去処置を行うこ 溶媒としてアセトンを用いた場合の、リコピンのシス異 とが好ましい。 性化反応に対する塩化鉄(III)の濃度の影響を調べた 【0041】 。具体的には、溶媒として酢酸エチルに代えてアセトン 【表4】 を用いた以外は実施例2と同様にしてシス異性化反応を 行い、反応溶液から経時的にサンプリングし、リコピン のシス体含有率(%)、リコピン残存率(%)、シス体 含有量(%)を求めた。 20 【0037】 シス体含有率(%)の測定結果を図5に、リコピン残存 【0042】 率(%)の測定結果を図6に、シス体含有量(%)の算 [実施例5] 出結果を表3に、それぞれ示す。この結果、実施例2と 溶媒として酢酸エチルを用いた場合の、リコピンのシス 同様に、塩化鉄(III)の濃度が高いほど、リコピンの 異性化反応に対する反応温度の影響を調べた。具体的に シス体含有率が高くなり、分解速度が速くなり、塩化鉄 は、塩化鉄(III)濃度を0.001mg/mLとし、 (III)の濃度が0.0005∼0.002mg/mL 反応温度を0、20、40、又は60℃とした以外は実 ではリコピンの分解はほとんどみられなかった。シス体 施例2と同様にしてシス異性化反応を行い、反応溶液か 含有率と残存率のバランスから、表3に示すように、塩 ら経時的にサンプリングし、リコピンのシス体含有率( 化鉄(III)の濃度が0.001∼0.004mg/m 30 %)、リコピン残存率(%)、シス体含有量(%)を求 Lの場合に反応時間6∼12時間でシス体含有量が50 めた。 %以上と高く、シス体含有率の高いシス異性体含有リコ 【0043】 ピンを効率よく製造できた。 シス体含有率(%)の測定結果を図9に、リコピン残存 【0038】 率(%)の測定結果を図10に、シス体含有量(%)の 【表3】 算出結果を表5に、それぞれ示す。この結果、反応温度 が高いほど、リコピンのシス体含有率が高くなり、シス 体含有量も高くなった。リコピン残存率は、60℃で反 応時間24時間の場合に80%程度であったが、その他 は全て90%以上と高く、ほとんどリコピンは分解して 40 いなかった。 【0039】 【0044】 [実施例4] 【表5】 溶媒としてジクロロメタンを用いた場合の、リコピンの シス異性化反応に対する塩化鉄(III)の濃度の影響を 調べた。具体的には、溶媒として酢酸エチルに代えてジ クロロメタンを用いた以外は実施例2と同様にしてシス 異性化反応を行い、反応溶液から経時的にサンプリング し、リコピンのシス体含有率(%)、リコピン残存率( 【0045】 %)、シス体含有量(%)を求めた。 [実施例6] 【0040】 50 溶媒としてアセトンを用いた場合の、リコピンのシス異 ( 8 ) JP 13 2015-187088 A 2015.10.29 14 性化反応に対する反応温度の影響を調べた。具体的には 溶媒としてジクロロメタンを用いた場合の、リコピンの 、溶媒として酢酸エチルに代えてアセトンを用いた以外 シス異性化反応に対する反応温度の影響を調べた。具体 は実施例5と同様にしてシス異性化反応を行い、反応溶 的には、溶媒として酢酸エチルに代えてジクロロメタン 液から経時的にサンプリングし、リコピンのシス体含有 を用いた以外は実施例5と同様にしてシス異性化反応を 率(%)、リコピン残存率(%)、シス体含有量(%) 行い、反応溶液から経時的にサンプリングし、リコピン を求めた。 のシス体含有率(%)、リコピン残存率(%)、シス体 【0046】 含有量(%)を求めた。 シス体含有率(%)の測定結果を図11に、リコピン残 【0049】 存率(%)の測定結果を図12に、シス体含有量(%) シス体含有率(%)の測定結果を図13に、リコピン残 の算出結果を表6に、それぞれ示す。この結果、反応温 10 存率(%)の測定結果を図14に、シス体含有量(%) 度が高いほど、リコピンのシス体含有率が高くなり、シ の算出結果を表7に、それぞれ示す。この結果、反応温 ス体含有量も高くなった。リコピン残存率は、40∼6 度が高いほど、リコピンのシス化速度と分解速度が速く 0℃で反応時間24時間の場合に80%程度であったが なった。酢酸エチルやアセトンを用いた場合とは異なり 、その他は全て90%以上と高く、ほとんどリコピンは 、反応温度が0∼20℃の場合にも経時的にリコピンは 分解していなかった。 分解されており、シス体含有率は80%以上と高いもの 【0047】 の、シス体含有量は反応時間12時間以上で50%未満 【表6】 と低かった。 【0050】 【表7】 【0048】 [実施例7] 【図1】 【図3】 【図2】 【図4】 ( 9 ) JP 【図5】 【図9】 【図6】 【図10】 【図7】 【図11】 【図8】 【図12】 2015-187088 A 2015.10.29 ( 10 ) 【図13】 JP 2015-187088 A 2015.10.29 【図14】 ──────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl. C07B (72)発明者 FI 61/00 本田 (2006.01) 伊神 川名 300 カゴメ株式会社 研究開発本部内 カゴメ株式会社 研究開発本部内 カゴメ株式会社 研究開発本部内 晴之 栃木県那須塩原市西富山17番地 (72)発明者 61/00 真己 栃木県那須塩原市西富山17番地 (72)発明者 テーマコード(参考) C07B 隆広 栃木県那須塩原市西富山17番地 Fターム(参考) 4B017 LC03 LK06 LP18 4B018 MD07 MD53 ME14 4C083 AD531 CC01 FF01 4H006 AA02 AB12 AC14 BC34 BC40 4H039 CA29 CJ10 MF10 BA19 BA39 BB12 BB16 BB17 BC10 BC19
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