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COSMOS を利用した粘質土の土壌水分観測
Soil moisture observation in a clayey soil using the COSMOS
平嶋雄太 1・牧野弘樹 2・宮本英揮 2
1 佐賀大学大学院農学研究科・2 佐賀大学農学部
要旨
COSMOS (COsmic-ray Soil Moisture Observing System)を用いて諫早湾干拓地の高速中性子数の
経時変化を観測し,粘質土の表層土壌水分計測に対する同法の有効性を検討した。高速中性子数
は,併設した TDT センサーによる見かけの誘電率と連動し,水分量の変化を効果的に捉えること
が出来た。ただし,COSMOS の広大な観測領域内の水分動態は必ずしも均一ではないため,その
測定値と任意の点で取得した TDT センサーの観測値との間には,挙動の差異が認められた。
キーワード:COSMOS, 高速中性子, 土壌水分
Key words: COSMOS, Fast neutron, Soil moisture
TDT センサーで見かけの誘電率(TDT)とバルク
1.はじめに
表層土壌水分量の非破壊探査手法として,
EC,雨量計で雨量をそれぞれ 10 分間隔で測定し
COSMOS (COsmic-ray Soil Moisture Observing
た。2015 年 7 月 6 日(DOY187)から同年 8 月 20
System)の利用が検討されている。COSMOS は,
日(DOY232)の間を,解析対象とした。
地表面近傍の中性子数を測定することにより,そ
3.結果と考察
れと負の相関を示す半径約 300 m 以内の表層土
1)
長崎地方気象台による梅雨明け宣言
壌水分量を測定する技術である 。既に,イリジウ
(DOY210)の前後に,気象データと土壌水分量の
ム衛星を介した国際観測網が形成されつつある
変化パターンに差異が認められた。梅雨明け前
が
2)
,我が国での適用事例はない。本研究では,
の観測期間前半では,Patm および T は降雨時に
適 用 事 例 の ない 粘 質 土 の 水 分 計 測 に 対 す る
大きく変動した(Fig.2)。TDT センサーで測定した-
COSMOS の有効性を検討するために,諫早湾干
25 cm 以深のTDT は概ね一定で,高水分状態が
拓地において高速中性子数を観測した。
維持されたが,それより浅い-5 および-15 cm のそ
2.方法
れは降雨と連動して増減を繰り返した(Fig.3)。一
2015 年 6 月 12 日(DOY163)に,観測装置一式
(Fig.1)を長崎県農林技術開発センター・干拓営
農研究部門内の圃場に設置した。高度 1.5 m に
設置した高速中性子の検出器(Hydroinnova)と,
大気圧・気温センサーを搭載した Q-DL-2100 デ
ー タ ロ ガ ー (Hydroinnova) と を 接 続 し , そ れ を
RS-232 を介して CR-1000 データロガー(Campbell
sci.)に接続した。6 深度(-5,-15,-25,-45,-70,
-100 cm)×2 地点に水平に埋設した計 12 個の
SDI-12 型 TDT センサー(Acclima)と,高度 1.5 m
に設置した雨量計とを CR-1000 に接続した。
COSMOS で高速中性子,大気圧(Patm),気温(T),
Fig.1 観測装置の模式図
Fig.2 大気圧(Patm)と気温(T)の経日変化
Fig.3 #1~#6 の TDT センサーを用いて測定した見かけの誘電率(TDT)の経日変化
Fig.4 高速中性子の 1 時間積算値()およびそれに基づき算出した各時間の移動平均値(’)の経時変化
方,梅雨明け宣言直前の DOY205 から DOY223
た,DOY211 以降では,-45 および-70 cm のTDT
までの間,T は概ね 30℃前後で推移した(Fig.2)。
が漸減し,土層全体の乾燥が進行したが, ’の
高 EC 土壌特有の信号減衰問題が原因でTDT 値
変動が軽微であった。’値に及ぼす下層土の影
を得ることができなかった-100 cm 地点を除き,こ
響は軽微であることが,表層土壌水分量を効果的
の間のTDT は上層から順に低下し,下層土も含め
に捉えられる COSMOS の特徴であろう。
た土層全体に乾燥の兆候が認められた(Fig.3)。
4.おわりに
DOY223 以降は,-45~-5 cm のTDT 値が降雨と
連動した増減を反復した(Fig.3)。
梅雨を挟んだ野外観測実験より,粘質土の表
層土壌水分計測に対する COSMOS の有効性を
高速中性子の時間積算値()の移動平均値
明らかにすることができた。ただし,観測面内の局
(’)は,表層近傍のTDT 値と連動した(Fig.4)。数
所的な水分状態の変化が測定値に影響を及ぼ
値のばらつきが大きいと違い,そのh,12h,24h
す COSMOS は,土壌水分センサーによる測定結
の移動平均値の応答はやや遅れるものの,ばら
果と異なる挙動を示すことが判明した。不均一場
つきは小さかった(Fig.4)。-5 および-15 cm のTDT
における COSMOS の利用法を検討するためには,
が増加する期間では ’は低下し,逆に低下する
観測面内に土壌水分センサー観測網を構築し,
期間では増加した点は,既往の報告
2)
と一致した
両者の挙動の差異を明らかにする必要がある。
(Fig.4)。ただし,DOY198 から 200 までの’の低
謝辞: 本研究は長崎県農林技術開発センター・干拓営農
下は,先述の傾向とは異なる(Fig.4)。観測領域内
研究部門および佐賀大学農学部・弓削こずえ准教授の助
の作目や灌水・排水条件は面的に不均一であり,
力を得て実施した。ここに記して謝意を表す。
参考文献: 1)Zreda et al. (2008): Geophys. Res. Lett., 35,
TDT センサー埋設点との水分環境の差異が,
L21402., 2)Zreda et al. (2012): Hydrol. Earth Syst. Sci., 16,
TDT と’との変化傾向の違いの原因であろう。ま
4079-4099.