超高齢社会の現状と直面する諸課題

第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
1.高齢化の現状
(1)人口減少と少子高齢化時代の同時到来
2012 年 1 月に国立社会保障・人口問題研究所は、
「日本の将来推計人口(出生中位・
死亡中位)
」を発表しました。これによれば、今後、日本では少子高齢化の急速な進行に
より、総人口は 2060 年に 2010 年の 12,806 万人から約 3 分の 2 に当たる 8,674 万人ま
で減少する一方で、65 歳以上の高齢化率は 23%から 40%近辺まで上昇する衝撃的な内
容でした。つまり、以下のことが同時に起きるのです。
① 14 歳以下の将来の生産年齢人口となる若年人口が減少する。
② 15 歳以上 64 歳以下の生産年齢人口が減少する。
③ 65 歳以上の高齢者人口が大幅に増加する。
私たちは、世界に先駆けてこのようなことを初めて経験します。超高齢社会を迎えた
日本では、高齢者の増加だけに留まらず、何もしなければこれまで高齢者を支えてきた
仕組みが崩壊してしまう状況に陥ってしまいます。
2014 年は人口減少問題が大きくクローズアップされた年でした。5 月に民間の日本創
成会議(座長:増田寛也元総務相)が発表した内容は、私たちに大きな衝撃を与えまし
た。それによれば、
「20 歳~39 歳の女性」が 2040 年に 2010 年の半分以下となる自治
体を、人口減少に歯止めが効かない「消滅可能性都市」と表現し、さらに該当する自治
体を具体的にリスト化して発表しました。若年層の減少に歯止めをかけなければ、地域
コミュニティの存続も危ぶまれます。人口減少問題は、今後の地域社会はどうあるべき
かという観点からも論じられる必要があります。
(2)岐阜県・愛知県における高齢化の現状
ここでは、岐阜県・愛知県の高齢化の現状を見てみます。いわゆる「団塊の世代(1947
年から 1949 年までの 3 年間に出生した世代)
」の全員が 75 歳以上の後期高齢者となる
2025 年時点の高齢化率は、岐阜県が 31.4%、愛知県が 26.6%へ上昇します。さらに 10
年後の 2035 年にはそれぞれ、33.8%、29.7%となります。特に後期高齢者の総人口に
占める割合(ここでは、「後期高齢化率」といいます。)は、20.6%、17.0%となり高齢
化が一層深刻化することが予想されています。なお、岐阜県の高齢化はほぼ全国平均に
2
近いですが、愛知県においては、社会移動の恩恵を受けることから、人口減少も高齢化
もかなり緩やかなものとなると見られています。
【図表 】岐阜県・愛知県・全国の将来推計人口(出生中位、死亡中位)
㻞㻜㻝㻜
岐阜県
65歳未満人口(千人)
65歳以上74歳未満人口(千人)
75歳以上人口(千人)
高齢化率(%)
後期高齢化率(%)
愛知県
65歳未満人口(千人)
65歳以上74歳未満人口(千人)
75歳以上人口(千人)
高齢化率(%)
後期高齢化率(%)
全国
65歳未満人口(千人)
65歳以上74歳未満人口(千人)
75歳以上人口(千人)
高齢化率(%)
後期高齢化率(%)
㻞㻜㻝㻡
㻞㻜㻞㻡
㻞㻜㻟㻡
㻝㻘㻡㻣㻤
㻞㻡㻢
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㻝㻝㻚㻤㻑
㻝㻘㻠㻢㻠
㻞㻥㻞
㻞㻣㻤
㻞㻤㻚㻜㻑
㻝㻟㻚㻣㻑
㻝㻘㻟㻜㻥
㻞㻟㻥
㻟㻡㻥
㻟㻝㻚㻠㻑
㻝㻤㻚㻤㻑
㻝㻘㻝㻡㻡
㻞㻟㻝
㻟㻡㻥
㻟㻟㻚㻤㻑
㻞㻜㻚㻢㻑
㻡㻘㻥㻜㻡
㻤㻠㻢
㻢㻢㻜
㻞㻜㻚㻟㻑
㻤㻚㻥㻑
㻡㻘㻢㻝㻤
㻥㻣㻞
㻤㻝㻢
㻞㻠㻚㻝㻑
㻝㻝㻚㻜㻑
㻡㻘㻟㻡㻝
㻣㻣㻣
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㻝㻢㻚㻜㻑
㻠㻘㻥㻝㻠
㻤㻥㻞
㻝㻘㻝㻤㻣
㻞㻥㻚㻣㻑
㻝㻣㻚㻜㻑
㻥㻣㻘㻡㻣㻠
㻝㻡㻘㻞㻥㻜
㻝㻠㻘㻝㻥㻠
㻞㻟㻚㻞㻑
㻝㻝㻚㻞㻑
㻥㻞㻘㻢㻠㻡
㻝㻣㻘㻠㻥㻠
㻝㻢㻘㻠㻡㻤
㻞㻢㻚㻤㻑
㻝㻟㻚㻜㻑
㻤㻠㻘㻜㻤㻡
㻝㻠㻘㻣㻤㻤
㻞㻝㻘㻣㻤㻢
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㻝㻤㻚㻝㻑
㻣㻠㻘㻣㻝㻢
㻝㻠㻘㻥㻡㻟
㻞㻞㻘㻠㻡㻠
㻟㻟㻚㻠㻑
㻞㻜㻚㻜㻑
出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012 年 1 月推計)
」
出所:および同研究所「日本の地域別将来推計人口(2013 年 3 月推計)
」より
(3)増大する社会保障費用
社会保障の現状を見ても、大変厳しい現状が浮かび上がります。社会保障費用は給付
対象者の増加により 2014 年度時点で 117 兆円となり、対国民所得比率も 30%を超えて
います。厚生労働省の公表資料によれば、今後さらに増加し、2025 年には 150 兆円に
達する見込みです。高齢者人口の増加の影響で、医療・介護をはじめ現状レベルのサー
ビスの維持は、早晩、不可能になることは明らかです。従って、サービスの対価として
の保険料の値上げ等の国民負担率の増加や、年金受給時期の引き上げ、介護保険対象者
の厳格化等が、将来的になされると予想されています。つまりは、給付対象者の削減で
あり、サービス水準の切り下げと個人レベルでの社会保障負担の増加ということです。
しかし、ジェロントロジー的発想で見ると違った風景が見えてきます。
この問題の解決には社会保障費用を削減するための仕組みづくりが大きな課題になり
ます。厚生労働省が 2006 年に介護と医療が一体化した「地域包括ケアシステム」を提
唱したことを受け、全国の自治体で取り組みが始まっています。詳しい内容は後述しま
すが、医療・介護費用をできるだけ減らし、また元気で「長活き」するため、予防に力
をいれること、介護等の必要なケアを地域の中の課題として取り組む共助の考え方を広
めていくことが大切だと考えます。
3
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
【図表 】社会保障費用の推移
(兆円)
(%)
140
35
120
30
100
25
80
20
福祉その他(左)
医療(左)
60
15
年金(左)
対国民所得比(右)
40
10
20
5
0
1970
1980
1990
2000
2014
0
(注)2014 年は当初予算ベース
出所:厚生労働省「社会保障給付費の推移」より
(注)2012 年 7 月より社会保障給付費から社会保障費用と名称を変更しております。
4
2.健康状況について
(1)身体の健康状況
高齢者の身体の健康状況について見てみます。2010 年の厚生労働省の「国民生活基礎
調査」によれば、健康状態が「よい」、
「まあよい」
、
「ふつう」と回答する方が 65 歳以
上 69 歳以下で約 64%、70 歳以上 74 歳以下で約 58%、後期高齢者となった 75 歳以上
79 歳以下で約 53%となっています。これは、一般の高齢者は病気がちで医者へ頻繁に
通うというイメージとかなり違うものではないでしょうか。
さらに平均寿命も、福祉の充実、医学の進歩、食生活や生活環境の改善など様々な要
因で伸び続け、
2013 年の簡易生命表では男性が 80.21 歳、女性が 86.61 歳となりました。
また日常生活に支障がない「健康寿命」も、男性・女性とも伸び続けています。
文部科学省は、毎年体育の日に「体力・運動能力調査」を公表していますが、2013
年度の結果では、65 歳以上 74 歳以下の女性の運動能力は調査開始の 1988 年度以降最
高の点数になりました。また、それ以外の高齢者の運動能力も調査開始時点より高い水
準にあります。これは週 1 回以上の運動実施率が、若い世代では 30%~50%であるこ
とに比べ、65 歳以上 69 歳以下の男性が 67%、同じく女性が 71%、70 歳以上 74 歳以
下の男性が 73%、同じく女性が 71%と非常に高くなっていることによるものと考えら
れます。高齢者の健康への意識は高く、運動習慣が体力・運動能力の向上につながって
います。
(2)将来の介護・認知症が心配
「自分や配偶者が寝たきりになり介護が必要になること」や「老後の生活資金のこと」
を将来の大きな課題として捉えている高齢者が多くいます。これは、先程の「国民生活
基礎調査」でも明らかですが、後期高齢者になると健康を害し介護が必要となる人が相
当数増えてくるからと考えられます。
高齢者として、あるいは高齢者になった時の課題を尋ねた当社の個人アンケート調査
でも、
「自分や配偶者が寝たきりや認知症になり介護が必要になった時のこと」との回答
が 2 番目に多い結果となりました(図表 1-2-1)
。
5
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
【図表 】高齢者として、あるいは高齢者になった時の課題
高齢者として、もしくは将来自分が高齢者になった時に、あなたの課題と思わ
れることは何ですか。(選択肢の中から二つまでお選びください。)
㻜㻑
㻞㻜㻑
㻠㻜㻑
㻢㻜㻑
㻞㻥㻚㻟㻌
自分や配偶者の身体が虚弱になり病気がちになること
自分や配偶者が寝たきりや認知症になり介護が必要になった時のこと㻌
㻠㻠㻚㻜㻌
配偶者に先立たれた後の生活のこと
㻝㻢㻚㻟㻌
世の中の動きから取り残されること
㻣㻚㻢㻌
子どもや孫などと別居し、孤独になること
㻥㻚㻥㻌
同居している子どもやその配偶者との付き合いのこと
㻞㻚㻡㻌
仕事のこと
㻠㻚㻣㻌
友人・仲間との付き合いのこと
㻠㻚㻤㻌
自由な時間の過ごし方のこと
㻣㻚㻞㻌
老後の生活資金のこと
㻠㻡㻚㻣㻌
社会に居場所や活躍する場所がないこと
㻣㻚㻠㻌
その他
㻝㻚㻠㻌
出所:当社「個人アンケート調査」より
厚生労働省の 2010 年度の推計によれば、認知症高齢者数は 2010 年の 280 万人から
2025 年には 470 万人に増加する見込みです(図表 1-2-2)
。その推計は 2003 年時点と比
較しても大幅に増加しています。また、同省は 2015 年 1 月に推計を再び見直し、2025
年に認知症高齢者数が 700 万人に達するとの推計値を明らかにしました。認知症高齢者
の増加が今後大きな課題になってくることは間違いありません。
【図表 】認知症高齢者数ならびに高齢者全体に対する比率の将来推計
(単位:万人)
(単位:%)
14
500
12
400
10
300
8
200
6
4
100
0
2
2010
2015
2020
2025
0
認知症高齢者数
(2003推計)
(左)
認知症高齢者数
(2010推計)
(左)
認知症高齢者率
(2003推計)
(右)
認知症高齢者率
(2010推計)
(右)
出所:厚生労働省「認知症高齢者数について(2012 年 8 月 24 日公表資料)
」より
6
図表 1-2-3 にあるように、認知症高齢者は約半数が家庭で介護されていますが、見守
る家族には相当の負担がかかり、認知症高齢者数の増加とともに、いずれ家族だけで見
守ることに限界が来るでしょう。そうなった場合には、地域で見守ることが必要になっ
てくると考えられます。
【図表 】認知症高齢者数の居場所別内訳( 年時点)
(単位:万人)
36
居宅
特定施設
36
140
41
グループホーム
介護老人福祉施設
介護老人保健施設
14
医療機関
10
出所:厚生労働省「認知症高齢者数について(2012 年 8 月 24 日公表資料)
」より
(3)介護の現状と課題
2000 年に「介護の社会化」を目指して介護保険が導入され、図表 1-2-4 にあるように、
サービス受給者は年々増加しています。また、2025 年にはさらに数百万人が対象になる
とも予想されています。
介護保険で介護サービスを受けるためには、介護度の認定を受ける必要があります。
なお、その介護度は要支援 1、2 と要介護 1~5 の 7 段階に分けられ、介護度に応じて受
けられるサービスと金額が変わります。その内訳は図表 1-2-4 のとおりです。また、サ
ービスの利用場所は自宅が 76%、少人数利用の地域密着型施設が 8%、大規模施設が
16%となっています。
今後、少子高齢化が進む中で医療費や介護費の給付抑制が喫緊の課題となっています。
介護保険についても、2014 年 6 月に「医療介護総合確保推進法」が成立し、給付抑制
のための手段が講じられました。これまで政府は、医療費や介護費の増加に対応するた
めに、現役世代の負担増加に頼ってきました。しかし、同法では、今後さらに介護サー
ビスの需要が増えることが予想される中で、世代間格差を含めた費用負担のあるべき姿、
無駄なサービスはないかという観点での給付の見直しがなされました。同法は、①医療
提供体制の再編、②介護サービス給付抑制、③地域支援事業の充実を図るもので、在宅
で医療や介護が受けられる地域づくりと、介護費用を抑制するという二つの狙いを持っ
7
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
ています。その成功の秘訣は、地域における医療・介護の人材をいかに育てる仕組みを
作っていくかにかかっているのではないでしょうか。
【図表 】第 号被保険者( 歳以上)の要介護度別認定者数の推移
出所:厚生労働省「介護保険事業状況報告(年報)
」より
(注 1) 2006 年の「介護保険法」の改正に伴い、要介護の区分が変更されています。
(注 2) 東日本大震災の影響により、報告が困難であった福島県の 5 町 1 村(広野町、
楢葉町、富岡町、川内村、双葉町、新地町)を除いて集計しています。
先程の「日本の将来推計人口」によれば、団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年には、
65 歳以上の高齢者人口は 3,657 万人となり、高齢化率は 30%を超える見込みです。そ
の上、高齢者だけの夫婦世帯や一人暮らし世帯も急増します。一方で、介護保険制度の
見直しが進み、要支援向けサービスは国から市町村へ事業移管がなされています。さら
に全国で 52 万人もの待機者がいると言われる特別養護老人ホーム(通称:特養)につ
いても、入居者を要介護 3 以上の人に限ることとしました。
厚生労働省はこのような見直しによるサービスの低下を防ぐため、住み慣れた地域で
暮らせる「地域包括ケアシステム」の構築を掲げて取り組んでいます。しかし、在宅看
護や在宅介護制度が未整備な中で、地域でケアしていく制度を作り上げるには、相当努
力しなければなりません。
8
また、実際には「老老介護」が広がり、家族頼みの介護政策に戻ってしまう懸念もあ
ります。2013 年の「国民生活基礎調査」によれば、介護する側、される側とも 65 歳以
上の世帯は、51%と 2010 年の前回調査より 5 ポイント増加しました。また、ともに 75
歳以上という世帯も 29%に達しました。高齢者同士での支え合いには限界があり、こう
した「老老介護」をせざるを得ない高齢者世帯の孤立化を防止するためには、地域の支
え合いがどうしても必要になるわけです。
【図表 】年齢別に見た同居の主な介護者・要介護者等の割合の年次推移
(単位:%)
80
69
70
60
51
50
60歳以上同士
40
46
30
29
65歳以上同士
75歳以上同士
20
10
0
2001年
2004年
2007年
2010年
2013年
出所:厚生労働省「国民生活基礎調査」より
9
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
3.住宅と生活について
(1)一人暮らし高齢者の孤独死
図表 1-3-1 によれば、
「65 歳以上の者がいる世帯」は増加傾向にあり、2012 年時点で
は 2,093 万世帯と、全世帯 4,817 万世帯の約 43%を占めています。その中で、夫婦のみ
世帯が一番多く 3 割を占め、単独世帯と合わせると約半数の世帯が一人または二人の世
帯となっています。また、一人暮らし高齢者数は 2010 年の 479 万人から 2035 年には
762 万人へ急増し、特に平均寿命の長い女性の一人暮らしが今後さらに増加すると予想
されています。その一方、足元の状況を見ると、数年前から一人暮らし高齢者が孤独死
しているという報道を多く見るようになりました。東京都監察医務院が公表している統
計データによれば、東京 23 区内における一人暮らし高齢者の孤独死数は、この 10 年で
ほぼ倍増しています(図表 1-3-3)。
【図表 】 歳以上の者がいる世帯数及び構成割合(世帯構造別)と
全世帯に占める 歳以上の者がいる世帯の割合
出所:内閣府「高齢社会白書(2014 年度)
」より
10
【図表 】一人暮らし高齢者数推移
出所:内閣府「高齢社会白書(2014 年度)
」より
【図表 】一人暮らし高齢者の孤独死数(東京 区内)
(単位:人)
4,000
2,000
1,364
1,451
1,669 1,860
1,892
2,361
2,211
2,194
2,913
2,618
2,727
2,733
0
出所:東京都監察医務院「2014 年度版事業概要」より
こうした一人暮らし高齢者はどのような生活を送っているのでしょうか。2011 年の内
閣府の「高齢者の経済生活に関する意識調査」
(図表 1-3-4)によれば、会話(電話や電
子メール含む)の頻度が「2 日~3 日に 1 回」以下と答えた高齢者は、一人暮らしの男
性の約 29%、同じく女性の約 22%と 2 割以上であり、誰とも会話をしていない高齢者
が相当数いることがわかります。また、近所付き合いについても、2010 年に実施した内
閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査」によれば、一人暮らしの男性の 64%
は、
「ほとんど付き合いがない」と「あいさつ程度」であり、近所との交流がほとんどあ
りません。そのような中で、誰にも気が付かれずに孤独死している方が増えてきている
のが現状です。
11
【図表 】高齢者の会話の頻度(電話や電子メールを含む)
出所:内閣府「高齢社会白書(2014 年度)
」より
「一人で暮らしていても寂しくはない」
、
「身体が自由に動く間は大丈夫だろう」と思
っている高齢者も少なくありませんが、会話や近所付き合いなどのコミュニケーション
が生き生きとした暮らしにつながることは多くの研究から導かれています。認知症予防
の観点からも、適切な距離感を持った他者との関わりは必要です。
また、一人暮らし高齢者の孤独死を防止するため、特別養護老人ホームなどの介護施
設へ入所しようとしても、
全国で 52 万人以上が入居待機状態にあると言われています。
こうした状況に対応すべく、「サービス付き高齢者向け住宅(通称:サ高住)
」が増加し
ていますが、入居費用は高額のため全ての高齢者が入居できる訳ではありません。
(2)地域コミュニティの消失
今一度、高齢者が生活しているコミュニティの状況について考察します。今から 30
~40 年前の地域社会は、小学校区単位でまとまっていました。自治会、婦人会、子ども
会が活発に活動して、年間を通じて行事が開催され、地域で顔の見える関係が保たれて
いました。家族単位での旅行はまだ少なく、町内会の親睦旅行がいい思い出になりまし
た。しかし現在はどうでしょうか。隣人と挨拶をする、地域において最も基本的なこと
すらできなくなってはいないでしょうか。
2005 年度の国土交通白書によれば、地域の人々との付き合いについて、一般町村では
「①付き合いはあるがそれほど親しくない」
、
「②ほとんど、もしくは全く付き合ってい
ない」という回答の 2 つで約 7 割を占め、15 大都市(注)では 8 割超でした。
(注)
(注)
(注)
12
東京都および 2005 年 12 月時点の 14 政令指定都市(札幌市、仙台市、さいたま市、
千葉市、横浜市、川崎市、静岡市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、広島市、
北九州市および福岡市)
また地域コミュニティが衰退した原因としては、
「昼間に地域にいないことによるかか
わりの希薄化」
、
「コミュニティ活動のきっかけとなる子どもの減少」、
「住民の頻繁な入
れ替わりによる地域への愛情・帰属意識の低下」、
「情報化の進展等による地域でのコミ
ュニケーションの必要性の減少」などが上位の回答でした(図表 1-3-6)
。これは、都市
部・地方部に関係なく、郊外化の進展を受けて居住地域と勤務地や学校が分離したため
と考えられます。また、単身世帯やワンルームマンションの増加により、地縁的なコミ
ュニティを志向しない世帯も増加しています。
価値観の多様化、プライバシー意識の高まり、地域への愛着や帰属意識の低下が隣近
所との付き合いを疎遠にし、また地域組織の役員や世話役を引き受ける人の減少が地域
活動衰退の原因となっている一方で、スポーツや趣味、特定の関心事など目的が明確な
活動ヘは積極的に活動するなど、地縁は薄れても自分の好みでのつながりを求めている
傾向が見られます。
【図表 】地域の人々との付き合い
3.9
とても親しく付き合っている
7.8
14.8
やや親しく付き合っている
36.2
付き合いはあるがそれほど親しくない
45.1
ほとんど、もしくは全く付き合っていない
0%
11.3
19.3
36.6
36.3
20.0
15大都市
41.1
それ以外の市
町村
27.7
50%
100%
出所:国土交通省「国土交通白書(2005 年度)
」より
【図表 】地域の人々との付き合いが疎遠な理由
大
それ以
都市
外の市
町村
昼間に地域にいないことによるかかわりの希薄化
コミュニティ活動のきっかけとなる子どもの減少
住民の頻繁な入れ替わりによる地域への愛着・帰属意識の低下
情報化の進展等による地域でのコミュニケーションの必要性の減少
学生や単身赴任者など地縁的関係を志向しない住民の増加
近隣商店街の衰退等によるコミュニケーションの場の減少
人口減少によるコミュニティの担い手の減少
その他
自動車社会の進展による生活圏の拡大
わからない
出所:国土交通省「国土交通白書(2005 年度)
」より
13
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
また、最近地域コミュニティの喪失に追い打ちをかけている問題が空き家の増加です。
図表 1-3-7 が示すように、
2013 年の全国空き家数は約 819 万戸と過去最高になりました。
空き家や空き地の増加は、
地域コミュニティの崩壊にさらに拍車をかけていくでしょう。
【図表 】全国空き家数の推移
(単位:万戸)
13.5
900
600
8.6
9.4
9.8
11.5
12.2
13.1
(単位:%)
16
12
空き家数(左)
8
300
0
818.5
332.0
1983
1988
1993
1998
2003
2008
2013
4
空き家率(右)
0
(注)空き家率とは、総住宅数における空き家数の割合を示しています。
出所:総務省「住宅・土地統計調査(2013 年度)
」より
(3)買い物弱者数百万人時代へ
高齢期における大きな問題の一つとして、食料品店などへの移動が困難になるという
ことが挙げられます。2000 年に「大規模小売店舗立地法」が制定されて以降、地方都市
に次々と大規模なショッピングモールや大型の複合商業施設が作られました。これは、
既存の商店街の多くが「シャッター通り化」した要因の一つと言われています。
岐阜市の郊外の大型団地においては、昔から団地にあった恵比寿屋(衣料・食材など
の生活必需品を販売)と呼ばれる個人商店が無くなり、自動車を持てないあるいは自動
車に乗れない高齢者は、買い物をするにも公共交通機関に頼らざるを得なくなりました。
こうした状況は暮らしにくさにつながり、買い物弱者となった人たちが地域から離れて
いく要因となっています。買い物のための乗合タクシーを運行したり、地域のスーパー
が移動販売したりするなどの取り組みが行われていますが、有効な解決策は中々見つか
りません。今後、さらに増加する「買い物弱者」、
「買い物難民」に対してどのような対
策を打っていくかは超高齢社会の大きな課題と言えます。
14
(4)狙われる高齢者、消費者被害の実態
高齢者は「お金」
・
「健康」
・
「孤独」の 3 つの不安要素を持っていると言われます。悪
質業者は、時に言葉巧みに不安を煽り、時に親切にして、高齢者の大切な財産を狙って
います。
特に、
家庭内に頼れる人もいない一人暮らし高齢者にとっては大きな問題です。
全国の消費者センターへ寄せられた 70 歳以上の高齢者の相談件数は年々増加し(図表
1-3-8)、その相談内容は電話勧誘や家庭訪問販売が上位を占めています(図表 1-3-9)
。
今後、高齢者の消費者被害はさらに増加していくことが懸念されます。
【図表 】高齢者の消費者被害に関する相談件数の推移
(単位:件)
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
出所:独立行政法人国民生活センターHP「高齢者の消費者被害」(2015/1/8 アクセス)
出所:より
【図表 】高齢者の消費者被害に関する販売方法と手口( 年)
電話勧誘販売;51,420件
その他;73,871件
家庭訪問販売;25,830件
身分詐称;6,177件
劇場型勧誘;12,623件
2次被害;6,645件
代引配達;12,555件
インターネット通販;7,951件
利殖商法;11,856件
出所:独立行政法人国民生活センターHP「高齢者の消費者被害」(2015/1/8 アクセス)
出所:より
15
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
(5)不足する介護施設、高額な高齢者住宅
高齢者人口の増加により、生活支援や介護が必要となる高齢者の住まいをどう確保す
るかが大きな課題になってきます。岐阜県においては、高齢者・要介護者が増加する中、
コスト面で優位性が高い特別養護老人ホームの入所申込者について、 2008 年には
12,120 人でしたが、2011 年は 16,780 人と年々増加しています。
【図表 】岐阜県における特別養護老人ホーム入所申込者の推移
(単位:人)
18,000
15,000
12,000
13,960
12,120
2,695
9,000
6,000
3,958
16,780
4,532
独居困難者
9,425
10,481
11,562
12,248
2008年
2009年
2010年
2011年
3,000
0
3,479
15,520
それ以外
(注)独居困難者とは、要介護 2 以上で独居・家族介護が困難な高齢者のことを示しています。
出所:岐阜県「岐阜県高齢者安心計画」
(2012 年 3 月)より
そのうち、
入所の必要度が高いとされる独居困難者が全体の約 3 割前後を占めており、
施設および居宅介護サービスの充実を図っていく必要があります。
一方、政府は 2015 年 4 月から特別養護老人ホームへの入居制限を要介護 3 以上の中・
重度者とすることで待機数の伸びを抑制する方針です。しかし、一人暮らし高齢者や「老
老介護」が増える中、施設に入りきらない高齢者を在宅でケアせざるを得なくなること
は間違いがありません。そこで、地域における医療・介護関連機関が連携して、包括的
かつ継続的な在宅医療・介護の提供を行う「地域包括ケアシステム」の構築を各自治体
は急いでいます。
また、2011 年に「高齢者住まい法」に基づく「サービス付高齢者向け住宅」が制度化
されました。民間が建設する高齢者専用の賃貸住宅で見守り支援をするなどの諸条件を
クリアすれば、新築時に補助や税制優遇があることから、全国各地で建設が進んでいま
す。
しかし、高齢者が特別養護老人ホームに移るにしても、サービス付き高齢者向け住宅
へ移るにしても、高齢者の元の住居が空き家になり、地域の衰退に拍車がかかります。
高齢者は長年住み慣れた自宅で人生の最期を迎えたい希望を持っており、その希望を叶
えるためには地域コミュニティのサポートが今後の大きな鍵を握るものと考えられます。
16
4.就労と経済状態について
(1)高齢者就労の現状について
本格的な高齢化時代を迎え、生涯現役時代の到来という言い方がされるようになりま
したが、高齢者の就労はどんな状況にあるのでしょうか。
日本の労働市場においては、定年は長らく 55 歳でしたが、1980 年に 60 歳定年が法
制化されました。その後も平均寿命の伸長に合わせ、定年延長を求める動きが強まりま
した。2004 年には「高年齢者雇用安定法」の改正により、2013 年からの 65 歳定年が
法制化され、2013 年度から実施されています。これにより、被雇用者が 65 歳まで働き
たいと希望すれば、雇用主は応じなければなりません。総務省の「労働力調査」によれ
ば、生産年齢人口の減少により総労働力人口の増加が伸び悩む中で、60 歳以上の労働力
人口は右肩上がりで上昇しています(図表 1-4-1)
。
【図表 】 歳以上の労働力人口推移
(単位:万人)
1,400
19.0
20.0
70歳以上(左)
1,200
1,000
800
(単位:%)
15.0
65歳以上69歳以下
(左)
9.2
10.0
60歳以上64歳以下
(左)
600
400
5.0
200
0
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2013
総労働力人口に占
める60歳以上労働
者の割合(右)
0.0
出所:総務省「労働力調査」より
17
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
次に、65 歳以上の就業者の週間就業時間を見ると、週 34 時間以下が 5 割を超えてい
ることから、多くの高齢者はフルタイムでなく、契約・嘱託社員、アルバイトなどの形
態で働いているものと見られます(図表 1-4-2)。
【図表 】週間就業時間別 歳以上就業者数
総数
1~14
時間
15~34
時間
35~42
時間
43~48
時間
49~59
時間
60 時間
以上
全産業(万人)
548
88
196
118
56
46
39
比率
100%
16%
36%
22%
10%
8%
7%
出所:総務省「労働力調査」より
こうした中、高齢者はいつまで働きたいと考えているのでしょうか。独立行政法人高
齢・障害・求職者雇用支援機構(以下、「JEED」といいます。)が団塊の世代を対象に
実施した調査結果があります。今就業している人が何歳まで働きたいかという就業希望
年齢について、2003 年の調査では 69 歳までという回答が 74.5%でしたが、2013 年の
調査では 38.9%に減少しました。他方、70 歳以上という回答は 23.2%から 53.5%へと
急増しています。また、70 歳以上 75 歳以下は就労希望があり、高齢者自身の就労意欲
は年々高くなっています。
しかしながら、高齢者の就労は厳しい状況にあります。定年延長により 65 歳まで就
労できる人もいますが、それは限られた一部の人です。公共職業安定所などの職業紹介
所はありますが、紹介される職種は、警備保障、ビル管理、駐車場管理などの非正規雇
用がほとんどであり、
またその場合でも高齢者に配慮した労働条件とはなっていません。
【図表 】就業希望者の就業希望年齢の推移(団塊の世代のうち就業者を対象)
100%
80%
2.3
23.2
3.9
24.0
8.4
7.6
25.0
29.4
8.3
11.0
39.6
32.9
12.4
38.3
60%
40%
66.1
63.3
58.3
58.5
20%
0%
8.4
8.8
8.3
4.5
2003
2007
2008
2009
64歳以下
65歳以上69歳以下
49.6
2.5
2010
70歳以上
47.1
9.0
2011
3.4
2012
その他、不明、無回答
出所:JEED「機構ニュース第 159 号(2014 年 4 月 11 日)
」より
18
45.9
7.6
53.5
37.5
1.4
2013
次に就労の理由を見てみましょう。先程のアンケート調査結果によれば、団塊の世代
の就業理由として一番多い回答は、以前は「生活水準維持・向上」、すなわち経済的な理
由が圧倒的でした。しかしながら、ここ数年は結果に変化が生まれています。
「生活水準
維持・向上」と回答する人の割合が減少する一方で、
「健康」のためと回答する就業者が
増えてきており、直近の調査では 2 位になっています(図表 1-4-4)。このように就業理
由が多様化している傾向が見てとれます。
【図表 】就業者の就業理由の推移(団塊の世代を対象)
出所:JEED「機構ニュース第 159 号(2014 年 4 月 11 日)
」より
また就労に関する意識の変化を見てみると、金銭的な理由は年齢を重ねるとともに下
がり、健康維持や、生きがいのためという回答が増えてきます(図表 1-4-5)
。
時間的にゆとりがあり、健康な高齢者は、現役を引退してからも、生きがいのための
就労を求めている現状が明らかになってきました。しかし、それは現役時代のように時
間に追われるものではなく、それぞれの人生観に基づき、多様な生き方を求める選択肢
としての就労です。高齢者の就労について、現状の社会システムをどう変革していくか
が、超高齢社会の大きな課題と考えられます。
19
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
【図表 】団塊の世代の就労目的の変化
出所:内閣府「高齢社会白書(2013 年度)
」より
(2)シルバー人材センター等の活用
それでは、高齢者にとって、自営業や会社勤務以外にどのような就労場所や就労機会
があるのでしょうか。
その一つとして、先ず、シルバー人材センターを紹介します。
シルバー人材センターは、
「高年齢者雇用安定法」に基づき、
「高年齢者が働くことを
通じて生きがいを得ると共に、地域社会の活性化に貢献する組織」です(公益社団法人
全国シルバー人材センター事業協会)
。原則として、市区町村単位に設置され、高年齢者
(60 歳以上)の希望に応じた臨時的、短期的かつ簡易な業務を、請負・委任の形式で行
います。シルバー人材センターは「生涯現役社会」のインフラの一つとして期待されて
います。
シルバー人材センターの現状を見てみましょう。例えば岐阜市においては、登録者は
約 1,600 名で、その平均年齢は男性 73.1 歳、女性 72.8 歳となっています。しかし、登
録者の高齢者人口に対する比率は 1.2%程度であり、退職者をうまく取り込めずにいま
す。また全国的に見ても、高齢者人口は増加していますが、シルバー人材センターの登
録者は横ばいになっています(図表 1-4-6)。
20
【図表 】シルバー人材センター加入会員数推移(全国)
(単位:人)
900,000
600,000
女性会員
男性会員
300,000
0
2002 2003 2005 2006 2007 2008 2009 2011 2012 2013
出所:公益社団法人全国シルバー人材センター事業協会「統計年報」より
仕事内容としては、屋内外の簡易な作業(公園やコミュニティの水路清掃、各家庭の
除草・袋詰め、軽量物の運搬等)と家事援助サービス(介護・産後の手伝い、子守り、
買い物、家の掃除等)
、技術を要する仕事(簡単な大工、左官、内装工事、植木の剪定、
ペンキ塗り等)
、事務関係の仕事(一般事務、決算業務、受付業務、調査、宛名書き業務
等)です。団塊の世代が定年後に、シルバー人材センターに登録したことから、ホワイ
トカラー系の登録者が多くなりました。
しかしながら、
シルバー人材センターへの依頼内容は、除草を中心に体を動かしたり、
技術が必要であったりするものが多く、3~4 時間の作業であっても未経験者には難しい
ため、ニーズとのミスマッチを起こしている現状にあります。シルバー人材センターは
就労の必要がある高齢者、
生活費としてある程度の収入が必要な高齢者が利用しており、
ミスマッチの解消のためシニアのニーズにあった仕事の開拓や研修プログラムの充実が
必要でしょう。
次に、公的な高齢者就労支援機関としては、事業者へ高齢者と身障者の雇用に関する
相談・援助、助成金の申請受付を行う「高齢・障害・求職者雇用支援センター」があり
ます。これは、先程の JEED が全国に有するセンターで、主な業務として以下の 2 業務
があります。
① 高齢者雇用アドバイザリー業務
2013 年 4 月から、事業者は、65 歳までの定年の引き上げ、定年の定めの廃止、65
歳までの希望者全員雇用のいずれかの制度を導入する必要があるため、経営コンサル
21
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
タント、
社会保険労務士、
中小企業診断士等が企業の人事労務担当者に人事管理制度、
賃金・退職金制度、能力開発などについて、無償または有償でアドバイザリー業務を
行っています。岐阜のセンターでは、アドバイザーは約 10 名体制で、年間約 700 件
程度の相談を受けています。
② 高齢者雇用促進業務
高齢者活用促進のため、事業者に最大で 1,000 万円までの助成を行うこと、公共職
業安定所または民間の職業紹介事業者の紹介により高齢者を受け入れた事業主に一人
70 万円の助成金を支給することの 2 業務を行っています。
高齢者の雇用促進には、こうした公的機関の積極的な活用が求められます。
(3)高齢者の経済状況
高齢者の暮らし向きについて調査した、内閣府の「高齢者の経済生活に関する意識調
査(2011 年)
」によれば、
「まったく心配ない」と「それほど心配ない」を合わせると約
7 割の方が経済的には心配ないと回答しています(図表 1-4-7)。公的年金が充実してい
ること、現在の高齢世代の貯蓄性向が非常に高かったことがその理由として挙げられる
でしょう。
【図表 1-4-7】高齢者の暮らし向き
出所:内閣府「高齢社会白書(2014 年度)
」より
22
しかしながら、昨今では、年金財政問題から、将来に不安を覚える人も増えてきてい
ます。当社の個人アンケート調査では、60 歳未満の回答者にとって高齢期の備えとして
最も重要なものは「老後の生活資金」であるという結果となりました。安心して老後を
暮らすためにも、
「老後の生活資金」として必要な金額を把握し、計画的に準備をするこ
とが重要と言えるでしょう。
23
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
5.地域・社会意識について
(1)高齢者の社会参加状況
当社の個人アンケート調査では、地域社会への関わりについての質問に対して、
「趣味」
で関わりたいという回答が 45.2%と最多回答でした。次いで、「健康、スポーツ活動へ
の参加」が 21.5%、
「地域行事への参加」が 16.7%、「自治会・老人クラブ等への参加」
が 13.2%と続きました。他方、13.0%の人は「関わりたくない」と回答しました。
【図表 】地域社会との関わり方
高齢者として、もしくは自分が高齢者になったらどう地域社会と関わりたいで
すか。選択肢の中から二つまでお選びください。
㻜㻑
㻞㻜㻑
健康、スポーツ活動への参加
㻠㻜㻑
㻞㻝㻚㻡㻌
趣味
㻠㻡㻚㻞㻌
地域行事への参加
㻝㻢㻚㻣㻌
自治会・老人クラブ等への参加
㻝㻟㻚㻞㻌
地域美化活動
㻢㻚㻞㻌
教育関連・文化啓発活動
㻤㻚㻟㻌
防犯・防災
㻡㻚㻤㻌
子育て支援
㻝㻜㻚㻝㻌
地域ビジネス
㻠㻚㻣㻌
㻺㻼㻻やボランティア組織への参加
㻝㻜㻚㻝㻌
高齢者同士の支援
その他
㻢㻜㻑
㻝㻞㻚㻠㻌
㻜㻚㻢㻌
関わりたくない
㻝㻟㻚㻜㻌
出所:当社「個人アンケート調査」より
2013 年に内閣府が実施した「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」でも、高
齢者が実際に「参加している」団体は「町内会・自治会」、
「趣味のサークル・団体」、
「健
康・スポーツのサークル・団体」が上位回答でした。また、今後「参加したい」団体は、
「趣味のサークル・団体」
、
「健康・スポーツのサークル・団体」
、
「町内会・自治会」と
いう順になり、個人アンケート調査と同じ結果になりました。
「自治会」という回答が多
かった理由は、昔からある固定したイメージが浸透しているからかも知れません。
参加したい団体に「ボランティア団体」を挙げる方が増加していることは、大変明る
い材料でしょう。3.11 東日本大震災以降、若者中心にボランティア活動が活発になって
いますが、高齢者がボランティア活動を通じて地域の課題に取り組むことも非常に大切
です。
24
【図表 1-5-2】高齢者の「参加したい団体」と「参加している団体」
出所:内閣府「高齢社会白書(2014 年度)
」より
(2)自治会・町内会や老人クラブの参加状況
個人アンケート調査の結果では、個人的なつながりの中で自分の趣向を優先する意識
が強いことがわかりました。そのような中、代表的な地域組織である自治会・町内会や
老人クラブの活動がどうなっているかを見てみましょう。
① 自治会・町内会の状況
内閣府の「国民生活選好度調査(2012 年度)
」によれば、自治会・町内会の加入率
は 73%となっています。加入の理由は、
「地域の人と触れ合えるから(47.3%)
」
、
「地
域の必要な情報を得ることができるから(46.5%)」
、「義務だから(40.0%)」となっ
ています(図表 1-5-3)。逆に加入しない理由は、「忙しくて活動に参加できないから
(54.9%)
」
、「どのような活動をしているかわからないから(34.1%)
」、「役員等の責
任を負うのが面倒だから(28.1%)
」となっています。参考までに、岐阜市における自
治会・町内会の加入率は 2013 年 4 月現在で 65.4%となっています。
25
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
【図表 1-5-3】自治会・町内会の加入理由
出所:内閣府「国民生活選好度調査(2012 年度)
」より
社会環境や住民ニーズが大きく変化する中、担い手不足や役員の高齢化の影響もあ
り、その活動は「広報紙などの配布(ゴミ収集、予防接種、健康診断などのお知らせ)」、
「街の清掃、防災訓練、防犯活動、交通安全運動」、「共同募金など社会福祉活動」、
「盆踊りや運動会などのレクリエーション」などマンネリ化しており、新規加入率や
活動参加率は年々低下傾向にあります。ボランティア活動や市民参加活動の目的が、
防犯・防災活動、要介護者など高齢者の見守り、子育て支援、まちづくりに変わって
きている中で、自治会や町内会の活動内容も変わっていくことが必要でしょう。
② 老人クラブの状況
老人クラブの全国会員数は、1997 年には 887 万人でしたが、2013 年では 626 万人
と年々減少傾向にあり、高齢者が増加する反面、老人クラブの組織率は低下しつつあ
ります。この理由について、岐阜県老人クラブ連合会の葛西理事に伺ったところ、
「大
きな組織に入ると面倒なことが多いという意識があるのではないか。老人クラブの運
営では、会長とか、会計とか中々決まらない。役職が長年固定され、運営ノウハウが
伝わらない。最近は、個人が脱会するというより、地域の老人クラブ全体が解散する
事例が増えている。現在、生きがいづくり、健康づくり、仲間づくり、地域づくりの
4 本柱で会員 100 万人増強運動を展開している。
」というお話をいただきました。また、
「地域の高齢化問題に対処できるのは、老人クラブや民生委員(3 年契約が多い)く
26
らいしかないのではないか。県警交通安全課からは交通安全の旗振り、県消費者セン
ターからは高齢者の消費に係る高齢者詐欺の被害防止のための運動への参加が要請さ
れるが、あまりに依頼が多くてさばききれない。
」とも言います。こうした現状を踏ま
え、地域での老人クラブがより活躍できるような改革や住民の協力が重要になってく
るでしょう。
【図表 】岐阜県・愛知県の老人クラブ数と会員数の推移
岐阜県
1997 年 3 月末
2013 年 3 月末
2,646
2,227
▲15.8%
204,283
167,774
▲17.9%
4,913
3,645
▲25.8%
384,955
279,945
▲27.3%
クラブ数(会)
会員数(人)
愛知県
クラブ数(会)
会員数(人)
増減率
出所:厚生労働省「福祉行政報告例」より
(3)生涯学習の現状
高齢者の生涯学習は、内閣府の「生涯学習に関する世論調査(2012 年度)
」によれば、
健康・スポーツが一番多く、次いで音楽、美術などの趣味的なもの、料理・洋裁など家
庭生活に役立つ技能、文学・歴史など教養的なものなどが続いています(図表 1-5-5)。
ボランティア活動のために必要な知識・技能を身に付ける、情報端末やインターネット
に関することはまだ少ないものの、今後大きく伸びていく可能性があります。
【図表 】高齢者が行っている生涯学習
出所:内閣府「高齢社会白書(2014 年度)
」より
27
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
改めて高齢者がグループ活動へ参加している理由を考えてみます。内閣府の「高齢者
の地域社会への参加に関する意識調査(2013 年度)」によれば、
「新しい友人を作ること
ができた」が回答の 48.8%を占め、「お互いに助け合うことができた」、
「地域社会へ貢
献できた」という回答も 3 割近くに上りました(図表 1-5-6)
。
ここで見られるのは連帯感と言うべきものです。男性の高齢者は会社を辞めるまで職
場という居場所があり、仕事上の達成感がやりがいを与えてくれました。それが、いざ
会社を辞めると居場所がなくなり、ある方の言葉を借りれば、「退屈でたまらない毎日」
が延々と続くことに耐えられなくなります。こうした高齢者が積極的にグループ活動に
参加することが地域組織の活性化につながり、地域課題を解決する手段の一つとなるか
もしれません。
【図表 】高齢者のグループ活動参加による効果
出所:内閣府「高齢社会白書(2014 年度)
」より
2012 年 3 月の文部科学省の報告書「長寿社会における生涯学習のあり方について」
によれば、高齢者にとっての学習活動や社会参画の意義・役割としては、
「生きがいの創
出」
、
「地域が抱える課題の解決」、「新たな縁・絆の構築」、「健康維持・介護予防」とさ
れています。
今後、生涯学習への取り組み強化の重要性はますます高まることでしょう。
28
6.企業から見た現状と課題
少子化に伴う 15 歳から 65 歳までの生産年齢人口の減少は、経済規模や労働市場の縮
小につながると言われています。団塊の世代が定年等により退職すれば、市場全体の労働
供給量が低下し、日本の経済成長率を引き下げます。この問題は、労働者数の減少効果を
上回る労働生産性の向上があればカバーできますが、日本においては労働生産性の上昇を
見込むことは中々難しいことでしょう。従って、必然的に出産・育児等で職場を離れた女
性や高齢者の活用が必要になってきます。
また別の問題として、団塊の世代の退職により、
これまで培われてきた生産現場における技術が失われることが懸念されます。ここでは、
企業から見た現状と課題を見ましょう。
(1)ものづくり現場での技術喪失と継承者不足
日本の経済発展を支えてきた中小企業のものづくりの技能者の高齢化が進んでおり、
技術・技能の継承が経営課題と言われています。企業アンケート調査でも、
「技能の継承
に問題あり」とする回答が全体の 4 分の 1 に上りました。
この課題を解決する一つの方法として、出来るだけ技術・技能を誰にでも分かるよう
な形にデータ化するなど、個人ではなく組織内で共有化し、それを次世代に引き継ぐ手
法が考えられます。
しかし、
少子化によって受け皿となる若手人材も少なくなっており、
簡単には解決できる課題ではありません。企業アンケート調査では、「若手人材不足」、
「伝承時間不足」
、
「年数がかかる」などの回答が多く、岐阜県・愛知県でも、ものづく
り技術・技能の継承が大きな問題となっています。
総務省の「労働力調査」によれば、日本の製造業における 55 歳以上の就業者数は、
2007 年の 301 万人をピークに減少しているもの、全体に占める割合はおよそ 25%で、
4 人に 1 人が高齢者または一歩手前という状況になっています(図表 1-6-1)
。今後、さ
らに技術力を持った団塊の世代の退職が本格化すると、その技術を継承すべき若い世代
の確保が難しい問題も重なって、中小ものづくり企業にとって、技能伝承がますます重
要な経営課題となっていくでしょう。
29
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
【図表 】製造業における 歳以上の就業者数および就業者全体に占める割合
:万人)
(単位
(単位:%)
400
27.0
26.0
300
25.0
200
24.0
100
0
23.0
2005
2006
2007
2008
55歳以上59歳以下(左)
2009
2010
2012
60歳以上64歳以下(左)
65歳以上(左)
2013
22.0
就業者全体に占める割合(右)
出所:総務省「労働力調査」より
(2)企業から見たシニア市場と高齢者のニーズ
超高齢社会の到来により、消費者全体に占める高齢者の割合も高くなっていきます。
ここでは、
当社が実施した企業アンケート調査を基に、高齢者向けのビジネスについて、
企業がどのように捉え、どのような対応をしているかを見ていきます。
先ず、シニア市場への参入状況ですが、関心があると回答した企業は 8 割弱となり、
関心の高さが表れた結果となりました(図表 1-6-2)。しかしながら、実際に参入してい
る企業は 2 割程度であり、その業態も介護・医療・食事関係に限定されている現状が浮
かび上がりました。
【図表 】シニア市場について
0%
20%
40%
60%
75.6%
シニア市場への関心
80%
100%
24.4%
あり
参入検討中の市場の有無
参入済みの市場の有無
28.4%
22.4%
出所:当社「企業アンケート調査」より
30
71.6%
77.6%
なし
次に関心を持っている市場について尋ねたところ、介護が一番で、医療、住宅、食事、
旅行、運動、家事代行、買い物代行が続きました。
【図表 】関心を持っている市場(複数回答)
0.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
34.8%
介護
21.1%
医療
18.7%
住宅
15.4%
食事
旅行
12.0%
運動
11.7%
8.4%
家事代行
7.0%
買い物代行
3.0%
葬儀ビジネス
7.0%
その他
24.4%
関心がない
出所:当社「企業アンケート調査」より
それでは、実際に参入を検討しているかどうか尋ねたところ、まだ、ほとんど検討し
ていないという現状が明らかになりました。この結果を見る限り、まだ地元企業では、
シニア市場について、積極的に検討もしくは取り組みが行われていないことが明らかに
なりました。この理由として、今後、高齢者向けにその課題や不安を解消するような商
品サービスが普及していくと考えているものの、高齢者の価値観が多様化し、ニーズが
掴みにくい市場と捉えているからであると考えられます。
【図表 】シニア市場のイメージ
1.8
8.1
(単位:%)
6.7
価値が多元化、ニーズがつかみにくい市場
ものを見る目を持っている成熟した市場
60.0
23.0
納得したものは、価格にかかわらず購入する市場
高齢者の不安や課題が商品、サービス化される市場
その他
出所:当社「企業アンケート調査」より
31
第1章
超高齢社会の現状と直面する諸課題
一方、60 歳以上を対象として実施した内閣府の「高齢者の経済生活に関する意識調査」
によれば、高齢者が優先的にお金を使う目的は、健康維持や医療介護、旅行、子どもや
孫の支出、住宅の新築増改築、冠婚葬祭費、交際費、自動車購入費、家電購入費、自己
啓発や学習などとなっており、
「モノ」よりも「ココロの満足」を求めているという傾向
が明らかになりました。
【図表 】高齢者が優先的にお金を使う目的
0.0
10.0
20.0
30.0
健康維持・医療介護
旅行
子どもや孫のため
住宅の新築増改築
冠婚葬祭費
友人との交際費
自動車購入費
家電購入費
自己啓発・学習
衣料品購入
通信費
使いたくない
出所:内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査」より
32
40.0
50.0 (単位:%)
2007年
2011年