工学倫理第8回講義資料

2015/11/29
第8章 事故責任の法の仕組み
工学倫理
第8回
技術者は、そのどこかで製造物にかかわる。
本章と次章で、製造物の「欠陥」をめぐる法・
倫理・科学技術について考える。
8.1 注意・過失・欠陥
8 2 職務と注意義務
8.2
8.3 品質管理
8.4 事故責任の法
8.5 まとめ
教科書:技術者の倫理入門 第四版
杉本泰治 高城重厚 著
杉本泰治、高城重厚
第8章 事故責任の法の仕組み
工学倫理 第8回
1
工学倫理 第8回
2
8.1 注意・過失・欠陥-2
8.1 注意・過失・欠陥-1
• 「注意」と「思いやり」
マイカーを運転して、交差点に入る場合
道路交通法 第36条第4項
主語:「車両等の運転者」ではなく、「車両等」。
車両及び歩行者に特に注意し、できる限り安全な速
度と方法で進行しなければならない。
赤信号なのに渡ろうとしている人を発見。
思わずブレーキを踏む時の心情=「思いやり」
道路交通法では注意だが、思いやりがふさわしい。
・法の領域
英語:care⇒日本語:注意
・倫理の領域
〃
:思いやり
本章では、法と倫理の両方に「注意」を用いる。
事故責任は法の領域だから。
3
工学倫理 第8回
8.1 注意・過失・欠陥-3
人の五感(意識)
「注意」をするには、そうする「意思」がある(必要)。
・みそ汁をつくる時⇒おいしいみそ汁をつくる意思
⇒視覚、味覚など五感を使ってつくる。
五感という感覚(sense)は、意識(sense)でもある。
・科学技術の発達
五感の一部⇒機械などの検出機能に置き換える
五感の
部⇒機械などの検出機能に置き換える。
注意の一部⇒自動制御の機能に置き換える。
・品質管理技術は、この原理によるもの。
工学倫理 第8回
4
8.1 注意・過失・欠陥-4
注意義務
人は行為をするとき、注意をはたらかせる義務
=注意義務(duty of care)を負う
①注意をはたらかせて状況を認識する。
(=状況認識の注意義務を果たす。)
②その行為が他人に危害を与える結果になるかも
しれないことを予見できれば、注意をはたらか
せてその結果を回避する。
(=結果回避の注意義務を果たす。)
工学倫理 第8回
工学倫理 第8回
5
工学倫理 第8回
6
1
2015/11/29
8.1 注意・過失・欠陥-5
8.1 注意・過失・欠陥-6
過失
注意義務を負う人が、注意を用いないこと
不注意であること
注意を怠ること(negligence)
⇒過失(fault)
過失とは
・なすべき注意を怠ること
・予見可能であるのに、不注意で予見しないこと。
・回避可能であるのに、不注意で回避しないこと。
このような過失は、
人間生活のあらゆる面にありうる。
工学倫理 第8回
7
8.1 注意・過失・欠陥-7
a
・ 管理できない偶然原
・ 因の要素による欠陥
9
8.2 職務と注意義務-2
ある企業の
ある事業部
主任技師Xが急病で欠席、休暇で1週間の休みをとる。
主任技師Xの職務は、技師長が指図して埋める。
指図から漏れたことは、放置せずに、
同僚の主任技師Yや部下の技師A、技師Bが、
11
工学倫理 第8回
自主的に状況を判断して処置する。
工学倫理 第8回
注意・過失・欠陥の関係⇒
ある製造物が事故を起こしたとき、
次の三つの表現は同じこと
・製造物の欠陥が事故の原因である。
・不注意が事故の原因である。
・過失が事故の原因である。
工学倫理 第8回
8
8.2 職務と注意義務-1
図8.2 「過失」「注意」「欠陥」の関係
工学倫理 第8回
・注意・過失・欠陥(注意・過失と製造物の欠陥の関係)
「十分に注意すれば」⇒「過失はなく」
⇒「欠陥は生じない」(ゼロではない)
いいかえれば、
「注意を怠ると」⇒「過失があり」
⇒「欠陥が生じる」(生じない時もある)
• 職務の区分
会社など企業は、階層組織からなる。
社長などの経営幹部の職務
=業務執行に必要な組織を編成し、
技術者などの人を配置する。
配置された人(技術者など)の職務
=割り当てられた職務を遂行する。
すなわち、
①経営幹部が適切に人を選任し、配置し、かつ
それを適切に監督する。
②配置された技術者が、割り当てられた職務を
適切に遂行する。
工学倫理 第8回
10
8.2 職務と注意義務-3
• 組織のなかの注意義務
階層組織は、固定的な職務の区分に見えながら日々変
動する実務があって、それを実情に合わせて配分するた
めの形式。
変動に対応するために、絶えず注意する義務がある。
たとえば技師Aは 次のことに注意する義務がある。
たとえば技師Aは、次のことに注意する義務がある。
イ. 自分の職務として割り当てられている業務。
ロ. 目前にあることが自分の業務かどうかの判
断。
ハ. 通常は自分の業務でなくても、緊急の場合、
自分にできる業務。
工学倫理 第8回
12
2
2015/11/29
8.3 品質管理-1
8.2 職務と注意義務-4
• 業務上の過失
経営者も、技術者も
職務=業務について注意義務を怠る
⇒業務上の過失
工学倫理 第8回
13
8.3 品質管理-2
8.3 品質管理-3
• 品質管理への道
19世紀初め 手作りの銃器産業⇒部品の標準化
自動車、ミシン、時計などの産業に波及。
この製造技術が、20世紀初頭に向けて、
大量生産、品質管理及びメンテナンスへと進む。
部品の標準化⇒製造工程のライン化を可能に
⇒品質管理技術が生まれ、
標準化された部品の供給⇒メンテナンスが容易に
1925年前後
シューハートが、統計的品質管理(S
QC)を提唱
1930年代
多くの工場で採用、普及を迎えた。
工学倫理 第8回
第二次大戦後 日本に導入された。
15
• 品質特性
製造物=様々な性質(property)
形状、寸法、構造、成分、含有量、色、
光沢、味など
識別するための性質=特性(characteristic)
品質特性=要求事項に関連する、製品、プロセス
、または、
システムに本来備わっている性質。
工学倫理 第8回
16
8.3 品質管理-5
8.3 品質管理-4
品質特性は、つぎの3種類に大別される
基本量:科学で定義される基本的な量、
長さ、質量、時間など
組立量:基本量を組み合せて定義される量、
㎡、㎠、㎏/㎠
工業量:製造物の複合的な性質に関係する量
基本量、組立量に分けることができない量
どのような品質特性も、測定方法を工夫すれば測
定可能。
工学倫理 第8回
工学倫理 第8回
• 生産技術
製造には、典型的には二つのタイプがある。
「部品」を組み立てる。 ex.自動車
「原材料」を加工する。 ex.インスタント・ラーメン
製造に共通の要素をとらえて、「生産技術」が考え
られる。
れる。
イ.同じ原料を使って、
ロ.同じ装置で、
ハ.同じ製造条件下で、
ニ.同じ品質のものが、
ホ.長期に再現性良く生産できる技術
これが現代の大量生産の原理
14
工学倫理 第8回
欠陥のない一定品質の製造物←品質管理
17
• 統計的品質管理(SQC)
統計学を利用、専門的な訓練は不要。
それ自身で役立つ、進んだ方法を理解するため
の基礎ともなる。
自然界のもの、連続生産される製造物
⇒正規分布:平均値を挟んで左右対称に分布
正規分布:平均値を挟んで左右対称に分布
標準偏差σ:1σ68.2%、2σ95.5%、3σ99.7%
品質特性に影響する因子
原料、加工方法、作業員の技能、測定方法など
つきとめうる原因を除く⇒偶然原因の正規分布
管理限界(例:3σ)を定め、管理状態に導く。
異常を見逃したり対応しないと欠陥が出る。
工学倫理 第8回
18
3
2015/11/29
8.3 品質管理-6
8.3 品質管理-7
• 総合的品質管理(TQC)
品質管理:
当初、規格どおりに均質なものを大量に生産す
る技術であり、製造部門と検査部門が中心の活動
。
日本でTQCへと発展
消費者の要求
⇒市場調査やマーケティング
⇒設計部門+営業部門+アフターサービス
単なる物の質
⇒物をつくり流通させるシステムの質
TQC 社長~一般社員まで全員参加の活動
企業体質の強化、経営者自身が経営理念を具体
化する方法
QCサークル活動 グループによる改善活動
自分たちの作業の品質改善や整理整頓などの改善
関 規
関連規格
⇒国際標準化機構のISO9000シリーズ
⇒JISに取り入れられている。
工学倫理 第8回
食品の微生物管理
=HACCPも同様の思想の規格
工学倫理 第8回
19
20
8.3 品質管理-8
8.3 品質管理-9
• 品質管理の拡張
統計的品質管理(SQC)から総合的品質管理
(TQC)へ発展
当初は、製造物の品質を管理する技術
次第に、社長を頂点とする全社の経営事項へ
品質管理から
品質管理から⇒PL法、技術者倫理へと展開
法 技術者倫理 と展開
①統計的品質管理:SQC
大量生産のための技術
②製造物責任法:PL法
損害賠償を免れるための技術
③技術者倫理:
公衆の安全を確保するための技術
工学倫理 第8回
21
SQCの時代
過失の責任を問われるのは現場の管理職どまり
↓ ↓ ↓
TQCの時代
過失の責任が社長などのトップに及ぶこともあり
うる
8.4 事故責任の法-1
工学倫理 第8回
22
8.4 事故責任の法-2
• 事故の責任
人が他人に損害を与えると、その責任を問われる。
法的責任と倫理的責任がある。
事後の責任追及の法(刑法・民法)
事前に事故を抑止する法(規制法令)
法的責任が問われる場合と問われない場合がある。
法的責任が問われる場合と問われない場合がある
工学倫理 第8回
工学倫理 第8回
23
• 事後の責任追及の法
(1)業務上過失致死傷罪(刑法211条)
加害者に、禁固・懲役又は罰金という刑罰を科す。
必要な注意を怠り=過失
法人にはこの罪はない(禁固・懲役にはできない)。
加害者を禁固 懲役
加害者を禁固・懲役にしても、被害者は救われない。
も、被害者 救われな 。
被害者救済の法が必要である。
(2)不法行為法(民法709条以下をいう)
加害者に損害賠償を支払わせ、被害者を救済する。
明治31(1898)年、百年以上前に施行、今も有効。
過失による損害すべてに適用=不法行為の一般法
PL法ができるまでは、この法が製造物の過失に適用
24
工学倫理 第8回
。
4
2015/11/29
8.4 事故責任の法-3
8.4 事故責任の法-4
(3)製造物責任(PL法)
不法行為法では、つぎの3点の立証が必要。
①受けた損害、②加害者の過失、
③損害はその過失によるものだったという因果関係
製造工程や製造物がブラックボックス化
過失が外部からはわからず、立証困難
大量生産、大量消費で被害が広がり、対策が必要。
1932年 バクスター事件に始まる。
1962年 グリーンマン事件で厳格責任が登場。
欠陥が立証されれば、過失の有無を問わない。
製造物の欠陥は、過失よりも立証が容易である。
1995年 日本でも同じ趣旨のPL法が施行。
工学倫理 第8回
(4)使用者の責任(不法行為法の民法715条)
従業員が与えた損害は会社が負う。(第1項)
トラックの運転手が事故を起こした場合:
社長なども会社と同じ責任を負う。(第2項)
支払者は運転手に弁償を求めることができる。
(第3項)
(5)国家賠償法(第1条)
民法715条の国・公共団体版
公務員が故意または過失によって違法に他人に
損害を与えたときは、国・公共団体が賠償責任を
負う。715条と違い違法にの条件がある。
工学倫理 第8回
25
26
8.4 事故責任の法-5
8.4 事故責任の法-6
• 事前に事故を抑止し,違反を是正する法
規制法令
=行政庁が行う規制行政の根拠となる法
国民の安全、健康あるいは福利を図ること
を目的。
刑事法、民事法:事後の制裁の法
規制法令:事前に事故の抑止を図り、
あわせて違反に対する是正をする。
(6)食品衛生法=食品についての規制法令
第1条:規制の目的
第7条:所管 厚生労働大臣
食品・添加物等の規格・基準などを定
める。
第22条: 所管 厚生労働大臣、
都道府県知事(保険所を所管する)
違法行為や起きた事故の是正のために
規定された措置をとる権限を定める。
工学倫理 第8回
工学倫理 第8回
27
8.5 まとめ
法律家がするPL(製造物責任)法6カ条の逐次
解説では、技術者にはこの法律の意義はわかりに
くい。
•
注意・過失・欠陥に始まり、業務上過失致死傷
害罪、不法行為法、PL法、規制法令に至る説明
をこころみた。
をこころみた
•
技術者にとって重要なのは、事故に関する法的
責任の全体像であり、そうすることでPL法の理
解も深まるはずである。
討論
•
工学倫理 第8回
工学倫理 第8回
29
28
•
技術者が法律・法学を学ぶことについて、
どう考えるか。
工学倫理 第8回
30
5
2015/11/29
第3回レポート
シナリオ1 ~岡本所長の憂鬱~
工学倫理 第4回
岡本所長の憂鬱‐1 松江寿記作
31
工学倫理 第4回
32
岡本所長の憂鬱‐2 松江寿記作
工学倫理 第8回
33
岡本所長の憂鬱‐3
松江寿記作
34
岡本所長の憂鬱‐4 松江寿記作
工学倫理 第4回
工学倫理 第8回
工学倫理 第4回
35
工学倫理 第4回
36
6
2015/11/29
岡本所長の憂鬱‐6 松江寿記作
岡本所長の憂鬱‐5 松江寿記作
工学倫理 第4回
37
39
岡本所長の憂鬱‐9 松江寿記作
工学倫理 第4回
工学倫理 第8回
38
工学倫理 第4回
40
岡本所長の憂鬱‐8
松江寿記作
岡本所長の憂鬱‐7 松江寿記作
工学倫理 第4回
工学倫理 第4回
岡本所長の憂鬱‐10 松江寿記作
41
工学倫理 第4回
42
7
2015/11/29
岡本所長の憂鬱‐11 松江寿記作
工学倫理 第4回
岡本所長の憂鬱‐12 松江寿記作
43
• 技術倫理討論会(松江寿記氏作)
http://www.nuclear.jp/~juki/ethics.html
「北野仁郎のblog」に「技術倫理討論会」
のリ クを張りました
のリンクを張りました。
• シナリオ1 ~岡本所長の憂鬱~
http://www.nuclear.jp/~juki/scenario1.html
⇒動画を参照
工学倫理 第8回
44
第3回レポートの提出方法
第3回レポートの問題
工学倫理 第4回
工学倫理 第4回
45
• 友人、知人、家族と討論した上で、自分の考えを
まとめる。
• あなたが岡本所長の立場ならどうするか?
杉井代役、金沢復帰を待つ、本社再要請、その他
• 自分が取る方法とその理由を書く。
• 表紙及び問題文は不要。
• 最初に、授業科目名、第3回レポート、学科名、
学籍番号、氏名を書いてから、
• A4用紙1枚(裏面の使用も可)に、自分の考え
を書く。
• ワープロ使用が原則、汚い字は減点。
• 次回の講義時にレポートを提出する。
46
工学倫理 第4回
• 次回出席できない人は、事前に教務係に提出する。
8