2011年 5、 6月号掲載 第24話 遺言執行者

遺
言
執
行
者
創業100年
司法書士
岸
岸本司法事務所
本
和
平
初めに、この度の東日本大震災でお亡くなりになった方の冥福をお祈り申し
上げると共に被災者の方々へのお見舞と震災と戦っておられる方々への激励を
申し上げます。
神戸での震災の時、東灘区役所では直後から各種の相談会が開かれました。
私は兵庫県司法書士会会長の依頼で登記相談会の相談員2人の内の1人として
参加させていただきました。毎週2回午後1時より4時まで、2ヶ月間程務め
ました。当日は11時に中央区の事務所から自転車で軽食を取りながら1時前
に着くような状態でした。多くの被災者の方々が来られました。感じたことは
精神的な苦しみが多いように思えました。励ます毎日だったように思います。
そんな折、日住サービスの創業者で元社長
新名紀夫氏(当時80才)がお一
人で私の事務所へお見舞いに来て下さりました。会社に顔を出さないので心配
したからとのことでした。胸が熱くなりました。本当に心の温かい方でした。
さて遺言執行者の件ですが、神戸の震災のすぐ後の話ですが、父の知人にA
さん(当時90才ぐらい)がおりました。私も事務所に行った時からよく知っ
ておりその息子さん(B)が仕事を継ぎ同居して頑張っておられました。時々
「お父さんはお元気ですか。」と聞くのですが、震災の後「元気がなくなって
きています。」との返事です。遺言書の作成は何度となくすすめてきたのです
が、直接電話をかけました。Aさんは息子さんの外4~5人の相続人の方がお
られ、相当に相続が難しい為です。事情を話すと、Aさんは同意され公正証書
遺言が作成できました。内容は「全財産をBに相続させる。遺言執行者は、私
岸本とする」との内容でした。
数年してBさんの取引銀行からBさんが借りた震災の特別融資の一括返済を
求められたとBさんが相談に来られました。Aさんの不動産(土地・建物)が
担保に入っており返済ができず、毎年毎年繰り延べをしてもらっていたとのこ
とです。私はBさんに銀行に行き公正証書の遺言書を見せてBさんが将来責任
をもって返済するので抵当権の実行を許してほしい旨を話すことをすすめまし
た。結果は、銀行は好意的に取り扱ってくれたそうです。
Aさんはその後しばらくして亡くなられ、私は遺言執行者として相続登記と
各相続人にはその就任と財産目録(公正証書の提示)を通知してその任務を終
了しました。相続財産は不動産のみだったので比較的に簡単でした。他の相続
人からの遺留分請求や質問はありませんでした。Bさんには喜んでもらいまし
た。
私は遺言執行者の就任は難しい案件だと考えています。理由はその財産目録
作成義務(民法1011条)にあります。死亡された時点での財産目録の作成
は動産(現金、宝石、金等)や債権、債務については調査が困難です。又、預
金や株式も死亡直前になくなっている可能性もあります。調査できないものを
他の相続人に通知するのは問題があると感じています。他の相続人の遺留分請
求権の判断に相違がおこってくるからです。
上記例から言えばAと同居していたBが「Aの財産は不動産のみです。」と
主張すれば遺言執行者としてはその言葉を信用するしかありません。財産目録
の作成としては不動産のみとなります。
Bが遺言執行者となることもできます。例えば「Aは全財産をBに相続させ
る。遺言執行者はBとする。もし、Aの死亡前にBが死亡しておればBの子C
に相続させる。この場合の遺言執行者はCとする。」となります。後段は直近
の最高裁判例(最判平23・2・22)で希望するなら必ず記載しなければな
りません。
最後に一言、私は事務所員には、1に健康、2に家庭、3に仕事の順で頑張
って下さいと言ってきました。
今、職業とは何か、職責とは何かと考えるに、たまたま私は司法書士と言う
職業につけて少しは人の為になれる機会を与えられたことに感謝しております。
今回の大震災で頑張っておられる関係者各位の活躍を感謝と共に益々のご奮
闘を期待します。
又、職責を全うされお亡くなりになった方々に感謝の気持ちとお礼の言葉を
ささげたいと思います。
ありがとう。
(株)日住サービス
不動産投資情報
2011年
5・
6月号