物の溶け方

1日目
第5学年2組
理科学習指導案
平成27年2月5日(木)公開授業Ⅰ
平成27年2月6日(金)公開授業Ⅱ
会 場 1階-⑥(中学校理科室)
授業者 教諭 安藤 達郎
1
単元名
とける?とけない?
- 物の溶け方 -
2
本単元の価値
本単元は,学習指導要領の第5学年の以下の内容A(1)を受けて設定する。
物を水に溶かし,水の温度や量による溶け方の違いを調べ,物の溶け方の規則性についての
考えをもつことができるようにする。
ア 物が水に溶ける量には限度があること。
イ 物が水に溶ける量は水の温度や量,溶ける物によって違うこと。また,この性質を利用
して,溶けている物を取り出すことができること。
ウ 物が水に溶けても,水と物とを合わせた重さは変わらないこと。
子どもは日常生活において,「溶ける」という言葉を以下のような複数の意味で使っている。
① 梅の濃縮シロップを水に溶かして梅ジュースを飲む。
② ココアの粉をお湯で溶かしてホットココアを作る。
③ 氷が溶ける。雪だるまが溶ける。
④ 夏の日差しでアスファルトが溶ける。/あつあつのホットケーキの上でバターが溶ける。
①は,水(溶媒)に物(溶質)が溶けているという意味である。本単元の学習内容に当たる。
②は,①と同じような意味で使用しているが,理科の学習における「溶ける」とは,違う状態で
ある。あくまで「混ざっている」だけである。③は,温度が高温になることにより,固体が液体
に変わるという意味である。温度による状態変化である。4年生の学習「水の三つの姿」単元で
学習をしている。④は,水以外の物質の状態変化である。
本単元学習後には,①の「溶ける」という言葉の意味が,内容A(1)ア,イ,ウの規則性と
ともに,②~⑤との違いも述べられるようにする。そのためには,次の2つが大切である。
一つ目は,①と②との違いをとらえさせることである。なぜなら,②は,③,④と違い,子ど
もにとって,①とほとんど同じ意味で使っているからである。そこで,「時間をおけば,沈殿し
てくる物(粒子が大きい)と,時間をおけば,溶けていく物がある」ことが分かる観察実験を継
続して行っていく。そうして,①,②は違う状態だと理解するのである。
二つ目は,①の内容の中でも,イの内容を,温度の変化と溶ける量を関係付けてとらることが
大切となる。なぜなら,アを実感するためには,溶ける量に限度があるために,高温で溶けた物
が低温で析出するという関係で理解することが不可欠だからである。この関係を理解するために
は,温度変化と溶解・析出の関係を調べる実験を繰り返しできる物質(本単元では,塩化アンモ
ニウム)を使用し,理解させることが重要だと考える。
このようにして,本単元における「溶ける」という言葉の意味と,内容A(1)ア,イ,ウの
規則性をとらえた子どもは,日常で有効な手段として行われている水に物を溶かす場面【料理(水
出しよりも熱いお湯の方がお茶パックはよく出る),皿洗い(お湯で洗った方が汚れ落ちがよい)】
や,様々な製品のでき方【海水から塩を取り出す,石鹸を作る際に食塩を加え、純粋な石鹸分だ
けを取り出す】に対しても,物の溶け方の規則性との関係を見いだすことができるようになると
考える。
3
本単元で学びをつなぐ力を高めた姿と学びをつなぐ力
本単元で学びをつなぐ力を高めた姿とは,実験結果を基に仮説の妥当性を検討し,物の溶け方
実験結果を基に仮説の妥当性を検討し,物の溶け方
の規則性をとらえる子どもである。
の規則性をとらえる子ども
子どもが,この姿になるためには,学習問題設定の場面や,実験結果の考察場面を大切する。
これまでに子どもは,塩化ナトリウム(以下食塩)や塩化アンモニウム【塩の一種】(以下:
塩ア)の水に溶ける量を調べてきている。ただし,子どもは,室温(約20℃)で溶かしてきてお
り,食塩も,塩アも20℃における溶解度はほぼ一緒(100gの水に37g溶ける)であることから,
物質による溶ける量の違いについて,それほど意識していない。
そこで,一日目は,常温で飽和しているそれぞれの水溶液に,食塩と塩アをさらに加え,温め
関係付けけけけ
ていく様子を提示する。子どもは,比
較するすべを用いながら,食塩と塩ア
学びをつなぐ力を高める授業
の現象を観察することで,塩アのみが
物の溶け方は一定だ。
溶けていることに気付く。そこで,気
既有事項
対象
付 き を 出 し 合 い , 学 習 問 題 「 温 度 を 上 これまでの事象についてのとら
高温(60℃
高温(60℃)
60℃)
常温(20℃
常温(20℃)
20℃)
えでは答えられない現象や事
げ れ ば 上 げ る ほ ど , 塩 ア は 溶 け る の だ 象を提示し,その要因を問う。
比較
食塩水
食塩水
塩ア水
塩ア水
ろうか?」「温度を上げても,食塩はこ 『3Kサイクルシート』
3Kサイクルシート』を使い,
仮説を確かめさせる
仮説を確かめさせる
温度を上げれば,塩アはどこまで溶けるのだろうか?
れ 以 上 溶 け な い の だ ろ う か 」 を 設 定 す 仮説と結果とを発表させ,学習
仮説と結果とを発表させ,学習
問題に対して妥当性を問う
問題に対して妥当性を問う
る。
限度はあるが,温度を上げるほど,
溶ける量は増える。
子 ど も は , 学 習 問 題 を 解 決 す る た め これまでの事象についてのとら
高温(60℃
常温(20℃
高温(60℃)
60℃)
常温(20℃)
20℃)
えでは答えられない現象や事
食塩水
食塩水
比較
に , グ ル ー プ 実 験 に よ り , 食 塩 と 塩 ア 象を提示し,その要因を問う。
塩ア水
結晶が析出した塩ア水
3Kサイクルシート』
3Kサイクルシート』を使い,
の 温 度 に よ る 溶 け る 量 の 違 い を 明 ら か 『仮説を確かめさせる
仮説を確かめさせる
この白い物は,本当に塩アなのだろうか?
にしていく。
仮説と結果とを発表させ,学習
仮説と結果とを発表させ,学習
問題に対して妥当性を問う
問題に対して妥当性を問う
限度があるから,温度を下げると,
二日目は,温めた状態の飽和塩ア水
結晶として析出する。
どのような過程で物の溶け方
溶 液 が 常 温 ( 約 20℃ ) に な っ て い る 。 の規則性を見つけたのかが分
の規則性を見つけたのかが分
物の溶け方には,物により変化する規則性がある。
は,物により変化する規則性がある。
物の溶け方に
かるように「物の溶け方の秘
かるように「物の溶け方の秘
す る と , 多 く の 結 晶 が 析 出 し て い る 。 密物語」を書かせる
その状態を見た子どもは,比較するす
べ を用いて,結晶が析出している塩ア水溶液と,結
晶がほとんど析出していない食塩水を観察する。そ
して,学習問題「この白い物は,本当に塩アなのだ
ろうか?」を設定する。
子どもは,学習問題を解決するために,グループ
実験により,塩アが温度により溶ける量が違うため,
温度が下がると結晶が析出することを明らかにして
いく。
学習問題について考察する際に,子どもは,自分
の実験結果から導き出した仮説と,他のグループが
実験結果から導き出した仮説とを関係付けるすべ
関係付けるすべを用いながら,妥当性を検討する。
関係付けるすべ
その後,他の物質に関しても調べたいと考えた子どもは,それぞれの物質の溶け方を調べる。
その際,「食塩に近いグループ(温度変化に依存しにくい)」「塩アに近いグループ(温度変化に
依存する)」に分類しながら,物によって水に溶ける量は限度が異なり,限度は,温度や水の量
に規定されるという物の溶け方の規則性をとらえる。
4
指導の構想
これまでに子どもは次の学習をし,物の溶け方の規則性についてとらえてきている。①食塩が
溶ける様子を観察し,目に見えなくなる様子を観察した。②食塩水が溶ける前と溶けた後の重さ
を比較し,溶けても重さは変わらないことを確認した。③溶けきった食塩水に食塩が下にたまら
ないかどうかを2週間置いた後,観察し,溶けたままであることを確認した。④食塩水の濃さが
本当に変わらないかの蒸発乾固実験を行い,どこも一定の濃さだと確認した。⑤塩の一種である
塩化アンモニウムも含めて,溶ける量には限度があるのかを調べ,100gあたり35gが溶ける限
度だととらえた。
働き掛け1(1日目)
これまでのとらえでは答えられない現象(対象)を提示する。
これまでにとらえた溶け方の規則性には当てはまらない現象(食塩・塩アの水溶液)を提示す
る。具体的には,これまで学習で使ってきた飽和食塩水と飽和塩ア水に,さらにそれぞれ食塩と
塩アを溶かしていく様子である。子どもは,もうどんなにかき混ぜても100gの水には溶けない
経験をしてきている。しかもどちらも大さじ3杯程度であり,それが限界ではないかと考えてい
る。しかし,これまでの生活の中で,温めれば溶けることを経験している子どももおり,温めれ
ばよいのではないかと予想し始める。そこで,それぞれのビーカーを温めながら,さらに溶ける
かどうかを観察させる。そうすると,飽和食塩水は,やはり温めても,それ以上溶ける様子は見
られない。子どもは,やはりすでに溶ける量は限界だととらえる。しかし,飽和塩ア水は,温め
ると,溶ける様子(シュリーレン現象)が見られる。子どもは既有事項と対象とを比較するすべ
比較するすべ
を用いて,観察することにより,塩アがどれほど溶けるのか知りたい状態になり,学習問題「温
度を上げれば上げるほど,塩アは溶けるのだろうか?」を設定する。また,食塩は本当に溶けな
いのかを確認したい状態になり,学習問題「温度を上げても,食塩はこれ以上溶けないのだろう
か」を設定する。
働き掛け2(1日目)
『3Kサイクルシート』を使い,グループで仮説を確かめることができる時間を設定す
る。
子どもの実験に対する意欲や問題意識を大切にし,かつ,収集した結果と仮説の妥当性を検討
させるための働き掛けである。『3Kサイクルシート』とは,仮説と結果,考察(3つの頭文字
のKをとって3K,サイクルは回すという意味)を記入する箇所があるワークシートであり,考
えた道筋が後で振り返られる構造になっている。
ここでは,グループ別に自由に仮説を確かめることのできる時間と場を設定する。なお,グル
ープで仮説を立てている際に,確かめることについて焦点付いた話合いができていない時には,
「今,何についてはっきりさせようとしているのか」と子どもに問う。そうすることで,子ども
は,何のどの部分から確かめていくかを決め,『3Kサイクルシート』を使いながら,納得いく
考察ができるまで繰り返し仮説を立てて確かめていく。
本時では,グループ別に「温度を上げれば上げるほど,塩アは溶けるのだろうか?」または,
「温度を上げても,食塩はこれ以上溶けないのだろうか」という学習問題を確かめていく。ここ
までの時間を確保することで,子どもたちは自分たちの仮説に自信を深める。しかし,他のグル
ープの結果も気になっている状態である。
働き掛け3(1日目)
仮説と実験結果を調べた要因ごとに発表させ,学習問題に対しての妥当性を問う。
働き掛け3までで得た各グループの実験結果をグラフや表で見える状態にすることで,より客
観的な考察を促すとともに,学習問題の答えとして,妥当な条件を判断させ,課題解決させるた
めの働き掛けである。
グループごとの実験結果を一覧にした形にすることで,自分たちの結果と他のグループの結果
とや,他のグループ同士の結果とを,数値の客観性を視点に比較する。実験の数字が異なってい
ても,多くのグループの結果から言えそうなことというように,客観性を視点に関係付けるすべ
関係付けるすべ
を用い,結果を判断する。そこで,学習問題の答えに対しての妥当性を問う。すると,「塩アは
温度を上げていけば,溶ける量は増える。しかし,限界はやはりあった」「食塩は温度を上げる
と,少し溶けたが,限界がすぐにくる」という結論に達する。
働き掛け4
単元の終末に,どのような過程で見つけ出したのかが分かるような「物の溶け方の秘密
物語」を書かせ,
物語」を書かせ ,「○○の秘密」を発見する際に生かせそうなことがないかを問う。
実験結果と自ら立てた仮説とを関係付けたことで考察できたことを自覚させるための働き掛け
である。子どもにどのような過程で見つけ出したのかが分かるように「物の溶け方の秘密物語」
を書かせる。過程を振り返ったところで,次に生かせそうなことがないかと問うことで,条件を
制御し,客観性や再現性のある実験結果を基に考察することの必要性を自覚する。
この姿が学びをつなぐ力を高めた子どもの姿である。
5
6
指導計画 全13時間(39Q)
別紙「単元カード」参照
本時の構想<第1日目> 9/13時間(45分授業)
(1) ねらい
既有の現象と対象を比べることで,学習問題「食塩はこれ以上温度を上げても,水に溶けな
いのだろうか?」
「塩化アンモニウムは温度を上げると,水に溶ける量が増えるのだろうか?」
を設定し,その問題を実験で確かめることができる。
(2) 展
開
学習活動と子どもの姿
☆考えるすべ
・食塩水と,塩化アンモニウム水がどれだけ溶
けるかを班ごとに調べました。
・どちらも35g溶けました。
教 師 の 働 き 掛 け
○指示「前回までどんな学習をしましたか?」
○説明「今日も前回まで使用していた食塩水
と塩化アンモニウム水を用意しまし
た。前回はどれくらい溶けたかな?」
・お湯だ。温めれば溶けるでしょう。だって, ○説明「限度があるということだったね。水
同じ入浴剤でも,温かい方がよく溶けたこ
を増やせば,さらに溶けるってこと
とがある。
だったけれど,水を増やさずに他の
・でも,あれほどかき混ぜても溶けなかった
方法でもっと溶かす方法はないのか
よ。もう溶けないんじゃないかな。
な」
・やってみたい。
※発言の根拠を問う。食塩と塩アのどちら
1
現象を観察し,前回までの実験と比較しな
がら,気付いたことを話す。
・塩アはもやもやが出ている。さらに溶けて
いるよ。
・食塩からはもやもやが出ない。溶けないん
だ。
・塩アからは,またもやもやが出てきていま
す。ということは,この温度だと溶けると
いうことだと思います。
・食塩からは,もやもやは見えません。この
温度では,溶けないのだと思います。
☆比較するすべ
・60℃では,溶けないけれど,もっと温度を
上げれば溶けるのかもしれない。やってみ
ないと分からない。
のことを言っているのか確認する。
※ 前回の100gに35g
が溶けた食塩水と塩
ア水を二つとも教卓
にあげておく。
※食塩,塩アをお茶パ
ックに3g入れた物
を用意する。
※ 60℃ の水 が入 った 容
器を用意する。それぞれのビーカーを湯
煎で温めながら溶けるかどうかを観察す
ることを説明する。
○説明「では,実際にやってみます」
【 働き掛け1】
働き掛け1 】
※カメラ機能と,電子黒板で大きく映す。
○発問「気が付いたことがありますか?」
【 働き掛け1】
働き掛け1 】
○発問「食塩はこれ以上溶けないってこと?」
※「食塩はこれ以上温度を上げても,水に溶
けないのであろうか?」を板書する。
○発問「塩化アンモニウムはどう?」
※「塩化アンモニウムは温度を上げると,水
に溶ける量が増えるのだろうか?」
・ 60℃ で も け っ こ う 溶 け て い る み た い だ か
ら,温度を上げれば,もっと溶けるのかも
しれない。
2
グループで要因を調べる実験を行う。
【食塩チーム】
・水の量は100mLにして,温度を上げて80℃
で実験してみよう。
・なかなか溶けないな。少しは溶けたかな?
動画を撮影しておこう。
・いくら温度を上げて,かき混ぜてみてもあ
まり違いが見られないな。やっぱり食塩は
温度を上げても,溶けないってことかな。
【塩アチーム】
・水の量は100mLにして,温度を上げて80℃
で実験してみよう。
・60℃の時よりも,さらによく溶けているよ
うに見える。
・温度を上げるほど,溶ける量は増えるけれ
ど,限界がないわけではなさそうだ。
3
各グループの結果から問題の答えの妥当性
を判断する。
【食塩】
・少しだけ溶けたけれど,あまり多くは溶け
なかった。温度を上げても,なかなか食塩
は溶けないということが分かった。
・どのグループも同じような結果になってい
るから,食塩は温度を上げても,あまり水
に溶けることはないということが言える。
【塩ア】
・80℃にすると,60℃の時よりも溶け方が多
くなった。最終的に溶けた量は,80℃の時
は,20℃の時の2倍(約80g)溶けた。
・塩化アンモニウムは温度を上げると水に溶
ける量は増えると言える。しかし,それに
も限度はある。
☆関係付けるすべ
○指示「どちらの実験を行っていきたいかを
確認します。どちらかに手を挙げま
しょう」
※ネームプレートを貼り,すぐにグループを
作る。
○指示「グループごとに実験方法や手順につ
いて相談し,3Kサイクルシートに
仮説を書き込んだら,実験道具を取
りに来なさい」
【 働き掛け2】
働き掛け2 】
○指示「実験結果はタブレットで撮影してお
こう」
※熱湯を使うので十分注意させる。
(20℃,40℃,60℃,80℃)になるよう
な線を付けた湯煎容器を準備する
※実験中は,各班を回る。
※何について調べたいのかはっきりしてい
ない班については,確認する。
○指示「結果はどうなりましたか。黒板のグ
ラフに結果を書き込みましょう」
※もしくは,大型テレビにタブレット端末
データを送らせる。
○発問「これらの結果から,学習問題につい
て何が言えそうですか」
【 働き掛け3】
働き掛け3 】
(3) 評 価
学習問題「食塩はこれ以上温度を上げても,水に溶けないのであろうか?」「塩化アンモニ
ウムは温度を上げると,水に溶ける量が増えるのだろうか?」を設定し,その問題を実験で確
かめることができたかどうかを,3Kサイクルシートの記述から評価する。